旅と宿屋
乗ってみてわかったが、馬車の旅は相当辛いものだった。まず道が整備できてない場所はめちゃくちゃ揺れるし、何時間も乗ってるせいか腰がだんだんと痛くなって来るのだ。
(今ならわかるよ、腰痛持ちだったお兄ちゃんの気持ち。)
あまりの痛さに私は、馬車の中で寝そべりアルセーラに膝枕をしてもらっている状況である。向かいに座るシャレアンテが、不安そうな顔でこちらを見ていた。
「シャレアンテ大丈夫です。少し腰がいたいだけですから。」
「しかし……。」
「本当に大丈夫。……心配してくれてありがとう。」
「あの……では」とシャレアンテは自分のポケットから何かを取り出した。」
「後でタルカ兄さまからもらった貼薬をアルセーラに渡しておきます。」
自信にみちあふれたその表情からはジャジャーンという効果音が聞こえて来そうなほどである。
(私の腰の状況まで把握してるとか……タルカ何者?)と考えていると馬車が止まった。
「どうしたの?」
「今夜はここで休もう。」
「えっ……?」
「王都まではまだまだ遠いし、夜は野宿よりもしっかり宿をとって休んだ方がいい。」とロジエールはいいながら馬車を近くの街であるリアーナに止めた。
「やっと外に出られる。」
(腰痛からも解放されるかも……?)
「少し出るの待ってくれ、まずは宿を取らないと。」
「なっ、平民と一緒に泊まるのですか?」とアルセーラは明らかに嫌そうな顔をした。
「ああ、ここらには貴族の館なんてないししょうがないだろう。」
「ですが……領主一族を平民となんて。」
「アルセーラ……私は平民と泊まったところで何も問題はありません。」
「しかし……。」
「他の街はまだ遠いし……ここしか泊まるところがないんだからしょうがないだろう。」とロジエールは大きなため息をついた。
「私もロジエールの意見に賛成です。皆疲れていますし……馬のペースがだんだんと落ちていますから……休息も必要でしょう。」
「わかりました……お嬢様がそうおっしゃるなら。」とアルセーラは渋々同意してくれた。どうやらこの時期は、気候も安定しているせいか商人や冒険者の移動も多く宿はどこも満員だった。
「どうするのですかロジエール……結局一杯ではありませんか。」とアルセーラはロジエールをギロっとにらんだ。
(うわー、アルセーラ明らかに機嫌悪いよ……でも珍しいなアルセーラがあんなに感情を表に出すなんて。)
アルセーラは基本的に常にポーカーフェイスで何を考えているのか表情が読みにくい部類に入ると思う。そう思うとタルカも母親と同じ部類だ。
「そう怒るなアルセーラこれがあるからさ。」とロジエールはポケットから証書を取り出した。
「これって……これを使っていいと?」
「ああ、奥さまから許可をもらったからな。」
「ロジエール……それはなんなのですか?」
「これは、公務使用の証書だ。これがあれば公務費で泊まることができる。ある程度の無理なら通すことができるしな。」
「よくあのネッケルさんが許しましたね。」とアルセーラがつこんだところロジエールは「ネッケルには内緒だ。」と口の前に指をたてた。
(お母様に同意してらって…………………なるほど………これも一つの交渉術かぁ。)
私達はその証書を使い、宿屋の部屋を2つ借りて5人が二グループに別れて宿泊する。私とシャレアンテ、アルセーラが二階の右隣の部屋を、ロジエールと荷馬車の御者が二階の左隣の部屋を使うことになった。
「シャレアンテ……今日は私と一緒の部屋ですがよろしいですか?」
「……私のようなものがよろしいのですか?」
「ええ、シャレアンテも今日は疲れたでしょ?」
「いえ、私はタルカ兄さまの代役なので…お役目をしっかりと」と言っているシャレアンテの目は少し眠そうだった。
「少し疲れましたね。シャレアンテ部屋までの付き添いをお願いできますか?」
「はい。」
「お嬢様……お部屋に入りますか?」とアルセーラは荷物をおろしながら私に質問をした。
「ええ、少し疲れましたし…それに。」と私は眠そうに目をこすっているシャレアンテをみた。
「それでは、部屋の支度をして参りますのでここで少しお待ちください。」
「俺も手伝おう」とロジエールとアルセーラは二人して二階にあがっていった。
久しぶりの本編です。(お待たせして申し訳ありません。)プールスの話が続いたので……イレーヌの旅路……ぜひ楽しんで読んでくれると嬉しいです。(物語はまだまだ続きます。)
個人的には頑張っているシャレアンテに期待してます。
感想、レビュー等お待ちしてます。