第二話 その2
ネルとユナは山に入ると、早速捜索を開始した。
「この山って、結構魔物いンの?」
「いや、大して強力なのは居ない筈だ……とはいえ、女性が一人でいるには危険な場所には変わりない。モタモタしてはいられないな……『サーチ』!」
ネルかま魔法を使って周囲を探索すると、かなり奥まった所に一人の人間の反応があった。幸い、魔物に取り囲まれていたりはしないようだ。
「こっちだ。付いてきてくれ」
「ヘイヘイ……」
反応があった場所に到着すると、一人の女性が地面にうずくまっていた。
「大丈夫ですか!?」
「すみません……山に薬草を取りに来ていたのですが、足を怪我して動けなくなっていたんです。このまま死んでしまうのかと……」
「もう大丈夫です。私が村までおぶって行きましょう。息子さんが心配していましたよ」
ネルが背中を差し出すと、女性は首に手を回し―そのまま口に突っ込んできた。
「!?」
「ハッハァ!作戦大成功!だけどまさか勇者程の大物が釣れるとはなあ!こりゃあ出世間違いなしだぜェ!」
(しまった……!擬態したスライムだったか!)
スライム―攻撃力、防御力ともに最弱クラスの魔物だが、その擬態能力と他の生物の身体を乗っ取ることのできる特性から、かなり厄介な魔物だ。
(体内に侵入されてしまった……身体の自由が利く内に追い出さなければ……!)
侵入してきたスライムを除去する作業には、かなりの精密さが求められる。下手をすると、自らの内蔵を傷つけて命を落としかねないのだ。
(まずは集中して魔力を練って……)
「オルァ!歯ァ食いしばりやがれェェェ!」
「ゴフッ!?」
「痛ァ!?」
突如お見舞いされたボディブローにより、スライムはネルの身体から弾かれるように飛び出てきた。
「おいスラ公テメェ……アタシ相手にペテン使うたァ舐めた真似してくれんじゃねェか……落とし前つけてもらうぞ」
「ああまったくだ……じゃあなくて!!何考えてるんだ君!?危うく死ぬところだったぞ!」
「あー……危うくっつーかまあ……とにかく今生きてんだから良いだろ!みみっちいなァ!」
(納得いかねえ……)
とはいえ、おかげで助かったのも事実なので何も言い返せなかった。