第7話 ファストトラベル
姉がプレイヤーを引き継いで再開です。
第七話 ファストトラベル
◇
「さて、時間も出来たし、遊んでみるかなー」
少年の姉である桜子はコントローラーを握りゲームを起動する。
弟が叔父から譲って貰った【ワンダークエスト】と言うタイトルのゲームをまだ序盤にも関わらず、途中で面倒くさくなって投げたので、そのセーブデータを引き継いで遊ぶことにした。
ジャンルはRPGで、弟の話だと設定や世界観はどこかで見たような感じだけど、選べる選択肢や会話イベントとかも、かなり多くてなにやら大変で面倒だそうだ。
「主人公の名前は『ピヨヒコ』か、まあ予想はしてたけど……」
前に飼ってたヒヨコッコと同じ名前だったので、少し懐かしい気分になった。
愛嬌があって人懐っこくて可愛い鶏だった。
弟のとしをはゲームでよくこの名前を使う。
個人的にはキャラクターのイメージに合った名前の方が良いのだが、変更する為だけに、また最初から始めるのも何か面倒だし、このままでも別に良いかな。
私も最後までプレイするかまだ分からないけど、弟が遊んでたのを後ろで漫画を読みながら眺めてた感じだと、そこそこ面白そうな印象だったので期待はしてる。
それに実はこのゲームを貰った時から私も遊んでみたいとは少し思ってた。
滅多に家には訪ねて来ない叔父だけど、会った時には色々と面白いゲームや玩具とかもくれたりする。
性格は何か掴み所がなくて変わった人って印象なんだけど、別に嫌いではない。
ゲーム業界で働いてるらしいけど、どんな仕事をしてるのかは良く知らない。
叔父が訪ねて来た時にこのゲームをとしをが目を付けて興味を持ったのか、駄々をこねて無理やり譲って貰った感じだ。
叔父は量販店のワゴンセールで買った中古のゲームだから大した事ないとか言って誤魔化してたけど、本当かどうかは分からない。そしたら弟は、大した事ないなら頂戴とか言って半ば強引に叔父からそのゲームを強奪したのだ。
叔父は少し困った表情をしてたけど、弟の執拗な“クレクレ口撃”に折れて諦めたのか困惑しつつも譲ってくれた。
うん、我が弟ながら酷いことするなと感じたね。しかも始めたは良いけど飽きて序盤で直ぐに投げるとか、流石にそれはどうかと思うぞ。
それで然り気無く弟に交渉してみたら引き継げたのでラッキーだとは思った。
タイトル画面からロードを選択して開始すると前回の続きのギルド宿屋の前からだったので、メニュー画面から装備や手持ちのアイテム、進行中のクエストの確認などしてからゲームを始める。
「なに、このカードみたいなアイテム?」
引き継いだばかりでまだ全然システムとかも分からない状態だけど、起動したら何か可愛らしい女の子のキャラが出てきて用途の不明なアイテムを貰った。
名称は【ネームレスカード】名無しのカード? なんのこっちゃ。
もしかしたらこのゲームのマスコットキャラクターかもしれない。
何か隣には薄気味悪い本に目玉とギザギザ歯と口がある魔物みたいのも居るんだけど、これもマスコットキャラか?
弟が言うには、何やらオンライン要素とかもあると言ってたので、もしかしてログインボーナスとかもある感じなのかも?
それに他にも何か変なアイテムが幾つかあるんだけど、何これ?
ストーリーを進めてチュートリアルが済めばどんなアイテムか判明するかな。
「と言うかメインシナリオの進行を確認すると、まだ序盤っぽい感じだな、としをもそこそこ長い時間、ゲームを遊んでた印象はあるんだけど……」
取り敢えず所持してる魔物の肉が売れるみたいだから、売ったお金で必要そうなアイテムを買ってから、何か面白そうなクエストでもあれば遊んでみるかな。
確認するとどうやらメインクエストは仲間と一緒にお城方面の特定の場所に行くと発生するらしいのだが、まだ戦闘とかも試してない状態なので、ギルドの掲示板でクエストでも適当に選んで、世界観とか戦闘システムを理解する事にしよう。
◇
「……あの少年は何処に行ったのだろう?」
ピヨヒコ達はギルドの宿屋から出て、魔物から手に入れた食材を売る為に肉屋に向かって歩いていた。だが以前とは違う変化があった。
背後の画面を見るといつもの少年ではなく、若い女性が居たのだ。
前にも一度見た事がある、スラッとした印象の黒髪の少女だった。
どうやら画面の向こうにも空間があって、少年以外にも人が居るようなのだが、あの画面の中はどうなっているんだろうか? 異世界にでも繋がってるのか?
