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19.引き下がらない

 シュリネは近くにあったテーブルを、エルバートに向かって蹴り上げる。

 グルグルと回転したテーブルは、エルバートの眼前で簡単に切断された。

 この隙に、腰に下げた鉈を手に持ってエルバートに斬りかかるが、すぐに反応されてしまう。

 後方へと下がり、エルバートとの距離を取った。


「ハイン!」

「言われなくとも……!」


 シュリネがハインの名を呼ぶと、すぐに彼女はルーテシアを連れて部屋から出ていく。

 これでまずは一対一――しかし、状況はかなり不利と言わざるを得なかった。

 今、シュリネの持っている鉈は普通の農具であり、魔力の通りが悪い。

 おそらく、エルバートとまともに斬り合えば、簡単に鉈ごと切断されてしまう可能性が高かった。

 つまり、現状は回避に徹しながら、どうにか隙を見て斬るしかないのだ。

 左腕も満足に使えない、という点も考えると、シュリネにとっては人生において初めての危機とも言える。


「少し残念ですね」

「何が?」

「あなたの怪我、それに武器――およそ、万全には程遠いはず。だというのに、あなたは引き下がる様子を見せない」

「雇用主が望んだからね、あなたを斬ることを」

「僕は別に、仕切り直しでも構わないんですよ。本気のあなたと戦ってみたい――そういう気持ちもありますから」

「黙って待っててくれるってこと?」

「幸い、この村でも暇つぶしはできそうですし」

「暇つぶし?」

「もちろん――僕は人を斬るのが趣味ですから」


 シュリネの用意が完了するまで、適当に村の人間を斬る――そんな風に言っているのだろう。

 ならば、なおさら引き下がるわけにはいかない。


「……あなた、正真正銘の人殺しだね。違和感の正体はこれだ」

「? どういう意味です?」

「言葉のままの意味だよ。人を殺すことに一切の罪悪感がない――当たり前のことだと思ってる。だから、殺気もほとんどないし、ここに来た時も刺客かどうか判断できなかった」

「ああ、それはそうかもしれませんね。僕にとって、人を斬るのは趣味であり、当たり前の生活の一部ですから。朝、起きてすぐに顔を洗うのと同じ。人を斬って、その日の調子を確かめるなんてのはざらです」


 ――シュリネから見ても、エルバートは異常者だ。

 この男を放っておけば、何をしでかすか分からない。確実に、ここで斬っておかなければならない相手だ。

 シュリネは鉈を構えて、身を低くした。


「引き下がりませんか……残念です」

「心配しなくていいよ。あなたは望み通り、わたしが斬ってあげるから」


 ほとんど同時に、二人が動いた。

 エルバートが剣を振るうと、シュリネはステップを踏むようにして回避に徹する。

 鍔迫り合いになれば、十中八九シュリネは負ける。

 まずは、様子見で一撃――魔法で作った刃を放つ。

 だが、エルバートはそれを簡単に防いで見せた。

 やはり、刃に魔力を通しているのだろう――以前に襲ってきた刺客とは違い、エルバートの強さは本物だ。

 距離を取っての魔法は防がれ、近づいての斬り合いも難しい。


(打つ手がないね)


 シュリネはすぐに、結論を出した。

 このまま斬り合えば、いずれはジリ貧となって負ける――いかにシュリネが強くても、負った怪我は浅くはなく、まともな武器のない状況での勝利は難しい。

 そんな状況下でも、シュリネは後退しようとは微塵も考えなかった。

 現状、勝機がないだけだ。ないのなら、戦いの中で作り出せばいい。

 待つのもまた、戦いの一つだ――斬りかかってきたエルバートから距離を取ると、シュリネは窓を突き破って外に飛び出した。

 すぐにエルバートもその後を追いかけてくる。

 少し遠くに、ルーテシアとハインの姿が見えた。

 だが、シュリネは二人の下へは向かわずに、人気のない森の方へと駆けていく。


「おや、逃げる気ですか?」

「場所を変えるよ。本気でやり合いたいんでしょ?」

「……ふふっ、なかなか魅力的なお誘いですね。いいでしょう、ここは乗っておきます」


 シュリネの後を追うようにして、エルバートも走り出した。

 できる限り広い場所で、かつエルバートの視界を遮るものが多い森の中――隙を作るとすれば、そこしかない。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 翻訳アプリで失礼します。 シュリネは、ハンデがあるからこそ、よりチャレンジングな戦いを楽しめるのでしょうか。 [一言] 工房のオヤジが考えを改めるかどうかはわからないが、エルバートが…
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