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プロローグ

初めて小説を書いてみました。

ずっとやってみたいなと思っていたものの、なかなか勇気が出ず……どうか暖かい目で見守っていただけますと嬉しいです。


そして、お気に召さなければ、その気持ちは伝えずに、引き返してくださいませ。

素敵な物語は幾千幾万とございます。

クオリティの高いものを読みたければ、どうぞプロの紡いだ物語をお楽しみください。


ここでは、わたくしの妄想を垂れ流しているだけにすぎません。もし、それでも、何方かのお心に寄り添うことができますればそれ以上の喜びはございません。


至らぬばかりの稚拙な文章ではありますが、読んでくださった全ての方に最大級の感謝を



この国では勇者が絶対的存在だった。

魔王から世界を救った勇者。みんなの憧れ。


この国に住む者ならば知らないものはいない。憧れない子どもはいない。


みな、大きくなったら勇者になるのだと語る。なれはしないのに。



 村外れの小さな森に、かろうじて建っているような、小さな掘っ立て小屋がある。


もともとは、きこりが集めた資材を一時的に保管したり休憩のために使ったりしていたものだ。


暖炉や井戸が備え付けられており、最低限火を起こしたり、水を汲んだりはできるようになっていた。


とはいえ、長らく放置されていたこともあり、とても人が住めるような環境ではなかった。


そこに、いつの頃からか子どもが1人住み着いていた。


子どもはひょろっと痩せており、纏う物もぼろ布を身体に巻き付けただけという、いかにもな孤児だった。


しかし、底抜けに明るい表情と、どんな仕事も全力で行う誠実さから、村人に受け入れられ生活には困らなかった。


 そもそも、魔王の脅威から解放されたこの国では、生活に困ることの方が少ない。


人々は他者を羨む心や憎しみから魔王が生まれることを知った。人々の悪意は魔物を産み、やがて魔王へと成長させる。


蹂躙され飢えに喘ぎ他者を売り、明日は我が身と震えながら残虐な拷問を待つ日々の末に誓ったのだ。


もし、もしも、解放される日が来るならば……誰も苦しまない世界を創ろうと。


そして、解放の時は来た。


勇者なるものが生まれ、冒険の末に魔王は倒され、平和な世となった。


二度と魔王の復活がないよう、人々は慈愛の心を持ち、互いを助けるよう努めた。


 50年も立てば人々は慈愛の心や互いを助けることの意味を忘れる。


なんとなく、そうするのが当たり前なのだから人に親切にするのだと。


100年も立てば魔王の支配を知っている世代もいなくなる。


魔王も勇者も伝説となり、人々は平和を当たり前なのだと思うようになった。


それでも他者を助ける心は変わらなかった。むしろそれはより純粋なものへと変わっていた。



春らしいスッキリとした天気の中、遠くから子どもが元気よく走ってくるのが見えた。


「やぁ、坊主。今日も来たのかい?今日は橋向こうの奴らが働き手を探していたよ」


ここは王都から数100km離れた最果ての村。


山中にある、木々に囲まれたのどかな村だ。


村人は貧しいながらも林業や農業、狩り等を行い生計を立てていた。


中肉中背の男が畑を耕す手を止めて、ぼろ布を纏った子どもに声をかける。男も決して裕福とは言えない出で立ちをしていた。


「ありがとう!おじさん!橋向こうだね!行ってみるよ!」 


子どもが大きく手を振ると茶色い髪がふわふわとはねた。


子犬のような無邪気さに男は目を細めて微笑んだ。


「たまには、休んだって構わないんだ。仕事だけじゃなくて遊びにおいで。」


心からの言葉なのだろう。しかし、男には孤児の面倒をみるだけの余裕がないことくらい子どもにもわかっていた。


「それじゃあ、熊でも仕留めてもっていくよ!!待ってて!!」


両手を大きくふりながら子どもは走り去っていった。前を見ろと、もう小さくなってしまった背中に声をかけてから男は畑へ向きなおった。


 この村の者はみな、今日を生きるだけで精一杯だ。100年という月日は長いようで短い。末端の村までは復興の手が回りきっていなかった。


