友として……。
(リディー………。)私の心は複雑だった。
「お嬢様にも困ったものです。」とシビアは大きなため息をついた。
初日から怒られてしまったことや、リディーがイレーヌ様だったこと色々なことが起こりすぎて頭が混乱していた。
「シビアさん………私。」
「わかっています。おおかたイレーヌ様がしたのでしょう……まったくあの人は。」とシビア大きなため息をつきながら首を横にふった。
(………でも…………あの人は……笑ってくれた……使用人の私に………。その時間だけは真実だと思うから………。)
「…………あの方は………使用人の私にも優しくしてくれて。」とシビアに訴えかけるようにいうと「ええ、そういうかたですから………皆わかっています。」とシビアは少し困ったように笑った。
それから私はシビアの指示にしたがい、残りの洗濯物をして使用人用の食堂で昼食を食べたあとに食器洗い手伝った。
「しかし……あんたよく働くね。」
「ありがとうございます。でも実家でもよくやってたことですから。」
私の両親は夜遅くまで仕事をして帰ると疲れたように眠ってしまうので弟面倒や家事は私がしていた。
「それにしても………人手がほしいものだ。」と一緒に皿を洗っていた使用人の一人がため息をついた。
「それを言ったってしょうがないでしょ?」
「ああ、まあ………。」
「そんなに忙しいんですか?」
「ああ、今日はあんた……」
「プールスです。」
「ああ、プールスが来てくれたから助かったが、いまの時期はみんな休みをとっちまうから……。」
「そうなんですか……。」
(城での仕事って大変なのかも。)
「………でも………ここの領主様はな、民のために頑張っているから俺たちも頑張れる。」
「そうなんですか?」
「ああ、使用人達が寝静まったあとも夜遅くまで部屋の明かりをつけて仕事をされているんだ。………婿養子だったから………最初は色々と噂されたものさ。」
「そうだったんですか。」
「おい、しゃべりすぎだぞ。」
「おっと……………すまねぇ。最後のは忘れてくれ。」
「わかりました。」
そんなことを話しているとノックの音がしてシビアさんが厨房に入って来た。
「ああ、プールスここにいたのね……探しましたよ。」
「シビアさん……何かご用でしょうか?」
「イレーヌ様がお呼びです。すぐにお部屋までいきなさい。」
「はぇ、イレーヌ様が?」(リディー………。)
「ええ。」
私はシビアさんから教えてもらい、イレーヌの部屋へと向かった。私は複雑な気持ちで扉の前にたった。
(どうやって……話を………。)
それでも私は使用人だから、いつまでも廊下で立っているわけにはいかない。ふぅと大きな息をはきながら、部屋のドアをノックし声をかけた。
「プールスです……入ってもよろしいですか?」
「ええ、構いません。」とイレーヌ様は部屋を自ら開けて私を招き入れた。
(なんてしゃべれば………。)
「……。」
「…………プールス……先ほどはすみません。」
「いえ………私こそ失礼なことを………。」と私は頭を下げた。
「あなたが気にやむことはありません。それに………。」とイレーヌは一瞬下をみた。そして、パンと手を叩きながら「そ、そういえば………。先ほどアルセーラにお菓子とお茶を用意してもらったの……一緒にどうですか?」とお菓子とお茶が用意された丸いテーブルと2脚の椅子を指さした。
領主一族と使用人は身分が違いすぎる。
「えっ……私のようなものが座るなんて………そんなことできません。身分も違いますし………それに朝のことだって……。」
「………でも……あなたは私の友だちでしょ?友だちに身分など関係ありません。」
「そういうわけにはまいりません……私は使用人です。」
「では……この時間だけ私の話し相手になってくださらない?」とリディーはじっとわたしの目を見ていった。
「……わかりました。」
私はリディーが指を指した椅子に腰をかけた。
数分間の沈黙のあとにイレーヌはゆっくりと口を開いた。
「私も………私も友だちがほしかったのです。同い年くらいの人が城にはいないから。御披露目までは他の貴族の子供とも会えないでしょ?」
(そうか…お貴族様はずっと城の中……。)
「だからあなたが友だちになりたいといってくれた時は嬉しかったのです。」とイレーヌは静かにほほえんだ。
しかし、なぜかその表情が少しだけ悲しそうに見えた。
「…………私も嬉しく思いました。知らない土地で不安がいっぱいでしたし…………見ず知らずの私に優しくしてくれて………同じ境遇だと…………。」
お嬢様の表情をみたくなくて、私は静かに目線を下げた。
「………だから……改めて友だちに。」
「……………すみません………それはできません。」
「なぜ?お父様達がいない時ぐらい。」
(それは出来ない………私達の前には身分差という大きな壁が呪いのように立ちふさがっているから……………。)
「それは………………………私が使用人だからです。」といいながら顔をあげると、イレーヌは悲しそうに目を伏せた。
私が暮らしていた農村は身分の差が一目瞭然だった。身分によって住む区画がわけられ、村長一家は威張りちらしていたからである。どんなに頑張って働いても税として厳しく取り立てられ、生活をするのが精一杯だった。
たがらこそ、使用人と領主一族は身分という大きな壁があると思ったのだ。
(………あの顔は…………。)
私はランドリールームでも同じような顔をみた。すごく悲しげなその顔は糸で縛られたかのように私の心を締め付けた。私はイレーヌの顔を見ないようにもう一度視線を下に下げた。
「………友だちはできません。」
「…………でも…………話を聞くだけなら私にもできます。」
(これぐらいしか………今の私には………言えない………。)ぐっと目をつぶり、両方の手を強く握りしめた。
私のあたまの中を、様々な思いが頭の中を駆け巡る。
(…………?)
その時、私の拳にそっと何かが触れたのだ。暖かい何かが。恐る恐る目を開けるとイレーヌが微笑みながら私の手を握っていたのだ、目のはしに涙をたながら。そして、震える声で「ありがとう…………それだけで充分…です
……。」といった。
(…………いつか身分をこえてこの人と友となれる日がきたらその時私は……………。)
今日でプールス視点のお話は終わります。(次回から本編が再開します。)イレーヌとプールスの関係に書いてる私も少しぐっと来てしまいした。(作者の癖に………なんかすんません。)前世の家族や友人と離れて一人見知らぬ世界で生きるイレーヌと不安のなか新たな環境で働くプールス二人の環境が少し似ていると思ってしまいました。いつか友達になれる日が来るといいですね。
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