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7.いくらでも

 先頭車両の付近までシュリネは止まることなく、進み続けた。送られてくる刺客の全てを斬り殺し、ついに刺客の頭目と思しき男と対峙する。


「……おい、おいおいおい! 小娘二人に何を手間取ってるのかと思えば、三人目がいたのか! こりゃあ傑作だ。オレの部下が、小娘三人にほとんどやられちまったのか?」

「やっぱり、あなたがリーダーなんだ。他の人達とは違って多少は戦えそうだね」

「なんだ、お前は。ターゲットでも、お付きのメイドでもねえだろ」

「わたし? わたしはさっき護衛を頼まれたから、送られてきた刺客は全員始末したよ」

「お前が? 一人で、か?」

「護衛だから、そうでしょ」

「は――はははははははははっ!」


 シュリネの言葉に、男は大声で笑い出す。

 車両の天井にまで届きそうなほどの体格に、声だけでまるで車両全体が震えるようだ。


「はははははは……はぁ、久しくこんな笑ったことはねえ。お前がオレの部下を全員やったって? なら――証明して見せろッ」


 男が拳を振り上げ、シュリネに向かって殴りかかる。

 咄嗟に、後方へと下がった車両の床に拳が衝突すると同時にメキリッと鈍い音を立てて、全体を大きく揺らす。


「――っと、馬鹿力だね」

「オレはこの拳で何百人を殺してきた猟兵だ」

「? 猟兵なのに、拳で殺してるんだ? 武器を使うのが普通だと思うけど」

「武器も使えるさ。だが、こういう場所じゃあ、拳でやるのが一番楽だろ?」

「それは否定しないけど――」

「ちょっと! あなたが私の命を狙っている奴らのリーダーなんでしょ! 一体、どういうつもりなの!」


 シュリネの言葉を遮るようにして声を上げたのは、ルーテシアだ。車両の後方に控えていたが、やはり命を狙われる理由は知っておきたいのだろう。


「オレは依頼を受けただけだ。お前を殺す依頼をな。理由なんてどうだっていい」

「な……っ」

「うん、わたしもそれは同意見だよ」


 言葉を失うルーテシアに対して、シュリネは男に同意する。


「わたしは彼女を護衛するだけ。だから、敵であるあなたは――斬る」

「はははははっ! 二度も笑わせてくれるじゃねえか。お前、名前は何て言う?」

「ん、シュリネ・ハザクラだけど」

「シュリネか。オレはヴェルト・アーヴァイス――今からお前を殺す男の名をよく胸に刻んで……逝けッ」


 男――ヴェルトが駆け出す。狭い車両の中、周囲を破壊する勢いで向かって来る。

 おそらく、シュリネごとルーテシアを殺すつもりなのだろう。

 確かに、拳の威力は一撃でも受ければ、シュリネの身体は簡単に潰されてしまう。

 掠るだけでも致命傷に繋がる――細い刀では、受けることは難しいだろう。

 故に、シュリネはヴェルトへと向かっていった。

 狙いがルーテシアなら、護衛という役目を果たすのならば距離を詰めるのが正しい。

 当たり前だが、ヴェルトは乗客など気にせずに攻撃を仕掛けてくる。

 シュリネもまた同じ――護衛の任務に必要なのは、対象を守ることだけだ。ただし、


「あなた程度なら、乗客を守りながらでも戦えるかな」

「……な、がああああああああああッ!」


 ヴェルトの叫び声が響き渡る。

 拳が振り下ろされる瞬間――シュリネはさらに加速して、ヴェルトの懐に入った。

 そのまま、ヴェルトの腕を肘の辺りで切断する。

 太く硬い腕ではあったが、骨の隙間を狙えばシュリネの刀でも簡単に切断することができた。

 何より、刀にはさらに『切断特化』とするために微量の魔力を纏わせている。


「この、小娘がァ……! よくも――」

「悪いけど、話をする暇はないと思うよ」


 シュリネは跳躍し、ヴェルトの顔の前で刀を振るう。

 ギリギリのところでヴェルトは残った左腕の掌でそれを防ぐ――魔力を帯びているために、完全には斬り落とせなかった。

 シュリネはすぐに刀を手放して、距離を取る。


「……認めてやる」

「?」

「お前は強い。オレの片腕を奪い、もう片方の腕もこの様だ。あの状況で、前に向かってくるなんて狂ってるという他ない。だが……」


 ヴェルトはシュリネの刀を見せつけるように、手を前に出す。


「得物がなければ、ただの小娘だ」

「なにそれ。勝ったとでも言いたいの?」

「違う。お前、そいつからいくら金をもらう予定なんだ?」

「まだ決めてないけど」

「そうか――なら、金ならいくらでもやる。オレにつけ」

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