夜中の警護と話し合い
今日は少し文書が長めです。
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他の作品も随時アップしてますのでよかったら覗いて見てください。
「疲れたー。」と私はいつものようにベッドにダイブしたがアルセーラの視線に寒気がした。
「お嬢様……次期領主候補がそんなことをしてはいけません。」
(これが楽しいのに………。)
「ごめんなさい。次回から気を付けるわ。」と私が頭を下げるとアルセーラは全くとため息をつきながら寝る支度を始めた。
「お嬢様これ………タルカ兄様が作った湿布薬です。」
(タルカ……年々従者としての腕あげてない……?)
「ありがとうシャレアンテ。」
私はいつものようにシャレアンテの頭を撫でるとともにタルカに心のなかでそっとお礼を言った。
「アルセーラ悪いけどはってもらっていいかしら?」
「わかりましたお嬢様。」とベットに横になり、張り薬をはってもらった。
(………腰がこんなに痛くなるなんて……馬車をなめてた。)
その後、私は全異世界に向けてサロンパスの重要度を伝えたい気持ちに蓋をしつつ、パジャマに着替えていると外からノックの音がした。
「はい、少し待ってて!」
「さ、お嬢様おはやく。」とアルセーラは私が早く着替えることができるようにと補助してくれている。
(20歳を越えた女が着替えを手伝ってもらうなんて………なんか少し恥ずかしい。)
「どうぞ。」
「失礼しますお嬢様。」
「ロジエールどうかしたの?」
「今日は警護のため、この部屋で一晩すごそうかと思いまして。」
「この部屋で?」
(………ってベッドは3つだし………まさか誰かの……アルセーラは既婚者だし………私かシャレアンテのベットかな?)
「この部屋とはどこで寝るのですかロジエール。」
「何をいってるんだアルセーラ………俺は警護する立場だから寝るわけないだろう。」とロジエールは椅子に腰をかけた。
(まぁ普通に考えてそうなるよね。)
「でも、まだ王都までは数日かかりますし………きちんと休みをとった方が………。」
「俺は大丈夫ですお嬢様。それに御者と交代で警護をしますから…………何かあってからでは遅いのです。」とロジエールは私の顔を見ながら優しそうに微笑んだ。
「でも………。」
「お嬢様……ロジエールがこういっているのですから……そうしましょう。私たちも明日の出発時間がはやいのでそろそろ寝た方がいいと思いますし………。」
「そうした方がいい。途中で交代交代で仮眠をとりますから。」
「わかったわ。」と私はベッドに入った。
昼間寝たせいかしばらくは寝つけなかったが、だんだんと目が重くなり目を閉じた。次にトイレに起きた時には、辺りは暗く机の周りにおかれた見張り用のろうそくがうすぼんやりと灯りをともしていた。
「う~ん、トイレ。」と私はろうそくの灯りをたよりに部屋の入り口を目指す。部屋を見るとシャレアンテとアルセーラはぐっすりと寝ていた。
(シャレアンテもアルセーラもぐっすり寝てるしおこすのはかわいそうね………でもアルセーラなんて布団を被っちゃって寝顔見られたくないのかしら………なんだかかわいい。)となごんでいると見張りを交代したのか椅子に腰かけていた御者が小声で声をかけてきた。
「どうしたのですか?」
「トイレに………。」
「わかりました……念のためお供します。」と優しく手をひいてくれた。
「そういえばロジエールは?」
「………今仮眠をとっています。」
「そう………そうならよかった。それでその……。」と私がトイレの入り口で恥ずかしそうにもじもじすると何かを感じ取った御者が「あっ、そうでしたね。」と静かに一歩下がり扉を閉めた。
(………警護って大変ね。後でお父様から二人がきちんと休みがもらえるように働きかけなきゃね………それよりトイレトイレ。)と考えながらパジャマのズボンを脱ごうとしたとき、だんだんと足が持ち上がり、気がつくと地面より数十センチほど宙に浮いていた。
(………うん?)
