情報
「ほう。
今は、どこのクランにも所属してないんですか?」
と細川。
「ええ。」
十太郎は早速、細川に相談した。
彼は、戦力を欲しているようだし、良い返事が期待できる。
しかし夜桜は、あまり乗り気じゃない。
(会って間もない奴に声かけるなって。
ちょっと焦り過ぎじゃない?)
ガラにもなく慎重だ。
(あんま必死だと安く見られる…。)
しかし十太郎は、機会を逃したくない。
「………正直、人手は欲しい。
けれど私の目的は、分かってますよね?」
細川は、細い顎を撫でながら十太郎を見つめて訊いた。
「PKヘヴンとの戦争か。」
十太郎がそう言うと細川は、席を立つ。
砂嵐が止んだらしい。
鎧戸を開け、外を確かめた。
「砂嵐が止んだようです。
カズラクかタナスル、コロヴァ。
ひとつ前の街に戻るなら下の二人と一緒に出立してください。」
どうも誘いをかけてくる割りに細川は、乗り気じゃない。
なんだろう、この感じ。
「さっきは、そっちから誘って来たのに。
なんで今は、そんなお断りって感じになるの?」
「私が手を組みたいのは、クランで個人じゃないから。」
細川は、そう言って髪の毛を指に巻きつけた。
要するにスパイの侵入を恐れているらしい。
「気を悪くするでしょうけど。
ハッキリ言って西岡君の経緯だとPKヘヴンに入りそうなんです。
岩戸クランを追い出されて彼らを憎んでないと言えます?」
なるほど。
身軽な人間は、安心できない。
クランという所属があるから信用できる訳だ。
「今、そんな気持ちがなくても。
PKヘヴンは、そういう気持ちにさせようとする。
そんな手口で仲間を増やしてます。」
細川は、そう言って目を伏せ、首を左右に振る。
連中を軽蔑し、また憐れんでいるようだった。
「……先を越された連中や。
除け者扱いされた人間の復讐心を刺激してか。」
そう言う十太郎もやるせない感情が沸き起こって来た。
ドブ底みたいな話だ。
ゲロゲロだ。
「さっきの話ですけど。」
十太郎は、話題を変える。
「はい?」
細川は、長い髪を手で背中にやっていった。
「タナスルやコロヴァに着いて教えて欲しい。
そんな街は、岩戸クランは、話してなかった。」
十太郎が質問すると細川は、顎を揉みながら考えた。
「その岩戸という人を私は、知らないけど。
……情報をコントロールしてるのかも知れないね。」
そう言って細川は、細い指で頬を撫でた。
意味深に瞳がギラリと光る。
「タナスルは、カズラクの南にある。
………ここ。」
そう言って細川は、スマホを操作した。
地図アプリに”タナスル”というマークが着いている。
「コロヴァは、こっち。」
これもカズラクの近くある街だ。
まったく知らなかった。
「気前よく教えてくれるね。」
十太郎は、ちょっとビックリした。
細川は、あっけらかんと答える。
「位置見ただけで行けるほど楽じゃないし。
途中で結構、枯れ谷があるんだ。」
長い時間をかけて川が大地を浸食して作った谷だ。
それでカズラクから見えないんだろう。
「だから真っ直ぐ進んでも辿り着けないしね。
オークみたいなデカい人型のモンスターも出るんだ。
あと人喰い人種の集落がいっぱい。」
「オークと人喰い族って一緒じゃないの?」
と十太郎が訊く。
オークは、知らないが人喰い族は、見たことがある。
ゴリラみたいに前屈みで病的に痩せ、不潔な姿をしていた。
「……やっぱり、そう思う?
ウチのクランにうるさいのが居てね。」
といって細川も困ったように笑った。
「羽の生えたグレムリンは、見た?」
「いや、知らない。」
「かなり怖い敵だから注意してね。
もしタナスルやコロヴァに行くならだけど。」
ある程度、情報を貰って十太郎は、細川に礼を言った。
「ありがとう。
砂嵐をやり過ごすだけじゃなくて情報まで。」
情報は、この未知の部分が多い異世界で重要だ。
その貴重さは、十太郎も骨身にしみている。
「西岡君が次のクランに入ったらまたおいで。」
そして今度こそ、PKヘヴンを潰そう!
と細川の顔に書いてあった。
きっと彼は、自分が思う以上に感情が顔に出る。
「しゃしゃしゃ!
じゃあの!!」
聖夏も手を振って三人との別れを惜しんでいた。
細川クランは、建材を運び出し、次の拠点構築に向かう。
次々にネットワークを広げ、曠野を縄張りにするつもりだ。
(このままだと細川が気に入らない奴は、締め出されるぞ?)
夜桜は、ちょっと危険な感じに眉をひそめる。
(う~ん。
流石にそんなことしたら次は、細川が敵視されて潰れるでしょ?)
十太郎は、そう答えた。
この広大なサバンナを支配できるとは、思えない。
要所を抑えれば出来るとしても何のメリットもない。
ともかく十太郎、高橋、高本は、砦を後にした。