接触
しばらく歩くと緑のオアシスが見えて来た。
おそらくさっきの遊牧民は、ここから冒険者を探していたのだろう。
ガレオン船の残骸で作った小屋がある。
隣には、物見台もあってこれが目印になった。
「うおー!
水だァー!!」
「結城君が入る前に水筒入れていい?」
十太郎が物凄い握力で結城の肩を掴んだ。
「は、はい。」
その鬼気迫る形相に結城も溜まらず、ブルってしまう。
日々の顔芸が十太郎の表情筋を鍛えまくった結果だ。
「はあ…。
でも、人間を殺すのは、キツイな。」
水筒をオアシスに漬ける十太郎がボヤいた。
隣で同じように水筒を入れる結城が答える。
「そうか?
人間に見えない感じあるぜ。」
この世界の人間は、確かに現実の人間とちょっと違う。
それがスケロスのせいなのかは分からない。
しかしそれは、細かい所の印象であっておおよそ人間だ。
さっきは、無我夢中だったが十太郎も結城も平気で人間を殺せたわけじゃない。
それに次は、現地民じゃない可能性もあった。
「………PKってどう思う?」
この結城の質問は、本質的な問題を提起した。
つまり同じ日本から来た高校生同士による殺し合いの危険性だ。
PK自体は、ゲームの概念だ。
一般にプレイヤーが敵やモンスターではない他のプレイヤーを殺す遊び方を指す。
しかしここは、まるでゲームみたいな世界だし、あり得る話だ。
「………いるんじゃない?
馬鹿ってどこにでもいるし。」
十太郎は、夜桜の言葉をそのまま伝えた。
それは、高校生同士が戦う世界の住人の偽らざる意見だ。
人間は、争う。
これが悲しいかな現実だ。
「そもそも俺たちの目的って何?
仮に金だとするじゃん。
ゴブリンから拾うより人間襲った方が早くね。」
結城が珍しく実際的な話をしてくる。
ずっとこれからの冒険に着いて熱く語るだけの男だったのに。
「う~ん…。
それに武器とか装備も奪えるか。」
ひょっとしたら先頭集団は、もっと武器や財宝を独占してるかも知れない。
ここは、ゲームとは違う。
アイテムが再配置されるという事は、おそらくない。
先に進んでいる人間が何もかも総取りする取り決めだ。
「ちょっと男子チーム!」
ジョーが二人に声をかける。
「水浴びして良い?
あんたら、あっちね!」
といって遊牧民の基地を親指で差す。
風呂ナシでこの砂埃だ。
若い女子高生には、キツイだろう。
そう考えるとさっきの遊牧民も水浴びしたかも知れない。
深く考えれば地獄なので十太郎は、考えるのを止める。
「OK。」
そう言って結城は、水場から離れる。
二人は、大人しく小屋に入った。
中は、遊牧民たちが作った簡素なベッド、机、家具類がある。
一部は、難破船のものだろう。
「おおお!
海賊の宝箱だ!!」
いかにもな丸蓋の箱が置いてある。
結城は、大興奮で中身を確認した。
「う~ん…。
特に金目のものはないな。」
「取られて困るものは、ここに置いて行かないって。」
そう言いながら十太郎も気になって覗きに行く。
こういうのも冒険の1ページだ。
他にも要らなくなった剣、壊れた銃が捨ててある。
使えるのは、大工道具ぐらいだろうか。
とにかくガラクタばっかりだ。
「鎖…。」
十太郎が奥から細い鎖を見つけて来た。
ギョッとした顔で結城もそれを睨む。
「これで奴隷を街まで連れてくのか…。」
しばらく二人の視線は、不気味な細い鎖に集中した。
「男子チーム!
交代しよ。」
ジョーが小屋に入って来た。
「何してたの?」
「別に暇だったから。」
そう答えた十太郎は、鎖をその辺に捨てる。
「覗きとかしなかった?」
「しねえよ!!」
結城が胸を張って答えた。
「………。」
木津原は、完全にグロッキー状態だ。
目が死んでて言葉少ない。
次の街に着いたら彼女をどうしよう。
とにかく女子2人と交代で男子2人が外に出る。
オアシスの端に水浴びのため、洗い場が作られていた。
屋根があって足場が組んである。
その向こうに厩舎がある。
何か異変があれば、すぐに馬を確認できるようにだ。
洗い場には、桶やスポンジまで準備されていた。
「………流石にこのスポンジは、嫌だな。」
十太郎は、そういって糸瓜か海綿で作ったスポンジを捨てる。
遊牧民の尻を磨いたかも知れないスポンジだ。
二人とも装備を外し、服を東屋の手摺にかけた。
「………。」
結城があんぐりと口を開けて十太郎を見ている。
その股間にある男の物に圧倒されていた。
自分の知ってる物と大分、形や大きさが違う。
「………。」
十太郎は、慣れているので気にせず水を身体にかけていた。
「………。」
「………。」
呆然とした結城は、木偶のように口元が緩んで締まらない。
この世の脅威を垣間見てしまった。
そんな絶望の表情だ。
四人は、再び曠野を進む。
ジョーが木津原に声をかける。
「カズラクまでの道のりは、あとどれぐらい?」
顔色の悪い木津原だが、四人にとって命綱となる情報源だ。
悪いがもう少し、協力して貰う。
「……確か私、二日でペシュカネルからカズラクに着きました。」
その時は、盗賊の襲撃はなかったのだろう。
「二日?
