仮メンバー
翌日。
綾瀬は、すぐに10人ぐらい人を引っ張って来た。
これには、岩戸も目を丸くする。
「どういう魔法を使ったんだ?」
夜桜が十太郎の身体で綾瀬に訊いた。
「ああ…。
次の街までの探索を合同で進めようって話を持ちかけた。
ついでに気が合ったら新クランを立ち上げるとね。」
綾瀬は、そう言って顎を手で揉んで集まった顔ぶれを見ている。
これは、事前に根回ししてたな。
「じゃあ、3~4人ぐらいの小集団に別れて。
そしたらオアシス、避難場所を探してくれ。
これまでの地図情報をスマホに配る!」
岩戸がそう言って仮メンバーたちに指示を与えていく。
「どうもー。」
チャラ男風の男子高校生がスマホを手に微笑んだ。
岩戸は、この手の人種が嫌いで隠しもしない。
だが相手も軽蔑の目で睨む岩戸を冷ややかに鼻で笑っていた。
阿尻露蓮。
岩戸とは、違う意味で他の冒険者をリードしている男。
見た目こそギャル男だが、あちこちの小ダンジョンを攻略。
貴重なアイテムや装備、呪文を回収。
また能力値上昇報酬を得る神殿や祠などを発見していた。
彼に言わせれば西に進むことだけ考えている岩戸は、いずれ行き詰る。
そう考えていた。
彼の目的は、地図情報だけだ。
各地に隠された小ダンジョンの財宝やアイテムは、早い者勝ちだ。
次の街へのルートなど急いで構築する必要はない。
「おっ。
こいつら、マジでオアシスと砂嵐の避難場所しか探してないね。」
阿尻は、そう呟いて薄ら笑いを浮かべた。
彼の仲間もニヤニヤしている。
彼らは、早速、街から出て探索を始めた。
また1人、岩戸から地図情報をスマホで受け取る。
「おーほほほほ!
ごめんあそばせ。」
古い漫画に出てくるような金髪縦ロールのお嬢様。
後に徳川クランを作る徳川龍外だ。
「うわーっ。
結構、探索進んでるね…。」
高橋つばさ。
高校バレー部の期待の新人で中学時代から知られた選手。
後に綾瀬の立ち上げた新クランのメンバーとなっている。
「………なんとか頑張ってクランに入れて貰わないと。」
ポニーテールの女子生徒が拳を握って気合いを入れる。
《ソードマン》の山下瞳美だ。
「このチャンスに新クランに潜り込もうっと。」
友達とそういって話し合っているのは、田村ユズキ。
「あの綾瀬って男子にアピれば良いンだよね?」
と友達の木戸鳴奈もはしゃいでいた。
早速、二人は、綾瀬のところに駆けてくる。
目を輝かせた二人は、猛烈なアピール攻勢を開始した。
「あのーっ!
私たち、新クランになんとしても入れて欲しいんです!!」
「そうそう!!」
ガッツく田村と木戸に夜桜は、笑いが止まらなかった。
十太郎は、苦笑いしている。
(くくく…ひゃひゃひゃ!!
バァーカ!!
綾瀬は、女に興味ねえんだよォ!!)
(やめろよ…。
俺の顔まで笑って来ちゃうだろ?)
と頭の中で言いながら十太郎は、身体の主導権を必死にコントロールしていた。
油断すると凄く悪い顔で大笑いしてしまうだろう。
「はははは!!!
ゴメン、俺、体育会系だから体育会系の奴と組みたいな!!」
そう言って綾瀬は、大笑いした。
彼にそう告げられ、田村と木戸が揃って答える。
「あー。
それなら私、卓球部でー。」
「私は、陸上部ーう。」
田村と木戸がアピールするが綾瀬は、首を横に振る。
「悪いね、ガールズ!!!
俺がいう運動部ってのは、俺と同じステージ…!!
