表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/153

92.見えない打撃

 王宮の広場にて、再び王国の運命を決める戦いが始まろうとしていた。

 王国最強の騎士――クロードを打ち破ったシュリネと、もはや人の領域を超えた強さを持つディグロスの一騎打ち。

 すでに王国側でまともに戦える戦力はおらず、一方でディグロスの側も襲撃を行った刺客はほとんどが制圧され残る戦力は事実上、彼一人だ。

 シュリネが手に持ったのは、『普通の刀』――もう一つの刀は魔力を吸い続けるがために、普段の戦いでは使用しない。

 だが、ディグロスの魔力量は桁違いだ。

 クロードのように常に膨大な魔力を放っているわけではないが、まともにやり合えば必然、シュリネの刃は折られるだろう。

 今は魔力を温存しておく必要がある――シュリネの唯一の勝ち筋のために。


「さて、お前の売りは速さにあるようだな」


 ディグロスはゆっくりと拳を振り上げると、そのまま動きを止める。

 近づいてくる気配はない――シュリネを待ち構えるつもりのようだ。


「そっちは異常な耐久力と攻撃力……ってところかな。当たれば死ぬ――そんな戦いばっかりだ」

「死にたくなければ、その場から動かないことだ。もっとも、お前は動くだろうがな」

「そりゃあね。こっちは守るために戦うんだからさ!」


 シュリネは低い姿勢で駆け出した――刃は地面を擦るギリギリのところで、ディグロスの懐へと踏み込む。

 ディグロスの脇腹を斬るように一撃。刃を振り切ったところで、カウンター気味に拳がシュリネへと振り下ろされる。

 迫りくる拳は魔力を纏っている――一度、シュリネはディグロスの攻撃を受けた。

 ギリギリで避けるのでは間に合わない。

 シュリネはそのまま刃を振り切って地面を蹴る。

 先ほどまでいた場所に拳が放たれ、大地がまるでクッキーのように簡単に割れた。

 一撃しか放っていないはずなのに、まるで何発も拳を当てたかのように。


(やっぱり、『見えない打撃』か)


 シュリネはディグロスの技のカラクリをすでに見抜いていた。

 もはや完治不能にまで破壊されたシュリネの左腕は、まるで何度も力強く殴られたかのような怪我であった。

 ディグロスの拳が纏っている魔力は彼の打撃の再現――直撃せずとも、掠るだけで致命傷となるほどの威力だ。


「どうやら、俺の技の本質を見抜いたようだな。随分と速く逃げるじゃないか」

「逃げてるっていうのはあんまり好きな言い方じゃないね」

「――!」


 ディグロスが振り返るとすでに、シュリネは距離を詰めていた。

 やはり体勢は低く、なるべくシュリネの姿が捉えられないようにしている。

 再び、脇腹と合わせて足元付近を斬り刻む――だが、ディグロスは全く動じる様子もない。

 先ほどシュリネが与えた一撃も、すでに治っているようだ。

 振り向きざまにディグロスが拳で薙ぎ払う。

 すでにシュリネは距離を取って、今度は周囲を走り回ってディグロスを翻弄する。


「いくら速くとも、俺に致命傷を与えることができないのでは意味がないな。無駄に走り回っては、いずれ体力も尽きるはずだが」


 ディグロスはもはや、シュリネを視線で追おうともしない――痛みに対する耐性もあるのか、今の戦い方では最初と同じだ。

 今はフレアを狙うようなことはしていないが、シュリネを無視して動くことだってあり得る。

 だが、シュリネも意味なく走り回っているわけではない――低い姿勢のままに、背後から距離を詰める。

 今度はディグロスが反応した。

 シュリネ目掛けて振り返ると共に勢いのまま拳を振り下ろす。

 そこにシュリネの姿はない――跳躍して、狙ったのは首元だ。

 ディグロスは回避しようとするが、間に合わない。

 魔力を纏った一撃が頭部を捉え、切断する――着地と同時に、シュリネはすぐに距離を取った。


(……ちっ、浅いか。でも、やっぱり避けた)


 ディグロスも頭部への攻撃を嫌がっている――やはり、その不死性には弱点がある。

 レイエルもそうだったように、切断された場合に時間がかかると治せないか、そもそも再生に制限があるか。

 どうあれ、斬れるのであればシュリネにも勝ち目はある。


「割れたか」


 真っすぐ切れ目が入ると、音を立ててディグロスの顔を隠していたマスクが崩れた。


「!」


 シュリネはその顔を見て、目を見開く。

 そこにあったのは人の顔ではなく、例えるのなら獅子のようであった。

 牙は鋭く、その眼光は真っすぐシュリネを見下ろしている。


「――いや、今更驚くことでもないね」


 つい先日、ディグロス以上に魔物のような存在と戦っている。

 果たして同じ存在であるかは別として、ディグロスは自らの顔に手を触れて、口を開く。


「お前が言っているのはオルキスのことか? アレと俺では根本が異なる――まあ、説明することでもないが」

「別に興味もないよ。あ、でも一つだけ気になることはあったかな」

「なんだ」

「あなた、わたしのこと知ってる風だったよね?」

「そのことか。確かに、俺はお前のことを知っている。気になるなら教えてやってもいい――俺に勝てたのならな」


 ディグロスの構えが変わる――両手を地面につけると、シュリネへと真っすぐ駆け出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