「こ~んに~ちは!!橋向こうの村で働き手を探してるって聞いてきたよ!何をしたらいい?」


木こり小屋から1.5kmほど離れた橋を渡り隣村へやってきた。


山頂の湧水を水源に流れてくるこの川は、古くからこの国の生活を支えていた。


橋を渡るとすぐ林があり、この林を抜ければ隣村だ。


いつもならばこの辺りに人がいることはあまりない。


しかし、今日は橋の上で地図を広げ、大人達が何やら難しい顔で話しをしていた。


「ん?あぁ、お前か。それがな、ちっと困ったことになってな……」


話を纏めるとこうだった。


先日の大雨で川が何ヵ所か氾濫し、道はぐちゃぐちゃ。


もともと氾濫する川ではあったので村自体の損害は大したことないのだが、こうもしょっちゅう氾濫されてはかなわない。


何よりこれでは町から来るはずの商隊が村にたどり着けない。このままではそろそろ備蓄が尽きそうだ。と。


川の水位はいつもより少し高いものの水面は穏やかだった。


この位置からは見えないが、おそらくいつも通りこの先の林がダメになっているはずだ。


子どもは、目を強く瞑り、眉間に皺を寄せた。それは、彼が考え事をする時の癖だった。


しかし、解決策なんか何も思い付かない。それでも何とかしなければという思いで縋るように呟いた。


「こんなとき……勇者様がいたらなおせるのかな……」


すると、ガタイのいい男が意外なことに自分の呟きを拾ってくれた。


「そうだな。勇者様に伝えることができたら何かしらの支援を貰えるかもしれないな」


子どもはパッと男を仰ぎ見た。無垢な瞳が嬉しそうに輝いている。


ガタイのいい男は、国を納めている勇者の末裔へ、この惨状を届けられれば、資材や人を派遣してくれるのではと考えたのだ。


「しかし……こんな末端の村まで支援を送ってくれるだろうか……。」


地図を広げ、共に被害を確認していた男達がそれぞれの意見をのべる。


「あの!伝説の勇者様の末裔なのだ!送ってくださるにちがいない!」


「送ってくださったとして、支援が届くまでにいったいどれだけの月日がかかるのだろうか……」


村の男達の反応は芳しくなかった。ガタイのいい男は黙ってそれぞれの意見を聞いていたが、1度しょんぼりとうなだれている子どもに視線を向けた後、口を開いた。


「しかし、他に方法がないのも事実だ。

魔王がいなくなってから100年。この川に住んでいたモンスター共もほとんどいなくなった。


お陰で橋を渡せるようになったし、安全に水を得られるようになったのはいいんだが……。」


う~む。と唸るように口を継ぐんだ男の後を他の男達が引き継いだ。


「まさかモンスターの減少と共に水害が増えるだなんて思ってもみなかった。」


「モンスター共のいなくなった今じゃ、少量の雨で氾濫する始末。」


「このままではいたちごっこだ。その都度対処をするにしても限度があるぞ。いっそ埋め立ててしまおうか。」


「それでは生活が成り立たなくなるだろう。ここは、やはり勇者様に……」


少年は、大人達の話し合いに参加しなくてはと、眉をキリリと引き締め、大人達を見上げる。 


しかし、あいにく話の内容はよくわからなかった。


よくわからないながらも、子どもは、両手を握りしめ、うんうんと頷いていた。頷くと茶色い癖っ毛が揺れる。


ガタイのいい男はそのふわふわと動く茶色い髪を撫でながらいった。


「そうは言ってもだな……この村は末端だからこそ、モンスター共はいないし、いてもせいぜい低級モンスターだ。


魔法の使えない俺たちでもなんとか逃げ切ることはできる。


だがな、外に出たらそうは行かないだろう……。」


100年たっても復興しきれない理由の1つがこれだ。


魔王を倒したことで、モンスターは弱体化し、徐々に数を減らしている。とはいえ完全にモンスターの絶滅迄には至っていない。


魔物の被害は王都のある中心街が、今尚最も酷い。逆に、王都から離れれば離れるほど魔物の数は減り、弱くなっていく。


故に末端の村は優先度が低くなかなか手が回っていないのが現状だ。


逆に言うと手が回らずとも人が生きていける環境にはあるということでもある。


安全な村から出るリスクを冒してでも、王都へ助けを請う価値があるのか……。


