領地との会話
私はしばらくタルカに抱きしめられたまま泣いていた。その時、こんこんと軽くノックの音がして扉の向こうからロジエールの声が聞こえた。
「お嬢様……入っていいか?」
「ええ。」とわたしは目元を服の袖口で拭うとタルカから離れて身なりを整えた。
「どうしたのロジエール?」
「くつろいでいるところすまない……ちょっと厄介なことになって……。」とロジエールは化粧などに使われる折り畳み式の手鏡を私に渡した。
(………?)
その時、鏡の向こうからお父様の声がした。
「イレーヌ……無事か?」
「お父様!?」
鏡を見ると折り畳み式の上の部分にお父様の顔が写っていた。
「なっ、なんでお父様が写っているの?」
私の反応とは逆に「本当に良かった。」と鏡の奥のお父様はほっとひと安心しているようだった。
「お嬢様が王家の領地に入ったと言ったら会わせてほしいと懇願されて……。」とロジエールは疲れはてた様子だった。
「えっと………この状況って?」と私が困惑してるとそばにいたタルカが教えてくれた。
「これは鏡魔法です。」
「鏡魔法?」
「ええ、応用魔法に水鏡の魔法がありますが………要は遠くにいる人物と連絡をとるときに使用する魔法です。」
「なるほど。」
(2つ折りってことはガラケーみたいなものかな?)
「お父様………私は大丈夫です。そちらはどうですか?」
「大丈夫ですイレーヌ………連絡が入った時はオルバーンが今にも王都へと旅立ちそうな勢いでしたが今は落ち着いています。」とお父様の隣にいたお母様が教えてくれた。
「そうですか………心配をかけてすみません。」
「今は王家の領地ということで………心配はしていませんが何かあればすぐに連絡をするのですよ。」
「わかりましたお母様。」といって通信をきった。
(まさか、前世にいたときみたいに通話ができるなんて……ビックリ!)
「ありがとうロジエール。」とわたしはロジエールから借りた手鏡を返した。
「ところで………皆王家の領地なら安全だというけれどその理由は?」
「王家の領地には中央騎士団があり、常に領内を循環して警護していますし、外壁が不審人物を中に入れないようにしています。」
(なんか結界みたい。)
「外壁は王の魔力でおおわれており、あの門からしか人々は入ることができません。」
「だから安全なのね。」
「ええ、王家の領地は領主の領地とは異なり守りは厳重です。領地によっては騎士団の人数が少ない領地もありますから………。」とロジエールは少し困ったようにいった。
(そうなんだ……知らなかった。帰ったら王家や領地についても調べないと。)
私が「まだまだ知らないことがたくさんあるわね。」と呟くとロジエールは、「ええ、世界は広いですから。」と懐かしむようにそういった。