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ギフト

「やってくれましたね」


カパーは、ウッドから赤い目を外すと、ドクターに、にっこりと笑いかけた。


「いやぁ、すまねぇ。」


ドクターはボリボリと後ろ頭を掻いた。

うっかり寝坊しちまったくらいのテンションだ。


「それで?もちろん勝算あってのこと……ですよね?」


ゆっくりと問うカパーからは、NOとは言わせぬ圧を感じる。


しかし、その圧をものとせずドクターはヘラりと笑った。


「なぁ、隊長よ。ハッタリって知ってるか?」


「よりにもよって川の民に……。あなたともあろう人が……。」


「まぁ、そういいなさんなって。こういうもんはな、だいたいなんとかなるもんなんだよ。」


「それ、根拠ないでしょう。」


「で?ウッドは何を見たって?」


部が悪いと悟ったのか、ドクターはさっさと話の流れを変えた。


「川で亡くなった方々の無念と、罪を川の民に押し付ける厚顔無恥な方々と言ったところでしょうか?」


「片付きそうか?」


「調査が必要でしょうね。かの記憶が本当に行われた記憶なのか、吸い出された悪意なのか、それによっても対応が変わります。」


「本当に行われたってこたぁねぇだろ。犯罪行為が行われるなんざ……」  


「えぇ。世界の理が狂ってきているのでしょうね。」


「魔王は倒したはずだろ?」 


「魔王が先かシステムが先か。議論しますか?」


「遠慮しとくよ」


「仮に吸い出された悪意だとした場合、あそこまで具体的な悪意を抱くまで吸い出されて来なかったというのは珍しいですね。本来ならもっと早い段階で吸い出されますから。」


「この辺りがそこまで治安悪かったイメージはねぇぞ……?」


「同感です。」


「なんにせよ。まずは聞き込みだな」 


「いいえ。その前にもう一つ……」 


カパーはウッドにひそひそと耳打ちをした。



翌朝、隊は次の村へ向けて進み始めた。

昨日の霧が嘘のように青空がのぞいている。  


その隊から脇道に逸れる1団がいた。


「お前、本当に馬に乗れないのかよっ」


「山は馬なんかに乗って移動しないから」


「いいんじゃないかしら。大型の肉食獣に乗って移動なんて素敵だわ」


「やめてくれエイル。ルウォに刺されそうだ。」


「あら、ルウォ。妬いてくれてるの?安心して。私にとっては貴方が一番よ」


のしのしと、少年を背に乗せて歩く、真っ黒なピューマと、純白の身体が目立たぬよう、全身を黒い布で覆われたユニコーンに跨がる少女。


彼等はカパーに狩りを依頼され、商隊とは別行動をしていた。


「リンクス、どう?」


「あ~、今のところ、あんまりそれっぽいのは感じないな……。エイルは?」


「この辺り……酷いわ。私には黒い霧が立ち込めているように見えるもの。」


「それ、いつからよ?」


「そうね……?そう言われてみれば……いつからかしら……?昨日は川の民の霧が立ち込めていて気が付けなかった……から……いえ、でも、どんなに霧が立ち込めていたとしても、これは別……。見えないわけないのに……どうして気付かなかったのかしら?」


エイルが頭を抱え始める。いつもハキハキとしている彼女には珍しい光景だ。


「あ!リンクス!この先!枝が……変!」


「枝?どれよ?」


「あれ!」


ウッドが指をさした方向を見ると、確かにいくつか枝が折れている茂みがあった。


ちょうど鹿の角でも当たったかのような高さの枝も折れている。


「なんか変か?」


「この茂み、獣道じゃないんだ。なのに枝が折れてる。たぶん、何かに追われて突っ込んじゃったんだと思う。でもね、たぶん、動物じゃない」


「なんで?」


「だってこの裏、崖だから」


「は?」


「え?」


ウッドに言われて茂みの奥を覗き込む。

すると、緩な下り坂が続いていた。


「崖ってほどじゃないと思うけど……ちょっと坂があるだけだろ?」


「降りちゃダメだよ?登れなくなるから。これ、短くて緩い下り坂に見えるけど、降りてみると急な坂と緩い坂が繋がってる長い道なんだ。下から見ると緩い崖になってるはずだよ。」


「わからん。」


「ルウォは降りたくないって言ってるわね。」


「ここで暮らしてる野生動物がこれを知らないわけがないんだ。」


「なるほどな。まぁ、じゃあ、いっちょ降りてみるか!」


「え?」


そういうと、リンクスはウッドを乗せたまま坂を下り始めた。


「リンクス!!!オレの話きいてた!?」


「聞いてた聞いてた!でも、登れないのは、人間の話だろ?」


「野生の!動物も!避けて通るんだよ!!!」


「あ~……。まぁ、なんとかなるって!」


「リンクスのバカ野郎~!!!!」


どんどんと小さくなる背中を見送りながら少女は相棒に問いかける。


「ねぇ、ルウォ、どう思う?」


白い親友は、緩く首を振った。


「違う道を探すべきか、ここで待つべきか……。もう!隊長がいないんだから連絡手段とかないのに!」


後先考えずに突っ走る所は誰に似たのかしら!と、少女が愚痴を溢す。


あぁ、でも……。

彼の判断は間違ってなかったのかも知れない。


「こっちはこっちでアタリみたいね?」


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