4話 『燃えるゴミ』のステータス
「それで私の実力はどうだった?
これでも立派な冒険者なんだよ!」
「負けたわりに立派って言うほど誇るようなものでもないが……いや、むしろAランク冒険者の俺に少しでもダメージを負わせたから誇るべきかもしれないか。
実力はともかく、面白れーやつってのは分かった。
まだ合格とは言えないが、試験を続行する価値はありそうだな」
「むー、まだ合格じゃないんだ……」
Aランク冒険者である【東雲アスカ】に興味を持たれただけ充分な成果であったのだが、それで満足しない【ラビ】は頬を膨らませながらベソをたれていた。
「まぁそんなに膨れんなって!
とりあえずお前のステータスを見せてみろ、話はそこからだ」
「ふーん、はい!
見てみて!」
PVP(プレイヤー同士の対戦)のイベントなどもあるため戦闘に特化したようなプレイヤーは普通自分のステータスを見せないのだが、【ラビ】の場合は既に冒険者ギルドの貼り紙でそのステータスを晒してしまっている。
今さら出し惜しむようなものでもないので素直に見せていた。
……もっとも、【ラビ】がステータス開示のデメリットについて思い当たっているかまでは話は別である。
「うわっ、なんだこのスキル!?
ひで~育成してんだな……」
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キャラクター名:ラビッシュ
●性別:女性
●種族:ヒューマン
●ジョブ:魔法使い
●レベル:48
●ステータス
筋力:28
防御:26
知力:184
精神:192
敏捷:34
器用:81
●スキル
【炎魔法LV68】
●ジョブスキル
【★属性耐性『炎』-9999】
【高速魔法『炎』】
【増大魔法『炎』】
【省力魔法『炎』】
【拡大魔法『炎』】
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「【炎魔法】以外本当に何もできねーじゃん……
最前線組でも【炎魔法】はレベル30止まりだから68まで上げてるのは感嘆するけどよ。
でも、流石に極端過ぎるんじゃないのか?」
「ふふふ、燃え上がる私の闘志は誰にも消せないんだよ!
クランメンバーに消火してもらいながらスキルのレベリングをしてたんだよね!」
「にしてもおかしいけどな……
そもそもスキルのレベルってプレイヤーのレベルより高くならないって設定らしいから、お前のレベル48よりも高い68なんてあり得ないはずだ!」
そう、本来ならばこのスキルレベルはあり得ない。
どれだけスキルを使い込んでも、スキルポイントを注ぎ込んでもシステム上限が設定されている以上はそれを越えられないはずなのだ。
しかしこの魔法少女【ラビ】は越えている。
【東雲アスカ】はその事に驚いているのだ。
「実はクエストで辺境の魔法使いに弟子入りする珍しいやつがあったんだよね~!
それをクリアしたら『魔力の抜け穴?』を増やせば魔力をより高めることが出来るって言われて、それでよく分からなかったけど得意な『炎!』って答えたらこうなったんだよ!」
「そして生まれたのが【★属性耐性『炎』-9999】ってわけか。
マイナス9999ってことは受けるダメージがその分増えるのか?」
【東雲アスカ】は【ラビ】が持つスキルの中でも特に異様な雰囲気を放っている【★属性耐性『炎』-9999】に目を付け、それについて追及していく。
【東雲アスカ】が数値がマイナスになっているスキルを目にするのはこれが初めてであり、攻略サイトにも載っていないレアなスキルのためどのような効果、どのような影響のあるものなのか計りかねているのであろう。
そんな【東雲アスカ】の問いに対して、あっけらかんとした形で【ラビ】が返答をしていくが……
「いや、9999倍だよ!
【炎魔法】のダメージが9999倍になるって凄いよね! 私の自慢の【炎魔法】がさらにメラメラと燃え上がるよ~」
(詳しく説明する気は無いみたいだが、ダメージが9999倍になるのはスキルの名前からして【ラビ】本人に対してだけだろうな。
そりゃそんな耐性を持っていたら即死するわ……)
【ラビ】本人が語らないので口にこそしなかったが、【東雲アスカ】は【ラビ】が『燃えるゴミ』と呼ばれる由縁について察することができた。
あまりにも酷いスキル構成に他人事ながら思わず頭がクラクラしそうな様子を見せた【東雲アスカ】であったが、その一方でやはり【炎魔法LV68】という破格のスキルを行使できるのは見逃せないようで……
「よしっ、お前のことは何となく分かった。
若干頭が回って無さそうな感じだが、アイツに言わせたら『面白い』プレイヤーにきっちり該当しそうだ。
最近入ってきたトレジャーハンターとかいう胡散臭いことをやってる同僚にも負けられないし、ここで手を打つ!
望み通りお前を仲間にしてやろう」
「えっ、わーい! やったね!
よろしく~!」
「何かかりぃなぁ……仲間にするって宣言した直後に不安になってきたぞ……
ともかく、お前の【炎魔法】がまともに機能する方法を探していくことが当面の目標になりそうだが当てはいくつかあるから一つずつ巡っていくか!
ちなみにお前に拒否権はないからな」
「そんな殺生な~」
【ラビ】のペースに合わせて話を進めていると調子を狂わされてしまうことが分かったため、【東雲アスカ】は早々と言葉を並べていき【ラビ】に口を挟ませないよう仕向けていった。
役割柄からして不憫な状況に陥ることの多い【東雲アスカ】であるからこその処世術である。
「……とりあえず手頃な対策でも試してみるか。
焼け石に水のような気もするがやらねーよりらマシだろうしな!」
「なになに~!?
もしかして私の【炎魔法】が強くなる方法があるの!?」
「……まぁ、半分当たりで半分外れっつーところだな。
その無駄に高い【炎魔法】を活かせるようにしてやるよ、ついてこい」
「は~い!」
【炎魔法】に取り憑かれた魔法少女【ラビ】はウキウキで笑顔を浮かべながら【東雲アスカ】の後ろをついていく。
その姿は親についていくカルガモのように微笑ましいように見えるが、その実連れている刀女子もついていっている『燃えるゴミ』もどちらとも物騒なプレイヤーであるため近寄ろうとする者はいなかった。