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ギフト

「探したんだからな!!このバカ!!なにやってんだよ!!!」


ゲホゲホと水を吐くウッドに容赦なく浴びせられる怒声。


声の主なんて確認するまでもない。

闇に溶けるその身体が、ウッドと川の間に立ちはだかった。


「返セ、返セ、子ドもヲ返セ」


「穢レヲ纏わヌお前ニ何ガワカる」


「帰っテコい、お前は終わルマで此処にヰるト誓タ」  


「行かなきゃ……。川に……約束……」


ウッドはうわごとのように繰り返すとスクッと立ち上がり川に向かって歩きだした。


「おい!待てよ!待てって!」


ガシッとリンクスがウッドの肩をつかむ。


掴んだウッドの肩から自らの魔力を流し込み、ウッドを支配している魔力を乱した。


「リンクス……行かなくちゃ。わからないけど、行かなくちゃいけない気がするんだ……。」


僅かに正気に戻りつつも、訴える黄色い瞳はまだどこか遠くを見ている。


ダメだ……俺じゃ、魔力の扱いが下手で他人(ひと)に干渉できない……。


霧を通じて川の民から流し込まれる魔力を自らの魔力でかき乱してみるが、僅かにさざ波が立つ程度で圧倒的な差を覆すことが出来ない。


このままじゃ、またウッドを持っていかれる!ようやく見つけ出したのに!!


「ケンカして家出した不良少年はどこだ~?実家に顔見せねぇ親不孝猫はど~こいった?おっさんがまとめて向かえに来てやったぜ~。ってな」


ペタペタと安っぽいサンダルの音がして、深い霧の中にぼうっ小さなオレンジの点が現れた。


「お~お~、押し負けてんな。ったく。しょ~がねぇなぁ」


がしがしと頭をかく音がしてふ~っと顔に煙をかけられた。 


ゲホゲホとむせる。煙が目に染みる。

思わずぎゅっと目をつぶった。


しばらくして、煙が散り顔をあげると不思議なことに霧も綺麗さっぱり晴れていた。


「おら、目ぇ覚めたか?」


適当な服によれよれのシャツ。

だるそうに煙草を咥えたエプロン姿の彼は、紛れもなく対魔獣スペシャリストだ。


ドクターに問われ気付く。

あの深い霧さえも幻覚だったのか……。


海のように深く、広いと思っていた川も、霧が晴れた中で見るとどこにでもあるような普通の川だ。


「魔力は乱してやるからお前さん達は奴等に集中しな」


ドクターはにやりと笑って2人の背中を押す。


「このオレが来てやったんだ。なんも心配はいらねぇよ。好きにやりな」


ウッドとリンクスはお互いに目を合わせるとこくりと頷いた。


「ドクター!川を氷らせて!」


「はいよ。」


リンクスは川へ飛び掛かりながらドクターへ声をとばす。


ふーっとドクターが煙を吐き出すとたちどころに川が氷に覆われていった。


「!?!?」


人魚達は氷に阻まれ身動きが出来ない様子だ。


突然のことに彼らがパニックを起こしている間に、リンクスはひょいひょいっと人魚達を陸に放り投げていく。

  

1人、また1人と、人魚が陸に打ち上げられていく。


リンクスが放った人魚をウッドはロープで縛りあげていった。


「ごめんな。本当はあんまり手荒なマネはしたくなかったんだけどさ……。あなた達が苦しんだ末に手を伸ばしてきてるのも知ってる……。でも、ずっとここにいるわけにはいかないんだ。」 


ウッドは彼らを縛りながら語りかける。


「歌われたら厄介だ。喉もつぶしておけ」


ドクターが低い声で指示をだす。


「うん……。でも……歌は彼らの誇りだから。」


甘いとはわかっていても、彼等の本当の姿を知ってしまっては、それを取り上げることなんてウッドにはできなかった。


「そうかい。」


ドクターはふーっと人魚に煙を吹きかける。


すると、彼らの口がむぐむぐっと歪みチャックのように変形した。

 

「わりぃな。オレはコイツらの安全が大事なんだ。ちょっくら黙っててくんな」  


ドクターはヘラっと笑う。 


「一生歌えないって訳じゃねぇんだ。構わんだろう?」


ドクターが感情の読めない表情(かお)で人魚に、語りかけている一方で、川から頭を出していた人魚を全て陸に叩きつけたリンクスは「こっからが本番だぜ~」と悪い顔をしている。


「なぁ?な~んでうちのを呼んだんだよ?普段はここまでしないよな?」


リンクスは適当な人魚の前にしゃがむと人魚の口のチャックを開けながら聞いた。


「我等ニハその権利ガあル」

 

「は?」


「穢レヲ祓えルノは子どモだケダ」


「勇者ハ穢レを祓うト誓っタ」


「先ニ約束ヲ違えタノはお前達ダ」


人魚は憎々しげにリンクスを睨み付ける。

 

「どういうことだよ?」


首をかしげるリンクスを他所に、ドクターは眉間に皺をよせウッドに問うた。


「なぁ、お前さん、核は潰してやれたのか?」

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