次の村へ
カムペの群れを薙ぎ倒し、突き抜けると、そのまま森林地帯へと入っていった。
「川の音がするね。たぶん、近くに湖もある……かな?」
かぽかぽと馬車を走らせていると、御者台の隣に座っていた、黄色い瞳の少年がすんすんと鼻を鳴らしながら話しかけてきた。
「おお!良くわかったな~。さすがは山育ちってか~?」
「からかうなよ。リンクス」
「別にからかってないって~。気付かないやつは気付かないんだよ。」
リンクスは馬の手綱を握ってはいるが別段操っている様子はない。
馬がかぽかぽと、自発的に前の荷馬車を追っているように見えた。
「なぁ、それ、オレもやってみたい」
あまりにも容易く操っている姿を見て、ウッドは、オレにもできるんじゃね?という気持ちがわいてきた。
「ん~?ここらはダメ。」
「何でだよ?」
「川が近いから」
そういうとリンクスは、焦んなくてもちゃんと仕事は教えてやるから。いいこにしてろと、頭を撫でた。
子ども扱いすんなよな~。
しばらく、他愛のない話をしていると、誰かがウッドを呼んだ気がした。
「……?」
きょろきょろと辺りを見回すも、誰かが自分を呼んでいる様子は見られない。
「どした~?」
「いや、なんか、呼ばれた気がして?」
「っ!?」
その言葉を聞いた途端にリンクスの顔が歪んだ。リンクスは太股につけたホルスターバッグに手を伸ばすとバッと空に何かを投げた。
すると、赤い花火がパーンとあがる。
「リンクス?」
「しっ!いいか?ここからは、何があっても口を開くな。何が聞こえても無視しろ。いいな?」
「え?なんで……?」
「川の民の領域に入ったんだよ」
彼の言葉を最後にさーっと霧が立ち込め周りが見えなくなる。
肌に張り付くような湿度の中は、薄暗く寒い。
「ウッド!あぁ!ウッドじゃないか!」
懐かしい呼び声に返事をしそうになる。
村の男の声だ。ウッドと共に少しの間旅をした。
「元気にしてたか?なぁ、話してくれよ。どんな旅をしたんだ?楽しかったかい?どうした、ウッド?なぁ?答えてくれないか。」
男の声はだんだんと悲しそうになる。
本当は返事をしたい。話をしたい。彼ならきっと短い間に何があったか楽しんで聞いてくれるだろう。
だけど……。
(あの人は……オレの名前を知らないよ)
すると今度はリンクスの呼ぶ声がした。
「ウッド~。もういいぜ~?なぁ、どこにいるんだよ?返事しろ~。なぁ?ウッド?ウッド!返事しろって!!!うっど!!!」
リンクスの声はだんだんと切羽詰まったような声になっていく。心配をしているのだろう。少しずつ声が荒げられていった。
(リンクスは、もっと大事そうにオレの名を呼ぶよ。あの夜、2人で決めたから)
「リンクス、ウッドさん、どちらに居ますか?この地帯は危険です。ワタクシの所へ来てください。守ってさしあげます。」
(カパーさんは、そんなこと言わない!)
リンクスに言われた通り声を出さないよう堪えていると、ふわぁと霧が薄くなった。徐々に霧が晴れていく。
霧と共に声も遠くなっていった。
「抜けたな!」
まだ、うっすらと霧が残るなかでも、トパーズの瞳はしっかりと持ち主の位置を告げていた。
「お前がいち早く気付いてくれて助かったよ~。飛べる奴らは逃げ切ったろうし、対策とれたやつも多いんじゃないか?お手柄だな。」
リンクスが珍しく褒めてくれたことが嬉しくて、照れてしまう。
へへっと頬を掻こうとして、右手の違和感に気付いた。
パッと見るとリンクスのしっぽが、しっかりと巻き付いている。
「リンクス……これ」
右手を持ち上げてリンクスに見せると彼は、あっさりと言い放った。
「あ~、それ?迷子紐」
かっち~ん、と、ウッドの中でゴングが鳴った。