つまり全国大会でベスト8に入るような個人選手やチームなのさ!!!」
これまた極端な概念だな。
「もちろん俺と一緒に組みたいという人は、拒まないよ!?
でも今日一日でも俺と組めるかな!!!」
綾瀬は、ボクシング部だがヘビー級選手だ。
いわゆるフェザー級とかとは、世界が違う。
体重90kg以上の世界だ。
その肉体は、どう考えても現代日本の高校生ではない。
このまま古代ローマのコロシアムに紛れ込んでも違和感ない。
そしてこの肉体は、ボディビルで作られたものではない。
「ねえ、二人とも。
本当に綾瀬の体力は、凄いんだ。
まあ、今日ついていけば分かるよ。」
といって十太郎が一応、助言した。
個人の集中力は、スマホで見られるステータス画面に現れない。
能力値化されていない個々人の素養は、実際に相対して理解できる。
もっとも見ても何も分からないレベルの人間も大勢いる。
もちろん二人は、言われて引き下がることはしなかった。
ただし、もちろん次の日には、現れなかったが…。
こんな調子で綾瀬と岩戸に着いていける人間は、限られている。
それでも日を追うごとに人数は、減るどころか増え続けていった。
「へえ。
結構、人が来るねえ!」
阿尻が十太郎に声をかけて来た。
この手の男子が苦手なのは、十太郎も岩戸と同じだ。
しかし十太郎の中には、夜桜がいる。
夜桜が阿尻と普通に接しているので彼も十太郎に話しかけてくる。
まさか二重人格だとは、なかなか思い付かないものだ。
「あ、阿尻君…。」
「へへへ、そんな嫌がんないでよ。
それより、何か面白い話ない?」
阿尻の目的は、小ダンジョンの探索だ。
何か不自然な地形、遺跡の痕跡。
そういう話を欲しがっていた。
しかしこの時、岩戸クランは、そういった情報を知らない。
必死に西に向かうことだけを考えていた。
「え?
ああ、この辺にでっかい石像があったって。
藤田さんのグループが見つけて来た。」
十太郎は、何一つ疑わずにスマホを見せる。
写真では、幾つか3mぐらいの石像が倒れていた。
その景色を見て阿尻は、ニヤリとする。
「へえ。
何かの目印になるかなァ。」
「ああ…。
こっちの大岩とかどうだ?
上で女にブチ込むと最高に気持ち良いぜ。」
夜桜が軽口を叩く。
この豹変に阿尻の仲間は、少し驚いていた。
「そういうのも、またゆっくり話そうぜ。」
阿尻は、それだけ言って退散した。
小ダンジョンのシステムは、まだ広く知られていない。
しかし情報にとって鮮度は、命だ。
早速、写真と地図情報を頼りに向かうことにする。
「おい。」
岩戸が阿尻たちを引き留める。
一瞬、阿尻の顔に焦りが浮かぶ。
しかし顔面に命令を与え、普段通りを装わせた。
「なんですか、岩戸君。」
「お前ら、別のグループが探索し終わった場所を調べ過ぎじゃないか?
俺たちは、次の街に向かうルートを探してるんだぜ。」
岩戸は、そういって阿尻が提出した情報にケチを着けた。
地図を埋めるのが目的なのに、これでは困るという訳だ。
「すんません。
でも、情報の少ないところで死んだりしたら効率悪いでしょ?
だから既存の情報を頼りに探してるんで…。」
「ちッ。
余計な知恵を使わなくて良いんだ。
お前らは、黒いところを突っ走って地図を埋めれば良いんだよ。」
岩戸は、そう言って阿尻を叱責する。
それは、どう考えても相手を人間扱いしていない。
「あまりに非協力的だと出て行ってもらうぞ。」
最後に捨て台詞を吐いて岩戸は、阿尻たちの前を去った。
そしてまた別にグループに口出ししている。
「ふん!
………お前の顔から血の気が引くのも、そう遠くねえんだぜ。」
阿尻は、ニヤリと笑って仲間たちと出発した。