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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

王太子アルフォンスが雑な扱いを受ける短編とか中編

超絶お顔がよろしい王太子殿下は、一つだけチョコを貰いたい──大陸一の美形王太子にチョコを渡す権利を賭けた、貴族学院総出のバトル・ロワイアルの勝者は誰だ!?

作者: 琥珀

 毎度おなじみ、貴族学院。

 全寮制の王立学院で、16歳から18歳までの王族・貴族+富裕な平民が通う例のアレである。


「そろそろ『告白の日』か……」


 その重厚な生徒会室で、王太子アルフォンスはぐったりしていた。

 生徒会長を務めるアルフォンスは2年生。

 父である国王はぶっちゃけモブ顔なのだが、隣国から輿入れしてきた母は大陸随一の美姫と今も言われるほどの大美人。

 その王妃にそっくりで、高身長金髪碧眼なアルフォンスは「美形貴公子の極み」とまで言われ、アルフォンスの肖像を入れた王室グッズは爆売れ。

 もちろん学院でも、女子生徒達の人気を独り占め状態なのだが──


「あー……去年は酷かったですね……」


 紅茶を雑に淹れながら、宰相の次男・ノアルスイユは微妙な顔をした。

 銀縁眼鏡をかけたノアルスイユは、アルフォンスの「御学友」として幼少の頃から王宮に上がり、成績優秀なこともあって将来の侍従候補と見られている。


「今年はどうするんですか?

 去年みたいなのは、ほんと勘弁してほしいと護衛は皆言ってましたが」


 騎士団長の三男サン・フォンが、ソファでどら焼きをぱくつきながら訊ねる。

 赤毛の大男であるサン・フォンもアルフォンスの「御学友」で、いわゆる脳筋枠だ。

 将来は近衛師団に入る予定だ。


 去年、アルフォンスが学院で初めて迎えた「告白の日」。

 女性から男性にチョコレートを贈り、愛を告白しても良いとされる日である。

 特に宗教的な意味合いがあるわけではなく、王都の菓子工房がプロモーションとして言い出したアレなのだが、まぁまぁ例年盛り上がるイベントだ。


 去年、アルフォンスは、「告白の日」の数日前、誰のものでもチョコを受け取るとうっかり明言してしまった。

 隙あらばアルフォンスにくっついてくるフォルトレス男爵令嬢ジュリエットが「アル様にあげるチョコ、頑張って作るから、楽しみにしてくださいね!」とアピールをかまし、自分が王太子妃になるものと決め込んでいるサン・ラザール公爵令嬢カタリナが「男爵令嬢ごときが気味の悪い手作りチョコを殿下に差し上げるとか、許せませんわ!」とブチギレ、あわや取っ組み合いになりかけたので、生徒同士の平等を謳う学院の理念を鑑みて、くれる者がいるのならばすべて受け取ると言ってしまったのだ。


 で、当日。

 アルフォンスにいち早くチョコを渡そうと、多くの女子生徒+若干の男子生徒が授業前に押し寄せ、あやうく雑踏事故が起きるところだった。

 幸い、大怪我をした者はいなかったが、生徒達が折り重なった山の一番下からアルフォンスを引っ張り出した護衛達は、さぞや肝が冷えただろう。

 二百個を超えるチョコレートは、学院に没収され、念の為、魔法で妙な物が入っていないかチェックした上で、すべて孤児院に寄付された。


「チョコレートなんて、たった一つ貰えればいいのに」


 ぽつりとアルフォンスが呟く。


 ノアルスイユとサン・フォンは、視線を交わした。


 アルフォンスは、幼い頃からの想い人、シャラントン公爵令嬢ジュスティーヌからのチョコレートが欲しいのだろう。

 しかし、アルフォンスは顔の良さに比例したかのように超奥手。

 銀髪紫眼、玲瓏たる美少女であるジュスティーヌも輪をかけた奥手で、傍目には相思相愛としか思えないのだが、幼馴染の二人の恋は遅々として進んでいない。

 せっかく同じ学院で過ごしているのに、カタリナやジュリエットに邪魔されて、二人で話すこともままならないのだ。


 なにか、ノアルスイユがフォローしようとしたところ──


 いきなり、バーンと扉が開かれた。


「話は聞きましたわ!