二日って1日サバンナで休んで次の日に到着したってこと?」
「ええ、はい。
………うう。」
その時は、何もなかったのだろう。
しかし彼女の仲間は、急に獣じみた欲望を曝け出し、襲って来た。
彼女にとって冒険は、ゾッとする思い出ばかりになりそうだ。
「もう二度と、こんなところ来たくない。
はやく終わって……。」
「終わりってどうなるの?」
今日が初日の十太郎には、分からない。
ここまでの話だと急に現実に戻されるらしい。
「私は、4日…四回こっちに来てるけど。
たいてい気が付いたら元のところに戻ってるね。
だいたい学校なんだけど。」
ジョーがそう答えた。
「俺も学校!」
結城がいった。
「………学校です。
いつも急に戻される感じ……。」
木津原が浮かない顔で答える。
「その……私は、ここで死んだことがあって。
気が付いたら教室で立ってました。
怪我とかは、なくなってて全然、平気です。」
「俺も!!」
結城が元気一杯にいった。
答えられるまでもなく結城は毎日、死んで戻ってそうだな。
そう思ったジョーと十太郎が目を細める。
しばらく行くと別の集団が先のオアシスで休んでいる。
ここにも小屋があって遊牧民たちの基地になっているらしい。
ジョーが拳銃を空に向けて発砲した。
「攻撃しないで!!
私たちは、現地民の盗賊じゃない!!
日本からこっちに来た学生だよ!!」
相手に聞こえるようにジョーが叫ぶと向こうも返事した。
「四人いるように見えるけどー!
それ、全員!?」
「誰も隠れてない!!」
ジョーが返事する。
しかしこれも駆け引きだ。
素直に答えないと向こうも怪しむだろう。
だが向こうがまともじゃないなら危険だ。
「まっすぐ全員、見えるようにこっちに来な!」
そうオアシスから声が飛んで来た。
「いや!
お前たちが出て行ったら休憩する!!」
ジョーが相手にそう返事をした。
オアシスに入ったところを攻撃されたらおしまいだ。
「………今からそっちに行く!!」
そう答えて声の主がオアシスから走って来る。
スラッとした長身の男子生徒だ。
結構、カッコイイのでジョーも目を瞬かせる。
「別に君たちを攻撃する気はないよ。
っていっても何も証明できないね。」
出て来た男子生徒がそういって四人の前で止まる。
武器らしい物は、何も手に持っていない。
(まあ、魔法を使う職業なら油断できないね。
ってもこいつは、そういう感じじゃないけど。)
と夜桜が十太郎に助言を与えた。
(そうじゃん。
最悪、お前が全部、やっつけられるんだし…。)
十太郎が頭の中でそう言うと夜桜が怒った。
それは、本当に静かな怒りで。
彼女が心底、他人任せの人間を嫌っているのだろう。
本物の勇者として。
(ごめん…。)
十太郎が謝ると夜桜の声が頭の中に返ってくる。
(悪ィ……。
ちょっと………。
ちょっと本当に勘弁してくれ、そーゆーの。)
その相当なイラつき加減が声で伝わってくる。
「とにかく敵意はない。
話でもしないか?」
オアシスから出て来た男子がジョーにそう言った。
だがジョーは、長身の男子の提案を断った。
「余計なトラブルは、ごめんだ。」
知らないアカの他人と同じテーブルを囲む趣味はない。
それも警察が出て来ないこんな場所でだ。
何も爆弾で火を熾すことはしない。
「ちょっと殺伐とし過ぎだよ。」
そう話す男子にジョーは、顎先で木津原を指す。
「悪い。
ウチの仲間は、他の奴に置いてきぼりにされた。
それも乱暴目的で。」
この話を聞いて相手は、表情を変える。
まさかそこまでの悪事が行われていると考えていなかったのだろう。
正義の怒りで髪の毛が逆立ちそうだ。
「酷いな。
………そんなことした奴らの名前は?
どこの学校か、分かる?」
「スマホに写真が…。」
木津原がそう言ってスマホを開いた。
本当に人に訊かれないと忘れてる子だな。
ジョーや十太郎、結城も写真を確かめた。
「ちょっと送って。
こいつら、見つけたら許さねえ!」
「ああ。
こんな奴らは、制裁が必要だ。」
ちょっとした正義の集まりが始まって学生たちは、興奮する。
それを夜桜は、つまらなさそうに見ていた。
(………こいつらが本当に実行するのか見ものだぜ。)
(夜桜の言いたいことは、分かるけど。)
(何も分かりゃしねえよ。
何も分かるもんか。
お前に。)
ちょっと夜桜は、機嫌が悪いらしい。
本人も分かっているがどうにもならないこともある。
十太郎は、こういう日、苦労する。
「はあ…。」
とびきりの深い溜め息をついた。




