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87.私の演技は

「ハイン……」

「お話は後で。いかなる罰も受ける覚悟はございます。ですが、今はフレア様のお傍に。私は敵を始末します」


 今すぐに話したいことはあるだろう――だが、状況はそれを許してはいない。

 ルーテシアも理解していて、ハインの言葉に黙って頷くと、フレアの下へと向かう。

 次いで、システィと戦っていたエリスもフレアの傍につく。

 システィが止めなかった理由は単純――明確な殺意をハインに向けているからだ。


「敵、と言いましたね。ハイン……あなたは誰より優秀で、だからこそあの方にも認められていた。けれど、あなたはやはり欠陥品です。命令に従い、王女を殺していれば――あなたも、妹の安全も保障されていたというのに」

「常に脅されている状況など、安全というには程遠いですよ。それに、妄信的に仕えることが正しいというのであれば、私は欠陥品と言われようと構いません。システィ、私はもう――あなた達の仲間に戻ることは決してない」


 はっきりとした決別の宣言。

 システィは手で合図を出し、近くの騎士と戦っていた者達をハインへと向かわせる。

 ここを襲撃した者のほとんどは暗殺に特化しているが、決して戦闘力が低いわけではない。

 実際、ほとんどの刺客が騎士に倒されることなく健在だ。ただし、


「誰一人、ここから先には通さない」


 ハインの放った『鉱糸』が向かってきた刺客の全てを捉え、その動きを止めた。

 否、さらには斬り刻み、戦闘不能にまで追い込む。

 フレアを狙った刺客の中でもハインとシスティは別格だ――ハインがこの場において離反した以上、戦力の拮抗は崩れている。


「私は今、王宮にいる全ての戦力を把握しています。降伏するつもりはありますか?」

「降伏? するわけがないでしょう。有象無象と私を一緒にしてもらっては困ります。私一人でも、あなたを殺して王女を始末してみせましょう!」


 システィが動く。

 彼女の得物は短刀で、速さだけで言えばハインを上回っている可能性もある。

 単純な白兵能力においても、ハインとシスティは過去に戦闘訓練を行ったことはあるが、勝率で言えばシスティの方が高い。

 ハインは近づいてくるシスティにナイフを投擲するが、まるで何もなかったかのようにすり抜けていく。

 『影縫』――瞬間的に発動した幻覚魔法と特殊な歩法と組み合わせることで、あたかも物体がすり抜けているかのように見せる技。

 システィが得意としており、戦闘訓練でもよく使っていた。故に、


「避けた瞬間を狙えば、捉えるのは容易い」

「……っ!」


 システィが驚きに目を見開いた。

 彼女の短刀を握った右手はすでにハインの放った『鉱糸』に絡めとられている。

 咄嗟に右手から短刀を左手へと持ち替え、『鉱糸』を切断しようとするが、短刀一本でも簡単に切断できる代物ではない。

 システィの両手足に『鉱糸』が絡みつき、さらには身体中を締め付けるような形となる。

 無理に動こうとすれば身体が引き裂かれる――分かっているからこそ、システィはその場で動きを止めた。


「何故、という顔ですね。何度も見せられれば、動きくらい把握できますよ」

「それは、私も同じこと……! あなたの扱う『鉱糸』は広い範囲に視認も難しい……だからこそ、扱うのは容易なことではなく、速い相手を捉えることはできない! 私は、何度もあなたの『鉱糸』による攻撃を避けて、見極めたはず――」


 そこまで言い終えたところで、システィは何かに気付いたようにハッとした表情を浮かべた。


「どうです? 私の演技は」

「私の前では、本気じゃなかった――」


 言い終える前に、ハインが『鉱糸』でシスティを斬り刻む。

 ――彼女は捕らえたとして、間違いなく情報を吐かない。

 むしろ、諦めが悪い故に、ここで生かしておくことは、この後の状況を悪くする可能性すらあった。

 システィを始末することに、ハインは一切の迷いを見せない。

 あらゆる『呪縛』から解き放たれた彼女は、ようやく真の実力を発揮することができるのだ。

 そして、その相手がここにやってくることもまた、ハインは理解している。

 ドンッ、と大きな音と共に、一人の男が吹き飛ばされてきた。

 呼吸は荒く全身傷だらけで、それでもすぐに起き上がると、男――ウロフィンは向かってくる少女へと剣先を向けた。


「不覚……こんなところまで追いつめられるとは……!」

「それはこっちの台詞よ。あなた、思っていたよりやる――あら?」


 少女――レイエルは、その場の状況をすぐに理解したらしい。

 フレアを襲った刺客は全てハインが始末した。

 すでに、レイエル以外には仲間はいない状況だ。

 その上で、彼女は楽しそうに笑みを浮かべる。


「飼い犬に手を噛まれた……というところかしらね。ふふっ、キリクも躾がなっていないのね? 手の込んだことをしたつもりで、全部台無しにされちゃって」


 ウロフィンがレイエルへと向かって行くが、勢いに任せた彼女の蹴りを受け――体格差などものともせず、ウロフィンの身体が後方まで飛ばされていく。


「まあ、こういう事態にも備えてこのレイエル様が協力しているわけだけれど。さて、裏切り者と王女――全員、殺してしまえばいいのね? 随分と楽なお仕事だわ」

「……」


 静かに、ハインはナイフを構えて対峙した。

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