ただ、商隊が来られないとなると死活問題だ。衣類や農具等の生活必需品は商隊に依存している。


どちらにせよ商隊には知らせを出さなくてはならなかった。


王都に現状を届けるならば、遣いの者を商隊に合流させれば良い。


しかし、誰が行けるというのだろう。今日を生きるのに精一杯のこの村には、余分な男手など存在しない。誰かを長期間外に出すわけにはいかないだろう。


かといって女に行かせるわけにもいかない。何故かモンスターは女性を優先的に襲う傾向があるからだ。リスクが大きい。


とりあえず現状維持でもよいのではないか。という意見が強い。


長引くかに思われた話し合いは子どもの一言であっさりと結論がでた。


「勇者様にあえるの!?!?行きたい!!!」


ビー玉のような黄色い瞳をキラキラと輝かせこちらを見上げている。


大人達は、思わずまじまじと子ども見つめた。


年の頃は10~13歳くらいだろうか。子どもらしい大きな瞳に、口角の上がった口元が人懐っこい子犬を連想させる。


まだ幼いが、あのキコリ小屋で気付いたときには自活していたのだ。1人で旅に出しても生きていけるだけの力はあるだろう。


性別は男だ。女よりもモンスターに狙われにくかろう。


何より子どもは、モンスターに出くわしても、何故かモンスターが子どもを拾い、育てることがある。大人よりも命を落とす危険性が低い。


商隊と合流させ、王都を目指せば比較的安全に勇者様のもとへ現状を届けられるのではないか?という考えが大人達の頭に浮かんだ。


「行ってくれるのか……?」


ガタイのいい男が膝を曲げ、子どもに目線をあわせて話し始める。


とても危険だということ、行っても勇者にあえる保証はないこと、会えたとしてもそれは、末裔で、物語に出てくる勇者とは別物だということ、楽しい旅ではないこと等を告げる。


子どもはわかっているのかわかっていないのか、「みんな困ってるんだよね?なら行くよ!!困ってる時は助け合わないとでしょ?

それに、勇者様にあえるかもしれないなら、行ってみたい!」と、まぶしいくらいの笑顔で答えた。


1度村に戻り、橋向の村と森側の村で話し合うこととなった。




「いいか、商隊と合流するまでは俺も一緒に行く。そこからは商隊の指示に従え。」


よく晴れた朝だった。村人は街道のある森へ集まっていた。


先日の氾濫で流されてきた大木や岩を片付けなくてはならない。氾濫から数日たっているというのに、足元はまだ、ぬかるんだままだ。


朝のひんやりとした空気の中、数十名ずつにわかれ、倒れた大木に丸太を噛ませ、ロープで引っ張る。


魔法さえ使えれば楽なのだが生憎魔法を使える者はこの村には少ない。


使えても、せいぜいが地下水の場所がわかるとか、温泉の場所がわかるとかそんなものだ。この村ではなんの役にも立たない。


それでも、魔法を利用した道具は存在する。


本来の威力よりは格段に落ちるが、重力を緩和するものや素材を脆くするもの等を使えば少ない人数でも復興作業は可能だった。


手慣れた様子で指示を出す男達の中を、ガタイのいい男は子どもの手を引いて歩いていた。


街道が塞がってしまっては、獣道を切り開いて進むしかない。彼らの役目は商隊と合流するべく山を下ることだった。


男は大きな荷物と弓矢を背負い、腰にはククリ刀を下げていた。


子どもにとっては、狩りの手伝いくらいはしたことがあっても山を降りるのは始めてだろう。


男は1度しゃがみ、子どもと目を合わせてから声をひそめた。


「お前は頑張り屋だからな。心配なんだ。本当にいいのか?今ならまだ引き返せる。」


大きな荷物がずしりと重い。子どもなら尚更だろう。


子どもは少し考えてからにっこりと笑った。


「う~ん、難しいことはよくわからないけど、オレ行ってみたいんだ!早く行こう!行かなきゃいけない気がする!」


そういって子どもは、繋いでいた手を引いて走りした。


男とそう変わらない荷物を背負っているというのに何故そんなに身軽に動けるのか……。


おい、まて。ぬかるんでいるから慎重に……と、言おうとした時には2人とも、もう滑って転んでいた。

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