人間の敵
「ひゃっひゃっひゃっひゃっ。
たまには、自分の全力を見せないとォ。」
ワイバーンを20ダース仕留めて夜桜が戻って来た。
まさに暴力の嵐。
死の風が吹き、飛び散る敵の血飛沫がサバンナに零れる。
流石、数々の異世界で異能の高校生たちと戦って鍛えた武。
「まだ最高の全力を見せてないだろ?」
岩の上に腰かけた十太郎が夜桜に声をかけた。
夜桜が十太郎を見上げる。
「お?
テメーも色々、分かって来たじゃねえか。」
他人の目を避け、夜の散歩。
ジョーも結城も木津原も、崩れた難破船の陰で眠っている。
「くあっ。
……そろそろ俺たちも寝ようぜ。」
交互に睡眠をとって休憩できる十太郎と夜桜。
二人にとって朝も夜もない。
十太郎が右手を伸ばすと夜桜は、その手を握る。
そのまま二つの影が一つに戻る。
(考えたけど…。)
夜桜が頭の中で話し始めた。
(うん?)
(この異世界。
っていうかテメーらか?
召喚じゃねえな、厳密には。)
(どういうこと?)
(私は、魔法は、使うだけで研究とか良く知らねえけど。
ここにいるテメーらは、オリジナルのコピーみたいなモンなんだ。
だからこっちで何回死のうと元ん世界じゃ生きてるって訳。
職業もその恩恵だな。
テメーらを訓練した冒険者として転生させてるんだ。
身体がそのままだから自己帰属性が高いだけで。)
(つまり見た目は、そのままだけど。
これは、別人の身体ってこと?)
十太郎は、不思議そうに自分の手を見る。
爪やホクロ、細かい部分まで自分そっくりに見えた。
だが俄かに思い立って自慢のアソコを入念にチェックする。
(ああ、もう!
そんなところまで調べなくてもいいよ!!)
夜桜がチンコを引っ張りだしたところで十太郎が咎めた。
(とにかく…。
この身体は、コピーってことなんだな?)
十太郎が訊くと夜桜は、少し自信なさげに答えた。
(いや、詳しくは分からない。
でも、それに近い。
この世界を作ったスケロスって魔術師。
宇宙を自分でイチから作れる領域に到達してやがる。
人間のコピーを準備するぐらい造作もないだろう。)
(………何のためにそんな事を。)
十太郎が夜桜に訊く。
返事は、すぐに返って来た。
(出来たからやった。
そんなところだろう。)
(どういうこと?)
(方法を思い付いた。
学者なら自分の頭で思い付いたことを実践したくなるモノなのさ。
それがどうあっても実践できなきゃ机上の空論だ。
きっとスケロスにとっては、ここは、実験場に過ぎないのさ。
輪廻転生や多元世界の成り立ちを理解するためのな。)
なるほど。
(そんなことできるの?)
(たぶんそこまで精巧に作ってないんだろう。
ほら。)
夜桜は、十太郎の手で空を指差した。
(あの星は、ぜんぶイルミネーションだ。
本当に宇宙に無数の恒星が浮かんでる訳じゃない。)
(じゃあ、ここも?)
十太郎は、陸地───地球のことを指していった。
(たぶんな。
平らな大地だろう。
どこかで端があるんじゃねえか。)
(もしなかったら?)
(もしなかったら宇宙も本物だから、ない。)
もちろん夜桜自身、学者肌って訳でもない。
これは、全くのあてずっぽうだ。
しかし二人は、ここが途方もない大魔術師の実験場なのだという情報を共有した。
翌朝。
「うっし!
