砦
襲撃を受けたガレオン船から45分。
ギリギリで砂嵐を避け、三人は聖夏の誘導で砦に辿り着いた。
背後では、巨大な砂埃が巻き上がり、突風が吹き始めている。
空が徐々に暗く曇り、小石がパラパラと降り注ぐ。
砂嵐の中なら5分と持たず人間は、ミンチになる。
「なんだこれ!?」
十太郎が声を上げた。
高橋、高本も目を丸くする。
サバンナの曠野に突如、砦が姿を見せた。
こんなものは、ルート構築の調査で発見していない。
おそらく自分たちで作ったのだろう。
砂嵐を避け、PKヘヴンの襲撃をも撃退する砦を。
「しゃしゃしゃっ。
PKヘヴンがカズラク=シャディザール間ルートに張り付いてるから。
ここに要塞を作ろう!!」
聖夏は、乗っていた大鷹を飼育小屋に向かわせると地面に降りた。
チョコレート色の豊満な身体が黄金のビキニアーマーに包まれている。
腰には、巨大なレイピアが吊ってあり、黄金の装飾に宝石が鏤められていた。
十太郎の視線も思わず胸の谷間、V字パンツに吸い込まれる。
「で、誰?」
聖夏が三人を誰何する。
「高橋つばさ。」
「高本文華。」
「西岡十太郎です。」
(黒武夜桜です。)
夜桜の自己紹介だけは、十太郎にしか聞こえていない。
「あ~…。
先頭集団のことよく知らないけど。
恩を売っておきますんで、覚えといてくださいねっ!?」
聖夏は、敬礼をした。
ニカッと笑う。
「綾瀬に良く言っておく。
そっちも今度は、綾瀬クランを頼ってね。」
高橋がそう答えた。
「しゃしゃしゃ。
ようこそ、ようこそ、細川クランに。」
砦の門が開き、四人を迎え入れた。
中には、それなりの空間があり、砂嵐を避ける事が出来る。
井戸が掘られているのが水源の確保に役立っていた。
「なるほど…。
これでこんな場所に避難場所を作れた訳だ。」
岩戸、徳川、綾瀬。
先頭集団がルート構築にどれほど苦心したか。
その時、こんな場所は、候補になかった。
細川クランは、オアシスや砂嵐を避けられる地形を無視している。
そんなものに頼らず、自分で砦を作って西進しているらしい。
「悪いけど。
水の補給は、金も貰ってもお断りだよ。
一応、限りがあるんでね。」
と急に聖夏は、バツの悪いことを言う。
しかしもっともな意見だ。
ところがそれを非難する声がどこからか飛んで来た。
「安藤さん。
それは、阿漕なやり方です。」
そういって奥からセーラー服の男子生徒が現れた。
髪も肌も玉のように磨き上げられているが骨格は、誤魔化せない。
何よりスカートの前が明らかに膨らんでいた。
「ここまで招いておいて。
補給は、お断りというのは、心象が悪いじゃないですか。」
氷を削って作られた彫像のように美しい。
しかし男だ。
「おっ。
テメーがリーダーか?
器が違うねえ。」
夜桜が手を叩いてそう言った。
「お褒めの言葉、どうも。」
セーラー服の男子は、恥ずかしそうに笑った。
彼が細川頼母。
細川クランのリーダーであり、新しいルート構築を目指している。
「PKクランは、いまや共通の敵。
私が言いたいことは、それです。」
彼がそう言うと三人も揃って頷いた。
「特にPKヘヴンは、現状最大のPKを目的とした集団です。
他のPKクランを集め、大々的な行動を始めています。
多くの人が迷惑を被っている。」
「待った。」
高橋が手を前に突き出して話を制する。
「まさかPKヘヴンと戦争でもするって?
そのために私たちに声をかけた?」
「………できれば。」
細川は、残念そうに腰に拳を着いた。
大小の日本刀が閂差しでぶら下がっている。
閂差しは、刀の差し方の一つだ。
一般的な鶺鴒差しは、すぐに差せ、動き易い。
対する閂差しは、刀を水平に差すので周りにぶつかることもあった。
それでもいざという時に刀を素早く抜ける。
という利点から武芸に自信のある者が好んだとされる。
しかし何といっても邪魔だ。
これは、実力に自信がないと痛い目に会う。
武士にとって空威張りでは、すまないからだ。
「武張った奴には、見えないが。
そうでもないのか?」
夜桜が眉をつり上げ、挑発的に口の端を曲げた。
細川もにわかに殺気立つ。
「そんな殺気立たないでください。
……何も力で脅すつもりなんかないんですから。」
(オイ、夜桜…!
こんなところで喧嘩しないでくれ。)
十太郎が言った。
喧嘩は、夜桜の趣味みたいなものだ。
(分かってるよ。
ちょっとふざけただけじゃねえか。)
そう言って夜桜は、笑うが本心でどうだが…。
ともかくここで答えは出せない。
しかし遠からずそういう流れになるだろう。
高橋も十太郎もそう思った。