分離独立
「う~ん?
西岡ァ、珍しく授業を抜けて来たか。」
急いで学校に戻るところを鬼山に見つかった。
鬼山こそ、女子生徒と一緒にいる。
横にいる女子は、上級生だろうか。
たっぷりと鬼山に可愛がられた後で顔が赤い。
十太郎に見つかっても割と平然としていた。
「勉強より女かァッ!?
感心だぞ!!」
鬼山は、笑って十太郎を褒めた。
とんでもない淫行教師だな。
十太郎は、鬼山に会釈して逃げるように走り去った。
教室から見えないように歩きながら十太郎は、玄関を目指す。
しかし今度は、北村先生に出くわした。
「西岡君っ。
こんなところで何してたの?」
声は、怒っているが緑の瞳が嬉しそうに十太郎を見つめる。
焦る十太郎は、頭を下げてこの場を走り去ろうとした。
「すいませんっ。
すぐ教室に戻りますからっ!」
しかし北村先生が走る十太郎の前に飛び出す。
十太郎は、思わず足を止めた。
「良いじゃない。
どうせ、数学の小田先生の授業でしょ?」
そう言って北村先生は、十太郎の手を取る。
可愛くてスタイル抜群、校内の憧れの先生。
それが粘つく欲情を露わにして淫らに十太郎を誘惑する。
凛々しい身体を禁断の欲望に委ね、熱い滾りを喉から言葉にした。
「ねえ、先生のいう事を聞いたら授業をサボったこと。
誤魔化してあげるんだけどなー?」
教師として問題ある発言だな。
十太郎は、ちょっとこの学校を心配になった。
「あ、あの…。」
「こっちよ。」
しかし結局、抵抗虚しく十太郎は、人の出入りが少ない文化部棟に連れ込まれた。
北村先生に捕まって、すっかり放課後になってしまった。
夜桜に直接、見られなくて内心、ホッとしている。
きっと獣欲の学園とか淫行授業とか散々、面白がって馬鹿にしただろう。
十太郎は、荷物だけ取りに教室を目指す。
もともと友達のいない身分だ。
空気みたいなものだ。
「うん……?」
階段の上に青空が見える。
本来なら次の階の廊下が見えるハズだ。
そしてその青空には、覚えがある。
《スケロスの窖》の、あの乾いたサバンナの空だ。
十太郎は、惹かれるように階段を登るとカズラクの街の路地裏に来た。
振り返ると大通りに接する階段が家と家の間にある。
学校は、無くなっていた。
岩戸クランが泊っている宿屋。
十太郎がラウンジに入ると酒場で岩戸と誰かが揉めている。
「悪いけど他を当たって貰えるかな。」
岩戸は、どうやら加入希望者と面接をしていた。
どうも話は、良くない方向に向かっている。
「なんでだ!?
俺のなにが気に入らないって言うんだ!!」
加入希望者の男子がイライラしながら怒鳴り散らしている。
「ああ…。
君は、もうLv10だよね?」
岩戸は、スマホで相手のステータス画面を確認する。
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《!》Topics
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佐藤敬一
クラス:『ソルジャー』 Lv10
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参考までにこの時の岩戸クランのメンバーをあげてみよう。
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《!》Topics
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岩戸泰臣
クラス:『ナイト』 Lv7
乙倉主水
クラス:『マージ』 Lv7
中野博雄
クラス:『プリースト』 Lv7
宗像清彦
クラス:『ホプリタイ』 Lv7
藤田伊織
クラス:『アーチャー』 Lv8
西岡十太郎
クラス:『プリースト』 Lv6
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「ハッキリ言ってお前より上なんだぜ?
なにが気に入らない。」
と佐藤氏は、強気だ。
しかし呆れたように岩戸は、答えた。
「ああッ?
《ソルジャー》のままLv10まで上げてしまったんだぞ。
ここから上級職になっても差が広がるじゃないか。」
十太郎が岩戸の隣までやってくる。
気が付いた岩戸が顔を上げた。
「ああ、西岡君。
いいタイミングだ。
今から次の街へのルート調査に出る。
早速、準備してくれ。」
「分かった。」
そう答えた十太郎は、準備しながら岩戸と佐藤氏の会話を聞いていた。
「ちッ………良いかい?
《ソルジャー》は、下積み職なんだ。
能力値がたったの4しか上がらない。
もし君がLv6の段階で他の職になっていれば。
全能力値合わせて10以上も違ってたんだぜ?
