2話 再挑戦と転機
「え~、これは予想外だったよ……
まさか私がここまで必要とされないなんて想像もしてなかった!」
先日は五時間三十分も仲間募集の掲示板の前で待ちぼうけしていた【ラビ】であったが、そのお陰で自らが今置かれている立場というのもを正しく認識して翌日を迎えることが出来たのだ。
だが、正しく認識したところで【ラビ】は何をすれば仲間が出来るのは分かりかねており、再び掲示板の前で棒立ちしている。
つまり、やっていることが昨日と変わっていないのだ!
「これまではクランのみんなにレベリングを手伝ってもらってたから気がつかなかったけど、今思い返してみると私があのスキルを手に入れてから一人でモンスターを倒したことってほとんどなかったよね……
何で今まで気がつかなかったんだろ、まぁこれ以上考えても仕方ないし考えるの止め!」
来ない仲間を待ちながらこれまでの自分を冷静に省みている様子の【ラビ】であったが、根本的に何が原因なのか分かっていないので実力不足というざっくりとした原因として自らの思考を断ち切ることしたようである。
「仲間が集まらないなら私一人で戦えるようにならなきゃね!
よ~し、もう一回『ポイズンスパイダー』に挑むよ!」
【ラビ】は思い立ったが吉日と言わんばかりに冒険者ギルドを飛び出し、先日敗北した『ポイズンスパイダー』のいる森へと足を運んでいた。
「昨日は負けたけど、今日は勝っちゃうよ!
ふふんっ、前は【バーニア】がダメだったから今度は別の魔法で戦うよ!」
【ラビ】はそう意気込んで森の中を一歩一歩、恐る恐るではあるが歩みを進めていく。
だが【ラビ】は周りに教えてくれるものが誰もいないため、根本的に考え方を間違えていることに気がつかないまま再度『ポイズンスパイダー』と戦うこととなった。
「今度は負けないよ~!
前はざっくりと魔法を撃とうとしたから失敗したに違いないから、今回はきっちり形にして放つよ!
【バーニアボール】っ、いっけ~!」
【ラビ】は炎魔法【バーニア】に球体という志向性を持たせたワンランクだけ上位の魔法……【バーニアボール】を発動させる赤色の魔法陣を手元に生み出し、そのまま宿敵『ポイズンスパイダー』へと照準を合わせていく。
自らの弱点となる攻撃が放たれようとしていることを察知したのか、『ポイズンスパイダー』は糸を木に巻きつけて小刻みに移動することで狙いをはずさせようとしていた。
「くっ、モンスターの癖に生意気だよ!
こうなったら一か八か、このまま【バーニアボール】を放つしかないよね!」
【ラビ】はプレイヤーを惑わせようとしてきた『ポイズンスパイダー』に付き合うことを止め、気にせず炎魔法【バーニアボール】を放つことに決めたようだ。
そう決めた【ラビ】の手元に集まった魔力が魔法陣を介して火の玉となり『ポイズンスパイダー』へと向かって……
……行かず、そのまま【ラビ】に引火した。
「なんで!? ちゃんと『ポイズンスパイダー』を狙ったハズなのに!?」
困惑の声を上げながら自らにぶつかった魔法の炎による一撃を受け止めることとなった【ラビ】の脳内は完全にパニック状態だった。
もう皆さんお気付きであろうがこの魔法少女【ラビ】……クランから追放された理由を説明されたのにも関わらず、自らのアバターの性質を理解していないのだ!
そして、前回と同じことを繰り返すこととなった【ラビ】は、その流れを踏襲して毒糸の餌食となり都市『エーラルド』へと死に戻りで送還されることとなってしまったのだ……
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「う~ん、クランに入ってた時はもうちょっと上手く戦えていたと思うんだけどなぁ……
まだ私のレベルが低いのかな……」
死に戻りしてすぐに、冒険者ギルドに併設されている居酒屋でミルクを飲みながら貼り紙で募集したメンバーが集まっていないか確認しに来た【ラビ】。
しかし、当然のように【ラビ】のステータスが記載された貼り紙を見て仲間にしたいというプレイヤーは現れておらず、椅子に座りながらひたすらミルクをちびちび飲むしかないような状況に陥っていた。
懲りずに貼り紙による仲間募集を続けている【ラビ】を見た他のプレイヤーたちは気の毒に思うものの、追放されたクランによって広められた『燃えるゴミ』という蔑称によって組もうと声をかけることまではしていなかった。
「あの、ちょっといいですか?
どうやら仲間探しでお困りの様子……ですよね?
そんなあなたの助けになるか分かりませんがこれを見ていただけますか?」
「ふぇっ?」
このままでは【ラビ】は今日も何の実りもなく終わってしまうであろうが、ここで救いの手が差し伸べられた。
長時間ギルドに滞在する【ラビ】を見かねた冒険者ギルドの受付嬢が、一枚の紙を持って受付カウンターの中から出てきて【ラビ】へとその紙を渡しながら説明を始めたのだ。
「これはAランク冒険者からの依頼で一緒に冒険する仲間を募集しているものです」
「Aランク!?
私だと流石に釣り合いが取れないよ~!」
驚くことにこの【ラビ】にも実力が足りていないという客観的判断を下すことが出来たようで受付嬢が持ってきた紙を返そうとしていた。
だが、それを再び【ラビ】に戻しながら受付嬢は説明を続けていく。
「これはAランクの依頼ですが少々特殊な条件で、他のAランク冒険者たちでは受注するための条件を満たせずに残ってしまっているのです。
それでランクを下げながら他の冒険者の方々にも案内しているのですがその度に依頼主様が『条件を満たしていない』と言って突き返しているようです。
ですのでギルドとしても扱いに困っている依頼ですが……【ラビ】様の仲間募集の貼り紙を見て、もしやと思いました」
「そんな難しい条件を私が満たせるかな……?」
「判断基準は私ではなく依頼主様ですので何ともお答え出来ませんが、一度この紙に書かれた場所へ向かって会ってみてはどうでしょうか?
ここでずっと待つよりは可能性があるかもしれませんよ」
その受付嬢の言葉を聞いて腕を組みながら「う~ん」と唸りしばらく頭を抱えていたが、ちょっとして立ち上がり紙を受け取った。
「とりあえず行ってみるよ!
『燃えるゴミ』と呼ばれた私の実力、見せてあげる!」
胸を張りながら決して誇るべきではない蔑称を名乗り、【ラビ】は颯爽と冒険者ギルドを後にしたのだった。
何故それを名乗ったのかは本人のみぞ知る……
多分特に理由はない。