33.全滅
「さっきはよくもやってくれたなぁ!」
短剣の男はそう言いながら、楽しそうに笑っていた。
これから、狩りでもするかのような目つき――騎士であることには違いないのだろうが、シュリネをただの獲物としか見ていないようだ。
向かってくる三人よりも先駆けて、真っすぐシュリネへと突っ込んでくる。
シュリネは刀で応戦し、短剣の男を止めた。
意味ありげに口角を上げる男を見て、男が何かを狙っていることに気付く。
「!」
瞬間、短剣の男はその場で跳躍した。
腰の辺りに見えるのは、長剣――先行した短剣の男がシュリネの視線を遮り、後ろに控えていた長剣の男が不意を突くように一撃を放ったのだ。
すぐに短剣の男を弾いて、ギリギリのところでシュリネはその一撃を刀で受ける。
上空に影が見え――見上げると、高く跳躍した斧を持つ男がいた。
「潰れろ……」
ブンッ――と乱暴に振るった斧は、シュリネの頭部を確実に捉えている。
直撃を受ければ、間違いなく死に至る。
シュリネはわずかに長剣を弾くと、身を屈めながら低い姿勢で左に跳んだ。
連携は取れているが、振り下ろされた斧と長剣が位置的に考えても同時に襲ってくることはなく、地面を大きく抉るほどの一撃だが、当たらなければ問題はない。――跳んだ先で、すぐ後ろに気配を感じた。
シュリネは身体を回転させるようにしながら、刀で受け流す。
「ほう……!」
感心するように声を漏らしたのは、槍を持った男だった。
先ほどの連携に絡んでこなかったのは、シュリネが全てを避け切った後に仕留めるために控えていたのだろう。
反撃のために刀を振るうが、槍の男は後方へと跳び、それを避けた。
「先ほどの動きを見ておりましたが……中々に腕は立つご様子ですね」
槍をくるくると回しながら、男は物腰柔らかにシュリネを評価する。
「それはどうも。あなた達もいい連携をしてるね」
「騎士とは一対一の戦いだけに特化しているわけではありませんので。卑怯とは言わないでくださいね? これは仕事ですので」
「もちろん――」
答える前に、シュリネは背後から迫ってくる一撃を、跳躍してかわした。
今度は長剣の男が先行して、シュリネに襲い掛かってきたのだ。
圧倒的に長い刀身は、中距離戦に特化していると言える。
距離さえ詰めれば、シュリネの方が有利なのだろうが、それをさせないための短剣の男なのだろう。
そして、大振りとはいえ一撃でも当たれば即死は免れない大斧使いに、つかず離れずを徹底し、シュリネの隙を窺い続ける槍使い――いずれも、手練れであることには違いなかった。
跳躍してすぐに、短剣の男が眼前へと迫る。
「ははははっ! これが俺達、親衛隊の実力よ! お前に恨みはないが、命をもらうぜ!」
シュリネは短剣の男の一撃を避けるとすぐに、刀を振るった。
一瞬、何が起こったのか理解できないといった様子で、短剣の男はゆっくりとシュリネの方を見る。
「おい、お前、何を――」
言い終える前に、ぐらりとバランスを崩して、短剣の男はその場に倒れ伏す。大量の出血――シュリネが、斬り殺したのだ。
「なんだと……?」
驚いた様子で、長剣の男が目を見開いた。
「あなた達の連携はよかった。でも、最初に仕留められなかった時点で、勝ち目はなかったよ」
「この……!」
激昂したのは大斧の男だ。
得物の割には素早い動きでシュリネとの距離を詰めるが、それよりも速かったのはシュリネだ。
すでに男の懐にまで潜り込むと、一閃。大斧の男の頭部が宙を舞い、そのままズンッと大きな音を立てながら倒れ伏す。
「それなりに強いんだろうけど、一人一人は大した強さじゃないね。連携があって初めてわたしを殺せる可能性は、確かにあった。でも、最初に突っ込んできた人、隙が多すぎるよ」
シュリネはそう言いながら、長剣の男へと向かって行く。
前線を務める二人は始末した。そうなれば、長剣の男の対応はさほど難しくはない。
「おのれ……!」
長剣をシュリネに向かって振るうが、刀で防ぎ――そのまま滑るように真っすぐ進む。
目の前まで到着したところで、シュリネは刀を地面に突き刺したまま跳んだ。
すぐ後ろに迫っていたのは、槍の男だ。
二人が驚愕に満ちた表情を浮かべながら、シュリネを見ている。
「バカな……我々が、これほど容易く――がっ!?」
シュリネは槍の男の首に足を絡めると、身体を思い切り捻って首の骨を折る。
長剣の男が、すぐにもう一度シュリネに向かって剣を振るおうとするが、得物があまりに大きすぎるのが難点だ。
地面に突き刺さった刀を抜いて、そのまま長剣の男を両断する。
ほんのわずかな時間で、シュリネに襲い掛かってきた四人の騎士は――絶命した。
「……なるほど、私の部下が全滅とは」
「あなたも一緒に連携に入れば、最初の時に一撃くらいは加えられたかもしれないのにね」
「部下を信頼しているので。しかし、そうか――出番が回ってくることになるとはね……」
そう言いながら、ユレスが腰に下げた剣を抜き放つ。
おそらく、シュリネが四人を倒したのは想定外なのだろうが――元より、この四人よりも目の前にいるユレスという男の方が、実力的には上なのはどことなく分かっていた。
「あの四人にやられていればよかったものを。半端な強さは、苦痛を増すだけだというのに」
「随分と余裕だね。ま、戦ってみれば分かるかな」
全く動じていないのが、その証拠だろう――だが、シュリネも特に動揺することはない。刀を構えて、ユレスと対峙した。