君は、上昇値を捨てたんだ。」
《ソルジャー》は、生命と魔力以外が4上昇する。
次のクラスチェンジ先となる下級職と呼ばれる幾つかの職業。
これらは、ほとんどの能力値が5~7前後上昇する。
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《!》Topics
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クラス:『ソルジャー』
汎用クラス
「すべてはここから始まる。すべての能力が平均的に成長する。
あらゆる状況で汎用的に投入できるユニット。」
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生命 +7
魔力 +3
筋力 +4
持久 +4
知力 +4
精神 +4
技量 +4
敏捷 +4
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クラス:『ナイト』
汎用クラス
「戦闘の幅も広く、攻守に優れ、名誉と信仰に生きる戦士。
物理攻撃だけでなく下級神聖魔法を使用する。」
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生命 +7
魔力 +4
筋力 +5~7
持久 +5~6
知力 +4
精神 +4
技量 +5~6
敏捷 +5~6
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岩戸だけでなく早いクラスチェンジの重要性は、広く知られているところだ。
佐藤氏は、この辺を全く知らなかったらしい。
だがクラスチェンジは、カズラクの転職の神殿で可能となる。
カズラクに着くのが遅ければ、それだけ遅れが出る訳だ。
「そんなのちょっとの差だ!」
佐藤氏も譲らない。
だが岩戸は、徹底的に彼をコキ降ろす気だ。
「はあ?
もしパラが1足りなかったら次のクラスチェンジの機会を逃す。
そうしたらまたレベルアップを無駄にするんだ。
下級職、中級職、上級職…。
君は、ここから3、4、5回は、レベルアップを無駄にする。
それは、最終的に取り返しのつかない差になる。」
岩戸は、そういって佐藤氏を黙らせた。
理屈は、そうだろうがそれが全てじゃない。
例えば《ナイト》の筋力上昇値は、5~7だ。
つまり今後、大きく伸びて挽回する可能性もなくはない。
もちろんそんな都合よくいかないだろう。
しかし岩戸は、すべてのレベルアップを最低値で試算している。
むしろそっちの方が酷いんじゃないか?
「とにかくウチでは、面倒見られない。
他所を当たってくれ。」
「ち、ちくしょう…!」
岩戸が佐藤氏を追い返すと綾瀬が口を出した。
「別に追い出さなくても良いだろう?
ルート調査は、人手があった方が良い。」
異見された岩戸は、目を細め、冷たく答えた。
「………彼は、Lv10だ。
経験値を吸われても面白くない。
敵の数も限りがあるみたいだからね。
それに、彼の装備のほとんどを買い換えないといけない。
買わされた挙句、彼が出ていくと言い出したら大損害だ。」
岩戸の態度は、冷酷だ。
しかしリーダーとして非情な決断を強いられることもある。
手緩い采配を奮う訳にはいかない。
「岩戸ボーイ。」
「何だい?」
改まった態度で綾瀬が岩戸に話を切り出した。
「俺、ここを出て自分のクランを作るつもりでいる。」
急に爆弾を振らせやがった。
話を聞いていないフリをしていた岩戸クランの一同が耳をピクピクさせる。
手は止まっていないが誰もが少なからず動揺していた。
「ほお。
それは、引き留めて欲しいって事?」
岩戸が腰に手を着いて眉を寄せた。
引き留める代わりに要望があるのかという態度だ。
しかし綾瀬にそんな魂胆はない。
正真正銘の独立宣言だ。
「別に縁を切るってことじゃない。
情報もやりとりする。」
「それは、勝手に決めるな。
俺が君に情報を交換することは、確約できない。」
岩戸は、ぴしゃりと言った。
流石の綾瀬も目を瞬かせて驚いている。
「そんなにドライにならなくても良いだろ?
