綾瀬・徳川
同日。
紳士同盟の各クランは、各地で戦闘状態に入っていた。
PKヘヴンは、十太郎の攻撃を受ける前にペレ=アッコンを離れた。
それぞれの集団は、別個に奇襲を仕掛けたのだ。
だが当然、西岡クランを襲撃するために派遣された一隊は、攻撃目標を見失う。
十太郎たちを探してシャディザール周辺を彷徨っていた。
「クソ!
西岡クランは、逃がしちまったのか!?」
「探さないと俺たちが血祭りだ!!
クソ、クソ、クソ!!」
彼らは、逆に攻撃される危険性を感じながらサバンナを索敵。
そのまま3日間、空振りした。
綾瀬クランは、冒険初日に会敵、戦闘状態に入った。
「あれは、PKヘヴンのガレー船か。」
綾瀬が空を見上げる。
三段櫂船が一隻、綾瀬たちを見つけて近づいてくる。
「やろう!
勝負を挑まれて逃げる訳にはいかないよね!?」
高本は、鼻息荒く好戦的な姿勢を見せる。
だが他のメンバーも負けず劣らずだ。
「初日から来るとは、連中も焦ったな。」
青柳が弓の具合を確かめながら鋭い視線を走らせた。
もし戦うにしても5日目以降を選ぶ方が良い。
今日負ければこの冒険は、まるまる何もせず終わることになる。
だがPKヘヴンは、先手を打たれることを恐れた。
実際、十太郎が入れ違いでペレ=アッコンを壊滅させたことは、致命的打撃になった。
彼らは、まさか拠点を知る者が敵に着くとまで考えなかったらしい。
常に攻撃する側に立ち、その優位が揺らぐことのないものと過信したためだ。
ガレー船は、地上に降下。
綾瀬クランの前に50名弱の冒険者たちが姿を見せる。
「ぎゃひっ、ぎゃひひ…!」
「うへへ…。」
「皆殺しだー!!」
見るからに品性下劣な顏ぶれが並ぶ。
これから戦いが始まるなどと微塵も考えていない。
数で押せば容易に敵が算を乱すと高を括っている。
「隊列を組め。」
綾瀬たちは、慣れた様子で馬上に移る。
楔形陣形を作ると敵に突撃した。
「うわ!?」
「あああ!!」
「ぎゃっ!!」
まるで訓練のような冷めた戦いだった。
PKヘヴン側は、容易く返り討ちに合う。
「ふっ。」
その中に不敵に微笑む男子生徒があった。
見ればなかなかの体格である。
「綾瀬愛直!!」
男子生徒が叫んだ。
綾瀬が馬首を返し、相手に向かう。
「俺は、男子柔道無差別級、一ノ瀬八五郎!!
貴様を倒す者!!」
一ノ瀬は、名乗りを上げて馬をかけさせた。
手に槍をしっかりと握り、綾瀬に向けて突進する。
(ふっふっふ…。
何がボクシング・ヘビー級王者だ。
日本の高校生にヘビー級なんか他にいねえだろ、バーカ!
貴様がプロになってからは知らんが…。
どうせたいした実力なんかありゃしねえだろ?
たいていのアホは、その肩書にビビるだろうが。
この俺は、違う!
ここで貴様を料理して俺は、名を上げるぞ。
俺こそがこれからの《窖》の顔となるのだッ!!)
「甘いぞ、ボーイ!」
綾瀬は、一ノ瀬を瞬殺した。
勝負の前の雑念は、彼にはお見通しだ。
「フレッシュフォール!」
綾瀬クランの《ダークマージ》Lv20による魔法攻撃。
巨大な生肉が空から敵に降り注ぐ。
「なんだ、これ?」
「気持ち悪ィィィ…!」
「なんだ、これ…!?
うわあああ…っ!」
落ちて来た生肉がPKヘヴンの連中にへばりつく。
肉塊は、敵の血肉を吸い上げ、地面に血の川ができた。
「やべえ!
この肉が血を吸ってるんだ!!」
「離れろ!
離れろォ!!」
「け、剣で腕ごと斬り落とせ!!
後から回復魔ふぉッ!?」
大混乱の敵を綾瀬たち、騎士系職の楔形陣形が襲う。
剣と槍で突かれ、蹄の餌食となった。
「逃げろぉ!!」
「ダメだ、この肉が足に引っ付いて…。
は、走れないよォ…!!」
動けなくなった敵が憐れみを乞う表情で綾瀬に叫ぶ。
口々に勝手なことを叫んだ。
「降伏します!」
「もうやめてー!」
「なんでも、なんでもいう事聞くからぁ!」
無論、こんな五月蠅に耳を貸す綾瀬ではない。
「はっはっはっはっはっはっは!!!
冗談を言っては、いけないよ、ボーイズ&ガールズ!!!」
無慈悲なる殺戮の突撃が開始された。
もはや逃げる事すらできない敵が殲滅される。
「ぎゃーっ!!」
冒険2日目。
徳川クランは、PKヘヴンの派遣した奇襲部隊と衝突した。
「伯等に予の相手になる資格はございませんことよ。」
徳川は、剣を杖にしてそう言った。
他のクランメンバーもニヤニヤと笑っているだけだ。
「お前ら、今まで何して来たんだ?」
徳川クランの前には、殺戮の曠野が広がっていた。
繰り出されたのは、ライオンの大群だ。
《ビーストテイマー》の操る猛獣軍団がPKヘヴンの奇襲部隊を八つ裂きにする。
「ライオンは、全力なら時速70kmぐらい出せるんだ。
逃げ切れるものじゃねえんだぞ?」
そう言って徳川の隣の男子生徒が嘲笑う。
眼前では、情けを知らぬ獅子の群れが高校生を襲う。
「こ、こんなの卑怯だし!」
「正々堂々と戦えー!」
「この世襲クソ人げ…ぎゃあああ!!」
「重ねてお伝えしますわ。
伯等ごとき卑しい心根の人間と予共は、戦いませんの。
せいぜい獣の相手でもなさって頂戴。」
徳川は、そう言って侮蔑の表情を作る。
ただただ惨めだ。




