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55.小言

 病院を後にして、ルーテシアがフレアのところに寄りたいというので、向かうことになった。

 今、フレアがいるのは離れた屋敷ではなく――王宮だ。

 かつてはアーヴァントの私兵など、敵勢力によって支配されていた場所だが、今ではほとんどがフレアの側となっている。

 もちろん、全員が全員、フレアの味方になったわけではない。

 一部の貴族においては、未だにフレアが王位を継承することに納得はしていないようで、フレア自身も「意見として残るは当然」というスタンスだ。

 フレアが優しすぎる、というのはやはりこういったところにあるのかもしれない。

 シュリネから言わせれば、むしろ「甘い」とすら感じられる。

 だが、王位といった政治的な問題に関しては、シュリネも詳しいわけではなく、意見をすることはない。

 ルーテシアがフレアを支持するのなら、その考えに反論するつもりなどないのだ。

 王城の門にいる衛兵はルーテシアの姿を見るとすぐに、通してくれた。

 すでに次代の王として知られるフレアの良き友人であり、理解者として認識されているのだろう。

 フレアがこのまま王となれば――ルーテシアもまた、王国内での地位は確立されることになる。

 途中で話を聞いた衛兵の話では、フレアはちょうど王宮内の中庭で休憩している、とのことであった。


「今もかなり忙しいみたいね。フレアを中心に執政しているようだけれど、五大貴族の支持だって、アーヴァントがいなくなったからこそ、フレアに集まっている現状……私も意見は言えるけれど」

「五大貴族が王を決める権利を持っているのなら、ルーテシアだってそれなりに権力はあるでしょ?」

「私が言ったことをそのままフレアが通せば、反対意見も出ると思うわ。それこそ、『私が正しい』ことをしているとは限らないわけで。間違ったことをしているつもりはなくても、結果的に間違った方向へ進むこともある――だから、国を担うというのは難しいのだと思うわ」

「ふぅん……大変そうだね」


 他人事のように言うシュリネ――というより、彼女からすれば間違いなく他人事ではあるのだ。ただ、


「ま、刺客とか送って邪魔してくるような奴がいたら、わたしが斬るから遠慮なく言ってよ」

「さすがに今の状況でそんなバカげたこと、してくる人はいないと思うけれど……。というか、なってほしくないのが本音ね」


 ルーテシアは苦笑いを浮かべながら言った。

 ほんの数か月前まで、命を狙われて死にかけていたのだから――もうあんな思いはしたくない、というのはその通りだろう。

 だが、ルーテシアを守ることこそがシュリネの役目であり、『暇』であっても彼女としては少し困るのだが、平和であるにこしたことはない――それは、シュリネも理解している。

 中庭の方へ向かうと、護衛の騎士であるエリスを連れたフレアの姿があった。


「! ルーテシア、来てくれたのですね」


 こちらに気付くや否や、フレアはすぐにこちらへと駆けてくる。


「病院に寄ったから、せっかくだし顔を出そうと思ったのよ」

「身体の方はもう平気なのですか?」

「ええ、この通り」


 ふわり、とその場で回転するようにして、軽快な動きを見せるルーテシア。それを見て、フレアは心底安堵した表情を見せる。

 その後、フレアはシュリネの方にも視線を送り、


「シュリネさんも、お身体の方は?」

「ん、わたしも見ての通り――」

「フレア様、ルーテシア様にあのお話をしておくべきでは?」

「あ、そうでした。ルーテシア、少しお時間をもらいたいのですけれど」

「ええ、いいわよ」


 二人が話を始めるが、シュリネの前にはエリスが立ち塞がるような動きを見せていた。

 別に、シュリネも二人の話に興味があるわけではないのだが、


「何か用?」


 彼女の態度を見れば分かる。

 敵視している――というほどではないが、どうあれシュリネのことをよく思っていないのは、明らかだった。


「……感謝はしている。お前のおかげで、あの二人がこうして王宮で話をすることができているのだから」

「言葉と態度が合ってないけど」

「私もお前の『態度』について話がある」


 エリスの視線が鋭くなり、シュリネは目を細めた。

 おそらくシュリネの口調や態度が悪い、ということを指摘してくるのだろう。


「ルーテシア様だけでなく、フレア様に対するその口調や態度――前にも指摘したはずだ」


 案の定であった。顔を合わせるたびに、何かとエリスはシュリネに対して小言のように言ってくることはあったが、今日はいよいよ、といった様子だ。

 シュリネの傍にフレアやルーテシアがいる時は、あまり大きく口を出してくることはなかったが、二人の離れた今がチャンスというところか。


「わたしさ、そういうの習ったことないから」

「だから、今から正せと言っている」

「そう言われてもさ、すぐに直るものでもないでしょ?」

「お前からは直す気、というものが感じられない」


 エリスの言うことは正しい。

 シュリネは直す気など全くなく、お堅い騎士がいつも何かと突っかかってくる、程度にしか思っていなかった。


「……ルーテシア様も、護衛にこのような態度を許すなど……」

「ルーテシアは関係ないよ。わたしはあくまで護衛として雇われているだけ。あなたはさ、ちゃんとした『騎士様』なんだから。態度とか、そういうのに口うるさくなるのも分かるけどね」

「……口うるさいだと? 誰のせいでこうなっていると思っているんだ!」


 少しエリスの声が大きくなり、フレアがこちらの様子に気付いた。


「どうかしたのですか?」

「あ、いえ……」


 バツが悪そうな表情で、エリスが視線を逸らす。

 エリスがシュリネに対して色々指摘していることがバレたら、おそらく咎められるのはエリスの方なのだろう。

 実際のところ、何度かエリスが止められることはあったし、そのたびに彼女から少しずつ恨みを買っている気もしていたのだが――


(ああ、ちょうどいいや)


 ふと、シュリネはあることを思いつく。


「この騎士様とさ、模擬試合でもしようかって話をしてたんだよ」

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