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2.追手

 ――三か月後。『リンヴルム王国』の東、『アーゼンタの町』にシュリネの姿はあった。

 行き交う人々の多くは、ちらりとシュリネに視線を送る。

 この辺りでは珍しい黒髪に、東の国に伝わる派手な柄の服装もまた、拍車をかけていた。

 だが、周囲の視線など気にすることなく、シュリネは一人、眉をひそめて唸る。


「……どうしよう。王都に行くか、ここは『外す』か」


 シュリネが見ているのは時刻表であった。ほぼ同時刻に、違う方角へ向かう『魔導列車』がある。

 片方は王都行きで、もう片方は外回りに他国へと向かう。

 目的のある旅をしているわけではないシュリネにとって、方向自体はどちらでも問題ない。

 ただ、路銀が底を尽きかけている、という深刻な問題があった。


「王都に行って稼ぐところなかったらなぁ……」


 辺境地では、魔物狩りなどで臨時報酬を得ることも可能だった。

 だが、発展した土地になると話は別――何らかの組織に所属していないと、仕事を得るのは難しいという状態だ。

 放浪の旅をしているシュリネにとっては、今のところどこかの組織に所属する予定はないし、何よりまだ若すぎるために、魔物討伐など自らの力を生かしたところで雇ってくれるかどうか怪しい。

 けれど、旅を続けるにはどうしても金の問題は付きまとってくる。


「こういう時は……」


 腰に下げた刀を鞘ごと抜くと、シュリネは地面に突き立てた。真っすぐ立てて手を離すと――その方角は、外回りのルートを示していた。

 これで決まりだ、王都に向かう必要はない。

 迷った時は刀の示す方角に進んできて、この三か月間は過ごしてきた。

 今回もそれに従って、シュリネは魔導列車へと向かう。

 外回りの魔導列車は辺境地も通る予定であり、乗客は疎らであった。

 やはり、魔導列車内でもシュリネには視線が集まりがちだが、特に気にせず空いている席に座る。


「……」

「……」


 そこで、通路を挟んだ席に座る少女と目が合った。

 一目で高貴な生まれであるというのが分かる服装。整った顔立ちに美しいブロンドの髪色――間違いなく、彼女は貴族だろう。

 その対面には、おそらく従者であろう女性が座っている。白と黒を基調とした服に身を包んでいた。

 いつもなら視線を逸らしておしまいだが、他の人とは異なる雰囲気だった少女に、思わずシュリネは言葉を発する。


「何か?」

「珍しい服だと思って」

「ああ、これ? 東の方じゃ結構見るんだけど、こっちじゃ珍しいみたいだね」

「初めて見たわ。中々素敵じゃない」

「そう? わたしからすると、あなたの服の方が珍しいけどね」

「なるべく地味なものを選んでいるつもりだけど、そう見えるかしら?」

「わたしはこっちの人間じゃないからね」

「へえ――」

「お嬢様」


 まだ少女は会話を続けようとしていたが、対面の女性が一言発すると、不服そうな表情をしながらも押し黙る。

 女性の方も、シュリネの方を見て軽く会釈していた。

『お嬢様』と呼ぶくらいだから、やはり高貴な生まれではあるらしい。


(本当なら、わたしはこういう人を守る予定だったんだよね)


 今更、考えたところで仕方ないが――護衛として働く自分を想像しなかったわけではない。

 目的のない自由な旅も悪くはないが、金銭面の問題に直面して、シュリネはすっかり現実を味わっていた。知らない国を旅するというのが、まだ十五歳の少女にとっては純粋な負担なのだ。

 少女から視線を逸らして、窓の外を見る。

 最後に数名乗ってきたところで、魔導列車はゆっくりと動き出した。


(王都も観光くらいしたかったけど、やっぱりお金がなぁ……)


 小さく溜め息を吐きながら、シュリネは今後のことを考える。

 地方ならば、魔物に困っている人の依頼を受けて、お小遣いくらいは稼げるかもしれない――だが、そんな生活をいつまでも続けているわけにはいかないことは分かっている。

 ならばどうするか、いよいよ定職に就くことも検討に入っていた。


「お嬢様、この後の予定ですが――」


 隣では、先ほどの少女と女性が小声で会話を始めている。

 彼女達も、地方で何か予定があるのか、それとも国を出るつもりなのか、それは分からないし、興味もない。だが、


(ん……?)


 誰よりも早く気付いたのは、シュリネであった。

 こちらに向かって、前方と後方から三人ずつ近づいてくる人間がいる。

 気配を殺し、足音も消しているからこそ、普通ではないことがすぐに分かった。

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