3話 地獄の『燃えるゴミ』
仲間を探すべく冒険者ギルドの受付嬢に渡された紙に案内されてやってきた場所は都市『エーラルド』の端にある場末の廃工場であった。
大半が錆びておりいつ崩落してもおかしくないような場所にいるということで【ラビ】の警戒心も高まっているが、それはそれとして興味本位なのと仲間ほしさもあって歩みを止めることなく奥へと進んでいった。
するとそこには廃材の上に座す一人のプレイヤーの姿があった。
側に刀を控えさせたいかにも戦い慣れていますという雰囲気を醸し出しており、並のプレイヤーでは近づくことも躊躇うであろう。
しかしこの【ラビ】は並のプレイヤーではない。
「どうも~冒険ギルドからの紹介で来た【ラビ】だよ!
あなたがこの紙を出した依頼主だよね?」
特に深く考えずに突っ走る脳筋プレイヤーであるため、小動物すら思わず避けるような殺気に気がつかずそのまま近づいていったのだ!
自分の放った殺気を意に介さず近寄ってきた【ラビ】に対し刀を握り警戒を強めた待ち人であったが、返答しないのは礼儀を欠くということで口を開いていく。
「いかにも、俺が仲間を求めている依頼主だ。
早速だが、お前が俺の目にかなうプレイヤーなのか試させてもらうぞ!」
そうして【ラビ】の目の前に立った刀の主の声を聞いた【ラビ】は驚いて目をぱちくりさせていた。
「えっ、女の人じゃん!
でも自分のことを『俺』って言ってるし……あっ、ネカマってやつだね!」
「ちげーよ! 俺は正真正銘女だ!
この一人称はクセみたいなもんだから気にするなって!」
「なるほど~俺っ娘ってことだね!
それはそれでアリかも!」
「何言ってんだお前……」
【ラビ】は仲間になる(予定)刀女子の品定めを始めたが、本当に定める側なのは依頼主である刀女子である。
実際、『試させてもらうぞ』とまで言い切っているのにも関わらず、その流れを強制的に断ち切って品定めを始めてしまう【ラビ】に刀女子は困惑している。
「ちっ、調子が狂うな……
俺は【東雲アスカ】、見ての通りジョブは【剣士】だ」
「あっ、自己紹介だね!
私は【ラビ】! 燃える魔法少女!」
「ふん、【炎魔法】特化のジョブ【魔法使い】か。
それなら多少距離を取ってから始めるか」
【東雲アスカ】は後ろで束ねたポニーテールを靡かせ刀を構えると、【ラビ】に後ろへ下がるように指示を出した。
その指示に対して【ラビ】はきょとんとした表情を浮かべてそのまま棒立ちしていた。
「えっ、なんで離れないといけないの?」
「いや流れからして分かるだろ!
決闘システムを使うんだよ、お前の実力を見たいからな」
この場の雰囲気を感じ取れる者がいれば思わずずっこけてしまうほど的外れな質問をした【ラビ】に対して、【東雲アスカ】も思わずツッコミを入れてしまった。
「決闘システムか……使ったこと無かったけどどんな感じなんだろ?
えいっ!」
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【Duel Start!】
【【Battle field】疑似展開】
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「あっ、おいっ!?
【魔法使い】が刀の間合いで戦闘を始めるな!?」
せっかくの【東雲アスカ】による【魔法使い】が戦いやすい状態での戦闘を提案されていたのにも関わらず、ウインドウ画面を自ら開いて躊躇なく決闘を開始してしまった【ラビ】。
戦いが始まってしまった以上、手を抜くことが出来ないため【東雲アスカ】は刀を鞘から抜き去り【ラビ】を一刀両断しようとした。
だが戦う気満々で決闘システムを起動した【ラビ】の方が戦闘準備が早かったようで、赤色の魔法陣が二人を囲むようにして地面に広がっていった。
まるでそれは自分が死ぬのを躊躇っていないような……Aランク冒険者である【東雲アスカ】の常識にあったような戦術だったため驚愕の表情で【ラビ】を睨んで刀を振り抜こうとしていく。
「私の方が早かったね!
Aランク冒険者さん相手なら初めから必殺技! 【インフェルノバーニア】だよっ!」
「なっ、そんな大技こんな至近距離で使うやつがいるかよっ!?」
【ラビ】が放った獄炎の一撃が地面から立ち上ぼり、二人を巻き込みながら轟々と燃え上がっていった。
同時に攻撃に巻き込まれたため二人の我慢比べのようになる、そしてこの戦術を取ってきたからには【ラビ】は【炎魔法】に巻き込まれる対策を充分にしてきている……【東雲アスカ】はそう思い負けを覚悟した。
だがその覚悟はすぐに裏切られる形となった。
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【WINNER 東雲アスカ】
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「はっ?」
【東雲アスカ】の体力が残った状態で決闘システムでの決着を告げるアナウンスがその場に響き渡ったのだ!
あまりの呆気ない決着に毒牙を抜かれてしまった【東雲アスカ】は、炎魔法【インフェルノバーニア】に巻き込まれて死んでしまった【ラビ】の身体を抱き起こして立たせていった。
決闘システムによって死んだ場合は指定された場所へ死に戻りするのではなく、最後に死んだ場所にそのまま復活させられるのだ。
だからこそ死んだハズの【ラビ】は再び【東雲アスカ】と顔を合わせることとなった。
「んだよ驚かせやがって!
完全に出オチじゃねーか!
もしかして噂に聞いた『燃えるゴミ』ってお前のことかよ、まさか本当に自分で燃える奴がいるなんて思わなかった」
「えへへ、照れるな~!
そんなに私の異名が広まってるんだ~!」
「異名っていうか蔑称だがな……そしてそんなので照れるなよ……」
もはや『燃えるゴミ』という名前を誇りながら喜ぶとは思っていなかった【東雲アスカ】は呆れているが、その内心背筋には冷や汗が垂れていた。
(あんな突拍子もない戦術を食らうなんて思ってなかったぞ……【インフェルノバーニア】は確か上級魔法。
最前線にいるプレイヤーが辛うじてゲットしているくらい取得にポイントが必要な取得難易度の高さだったはず。
それを【炎魔法】に特化しているとはいえ既に手に入れているなんて侮れないやつだ)
口にこそしていなかったが、【東雲アスカ】は【ラビ】に対して一種の興味のようなものを抱き始めていた。
突拍子もない戦術、取得難易度の高い魔法の持ち主、組む相手がいない天涯孤独の身……それらの要素も合わさって、今でこそ未熟な原石だが光るものが感じられたのだろう。
(こいつは思わぬ拾い物か? 『燃えるゴミ』だけにってか!)
「私の【インフェルノバーニア】凄かったでしょ!
ふふん、自慢の必殺技なんだ~!
これで経験値を手に入れたことなんて一回もないけど」
(いや、やっぱり不安だな……)
言葉の節々に感じられる不穏な言葉に【東雲アスカ】は頭をかきむしりたくなるほど悩むこととなったのだった……
その『燃えるゴミ』きっと捨てた方がいい!