祭りの役割
問題の畑に戻ると既に大勢の人間が戦っていた。
「リンクス!!!」
カパーが声を張り上げると程なくして黒い影がシュタッと現れた。
「状況は?」
「エイルはまだ耐えていますがいかんせん量が多いのでなんとも。待機部隊30名を総動員していますが、実質戦っているのは10名ほど。残りは村人の避難に割いています。」
まるで知らない人みたいだった。真っ黒い彼が、こんなにも、温度のない声を出すなんて知らなかった。
いつも、彼の居場所を教えてくれるトパーズの瞳も、冷たく見えた。
「よろしい。そのまま村人の避難を最優先に。どうせ村人らが散れば消えるのです。対カムペ戦闘は彼らに任せましょう。我々はエイルを連れていきます。」
そういうとカパーはウッドの、背中を軽く叩いていった。
「ルウォを呼んでください。貴方にしかできないことですよ。」
突然のことに全く頭がついていかないが、ひとまず呼んでみた。
オレにしかできないって……どういうこと……?
「ル……ルウォ~……ルウォ?」
「もっとしっかり。自信をもって。ちゃんと彼を求めてください」
「……。ル…ルウォ~!!!ルウォ!!!来て!!!」
自信を持ってといきなり言われても困る……が、やるしかない。腹を決めて叫んでみる。ルウォに来てくれと伝えるつもりで叫ぶと、ぽわっと身体が暖かくなった。
ぽわぽわと少しずつ自分の身体から、白銀の光が漏れだし始めた。
やがて、ドドドッドドドッという、聞きなれた音がして、ルウォが姿を現した。
いや、あいつ本当にルウォか……?
いつも、眩いほど白く輝いているルウォの身体が薄黒く汚れている。
ブチ模様だったかな?と、思うほど真っ黒く汚れている部分すらあった。
ルウォが嘶きながらクイッと首を上下に動かすと、カパーは馬の首を、もと来た方へ巡らせ、走らせ始めた。
「行きましょう。あまり時間がないようだ。」
ルウォを先導するようにカパーが走り始める。全速力でとばしているようだがそれでも魔獣の速さには叶わない。
追いつかれ、抜かされた。
「ヘリオス!我々では追いつけません。先導を!」
「おまかせを!」
サラマンダーに乗った少年は「はっ!」とサラマンダーに拍車をかけると、あっという間に見えなくなった。
「魔獣使い(ビースター)の皆さんは、できる限りのスピードで彼らを追ってください。ルウォが我々を抜いていったということは、間に合わない可能性が高いでしょう。」
そう、言いきるか言いきらないかのうちに、遠くで火柱が上がった。
「間に合いませんでしたか。」
その後、空に向けて2回火の玉が上がった。
「進むそうです。我々は片付けを。」
馬を進めていくと、焦げ臭い臭いが漂ってきた。住宅街にも関わらず、周りが焼き焦げている。地面にはカラッカラの炭が落ちている。ウッドと同じくらいの大きさはありそうだ。
「ヘリオス……市街地では魔法は控えめにと……。いえ、彼なりに村の被害を考えてのことなのでしょう……。みなさん、準備はいいですね?」
そういうと、ずるっずるっという音と共にカムペが現れた。いや2~4匹はカムペだが、あとの数匹はカムペですらない。
黒いグッチゃっとした影だった。
「隊長。ここは私だけで十分です。お先へ」
黒馬に乗った騎士が進言した。彼は既に刀を抜いていた。
「えぇ。任せましたよ。3分差し上げますから、すぐに追いついてくださいね。」
「片付けるには申し分ないですが、隊長の馬に追いつくのに3分とは、無茶を仰る。ですが、やってみせましょう。」
ニヤリと騎士は笑うと、馬を駆り立てた。
騎士に続いてカパー達も馬を進める。サービスですよ。とカパーが呟くとカムペ達は一瞬だけ動きを止めた。その隙に騎士がカムペを一気に仕留めるのが見えた。
そこからは、転々とカムペが落ちていた。まるで、穴の開いた袋が通ったかのように転々と。
カパーについてきた騎士達は1騎、また1騎とカムペ討伐のためその場に残り、隊列から外れていった。
やがて、村の出入口まで来ると、カパーは木門を開け外へ飛び出した。
木門は自動でしまるようになっていた。
門の外では大量のカムペとカムペのなり損ないが、討伐部隊と戦っていた。
カムペの中心にいるのはエイルだ。
エイルとルウォがカムペを生み出していた。