砂嵐が済んだし、次の街を目指して行ってみよう!!」
結城が張り切って声を出す。
しかし他のメンバーは、疲労が色濃い。
特に木津原は、顔色が悪かった。
「他に食べる物、ないですよね…。」
「乾燥させたジャーキーしかない。」
ジョーが干し肉を出した。
これが恐ろしく硬い。
「ほへ…ほお。」
十太郎も必死に干し肉を噛み千切って咀嚼している。
もう干し肉をやっつけるのに小一時間かかっていた。
結城は、健康そうな顎でパクパク旨そうに食っているから騙される。
「ほお…ふへ。」
木津原は、小さな口で干し肉をしゃぶるのが精一杯だ。
「早く出立しよう。
ここは、水がないんだから。」
ジョーが十太郎と木津原を急がせた。
二人は、干し肉を咥えながら出発する。
もう金貨とか財宝とか問題じゃない。
皆、生きて次の街に着くことが目標になっていた。
「大冒険の始まりだァ!!!」
結城だけは、この状況を楽しんでるみたいだけど。
「ほお…ほお。」
十太郎が遠い目で先を行く結城の背を見ている。
「ふぇえ…ふぇえ。」
木津原も結城の底なしの元気さを賞賛しているらしい。
しばらく進むと昨日と違う顔ぶれが四人を出迎える。
次の敵は、遊牧民だ。
「ヨォー!」
「ハア!」
「ヒョオオオ!!」
三日月状のシミターを手にターバンを巻いた集団が襲ってくる。
青黒い髭を蓄え、先の尖った靴、ブカブカのズボンが印象的だ。
「………あれって…。
いやァ!!」
木津原は、目を大きく見開いて怖気づいた。
敵が人間だなんて覚悟してない。
しかしジョーは、遠慮しない。
腰の拳銃に手を伸ばし、容赦なく遊牧民の男を銃撃した。
「があッ!」
撃たれた男が剣を取り落として馬から転げ落ちる。
残った裸馬が集団を離れ、いそいそと逃げ出していく。
だがまだ何人も敵はいる。
「いやあああ!!
やめてぇーっ!
あれは、ゴブリンじゃない!!」
一人、木津原は、必死に訴える。
ある意味では、健康な世界の住人として当然の反応だ。
だが後の三人は違う。
最初の街、ペシュカネルにも奴隷市はあった。
それは、人狩りをする連中が生計を立てていることを意味した。
こうなることは、最初から予想の範囲内だ。
この周辺地域は、冒険者と冒険者を獲物にする者で成り立っている。
魔物も、人もだ。
「舐めたことやってんじゃねえ!!
そこでうずくまってたら、助けねえ!!」
結城が木津原を庇いながらも厳しく叱咤した。
ジョーも十太郎も遊牧民の撃退で人助けなど手に余る。
第一、こいつらは、盗賊の類。
何も気にする必要はない。
「ごえ!?
………あ、ああ。」
棍棒で殴り殺された遊牧民が十太郎の前に倒れる。
倒れた後も恨めしそうに空を睨んでいた。
「ちっ、若い冒険者と侮った。
逃げるぞ!!」
一人だけ戦闘に加わっていない遊牧民が怒鳴った。
彼がリーダーだろう。
その彼の命令で遊牧民たちは、一斉に駆け出していく。
この敵の判断が功を奏した。
戦闘は、まさにあっという間に終わった。
「ちょっと脅かせば奴隷に出来る…。
そんな感じだったな。」
十太郎が水筒に手を着けながらいった。
ジョーも頷く。
「ああ…。
きっとああいうのがこの辺、うろついてるんだ。」
「水源がある?」
十太郎がそういうと結城が諸手を上げて喜んだ。
「よっしゃー!
水が見えて来たぜえ!!」
ただ一人、木津原だけが限界に達していた。
血の池を前に完全に震え上がっている。
「もう……こんなの……。
おかしい……おかしいって。」
5人の遊牧民が血だらけで倒れている。
木津原は、小刻みに震え、手で顔を覆った。
「とりあえず安全な場所まで行こう。
それまでは、頑張って付いて来れる?」
ジョーが木津原に声をかけた。
ゲッソリした顔で木津原が細かく頷く。
「うん………うん………うん。」




