Capture1 【 理解できない 】
桜が舞い散る道路が桜色に敷くこの日、3年生は卒業を迎えた。
卒業生達はそれぞれの道へと分かれ、別の道へ進み始める。
しかし
そんな別れをする前に、どうしても自分の気持ちを伝えたいと思う者達もいる。
「東連寺 奏恵さん! 初めてお会いした時から好きでした! 俺と付き合ってくださいッ!!」
今日、中学を卒業する事になった女子生徒、東連寺 奏恵。
成績優秀、スポーツ万能の文武両道であり、容姿端麗といった美貌を持つ完璧令嬢。
親は世界有数の財閥の社長であり、祖父はその会長を担っている。
そんなお嬢様の彼女は今日、これで何度目か分からない告白を受けていた。
「お断りします」
そして、これで何度目か分からない同じ返答をしている。
「だいたい、私は貴方の事を知りません。 貴方も私の事をよく知らないでしょう?」
東連寺は告白してきた男子生徒に詰め寄り鋭い視線で睨みつける。
「貴方、テストの学年順位の平均は?」
「へ? えっと・・・真ん中、くらい?」
「体育の成績は?」
「4・・くらい」
「部活動の成果は?」
「剣道で、県予選落ち」
「・・・はぁ。 話にならないわね」
彼女は長髪の黒髪をなびかせ、まるで見下すような目で男子生徒を見る。
「いいですか? 私はこれから世界有数の超難問校と言われた学園に入学します」
東連寺が卒業後に入学する高校は世界に3校しか存在しないと言われている超エリート校。
そこに入学して卒業すれば大学生活も社会に出てからもエリート人生を約束されていると言われている。
その為、毎年入学される生徒は人数が限られ、さらに卒業する生徒は入学時の半分になる。
「そんなエリート校に入学する私が、そもそも恋愛なんてしてる暇なんてないんです。 だいたい、よくもそんな成績で私が貴方を認めると思いましたね」
「―――俺はッ!」
「いえ、もうこれ以上私が貴方から聞く言葉はありません」
彼女は告白してきた男子生徒が何かを言おうとしている言葉を遮り、一言呟いた。
「理解が出来ないわ」
そうして東連寺は男子生徒を置き去りにして、中学校生活最後の正門を後にした。
◇ ◆ ◇ ◆
―――1年後
『 在校生代表、東連寺 奏恵 』
「はい」
超エリート校に入学して1年。
私は学年主席という名目で今日、新入生達への祝辞を任せれ、ここにいる。
今年は例年にない新入生が入学している事で、私が入学してきた時よりも多い。
だけどそんな事はどうでもいい。
この程度、緊張する範囲にすら入らない。
「在校生代表の東連寺 奏恵と申します。 新入生の皆様、御入学おめでとうございます」
そうして私は、何の問題もなく祝辞を終え、入学式は無事に終了した。
新入生達が体育館を退出した後にも、私の仕事は残っている。
新入生とその保護者達の席を片付け、椅子の在庫管理をする所まで在校生の仕事だ。
私はその中の責任者として、最後まで任された仕事を全うした。
「さてと、あとは確認した在庫と片付けが終わった事を報告して・・・ん?」
他の手伝いに来てくれていた在校生達を先に解散させ、体育館の戸締りをしている時だった。
胸元に新入生が付ける花を付けた男子生徒が私を見て立っていた。
「貴方、新入生よね。 どうしたのこんな所で?」
「やっと、会えました! 東連寺さんッ!!」
「・・・はい?」
突然名前を呼ばれ駆け寄ってくる新入生に、私は思わず後ずさる。
「えっと、ごめんなさい。 私、貴方と何処かでお会いしたかしら?」
「はい! 去年に1度!」
去年? 1度?
私は新入生に怪訝な表情を浮かべながら去年の記憶を思い浮かべる。
私くらいになれば1年くらい前の記憶なんてすぐに思い出せる。
「・・・まさか」
そこで、私は想像もしなかった1人の中学生男子を思い出した。
1年前、中学の正門近くで告白してきた男子生徒の事を。
明らかにエリートの道に進む私とは釣り合うはずの無い凡人の男子を。
「あの時は名乗る事も出来なかったら! 改めまして!」
そうして彼は私の手を握り絞め、嬉しそうな笑みを浮かべる。
「俺の名前は上木 大智って言います! 東連寺さん! 俺と付き合ってください!!」
再び告白してきた凡人に天才は思わず言葉を漏らした。
「理解、できないわ」