 今年のチョコは一名限定ですのね!

 わたくし、正々堂々と戦い、殿下にチョコを差し上げる権利を勝ち取りますわ!」


 豊かな金髪をやたらめったら巻いた縦ロールを揺らして仁王立ちで叫ぶのは、ありとあらゆる手を使って副会長の座をゲットしたカタリナだ。


「アル様! 私、頑張りますッ!

 悪役令嬢になんか敗けませんからッ!」


 その後ろからピンク髪ツインテの、役員ではないのに「私、光属性持ちなので!」と理由にならないことを言いながら、しょっちゅう生徒会室に紛れ込んでくるジュリエットが叫ぶ。


「悪役令嬢ってなんの話ですの??

 とにかく、どうやって一人を選び出すかさっさと決めなければ!」


 カタリナは首を傾げつつも、ダッシュでどこかに行ってしまった。

 負けじとジュリエットも後を追う。


「「「え?? 今のなに??」」」


 男子三人が事態を把握した時には、色々遅かった。





 その後、アルフォンスにチョコレートを渡したい生徒は中庭に集合し、喧々諤々の議論となった、そうだ。

 乗馬が得意で、学院にも愛馬「黒王号」を持ち込んでいるジュリエットは、競馬での決着を提案。

 カタリナは「異界渡りの化け物馬でズルをしようったって、そうはいきませんわ!」と秒で却下。

 他の生徒も刺繍やら競技ダンスやらピアノ演奏やら歌唱やらそろばんやら、得意分野で競おうと主張し、収拾がつかなくなる。

 結局、ジュスティーヌが進み出て「魔法戦での決着」を提案した。

 学院のカリキュラムも、魔法の修練を重要視しているのだし、それが妥当ではないかということになり──


 そして、「告白の日」の放課後。


 魔法闘技場のスタンドで、アルフォンスはノアルスイユと並んで、女子生徒(+若干の男子生徒)達の大乱戦バトル・ロワイアルを観戦する破目になった。

 アルフォンスにチョコレートを渡すつもりのない生徒や教職員達も詰めかけている。


蒼蓮そうれんの舞!!」


 試合開始の笛と共に、今日も元気に縦ロールのカタリナが、バカでかい火・水・風三色の魔法陣をダダダンと出し、青白い炎の環がジュスティーヌに向けて放たれた。


「「「みぎゃーーー!!」」」


 巻き込まれて模擬戦用のシールドを吹き飛ばされたモブ生徒達が即失格となり、係員に回収される。


斉射フューサレイド!!」


 華麗にトンボを切って、カタリナ渾身の「蒼蓮の舞」を回避したジュスティーヌは、同時に8つ、ファイアーボールを放ち、自在にコントロールしながらカタリナを追い回す。

 2人とも、公爵家の生まれにふさわしい実力者。

 ジュスティーヌvs.カタリナの戦いは、すぐに総力戦となった。

 凄まじい攻撃の煽りをくらったモブ生徒達がどんどん脱落する。


「みんな、ごめんね!!」


 ジュリエットは、口先で謝りながら、光の弓を詠唱もなしに生成するとまばゆく輝く矢をつがえ、中空に放った。

 放ったのは一本だけだったのに、無数の光の矢が降り注いで、生き残っていたモブ生徒達がごっそり退場する。

 その範囲攻撃はいくらなんでもチートだろうと、モブ生徒達は抗議するが、「私、光属性なので!」でジュリエットは一蹴した。

 光属性と書いて鬼畜と読むべきなのだろうか。


 あっという間に、試合はジュスティーヌvs.カタリナvs.ジュリエットとなった。

 正ヒロイン感漂う銀髪公爵令嬢・金髪悪役令嬢・野生のピンク髪男爵令嬢、三者互角の戦いが、いつ果てるともなく繰り広げられる。

 熱い戦いに興奮した学院長が、拡声魔法を使って実況解説をし始めた。


「……三人とも、生き生きと戦っているのは、まことに喜ばしく、頼もしいことだが。

 ノアルスイユ、『告白の日』とは、こういうものなのか?

