川の民
「♪~♪~~♪~♪~~♪」
「♪~~♪♪~♪~~♪♪」
「~♪~♪♪~♪~~♪~」
歌声が1つ、また1つと、増えていく。
セイレーンの作り出す濁流と川の民の作り出す水流は拮抗し徐々にセイレーンの方へ押し返していった。
「届けて!」
ウッドは短刀を4方向へ投げる。
「♪~~♪♪~♪~~♪♪」
「~♪~♪~♪♪~♪♪~」
「♪♪~♪~♪~♪♪~~」
「♪~~♪~~♪~♪♪♪」
上から下から正面から短刀が水流に乗り勢い良くセイレーン目掛けて飛んでいった。
セイレーンは自身の前に水の壁を作り短刀を防ぐ。
しかし、4振り目が遅れてセイレーンの死角から横薙ぎに飛んできた。
スパンとセイレーンの目を潰す。
「あ"あぁあ"あぁあ"ぁ"あぁ"あ"ぁ」
悲鳴なのか歌声なのか凄まじい絶叫をあげるセイレーン。
やつの声が乱れたのを、川の民は見逃さなかった。
「♪~♪~~♪~♪~~♪」
「♪~~♪♪~♪~~♪♪」
「~♪~♪♪~♪~~♪~」
濁流を押し返し、奔流の中にセイレーンを閉じ込める。
ヒュンっと最初に投げた掌サイズの小刀が水の流れに巻き込まれセイレーンの後頭部から突き抜けてきた。
「あ"……あぁあ"……あぁ」
頭をぶち抜かれ、セイレーンはキラキラと光となり消えていく。
後に残されたのは、静かになった水底と、黒い人影だけだった。
「消えた……。」
「穢れが消えた……。」
「♪~~♪♪~♪~~♪♪」
「歌える!今ならば……導こう。」
「~♪~♪~♪♪~♪♪~」
「我らが歌で導こう。」
「♪♪~♪~♪~♪♪~~」
「お前達の行く道を照らそう」
「♪~~♪~~♪~♪♪♪」
「お前達の願いを叶えよう」
「♪~♪~♪~~♪♪~♪」
「愛しき者へ届けよう」
哀しくも優しい歌声だった。どこか懐かしく、落ち着くような、揺りかごのような、そんな鎮魂歌。
黒い人影は涙を流しながら光に包まれて行った。
「なぁ、これで、みんなのところに帰してくれる?」
「終わってない」
「終わらない」
「人間がいる限り終わらない」
「また来る」
「毎日くる」
「子どしか祓ヱない」
「来タ」
「モう来タ」
「終ワラなヰ」
薄汚れた人魚達が綺麗になったのもつかの間。またすぐに汚れが人魚達の身体に現れ始めた。
「ヤメロ」
「我ラは憎クなヰ」
「巻キ込ムな」
「関ワるナ」
「来ルな。見るナ。見セるナ」
「知リタくなヰ。聞きタクなイ。感ジたくナイ」
人魚達は頭を抱えてのたうち周り始めた。
「勇者ハ穢れヲ祓ウと言ッタ」
「聖剣ハどウシた?贄ハドうしタ?」
「我ラヲ騙しタカ」
「赦サヌ許サヌ赦サヌ」
わっと、人魚達がまたウッドに襲いかかる。が、ウッドの身体が後ろにグンッと移動した。
腰に巻かれたロープが引っ張られているようだ。
ものすごい勢いで川の中を移動していくウッドを川の民達が追いすがる。
「逃ガサヌ」
足首をおもいっきり齧られ悲鳴を上げた。川の民はウッドの足を取り、岸ではウッドの巻いたロープを引っ張り綱引き状態になった。
千切れる千切れる千切れちゃう!!!内臓出ちゃう!!!!
苦しみのあまりもがき、のたうちまわっていると、パーンッと気泡が弾けた。
ガボガボガボと水が押し寄せてくる。
鼻から口から耳から穴という穴から水が流れ込む。
どちらが前で後ろかわからなくなる。
苦しい、痛い、寒い、暗い。
「ウッド~!!!!右手で払え!!!」
懐かしい声がした。たいして離れていなかったのに、力強いその声は泣き出したくなるほど懐かしく感じた。
「っ!」
足にしがみついている川の民を言われた通り右手で払う。
すると、信じられないほどの力で川の民が飛んでいった。
「ロープ掴んで!!!一気に引き上げる!!!」
その言葉を信じしっかりと右手でロープを掴んだ。
ぐいっと強い力でロープを引かれ、一本釣りよろしくウッドは岸に叩きつけられた。




