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後世まで残る絶世の美女の誕生

 雪に飾られた庭先で、相国(しょうこく)さまは絶世の美女と(うた)われたあなた様にはじめて見まえられました。

 後世ではそう語られるのでしょう。 

 そうしたわきまえなぞ意識しなくとも、絶世の美しさに子を持つ母の健気な愛おしさままで加わり公達と雪化粧を敷き詰めた庭先での一部始終は、絢爛そのものでしたね。ワキを心得ている相国さまですら初めての真実(まこと)を見るように鷲掴みにされておりました。

 そして、相国さまは、御曹司の血を引く3人の子を助命しあなた様を、もう一度、己れの想いものにした。それからのことは世間が物語るとおりの運びですから、あえて申し上げる必要はございますまい。

 私たち男子(おのこ)3人は(とし)の順に寺に預けられ、わたしも鞍馬(くらま)寺に向かいました。

 その頃には妹がおりましたね。3っつを待たずに死んでしましましたが、薄桃色の産衣に(くる)まれた猿の顔を覚えております。

 わたしも、うすうす、先に行かれた兄上様とは違い、この妹と同じ女子であることには気づいておりました。

 しかし、あなた様は男子としか見てくれない。それを言おうとしても言わせぬ頑なさをあなた様はいつも顔に宿していました。それをみて、三才の子に何ができましょう。

 

 果たして、相国さままで欺いて女子(おなご)のわたしを男子(おのこ)に変えたのは、可愛い兄上さまたちをお守りになるためだけだったのでしょうか。 

 あの日、「そのような姿に見舞える前に、どうぞわが身を先にご処分ください」と胸の内が切り裂かれたような声で震えていたあなた様は本当に美しゅうございました。相国さまはじめ平家の公達が痴呆の顔を浮かべるのを見ているもう一人のあなた様は、堂々と己れの絢爛の美しさにも見惚れ、歓喜に震えておいででした。

 さぞ、晴れ晴れしかったでしょうね。

 兄さまもわたしもあなた様の一世一代の絢爛(けんらん)に付き合わされた道具立てだった。もちろん、たくらみを一緒に仕掛けたとはいえ、あなた様の絢爛が相国様のご不興を買い、親子4人がその場でお手打ちになることも勘定に入れての大博打ですから、あなた様ご自身の身体も道具立てに入っておいででした。

 それでも、あなた様の美しさ健気(けなげ)さは世に刻まれる。3人の子をなし、女の盛りを過ぎたあなた様は永遠に消えない。

 古今東西にいたる絶世の美女の常盤御前(ときわごぜん)は、もう消えない。それを確信されたのです。



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