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84.守れる者など

「――王女の演説が止まっていない?」


 王宮の襲撃に合わせて、すでに内部に潜入していたシスティがその連絡に眉を顰めた。

 王宮内ではすでに刺客が騎士と戦闘を始めている――全てがブラフだ。

 狙いは王女のみ。ハインとシスティが王女の近くで息を潜め、混乱に乗じて彼女を始末するだけ。

 演説の最中の悲劇――それが、この国の王女の劇的な最期を演出するものだ。

 だが、王宮の広場でフレアはもう演説をしていない。


「……あらかじめ記録していたものを流している、というわけですか。随分と用意周到ですね」

「私達はすでに宣戦布告をしているんです。相手がこれくらいの準備をしていても、何もおかしいことはないでしょう」


 システィの言葉に、ハインは冷静な様子で答える。

 特に慌てる必要などない、計画はこのまま進める――そういう態度だった。

 システィは鋭い視線をハインへと向ける。


「王宮の警備が厳重であることには特に違和感を覚えませんよ。私がおかしいと思っているのは、どうして今日の襲撃にここまで対応できているのか、という点です」

「こちらの動きが気取られたからといって、気にする必要はありません。今の襲撃は全てが陽動――本命である私達は、すでに王女を狙える位置にいるんですから」

「なるほど、ではハイン……すぐに王女の暗殺に向かいなさい」

「!」


 ハインは少し驚いた様子でシスティを見た。

 システィは明らかに敵意のある表情で、続ける。


「まさか、私が本当に気付かないと思っているのですか? あなたはシュリネ・ハザクラをわざと逃がしましたね。妹であるクーリ・クレルダを救うために」

「何の話を――」

「惚けたところで無駄ですよ。これで二回目ですか……全く、あなたの忠誠心の低さには呆れさせられますね。キリク様はあなたを気に入っているようですが、到底見逃せるものではありませんよ。だから、これが最後のチャンスです。あなたの手で、王女を殺しなさい」

「……!」


 冷静だったハインの表情に、わずかに焦りの色が見える。

 やはり、システィはハインの言うことなど信じてはいなかった。

 彼女を騙しきれるとも思っていなかったが、状況は思わしくない。

 ハインはギリギリまで、待機して時間を稼ぐつもりであった。

 シュリネなら――彼女ならきっと、妹であるクーリを救い出してくれる、と。

 だが、現状はまだクーリの安全を確認できていない。

 可能な限り王宮側へ攻め入る人数を集めたことで、病院側は間違いなく手薄になっている――が、結果的にハインの裏切りは露見してしまった。


「どうしました? それとも、ここで本当に……我々を裏切りますか? それもいいかもしれませんね。あなたの妹が、果たして無事でいられるかどうか分かりませんが」


 脅しだ――分かっている。

 分かっていても、ハインはそれに従わざるを得ない。

 彼らの手口が分かっているからこそ、ハインは逆らうことができないのだ。

 もしも、すでにクーリが捕らわれていたら?

 シュリネはそもそも、クーリを救い出せずに敗北していたら?

 普段は冷静なハインでも、大事な妹を引き合いに出されては、合理的な判断を下すことは難しい。


「……私が、フレア・リンヴルムを始末します。元よりそのつもりでしたから」


 言葉を受けて、システィは嬉しそうな笑みを浮かべる。


「賢い選択ですよ、ハイン。我々と共にいれば、あなたと妹の安全は常に保証されるのです。選ぶ必要すらないことですね」


 システィは嘘を言っていない。

 ハインは指示に従っていればいいのだ。

 王女を、フレアを殺しさえすれば――きっと、裏切ろうとしていた事実すらも許される。

 ハインは胸元に手を置いて、拳を強く握りしめた。

 覚悟を決めて――ハインは暗殺者の顔になった。


「行きましょう、ここで王女を仕留めます」


 ハインの言葉と共に行動に出る。

 システィが数名の部下を連れて一斉に広場にいた騎士へと仕掛けた。

 あれほどの厳戒態勢であっても、潜んでいたハイン達に気付けなかった騎士達に動揺が走る。

 一番早くに反応したのはエリスで、真っすぐ王女の元へと駆けるハインを止めようとするが、


「あなたの相手は私ですよ」

「……ちっ!」


 システィがエリスの前に立ち塞がった。

 今、ハインを前にしてフレアを守れる者など一人としていない。

 それは、彼女とて同じはずなのだ。なのに、


「……お嬢様」

「やっぱり来たのね、ハイン」


 フレアを守るように立ったのは、剣を構えたルーテシアだ。

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