 私はてっきり、夕日に照らされた、誰もいない教室とかなんとかそういうところで、ひっそりと、かつドキドキと渡してもらうものだと思っていたのだが。

 でなければ……そちらのような感じか」


 いつの間にか無の表情になっていたアルフォンスは、斜め下の席で、婚約者のレティシアにお手製のチョコを「あーん」してもらってご満悦のサン・フォンに視線をやった。

 他にも観戦しているフリをしながら、いちゃいちゃしているカップルがちらほらいる。


「ま、おっしゃりたいことはわかります……

 殿下、たまには駄菓子でも召し上がりますか?」


 ノアルスイユは、黒い包装紙に「おいしさイナズマ級!」と大書された菓子をアルフォンスに差し出した。

 昼にノートを買いに購買に行ったら、おばちゃんが「はいはい義理チョコねー」とおまけで配っていたのだ。

 かくり、とアルフォンスは頷くものの、受け取る気力もない様子。

 気の毒に思ったノアルスイユは、つい包装を剥いてその口に放り込んでやった。


「うむ……んまい……」


 涙目のアルフォンスはもっしゃもっしゃと食べた。

 なぜだろう、せつない。


 不意に、ジュスティーヌ&カタリナ&ジュリエットの動きが止まった。


「あ、ら……?」


「あららら、ら……?」


「い、今、ノア君が、アル様にチョコをあーん!?!?」


 え、とアルフォンスとノアルスイユはのけぞった。


「「い、いや、これはチョコレートじゃない、チョコクッキーだろう!?」」


 アルフォンスとノアルスイユは、真っ赤になりながら慌てて抗弁する。


「言い訳までシンクロしている!?」


「夫婦なのかしら、もうとっくに夫婦だったのかしら」


「アリですわ、ほんわか殿下とオカン属性眼鏡、アリですわ!」


「掛け算的にはどちらが左ですの!?」


「ノアルスイユ様が左と見せかけて、殿下がひっくり返し、でもでもノアルスイユ様がもう一度返して殿下がリベンジするのではないかしら!?」


 あっという間に、女子生徒を中心に蜂の巣をつついたような騒ぎが広がってゆく。


 ジュスティーヌ、カタリナ、ジュリエットはなにやらひそひそと話し合い、決意を固めた顔でアルフォンスを見上げた。

 代表ということなのか、ジュスティーヌが一歩前に出る。


「わたくし達、心から殿下をお慕いしておりました。

 でも、殿下の『真実の愛』のためならば、喜んで身を引きますわ」


 三人は揃って、この上なく美しいカーテシーをした。


「どうしてこうなるかな!?」


 アルフォンスは天を仰いだ。


アホな話をごらんいただき、誠にありがとうございました!

★やいいねや感想などなど頂戴すると、調子こいた作者が、またアホな話を書いてしまったりいたします…\(^o^)/


この作品は、「(「顔は良い」と言われがちな)王太子アルフォンスが雑な扱いを受ける短編とか中編」シリーズ第17作目。

不憫なアルフォンスが婚約破棄されたり、婚約者に逃げられたり、結婚しろと迫られたり、島流しをくらったり、殺人事件に巻き込まれたりと色んな目に遭っております。

下のリンクから飛んでいただけますので、お気が向かれましたらぜひ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 明るくって楽しく読ませていただきました! アルフォンスさんが雑な扱い受けるシリーズ好き! ジュスティーヌさんのファイアーボールも大活躍ですね。 にしても今度はBLでしたか、アルフォンスさん…
[良い点] バレンタインチョコのプレゼント権を巡った生徒達の私闘が、何ともダイナミックで刺激的ですね。 特にジュリエット嬢の「私、光属性なので!」の一言で捻じ伏せる鬼畜具合は、有無を言わせぬ感に満ちて…
[良い点] 光属性と書いて鬼畜と読むべきなのだろうか。 この一文が好きすぎる。 [一言] おおやばい。好きすぎる。 ラブなコメが始まるかと思ったら、かっこいい魔法戦争が始まってわっしょいしてたら、トン…
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