5.正解だった
何が起こったのか、確認しなくても分かる。
「魔導列車ごと乗っ取られたみたいだね」
「やはり、他に仲間がいたようです」
「な、ここまでする……!?」
毅然としていたルーテシアも、さすがに動揺の色が隠せなくなってきているようだ。
こうなってくると、気になる点がある――ここまでして狙われる理由はなんなのか、だ。
「ルーテシアはどうして狙われてるの? やっぱり偉い人だから?」
「別に、私は偉くもなんともないわよ。貴族の家に生まれたってだけで」
「……」
ルーテシアよりも、ハインの方が狙われる理由を知っていそうな反応だった。
だが、彼女はここで話をするつもりもないらしい。
「ま、いっか。あなたの護衛――それが、わたしの受けた依頼だから。報酬は後で相談させてもらうけど。次はどうするの?」
「魔導列車を奪還する――それしかないかと。敵はおそらく、この列車ごとお嬢様を始末する気です。乗客もろとも」
「! な、何よ、それ……頭おかしいんじゃないの!?」
「確かに、正気じゃないね。じゃあ、敵は全部始末する……そういう方針でいい?」
「はい、構いません」
「ちょ、ちょっと! 私を差し置いて何を勝手に――」
「お嬢様、今はどうかご自身の安全のみをお考えください。」
ハインが膝を突いて、ルーテシアに言った。
彼女がルーテシアに対して忠誠を誓っていることが分かる。
故に、ルーテシアの表情は納得していなかったが、
「わ、分かったわよ。従えばいいんでしょ、今は」
「ありがとうございます」
「話がまとまったなら――」
シュリネは剣を抜き放ち、連結部の扉に向かって刃を突き立てる。その向こう側には、シュリネ達を追ってやってきた刺客の一人がいた。
「気配で丸分かりだよ」
ずるりと刃を抜いて、シュリネはルーテシアとハインに向き合う。
「改めて……話がまとまったなら、さっさとこの魔導列車、取り返そうか。わたしが先行するから、ついてきてくれる?」
「はい、お願いします。お嬢様、参りましょう」
シュリネが前を行く形で、魔導列車の中を進んでいく。
乗客達は加速していく魔導列車に混乱している様子だが、気にしている場合ではない。
操縦席は一番前方にあるはず――二両ほど進んだところで、前方から三人組が姿を現した。
「基本は三人で行動してるってことかな」
刺客の一人が姿勢を低くして、駆け出す。
後方の二人が援護をするつもりなのだろう――だが、シュリネはそれよりも早く動いた。
駆け出してすぐに跳躍し、刃を振るって刺客の首の辺りを斬る。
鮮血が舞い、そのままシュリネは勢いのままに刃を後方の二人へ投げ飛ばした。
「ガッ――」
「ひ、ひぃ……!? なんだ!?」
「ごめん、説明してる暇はないんだよね」
怯える乗客に、そう一言だけ答える。
残りの刺客が、シュリネの投げた刀を握り、相対した。
「武器を手放すとは、愚かだな」
「あなたくらいなら、これで十分だよ」
そう言って、シュリネはナイフを見せる。
すぐ傍で食事を摂っていた乗客から奪ったものだ。
「舐めるなよ、小娘が」
刺客は刀を構えたまま、駆け出した。
シュリネも距離を詰めると、刺客が刀を振るう――だが、座席にひっかかり、動きが止まった。
「……っ!」
「馬鹿だね、使い慣れない武器ならそうなるって」
魔導列車の中では、そもそも刀は簡単に振り回せるものではない。
シュリネだからこそ扱えているのであり、むしろ短刀といった武器の方がここでは戦いやすいのだ。
躊躇なく、シュリネは刺客の首元にナイフを突き立て、引き裂いた。
そのまま、前方の座席に隠れていた刺客に対し、ナイフを投げて突き刺す。
「四人組だったんだね。ちょっと気付くのに遅れたよ」
「ぐ……くそ――かはっ」
シュリネは刀を握って、そのまま刺客へととどめを刺す――乗客達は騒いでいたが、突然始まった『戦い』に気付けば静かになっていた。
シュリネは振り返って、控えていたルーテシアとハインを呼ぶ。
「このまま、操縦席まで一気に行こう」
「……本当に、何者なの?」
「分かりませんが……どうやら、雇って正解ではあったようです」
ルーテシアの疑問に、ハインは答えられない――だが、間違いなく言えることは、シュリネの強さは異常だった。