荷車と暴れ馬
「助けてくれ。」
「ロジエールなんとかできる?」
「わからないが……できるかもしれない。」
「お願い、できるだけ負傷者を出したくないの。」
「わかった。」そういったかと思うとロジエールはキャラバンがそばに止めていた馬に乗り荷馬車に向かって走りだした。馬はどんどんと速度を速めながら荷馬車に向かって進んでいく。そして、あっという間に荷馬車に追い付き並走したかと思ったら、剣をとりだし荷車と馬を固定していた紐を切り離した。
(すごい……早業。)
「さぁはやくこっちへ……手を伸ばして……俺の手をつかむんだ。」
ロジエールは必死に手をつかもうとするが、なかなかうまくいかない。
「手が滑って……。」
(……お願い……うまく行って。)
みんなが固唾を飲んで見守っている。
「あと少し…よしつかんだ。」
そして、ロジエールは荷馬車の主人を自分の方に引き寄せ馬にのせると速度をあげるために手綱を動かした。
(お母様が中央の騎士団にいたって言ってだけど…ロジエールってすごいひとかも……。)
「リディこちらに…はやく逃げてください。」
「ちょっ…タルカ……腕を引っ張らないで。」
「だって荷車が……。」
紐が切られた荷車は速度を緩めながらこちらへ突進してきていた。
(危ない……考え事してるとすぐに周りが見えなくなるのは悪い癖ね。)
私はタルカの誘導に従い脇道へとそれた。そして、ロジエールの方に目をやると、暴れている馬の手綱を必死につかもうとしていた。
(もう少し…あっ、おしい…そこだ…やった!)
「落ち着け……大丈夫だ……落ち着け。」
強く手綱を引かれた馬は、大きな嘶きとともに足を止めた。(すごい…本当に解決しちゃったよ。)
ロジエールはぐったりしている馬の主人を通りのすみに寝かせ、馬を元の場所に戻し私たちのところにやって来た。
「ロジエール…大丈夫だった?」
「なんとか…なりましたね。…被害もあまりなかったみたいだし。」
「良かった。」(周りにも大きな怪我をした人はいなさそう。)
ホッと安堵したのもつかの間後方から「ワシの店が………。」と泣きそうな声が聞こえた。
声がした方向を見るとひとはりのテントがぐちゃぐちゃになっていた、どうやら荷車がぶつかったらしい。
「タルカ…お願いが……。」
「まさか、あれを?」
「ロジエールもお願い。あの店を元通りにするようお手伝いをしたいの。」
「ハァー、わかりましたよ。」
「姫のご命令とあらばなんなりと。」
「二人ともありがとう。」