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13.こんな形で

 ――『レヴランテの村』に、シュリネの姿はあった。

 ここは王国の中でもいわゆる辺境と呼ばれる場所であり、道も途中までしか整備されておらず、馬車でやってくることはできない。

 小さな村で、同時にのどかな場所であった。

 この近辺には人を襲う魔物も多くは生息していないのだろう――仮にいたとしても、おそらくは村人が対抗できるレベルなのだ。

 こういった人が暮らしやすい辺境地というのは、どこの大陸にも複数存在している。


「ふぁ……」


 シュリネは空を見上げながら寝そべり、小さく欠伸をした。

 魔物を狩る必要がなければ、現状は仕事がない。

 ルーテシアとハインは一先ずここを拠点として身を隠すつもりのようで、空き家を一つ村長から借りていた。

 護衛ならば近くにいろ――そう思われるかもしれないが、シュリネならば、この村の付近に『怪しい奴』が近づいてくればすぐに気付くことができる。

 そのため、今は自由時間を満喫していた。

 だが、辺境地でやることと言えば、こうして昼寝するくらいのものだ。

 何かしら仕事でも見つかればそれを受けるのも以前はありだったのだが、今はルーテシアと契約している。


「……そう言えば、契約金の話をまだしてなかったなぁ」


 護衛をする以上、その対価は求める。

 先ほどの話を聞く限り、大貴族の当主であるルーテシアなのだから、資産はそれなりにあるのだろう。

 だが、金持ちだからと言って必要以上に金を取るつもりはない。

 あくまで、仕事に見合った報酬をもらう――それが、シュリネの信条であった。


「こんなところで何してるのよ」


 寝そべるシュリネの元へ、ちょうどいいタイミングでルーテシアがやってくる。

 すぐ傍にはハインがおり、常に彼女を護衛しているようだ。


「契約金のこと考えてた」

「! そう言えば……色々ありすぎてまだ決められてなかったわね。ごめんなさい」

「別にいいよ。一先ず、ここでのご飯代とか払ってもらえてるし」

「正式な契約書も作成しておきたいですね。書類の準備をして参りますので……」


 ハインはそう言って、シュリネを見る。

 ルーテシアを頼む――そう言いたいのであろう。


「敵は近くにいないから、大丈夫だよ」

「ハイン、お願い」

「承知しました。では、少々お待ちくださいませ」


 ハインは書類を作りに戻っていった。

 残ったルーテシアが、シュリネの隣に座る。


「静かな場所よね、ここ」

「そうだね。わたしは嫌いじゃないよ」

「私も……こういうところは好き。落ち着くし、変なことを考えずに済むから」

「変なこと?」

「仕事のこととか。貴族って結構、大変なのよ? 何もせずに生きていられるわけじゃないんだから」

「だろうね」

「こうやって、命を狙われて逃亡生活する羽目にもなっているし」

「それは自分で選んだ道じゃない? 逃げようと思えばできるよね」

「――私が逃げたら、大勢の人が苦しむことになるかもしれない。だから、逃げるのは絶対にありえない」


 ルーテシアははっきりとした口調で言う。

 第一王子とルーテシアの間に何があったのか分からないが、かなり嫌っているようだ。

 もちろん、好き嫌いだけで支持を表明していないことも分かる。

 おそらく、第一王子が王になると、この国の不利益になるということなのだろう。

 それを阻止するために、ルーテシアは生き延びなけらばならないのだ。


「わたしはあなたみたいな人、嫌いじゃないよ」

「え?」

「わたしはね、初めから逃げる人とは戦わないことにしてる。やる気のない相手と戦ったって、結局後味が悪くなるから」

「……私は貴女みたいなのに追われたら逃げるわよ? 今だって命を狙われて逃げているようなものだし」

「勝てない相手から逃げるのは当然だよ。でも、あなたはただ逃げてるわけじゃない。だから、嫌いじゃない」

「それは、褒め言葉として受け取っていいのかしら?」

「わたしは褒めてるつもりだよ」

「……そう、ならいいわ」


 初めて二人きりで話をして、なんとなくルーテシアという人がシュリネにも理解できた。

 彼女は正しいと思ったことをする人間だ――それを高貴な人なのだと、シュリネは考える。


(こんな形で、わたしの力が役立つ日が来るなんてなぁ)


 そう、空を見上げながら思うのだった。

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