10.この国の未来
――王国の騎士がやってきてから、シュリネが思ったよりも早く解放されることになった。
理由は一つ、ルーテシア・ハイレンヴェルクがいたからに他ならない。
ルーテシアは王国における五大貴族の一つ、ハイレンヴェルク家の現当主だと言うのだ。
高貴な生まれというだけでなく、本当に高貴な人だったというわけだ。
刺客のほとんどはシュリネが始末して、一部は逃走している――逃げた者達については騎士が対応するとのことだ。
――ルーテシアは結果的に、魔導列車で発生した事件を解決した人物、という扱いになったのだ。
目撃者が多かったのも救いだろう。
一部の人間は、シュリネが殺戮を繰り返していたと勘違いもしていたようだが、先頭車両の方にいた者達からすれば、間違いなく命を救われたのだ。
その証言の信憑性が高い、と言ったところだろう。
後日、また話を聞かせてもらいたいとは言っていたが、特に行先などは告げることなく――シュリネは今、ルーテシアとハインの二人と共に、馬車に揺られていた。
一度、魔導列車を出発したアーゼンタの町に戻り、そこで調達した馬車で、向かう予定だった場所とは別のところに向かっているようだ。
「ねえ、予定した場所とは違う方に向かっているわよね?」
「はい、お嬢様。すでに予定通りには行かなくなりましたので」
「だからって、仕事を放って逃げろって言うの?」
不機嫌そうに、ルーテシアがハインを問い詰める。
先ほど命を狙われたばかりだというのに、仕事を優先しているのは中々に肝が据わっている。
感心するシュリネだったが、彼女達の会話の内容についてそれ以上興味を示すこともなく、外の景色をただ眺めていた。
シュリネの役目は、とにかくルーテシアを刺客から守り抜くこと――それだけが条件なら、そこまで難しい話ではない。
「……そうですね、そろそろ説明が必要かもしれません」
「ようやく話す気になったのね。そもそも、主人である私に説明がないのがおかしいのよ」
「先ほどは急でしたので。本当は到着してから、全てお話をするつもりでした」
「そう、なら早く説明して。仕事のことだってあるんだし」
「まず、今日向かう予定だった場所で、お嬢様の仕事はございません」
「……は? どういうこと?」
「言葉のままです。全て、お嬢様の安全を確保するために、急ぎの用件があると偽った次第」
どうやら、ハインがルーテシアに嘘を吐いて連れ出したようだ。
つまり、ルーテシアは現状、本当に何も知らないままに命を狙われていることになる。
「私の安全って……貴女は私が狙われている理由、知っているのよね?」
「はい、存じております」
「なら、その理由を話しなさい。隠すつもりは……ないでしょう?」
「もちろんです。まず、結論からお話ししましょう。お嬢様の命は――この国の未来そのものです」