「う、浮いてる?」
理由はわからなかったが風船のようにふよふよと体が浮きあがってしまっていた。そして、次の瞬間何かに引っ張られるように後方へと勢いよく引っ張られた。
(うっ…………何がどうなって。)
私はわけがわからず足をバタバタさせ、どこかに捕まろうと必死に手を伸ばす。しかし、磁石のように強い力が壁ぎわに私を引っ張ろうとする。
「誰か…誰か…。」と大声をあげると扉の向こうから声が聞こえた。
「お嬢様どうかなさいました?」と声がかかった。
「なぜだかわからないけど体が浮いているの。」
「体が……。」と外から声がしたと思ったら、御者の人は鍵をかけた扉を外側から開けようとしたのか、バンバンと強い音がした。その時、さらに強い力が働き私は後方へと引っ張られ、思わず壁に思い切り頭をうちつけた。
(うっ〰️)
私はうちつけた頭を抱えて痛みをこらえていると、御者の人は何かを察したのか扉を開けようとする音がどんどんと大きくなった。そして、数秒後にバンと大きく音がなり、御者の人が汗だくになりながら部屋へと入ってきた。
「お願い、私の手を………。」
「お嬢様。」
御者の人は私の手をとるとぐいと自分側に私を引き寄せた。そして、杖を取り出し私の体に触れると同時に重力が戻ったように体が重くなり、一気に地面めがけてまっ逆さまに落ちていった。
(うわぁわぁわぁ………落ちる落ちる。)
すんでのところで御者の人が体を持ち上げてくれたが危うく今度は鼻をうちつけるところだった。
(あ、あ、危ない。)
その時、物音に気がついたロジエールやシャレアンテがやってきた。
「どうした、なにがあった。」と私の肩を強くつかんだまま質問するロジエールの顔には不安という二文字が顔に出ている。
「ロジエール、落ち着いてください。私はここにいます。」と私が言うとロジエールは大きく息をはいて「そうか…………ならいいんだ。」と何かを確かめるようにそっと私を抱き締めた。
「………。」
そのロジエールの後ろから眠そうに目を擦りながら、シャレアンテが廊下を歩いて来るのが見えた。
「何の音ですか………このような真夜中に……。」
「お嬢様が襲われた」と言うロジエールの声に、シャレアンテは目を擦るのをやめてわたしに走りよってきた。
「私は大丈夫ですシャレアンテ。」
「ロジエール一体何があったのですか?」とシャレアンテは真剣な表情でロジエールの顔を見つめた。
その時、寝巻き姿のアルセーラがあくびをしながらやって来た。
「ふぁ~………一体何の騒ぎですかロジエール……たいしたことでなければ……。」
どうやらアルセーラは従者全員が集まったこの前異様な光景を見て状況を理解したらしく、ロジエールの胸ぐらをつかみすごい剣幕で怒鳴った。
「ロジエール……お嬢様に何が………。」
(普段あんなにおとなしいアルセーラが)
「ちょっと待ってアルセーラ……ロジエールは悪くありません。」私がアルセーラの腕をつかんで止めようとしていると「なんだ?」「どうかしたのか?」と下の階から物音を聞き付けた野次馬が続々と集まってきていた。
(一旦冷静に話をする場所を……。)
「シャレアンテ……皆を部屋に……。」と私はシャレアンテに命じて従者達を部屋へと誘導した。部屋に入ると扉を閉めたことを確認して私は口を開いた。
「私はトイレをしようと部屋に入りました。入って数秒後に足が浮き初めて、そして気がついたら体が宙に浮いて強い力で後方の壁へと体が引っ張られて……。」と私は先程の出来事を皆に伝えた。
「それは………おそらく浮遊の魔法だ。対処物を浮かせて移動させたりすることができる。」
(浮かせるって人間の体も?)
