ギフト
「核?核って?」
「こいつらがここまで言うんだ。黒いモヤを受け入れなかったか?」
ドクターの言葉にウッドはハッとする。黒いもや……もしかして……
「あ!黒い人影!と……セイレーン」
彼らに触れたときの叫びや感情がよみがえりウッドは顔を歪めた。
特にセイレーンの叫びは、あまりの醜さに耳を掻きむしりたくなる。
「それだな。名をつけてもお前さんがここにいるってことは潰せてると思っていいのか?」
「うん……。倒した……と、思う」
短刀が後頭部から眉間を突き破ったのだ。あれで生きている方がおかしい。
「にもかかわらず、こんだけの執着か?何があったよ?」
「ダメなんだ。祓っても祓ってもすぐに来ちゃう。人間がいる限り……」
「スケープゴートは本来、1回核を潰してやりゃあ、それなりに持つはずなんだがな……」
ドクターは首をひねる。顎に手を当てザリザリと無精髭擦りながら聞いた。
「なぁ、あんたら、子どもは何人囲ってる?」
「いない」
「あ?」
予想外の答えにドクターはすっとんきょうな声をあげる。
そんな、ドクターを余所に川の民は続けた。
「勇者ハ穢レヲ祓ウトヰっタ」
「祓うカラ待テト」
「我等ハ約束ヲ違エナい」
「ダガお前達ハどうダ」
「勇者ハ穢レヲ祓わなヰ」
「子どモもよコサなヰ」
「我等ハ穢れテユく」
「我等ノ川モ穢レてゆク」
「これでハ歌エなヰ」
「コレでハ導けナイ」
「こレデは……」
彼らの声には怒りも嘆きも最早ない。
あるのは失望だ。信じて待ったが一向に差しのべられない手。一方的に堪え続ける理不尽。増え続ける被害。
限界なんて、とうにこえていた。
そこに勇者が組織する商隊が子どもをつれて現れたのだ。
贄でないなどあってはならない。
「なるほどな。なぁ、ウッド。お前さん、セイレーンとやらに何を見た?」
ドクターは川の民の口を閉じるとウッドに向き直った。
「何を?」
「なんか、あんだろ?胸糞悪くなるような記憶とか感情とか」
遠い記憶が掘り起こされたのか、ドクターも渋い顔をしている。
セイレーンの見せた記憶は、それまでに見た数多の記憶の中でも少し毛色の違うものだった。
「殺してた……いっぱい。でも、犯人は川の民じゃないよ!他の黒い人たちも川の民のせいだって言ってたけど、川の民じゃなかった!川の民は導いてたのに!」
拳を握りしめ、ウッドが鼻息も荒くドクターに訴える。一生懸命に話しているのだけは伝わってきた。
「そうかい。その記憶は一旦カパーに精査してもらうとしてだ、」
「ドクター、ウッドが何いってるかわかんなかったんでしょ?」
「リンクス、お前さんはちと黙ってな」
ドクターは、リンクスにもフーッと煙をかけて口にできたチャックを閉める。
代わりにリンクスの正面にいた川の民のチャックを開けた。
「なぁ、あんたらがどれだけ子どもを囲おうが、今のままじゃ、一時凌ぎにしかならん。お前さん達を苦しめている原因が何かくらいわかってるんじゃねぇの?」
「ワかっテイたトテ、子どモニしか祓エナぬノだ」
「どウシロと?」
「黙ッテ堪えろトでモ言ウのカ?」
「馬鹿ヲ言ウナ」
「ふザけルナ」
「まぁ、そういいなさんなって。最後まで聞け。いいか、黙って堪えろとは言わん。が、少し時間が欲しい。」
「我等ハ充分待ッタ」
「あぁ、そうだろうよ。だが、その分、核は1つ祓ってやったはずだ。」
「……。……。」
川の民は何か相談するように互いの視線を合わせる。
「なぁ、誇り高き川の民よ。勇者に変わって誓おう。完全にとは言わん。だが、今よりちったぁマシにしてやる。だからな、少しだけ時間をくれねぇか?」
「ナらバ、刻ヲきザめ」
「刻限ヲ誓エ」
「長クハ待てヌ」
「そうさな、次の町に着いてから10日ほどでどうだ?お前さん達の協力も必要だ。」




