12.人斬り
壊れた魔導列車の車両が停止しているすぐ傍では、何体もの遺体が並べられていた。
列車を乗っ取った者達が、貴族の護衛である少女に返り討ちにされた――それが、今のところの事実である。
そんな遺体を調べるように触れるのは、黒を基調としたスーツに身を包んだ男だ。
「……綺麗だ」
男は斬られた死体の傷を見て、小さな声で呟く。
「これほどの剣の使い手に、僕は出会ったことがない。本当は、無惨に殺された彼女の姿を見に来たというのに……嬉しい誤算とはこのことですね」
男は立ち上がると、嬉しそうな笑みを浮かべた。
そこへ、男の姿に気付いた騎士がやってくる。
「おい! ここは立ち入り禁止だぞ! 何をしている!」
「ああ、申し訳ありません。少々道に迷ってしまいまして」
「道にって……この辺りは歩いてくるような場所ではないはずだが」
「途中までは馬車で来たのですよ。ですが、泥に嵌ってしまいここまで一人で」
「なら、線路沿いに戻った方がいい。魔物も出るし、危険だぞ」
「ええ、分かっていますとも。しかし、一つだけ質問を」
「なんだ」
「実は、この魔導列車の乗客に、私の知り合いがいるはずでして……その方がどこに行かれたのか、知りたいのですよ」
「知り合い? 名前は分かるか?」
「ルーテシア・ハイレンヴェルクです」
「ルーテシア――! ハイレンヴェルク家の御息女――いや、当主様か。彼女と知り合いということは、あなたも貴族か?」
「いえ、僕はそのような大層な生まれではなく」
「そうか。彼女なら、魔導列車の出た駅に戻って――ん、ちょっと待て。あなたの顔、どこかで……」
「――失敬」
ヒュンッと風を切るような音と共に、騎士の首は宙を舞った。
「?」
何が起こったのか、騎士はまだ理解できていない。
最後に騎士が見たのは、男が手に持ったステッキから引き抜いた刃だ。
「僕もまだ捨てたものではないですね。いやはや、末端の騎士にまで顔を知られているとは」
帽子を目深に被り、顔を隠すようにしながら男は歩き出す。
魔導列車の向かう予定だった方とは逆。ここから移動するとしたら、一度戻って別のルートを使うだろう。
「楽しみですね……強い剣士と出会えるというのは」
男の名はエルバート・フェルター。
かつて王都で『人斬り』として名を馳せた――正真正銘の殺人鬼だ。