「そんなことが本当にできるのですか?」
「ええ、論理的には………でも対象物を見ずに遠隔操作ができるなんて相当の魔力量がないと………。」
「そう………。」
「でもなぜ浮遊の魔法を?人をさらうなら扉からの方が有利なはずです。」
「………壁の後方には小窓がついていたはずだ。」
「そこから………浮遊の魔法を使って連れ去る計画だったとか…。」
(仮にこの仮説が正しいとして…………なぜ私を狙ったのか……。)と私が考え込んでいるとアルセーラが口を開いた。
「ロジエールあなたのミスです。あなたがトイレのチェックをおこなっていたでしょう?」
あらかじめアルセーラとロジエールは、部屋の準備をしながら二人でおかしなところがないか確認していたらしい。ギロっとにらむアルセーラにロジエールが
「俺が見たときは異常も何もなかった。」と否定した。
そんな険悪な雰囲気が漂う中でシャレアンテが手をあげながら質問した。
「あの………なぜイレーヌ様が狙われたのか目的がわからないのですか……。」
(よく聞いてくれたシャレアンテ!)
「……おそらく………身代金目当ての誘拐だと思うんだが……。」
「身代金目的ですが、なぜイレーヌ様が狙われたのですか?」
「可能性があるとしたら……。」としばらく考えるようにしていたロジエールが口を開いた。
「もったいぶらず早く言うべきです。」とアルセーラはなにかを悟ったように言った。
「シャレアンテ………相手を知るときはまず相手の身なりや持ち物をみることが大切だ。」
「確かにお嬢様は庶民よりも上等なお召し物を身につけて……。」
「だが、身なりの良さそうな商人は他にも街中を歩いていただろう。」
(確かに……お金持ちそうな人は街で何人か見たわね。)
「では他の商人達と私達では何が違うというのですか?」
「俺が言いたいのはこれだ。」とロジエールは一枚の紙を見せた。
「それは……公的利用の証書!」
「そうだ、これは偽造できる品ではない。なぜならここに領主の魔導印が押してあるからだ。」
「それをこんな小さな子供が使っていたとなれば狙われるのも当然ってこと?」
「ええ、公的証書は領主一族やその側近とか限られた身分の人間しか普段使わないから。」
「そっか……普通の商人よりも領主の子供の方がお金がたくさんもらえると……。」
「そう考えたのだと思います。だから俺は宿の一部の人間しかこの紙を見せなかった………この証書は便利だがそうした危険もあるんです。」
(……じゃあ)
「………宿の人間の仕業とか………?」
「それはないです。」とロジエールははっきり否定した。
「なぜです?」
「イレーヌ様が宿に泊まることを想定して、信頼できる宿屋を選んだ。俺はここの従業とは顔馴染みだしオーナーとは昔からの知り合いだった。オーナーが狙うとは考えにくい。」
「では、誰が……。」
「おそらくロビーにいた人間………まだ確定はできないが。」
「でも…………ロジエールあなたがはやめに泊まる支度をしようとしたのも合点がいきました。」
「ああ、少しでも安全性を考えここにしたんだ……。」
「でも、お嬢様はさらわれかけた………やはりロジエールあなたの責任では?」とアルセーラがにらむような鋭い視線をロジエールにむけた。
「確かに俺が経路や護衛計画をたてた………俺のミスだ。」そういいながら、うなだれるようにロジエールは地面に座り込んだ。
(この空気をなんとかしなければ……。)と私は息を吐き気持ちを整えてゆっくりと話始めた。
「アルセーラあなたが心配してくれるのはわかります。しかし、今は誰の責任とかそういう話ではないでしょう。」
「ですが………お嬢様……。」
「実際、襲撃者はまだ捕まっていないし、意図もはっきりしてない…………責任の追求よりもまずすべきことがあるのではなくて?」と私はアルセーラに問いかけた。
しばらくして大きなため息とともにアルセーラが
「お嬢様がそうおっしゃるのであれば……。」といって引き下がってくれた。
「ありがとうアルセーラ。ロジエール……あなたはこれからの経路と計画の見直しをしてくれますか。」と私が肩をたたく。
「………。」
「誰でも失敗はありますし、今回のことはロジエールだけのミスではありません。」
「だが俺は……。」
「今大切なのは失敗を認めるのではくどうすればよかったのか反省をすることではないのですか?」と私はロジエールに問いかけた。
「……そうだな。」とロジエールはいつもの笑顔で笑いかけてくれた。
「ええ。」
(私もロジエールに任せ過ぎてたから……これでうまくいけばいいのだけど……。)