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56.私が勝ったら

「模擬試合、ですか」


 最初に反応したのはフレアだった。

 すぐに慌てた様子でエリスが口を開く。


「貴様、突然何を――」

「わたしが負けたら、あなたの言う通りに言葉遣いでも何でも直すからさ」


 シュリネはフレアやルーテシアに聞こえないように、小さな声で言った。

 交換条件――何度も顔を合わせるたびに注意されるのは面倒だと考え、いっそのこと試合で決着を付けよう、という魂胆だ。


「見くびるなよ。私は他人を従わせるために剣を振るうつもりなどない。たとえ試合であったとしても、だ」


 だが、エリスの反応はいまいちで、シュリネの言葉遣いを直させるためなら模擬試合くらい簡単に受けてくれるものだと思っていた。

 シュリネとしては、『強敵』と戦っていないので、肩慣らしにもちょうどいいと考えていたのだが、乗り気でないのであれば仕方ない。


「そうですね、お二人がよければ行ってもよいのではないでしょうか」

「! フレア様……!?」


 エリスが驚いた表情でフレアを見る。

 シュリネにとっても予想外であった――まさか、フレアがすんなり許してくれたのだから。


「エリスと……それにシュリネさんの力を示すちょうどいい機会です。エリスは特に、クロードに代わって王国を代表する騎士になってもらわなければなりませんから」


 クロード――シュリネがルーテシアを救うために斬った、かつて王国最強と呼ばれた騎士であった。

 実際、彼は間違いなくこの国では一番強かったようで、それを無名の少女が倒したのだから、少なからず影響はあった。

 ――果たして、この国は大丈夫なのだろうか、という国民の不安だ。

 アーヴァントという第一王子のしでかしたことや、そんな彼を支持していた者が多くいたこと。クロードが何よりも協力的であったという事実もまた、すでに広まっている。

 ルーテシアを救い、フレアが王になる――それは決して美談として語られることではなく、なおも王国は不安定なままの現実があるのだ。

 クロードは斬られて死んだ――他国にもすでに広まっているらしいが、王国には現状、彼に並ぶ実力者として知られている者はいない。

 それは、騎士団の内部でも同じことなのだ。


「シュリネさんがクロードを倒したことは、特に王宮内にいる者はよく知っています。ルーテシアの護衛である、という事実も。だからこそ、シュリネさんと試合という形式で剣を交えて、王国で一番強い騎士であることを証明してもらいたいのです」

「フレア様……しかし……」


 エリスはまだ迷っている様子であった。

 彼女には彼女なりに――剣を振るう理由、というのがあるのだろう。

 だからこそ、エリスは王国内でもまだ実力者としては知られていないのかもしれない。

 実際、シュリネだってエリスの剣術を見たわけではない――だが、彼女がクロードに近しい実力を持っていることを、シュリネはすでに理解していた。


「王女がこう言ってるんだからさ、やろうよ。ルーテシアもいいよね?」

「え、私? まあ、二人がいいのなら、私が反対することではないわね。シュリネの怪我も治っていることだし」


 ルーテシアは少し困惑しながらも、フレアと同じ考えのようだ。


「でも貴女、何か企んでない?」

「人聞きの悪いこと言わないでよ」


 ルーテシアの怪しむような視線を受けながら、シュリネは笑って誤魔化す。――元の話で言えば、シュリネの言葉遣いや態度を指摘してくるエリスに対して、言うことを聞かせたいなら試合で勝って見せろ、という理由を聞けば間違いなくルーテシアが怒る話だ。

「指摘されたのなら、試合でなくても直す努力くらいはしなさいよ」と、言ってくるルーテシアが目に浮かんでしまう。

 だが、エリスはシュリネの持ちかけた提案について話すこともなく、この場においては彼女を除いた三人が試合をすることに賛成している――ルーテシアに話を振ったのも、この状況を作り出すためだ。結果、


「……承知致しました。フレア様の御命令とあらば」

「命令というわけではないのだけれど……」


 フレアの言葉を聞いているのかいないのか、フレアの方を向いていたエリスはすぐにシュリネに向き直り、先ほどのシュリネと同じように小さな声で告げる。


「私が試合に勝ったら、二度とフレア様に不遜な態度を取るな。分かったな?」

「もちろん、あなたが勝ったらね」


 すぐにシュリネは答えた。

 こうして――フレアの騎士とルーテシアの護衛という立場にある二人の試合が決まったのであった。

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