俺がお前らを一方的に利用したり、騙すと思うか。」
「俺ならそうする。
というより、そうしない人間を信頼できない。
じゃなきゃ自分の情報をバラ撒くような物だからね。」
一端、綾瀬は、口を閉ざした。
あまりにも岩戸が攻撃的になっている。
このままじゃ、話が進められそうにない。
「なあ、西岡ボーイ。
岩戸ボーイに言ってくれないか。」
「俺に?」
十太郎は、荷物を一度置いて二人の方に歩いて行く。
(面倒ごとに引き込むなよ。)
嫌そうに夜桜が目を泳がせた。
「俺は、新しいクランを作りたい。
それは、岩戸が憎いとか出し抜いてやるためじゃない。
独立しても仲良くやって行きたいんだよ。」
綾瀬は、十太郎と岩戸にそう説明する。
でもそんなこと言われても十太郎が岩戸を説得する助けになるかな。
「ははは。
それは、失敗したら戻ってくるつもりかい?」
岩戸は、そう言って綾瀬を非難した。
「別れるならキッパリと別れておこうじゃないか。」
「岩戸君。
綾瀬君は、自分のやりたいようにやりたいんじゃないかな?」
十太郎がそういって岩戸を宥めようとする。
もちろん頭では、なんでこんな役をしなけりゃならないんだと思っていた。
「そうか。」
岩戸は、冷たい目で身体の大きな高校生ボクサーを睨んだ。
ヘビー級のアマチュア選手が小さく見える。
「俺は、運動部だ。
やっぱり運動部同士の仲間が合う気がする。
それじゃダメか?」
「分かったよ。
ガリベンとは、やっていけないって訳だ。」
岩戸は、そう言って首を横に振る。
(こいつのキンタマ潰してえ。)
夜桜が岩戸の態度にイラついていた。
綾瀬も難しい顔をしている。
「はあ。
金と装備を返せば、気も紛れるか?」
「いや…。
それは、綾瀬君の貢献に対する報酬だ。
確かに今後の先行投資でもあるけど。」
岩戸がそう答えると綾瀬は、困ったように笑う。
「ははは…。
はあ、じゃあ、俺が何しても許さない気か。」
「綾瀬君。
次の街まで離脱を待てないかな。」
十太郎が逆に綾瀬の説得にかかった。
「人手が要るこのタイミングで抜けるのは、困るじゃん。
まだ次の街まで何の情報もない。
もう少し、待てないか?」
「確かに、確かに、そうだが……。
分かってくれないか?」
綾瀬が首を左右に振って彼の意見を話し始めた。
「時間が経てば皆、クランとしてまとまった体制が出来る。
そうなると声をかける相手もどんどん減って行くじゃないか。
……今みたいな何処にも入れて貰えない奴があぶれてるだけだ。」
なるほど。
時間的余裕もないって訳だ。
「じゃあ、こうしよう。
岩戸君!」
十太郎が今度は、岩戸の説得に回る。
「なんだい?」
不機嫌そうだが十太郎の提案に興味を示した。
今のところ、妥協点を岩戸も見つけられずにいるらしい。
十太郎の意見を参考にしてみる気だ。
「綾瀬君の探して来たメンバーをウチに入れて。」
その提案に岩戸も綾瀬も眉をピクピクと動かした。
まるで予想していない意見を出されて驚いている。
「つまり一時的にメンバーを倍にする。
調査も捗るし、綾瀬君もクランのメンバーを探せる。
次の街へのルートが構築出来たら分離しよう。」
「おいおい。
それは、綾瀬に利があり過ぎるだろ。」
岩戸が顔をしかめた。
「確かにそのままならウチのメリットはない。
綾瀬君は、新しい仲間とルート情報を得る。
こっちは、綾瀬君を失ってライバルを増やす。
しかもそのライバルが次の街に到着するのを助けてしまう。」
十太郎は、自分の提案の問題点をすべて挙げた。
まさに何一つとして岩戸に利がない。
「でも綾瀬君と穏便に別れることができる。」
十太郎の言葉は、岩戸に響くものがあった。
無視し切れない意見だ。
もし別れたいというのなら穏便に済ませたい。
お互いに敵対するというのは、後味の悪い思いをする。
十太郎が言いたいのは、綾瀬を引き留める案じゃない。
綾瀬を快く送り出す形は、これしかないということだ。
「いや……。
うん………。」
岩戸は、額を手で抑えて考えている。
考えに考えて一つの結論を導きだした。
「修正しよう。
綾瀬君、君が仲間を見つけて来られればだ。」
それが岩戸の思い付く精一杯の修正案だった。
他のところには、手が着けられない。
十太郎の意見をそのまま受け入れたくなかったのだろう。
「分かった。
岩戸ボーイ、無理を言って悪かった。」
「ああ。」
不機嫌そうに岩戸は、額を手で抑えて相槌を返した。
綾瀬は、十太郎の方を見て笑う。
「助かった…!!
ははははは…。」




