32.好都合
「知り合い?」
「ユレス・ボリヴィス――第一王子のアーヴァントの親衛隊の一人よ」
親衛隊ということは、目の前にいる五人はやはりルーテシアにとっての敵ということになる。
だが、青年――ユレスは小さく溜め息を吐くと、
「我が主を呼び捨てにしたことは……今は聞き流しましょう。我々は、あなたを保護しにきたのです」
そう、言い放ったのだった。
「保護……? 私を狙っておきながら?」
「多少の行き違いはあったようですが、アーヴァント様はただ、ルーテシア様と話す機会がほしいと申しております。どうか、我々と共に王都まで戻り、話しの場を設けてはいただけませんか?」
物腰は丁寧で、一見では敵意もないように見えるユレス。
だが、ルーテシアからは疑念の表情は消えず、隣に立つシュリネから見ても、これは明らかに罠としか思えなかった。
「……話しの場を設けるというのなら、正式に文書を出してくれる? 戻るのだって、私には護衛がいるもの」
「護衛というのは……その隣の子ですか? 怪しい風貌でしたので、てっきりルーテシア様を攫う賊かと思いました」
「! 貴方ね――」
ルーテシアが少し怒った口調で咎めようとするが、すぐにシュリネが手で制止した。
「わたしを賊だと思ったんだ?」
「失礼を。部下には後ほど教育を――」
「あれはルーテシアごと、わたしを殺そうとしていたよ」
「……!」
シュリネの言葉を聞いて、ルーテシアが驚きに目を見開く。
彼女はシュリネに守られていて、状況がよく分かっていなかっただろうが――敵の狙いはシュリネではなく、ルーテシアであった。
「……今の話は、本当なの?」
「誤解です。騎士である我々の話より、そんな素性も分からない女の話を信じるのですか?」
「シュリネは、わたしを命がけで守ってくれた人よ。アーヴァントの送ってきた刺客からね。どういうつもりか知らないけれど今更、保護なんて適当な言葉を使って、私を連れて行こうなんて――怪しい以外にないじゃない」
「……困りましたね。我々は本当に、そういう命令を受けてここに来ています。仮に刺客が貴女を狙うのであれば、全力でお守りするつもりなのですが」
「だから、必要ないって言ったのよ。王都には戻るから、私の前から消えてくれる?」
ルーテシアははっきりと言い放った――ユレスは少し困った表情を浮かべて、
「拒否をされることは想定内ですが、こうなるとやはり――我々も力ずくで動くほかありませんね」
ユレスがそう言うと、控えていた四人も一斉にローブを脱ぎ捨てた。
「ユレス隊長、話し合いなんかせずにさっさとやっちまえばよかったんですよ」
「実に無駄な時間であった」
いずれも、先ほどシュリネに仕掛けてきた者達だ。
片方はやや短めの刀身の剣を持ち、もう片方はシュリネの持つ刀の三倍はあろうか、というほどの長い刀身の剣を持っている。
残りの二人は、斧と槍を得物としているようだ。
ユレスは、シンプルな直剣を持っているが、構えは取らずに命令を下す。
「ルーテシア様には手を出すな。その護衛とかいう女だけ――殺せ」
その指示と共に、四人が一斉に動き出した。
今の狙いはルーテシアではなく、シュリネのようだ。
ならば好都合――にやりと笑みを浮かべて、シュリネは敵と対峙した。