17.手っ取り早い
「結論から言うと、リッドって男はルーテシアを狙った刺客だと思う。どうしてあんなに分かりやすく来たのかは分からないけど」
シュリネは戻ってすぐに、ルーテシアとハインの二人に報告した。
ハインは納得するように頷くが、ルーテシアは怪訝そうな表情を浮かべる。
「リッドって……さっき村長さんの家に行ったっていう男の人?」
「そう、その人。十中八九、あなたの命を狙ってる」
「改めてそう言われると、なんていうか言葉も出ないわ……」
命を狙われている――ルーテシアの状況は、言うなれば普通ではない。
こうして辺境の村ですら、追手はやってくるのだ。
「先ほど話したばかりだというのに、意外と早く結論づけましたね? 根拠はあるのですか?」
「うーん、やっぱり動きとか見てると、素人ではないのは確かなんだよね。でも、普通の刺客ならやっぱり、わたしなら分かるはずなんだけど……」
「分かるって、どういう意味よ?」
「要するに――人殺しなら、何となく雰囲気で分かるってこと。わたしも同じだからね」
「あなたは、人殺しではないでしょう?」
ルーテシアがシュリネの言葉を否定する。
だが、シュリネは反論するように首を横に振った。
「わたしは人殺しだよ。仕事とか、そういうのは関係ない。だからこそ、分かるって話」
「けれど、あの男からはそう言った気配はない、ということですね?」
「うん。正直、見たことないタイプだね。――で、相談。刺客だという前提をもって、どうするかって話」
「どうするって言われても……」
ルーテシアは少し困惑した表情を見せた。
確かに、聞かれても困る話ではあるだろうが、シュリネだけの判断で行動するわけにもいかない。
「お嬢様、ここは手出しはせずに早めにここを離れるべきです」
「相手が私を狙う刺客なら、何人も人を殺している可能性があるでしょう。そんな人を、この村に残していくのは危険じゃないかしら……」
「狙いがルーテシアなら追ってくるとは思うけど、こうしてすぐ近くにいてもやって来ないところが何とも言えないんだよね」
ルーテシアは顎に手を当てて考える。
そして、彼女が出した答えは、
「……直接行ってみるしかなさそうね」
「! お嬢様、それは――」
「やめろって言うんでしょ? でも、相手の真意が分からないのなら、本人に聞くのが一番手っ取り早いじゃない。シュリネはどう?」
「ルーテシアが行くなら、わたしは守るだけだからね。反対はしないよ」
「決まりね。リッドのところに行ってみましょう。彼、まだ借りた家にいるんでしょう?」
「おそらくね」
「……シュリネさん、あなたはその武器とも言えないようなもので、本当に刺客と戦えるのですか?」
ハインが少し睨むようにしながら尋ねた。
彼女が怒るのも無理はないだろう――自ら危険を犯すような真似をルーテシアがしようとしているのに、護衛であるはずのシュリネが止めなかったのだから。
しかし、シュリネの護衛はあくまで対象がやりたいことがあるのなら、それに付き従うものだと考えている。
だから、全ての判断をルーテシアに任せたのだから。
「仕事だからね。武器があろうとなかろうと、ルーテシアは必ず守るよ」
「頼もしいわね。早速、行きましょう」
おそらく刺客と思われる男――リッドの元へ、狙われてるはずのルーテシアが直接向かうこととなった。
リッドの真意を、確かめるためだ。