23.相応しい最期
シュリネはルーテシアから受け取った刀を抜き放ち、エルバートと対峙した。
息を切らしたルーテシアを見れば、彼女が本気でここまで走ってきたのが分かる。
「護衛対象なのに、わざわざ戦いの場に来るなんてね。どうかしてるよ」
「はっ、は……っ、悪かった、わね。邪魔だったかしら……?」
「いや、礼を言うよ。これさえあれば、わたしは負けない」
「……ふっ、大層な自信ですね。君も大概、人のことを言えないでは?」
「今に分かるよ」
シュリネは刀の柄を握りしめる。
エルバートは腕を引くようにして、シュリネを待ち構えた。
出血は激しく、魔力の残量もわずかしかない――ならば、ここで決める。
動き出したのはほとんど同時で、エルバートは魔力の斬撃を、後ろに控えるルーテシアごと当たるように大きく放った。
シュリネは真っ直ぐ、刃に魔力を込めて斬撃を受けきる。
すぐにエルバートが駆け出し、シュリネに向かって剣を振り下ろす――が、それをシュリネは刃を滑らせるようにして受け流した。
「な……!?」
何度もエルバートの剣を見た。
もはや、シュリネにとって彼の剣術は脅威ではなく、刀さえあれば防ぐことは容易だ。
そのまま、エルバートの剣を握った右腕を肘のあたりから斬り飛ばす。
「ギッ!?」
さらに後方に回り込み、両膝に斬撃を。残った左腕も切断し――両手足を失ったエルバートの背中を蹴り飛ばした。
「がっ、ぐあ……!?」
鮮血を撒き散らしながら転がるエルバートには目もくれず、シュリネは転がったエルバートの右手が握る剣を掴んで近づく。
「こ、こんな……ことが……」
「すぐに分かるって言ったでしょ?」
「ぐっ、くそ……は、早く、殺せ。こんな雑な切り口……僕の死には相応しくない」
「やっぱり、死ぬときは綺麗でありたいんだ? 綺麗な死体がどうとか、言ってたもんね」
「! お、お前……わざと雑に、斬ったのか……!?」
「うん、そうだよ」
シュリネは表情を変えることなく、エルバートの腹部に彼の剣を突き刺した。
「あ、ぐぅ……」
苦しむエルバートに背を向け、そのまま立ち去ろうとする。
「な、にを……!? 待て、せめて、殺していけ……!」
「あなたみたいな人、首を斬っておしまい……なんて終わり方じゃ、ダメだと思うよ」
「!? ま、まさか……!?」
「心配しなくても、もう助からないから――それほど長くは苦しまないよ。ただ、このあたりには魔物もいるだろうし、楽には死ねないかもね」
すでに、周囲には魔物の気配がある。強い血の匂いに誘われてきたのかもしれない。
「ふ、ふざけるなっ! こ、この僕を……何人殺してきたと思ってる!? 僕がこんな、終わり方をしていいはずがないっ! もっと、僕はもっと……散るのならば、誰もが見ているような場所で――」
「あなたにはこれで十分。相応しい最期だよ」
エルバートは言葉にならない叫び声をあげるが、シュリネは無視してルーテシアへの元へと向かう。
エルバートの様子を見て、息を呑む彼女の手を引いた。
「シュリネ……?」
「あいつが言ってたこと、本当か分からないけどさ。どうあれ、過去は変えられない。だから、せめて外道に罰を与えてやった。でも、あなたはたぶん、これ以上は見ない方がいい。あいつは、知らないところで苦しんで死ぬ――それが、一番嫌がりそうだから」
「……私の、ために?」
「ううん、わたしが勝手にやったこと。ルーテシアは、あんな奴のこと、気にしない方がいいよ?」
シュリネには気の利いた言葉をかけてやることはできない。
だから、あんな外道のことは気にするな、と言うほかないのだ。
ルーテシアの手を引いているため、彼女の顔を見ることはできないが、
「……ありがとう」
ただ、その一言だけが耳に届いた。
「さっきも言ったけどさ。礼を言うのは、わたしの方だよ」
シュリネは笑みを浮かべて、答えるのだった。




