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20.これ以上は

 森の中まで足を踏み入れたところで、シュリネは一度動きを止めた。

 遅れることなくエルバートも追いつき、再び剣を構える。


「ここなら存分にやり合える――そういうことですね?」

「うん、そういうこと」


 存分に、という言葉には完全に同意はできないが。

 開けた場所で戦えば、おそらくエルバートの隙を突くことはできない。

 唯一、視界を遮る木々が多いここなら、まだ可能性がある――


「では、ここから僕も本気で行くとしますか」

「っ!」


 瞬間、エルバートがシュリネとの距離を詰めた。

 咄嗟に鉈で防ぎそうになるが、確実に両断される――シュリネは後方へと跳び、背後にあった大木をそのまま駆け上がる。

 エルバートがそのまま剣を振るうと、魔力を帯びた斬撃が目に見えるように飛翔して、周囲の木々を切断した。

 シュリネが駆け上がった大木も例外ではなく、揺れる足場から跳躍して、森の奥の方へと姿を隠す。


「今度はかくれんぼですか? 僕は君と斬り合いたいのですが」

(……斬り合いたいって言われてもね)


 シュリネも剣術には自信があるし、刀があればわざわざエルバートと距離を取るような戦い方はしない。

 だが、戦う道を選んだ以上は、()()()()()のは言い訳にしかならない。

 今の状況で、勝つためにやれることをするだけだ。

 森の中を駆けながら、シュリネは二回、魔法を放つ。


「魔刀術――《静風》」


 音もなく、視認することもできない代わりに大木を切断するような威力のない、魔力の刃だ。

 だが、人に当たればその命を奪う程度には十分。問題は、当たればという点だ。


「器用ですね。この木々の合間を縫うようにして、僕に直接仕掛けてくるとは。やはり、君は強い」

「ちっ」


 エルバートには小手先の技は通じない。

 シュリネの体内に宿す魔力は常人より低く――それを補うために編み出した魔法が、魔刀術である。魔力を極薄の刃のようにし、飛ばすというシンプルなものが多いが、その中でも形状を変えることで、いくつか技に種類を持たせている。

 以前使った《水切》はシンプルに目の前にいる敵を斬るのに使え、《静風》は離れた相手に有効だ。

 他にも、魔力をかなり消費するがエルバートを仕留めるだけの威力のある魔法も扱えるが――仮に外せば、今度こそ打つ手はなくなってしまう。


(斬り合うのが一番、楽ではあるんだけど……それができないのは困ったものだね)


 いっそ、どこかに武器でも落ちていないか――なんて、下手な考えすら浮かんでくる。


「あまり遠くには逃げないでくださいよ」

「!」


 エルバートが正面から姿を現した。

 ステッキに仕込んであった剣が彼の得物なのだろうが、細い刃であっても魔力を十分に浸透できる加工さえしてあれば、サイズなど関係ない。

 エルバートがそれを振るえば、大地すら裂く威力を持つ。

 咄嗟に右に飛んで避けるが、すぐにエルバートが追撃を加えるように薙ぎ払う。

 身を屈めると、背後にあった木々が次々と両断されていった。

 シュリネはそのまま、エルバートへと向かっていく。


「ほう」


 少し感心したように、エルバートは声を漏らす。

 剣を振り上げたのを見て、シュリネは動きを加速させた。

 互いに一撃――エルバートの脇腹を掠め、シュリネは足に一撃を受ける。


「っ」


 地面を滑るようにしながら、何とかバランスを保ってエルバートと向き合った。


「さて、これでもう逃げられませんよ?」

「なんか勘違いしてるみたいだから言っておくけど、別にわたしは逃げてないから」

「おっと、これは失礼。確かに、わずかな隙を突いて真正面から向かってくるなど――逃げの発想ではありません。実際、こうして一撃を受けてしまったわけですし」


 じわりと、エルバートの脇腹には出血が見られた。

 一方、シュリネの方が傷は深く――エルバートから距離を取り続けるのは、難しい状況になる。


「少しの間ですが、楽しませていただきましたよ」

「もう勝ったつもりなんだ? この前の人もそうだけど……自信過剰な人が多いね」

「もはや、あなたに打つ手はない――それは、あなた自身がよく理解しているはずです。気がかりなのは、君が万全ではなかったことですが……わざわざこちらが用意したチャンスすら無碍にするような小娘では、どうあれこれ以上、楽しめそうにはないので」

「……言ってくれるね」


 ――とはいえ、エルバートの言葉に間違いない。

 打つ手はないし、エルバートの提案を受け入れなかったのはシュリネの方だ。

 だが、シュリネはわざわざ負けるために――エルバートの提案を受け入れたわけではない。


(ここで死ぬのなら、わたしはそれまでの人間だったってことだからね)


 結果はどうあれ、決着はすぐそこまで迫っていた。

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