避難所
低い灌木と短い草、乾燥した赤茶けた大地。
そこに金貨が山のように積み上げられている。
太陽の輝きを反射し、放逸に金の彩りが振り撒かれている。
「やあああ!!」
そこに結城が突進していく。
彼の後ろに一列でジョー、十太郎、木津原も続く。
「行けー!」
「だー!」
「やあああ!!」
金貨の山に四人が近づくと巣穴からゴブリンが躍り出た。
1匹、5匹、20匹…。
気が付くと裸足で大地を叩く音が耳が千切れるほど鳴り渡って行く。
「ギーギギギ!!」
「ガロロロロ…!!」
「ギョ、ギョー――ッ!!」
宝石や金貨は、このペシュカネル周辺に流れ着いたガレオン船の積み荷。
そして冒険者たちの落していった置き土産だ。
ゴブリンたちは───便宜上、そう呼ぶが少しもゴブリンに似ていない。
奴らは、これで人間を罠に嵌める。
「だりゃあ!!」
結城、十太郎、木津原が戦闘に入る。
流石に生き残って来ただけあって他の連中と違う。
「でえーでえーでえー!!」
その間にジョーが金貨を革袋に流し込む。
「そら、そら、そらー!!」
これも列記とした魔法の革袋であり、何でも幾らでも入る。
持ち主以外が移動できないように対抗呪文が施されていない限りは。
ただし重さだけは、軽減されない。
戦闘は、十太郎たちが受け持った。
次の街、カズラクに辿り着いても金が必要だ。
素寒貧じゃ意味がない!
「終わったッ!!」
ジョーが叫ぶと四人は、再び走り出した。
「逃げろー!」
十太郎が結城の腕を引っ張ってジョーや木津原を追いかけた。
目指すのは、西ではなくやや北の方角。
神野高校の男子が言ったようにカズラクは、ペシュカネルから真西にある。
しかし直線距離を通過することは、ほぼ不可能である。
砂嵐の通る間隔、難敵ワイバーン、水源の乏しさ。
この最短ルートを通るのは、低レベル帯では事実上、不可能なのだ。
そこで木津原が前に参加していたグループ。
彼らは、それなりに情報を仕入れていた。
このサバンナには、あちこちにガレオン船の残骸が点在している。
これがゴブリンの財源であり、砂嵐を回避する避難所となる。
なぜ巨大な帆船が陸地に座礁しているのかは、分からない。
だが、すべて例の詩の通りだ。
西へ向かって難破船を通り、帰らぬ船の後を追え。
それが最終目的地に辿り着く鍵だ。
「船だ!!」
結城が叫んだ。
「かなり北に逸れて来た…!」
十太郎がスマホの方位磁石で確認する。
どういう訳か正常に作動している。
「とにかく休憩しよう!!」
そう言いながらジョーが拳銃を引き抜いて発砲する。
物陰に隠れていたゴブリンの頭が破裂した。
「水源が近くにあればいいけど!!」
木津原ももつれる髪を抑えて全力疾走している。
だがこれも罠だ。
ガレオン船の影からゴブリン軍団が這い出てくる。
「ゴオオオオ!!」
敵の中に見たこともない背の高い奴がいる。
頭に深鍋、背中に大きな平鍋を背負っていた。
どうやら防具のつもりらしい。
「ゴオッ、ゴオッ、ゴオッ、ゴオッ!!」
挑発のつもりだろう。
金貨の入った袋を取り出し、中身をばらまく。
おぞましい口の中は、納豆の箱みたいに牙から糸を引いている。
「前の難破船まで引き返せる!?」
ジョーが叫んだ。
十太郎は、スマホを睨んでいる。
「いや、空が怪しい!!」
どういう訳かお天気アプリが正常に作動している。
”砂嵐(確率80%)”
日本では、絶対に見られない文字が表示される。
時間にして30分前後の猶予しかない。
「スマホしまえ!
戦闘に入るッ!!」
結城は、そういって一番槍を入れる。
十太郎もスマホをしまって後に続く。
四人は、決死の覚悟で敵に挑む。
ガレオン船を占領できなければ、あと30分ぐらいで砂嵐だ。
それまでにゴブリンを一掃しなければならない。
「癒しの光よ!!」
木津原が回復魔法を使う。
といってもLv3では、2回が限度だ。
普通のRPGなら《ソルジャー》は、魔法を使えないものだ。
しかしこの《スケロスの窖》は、若干の手心を着けてくれた。
《ソルジャー》でも扱える初歩的な魔法という物がある。
これも最初から魔法を使えないと決めつけると痛い目に会う。
「ゴオ…。
ギギギガガガ…。」
「やったァァァ!!!」
結城が一番デカいゴブリンを仕留めた。
他のゴブリンたちも撃退されつつある。
「俺たちの勝利だーッ!!」
うるさいだけの結城だが、役に立つこともある。
彼の大声にゴブリンたちが逃げ出している。
「さあ、砂嵐が近づいて来た。
難破船の中に!」
十太郎が風を凌げそうな場所を見つけて皆を呼ぶ。
ジョーたちが一斉にそこ目掛けて走って来た。
砂嵐は、思ったよりキツイ。
時間にして半日近く冒険者たちを足止めする。
外は、真っ暗で砂がガレオン船の船体を激しく叩く。
大きな石が飛んでくると四人は、思わずゾッとした。
「があ…あ……っ。」
時折、生き倒れる高校生の断末摩が聞こえて来た。
隠れる場所を探す間に力尽きてしまったのだろう。
「ああ…!
もう、嫌…ッ!!」
木津原は、耳を抑えた。
確かに、あまり気分のいい物じゃない。
「これってどれぐらい隠れてるものなんだ?」
結城がジョーに訊いた。
「………うん。
割と長いね。」
正確に答えない所にジョーの配慮を感じる。
結城が飛び出して行きそうだと考えたのだろう。
実際、今にも飛び出してしまいそうだ。
「あーっ。
いつまでこんな所で隠れてりゃいいんだー?」
気の逸る結城は、恐々と外を伺う。
他の三人は、心配そうに結城を監視していた。
しかしまず木津原が眠り、続いて結城も横になった。
あまりの退屈さに我慢できなくなったのだろう。
食べる物も十分にある訳じゃなく起きていても空腹が辛かった。
「………ねえ。」
ジョーが十太郎に近づいてくる。
溜まらず十太郎は、背筋を伸ばした。
「少しだけ、奥まで行って。」
「え?
………それって。」
ためらいながらも十太郎は、ジョーと唇を重ねてしまう。
そのまま二人は、強く抱きしめ合い熱情の昂揚に身を委ねた。