一連の出来事も含めて、何が起きたのかまだ理解が出来てないので、ピヨヒコは歩きながらここまでの経緯を振り返ることにした。
◆
「――あれ?」
暗転してた意識が覚醒すると前回と変わらず宿屋のカウンターの前に居た。
目の前には変わらず宿屋の女主人が居るが、無言でこちらを見ている。
「どうしました、大丈夫ですか勇者様?」
「うわっ、ビックリした!?」
後ろに立っていたアルマが心配したのか声を掛けてきた。
てか何でアルマもここに居るの? え、瞬間移動した!?
「あれ、さっきまで俺達、二階の二人部屋で過ごしてなかったっけ? それなのになんで今はもう宿屋のカウンターの前に居るのかが分からないんだけど……」
「えっと、ですね、それは宿屋のベッドで休んだので、寝て体力が回復して時間が進みチェックアウトをする為にまたこの場所に移動したんですよ」
まるでそれが当然の出来事だとでも云わんばかりに返答された。
は? 時間が進んだ? 時間が進んだってどう言う事!? てか寝たの? 寝た記憶なんてないんだけど!? それに移動したって一体どうやって!?
ピヨヒコは説明されても理解が追い付かずに混乱する。
周囲を観てみると近くに居た冒険者達はクエスト掲示板を確認したり、仲間内で話しながら酒場で食事をしていたりと、各々が朝の時間を過ごしていた。
宿屋の窓から外を確認すると本当に既に夜ではなく次の日の朝になっているようで、窓からは朝日が射し込んでいた。
「嘘だろ、なんでこんな、こんな事まで起きるのか、この世界は!?」
「大丈夫ですか、勇者様……」
「え、あ、ああ、大丈夫、だ」
この世界の宿屋の仕組みとはそういうものらしい。どういう原理なのか、まるで理解が出来ないし納得もできないのだが、アルマの反応だとそれがまるでこの世界では“常識”のように感じる。
「すぅー、はぁー……」
ピヨヒコはあまり動揺してアルマを心配させたくなかったので、平静を保つ為に両手を振り上げ深呼吸して心を落ち着かせる事にした。
受け入れ難い状況なのだがこれがこの世界の“ルール”なら受け入れるしかなさそうだ。
突然の奇行にアルマが不思議そうな顔で見ているが気にしない。いや、やっぱり少し気になるから、そんな好奇な視線を向けないで!!
よし、大丈夫だ、俺は勇者だ!
自分の使命を思い出し、取り敢えず落ち着いたのでギルドから出る事にした。
まだ全然納得は出来てないけど、いつものように身体が勝手に動き出す。
アルマも黙ってそれに従い後ろをついて歩いて来る。
ギルドを出ると直ぐ近くに噴水広場があるので、そこで今後の予定とかを決める事にした。ここはアルマと初めて会った場所だ。
周りには他にも冒険者とか住人達も多く居て、朝の賑わいを感じた。
この付近には前にも見掛けた謎のオブジェクトみたいのも置いてある。
そう言えばもう1つ気になっていた事があったのでアルマに聞いてみた。
「そう言えば宿屋の女主人から小声で『昨夜はお楽しみでしたね』と何か意味深な感じで言われたんだけど?」
「あ、えっと、それはその……あの、冒険者の男女の2人パーティーで二人部屋に泊まるとですね、恋人同士と思われるのかそう言う決まり文句になってるようなんですよね」
少し恥ずかしそうにアルマはそう答えてくれた。
「ああ、じゃあ別に俺がアルマに何かした訳ではないのか、時間が飛んだとか言われたからその間の記憶が曖昧なんだけど……変な行為とかしてないなら良かった」
「ふぇ、変な行為!?」
「え、なにその反応!? やっぱり何かあったのか!?」
「あ、いえ別に、何もなかったですよ」
「? それなら良いんだけど」
時間が飛んだ、とか言われても俺自身は何が起きたか分からないから、何かしたどころかベッドで寝た記憶すらないのだが……
でも先日の戦闘の疲れは特に感じないし頭は妙にスッキリはしてるので、寝不足とかの心配はなさそうだ。
何故か分からないが体力も万全な状態だ。
「それじゃ勇者様、今日はこれからどうしますか?」
「うーん、取り敢えず倒した魔物から入手した肉を売りたいかな、それと回復薬が薬草しかないからもっと使い勝手の良い回復ポーションとかも欲しい」
「そうですね、それなら魔物の肉を扱うお店の場所は私も知ってるので、先にそこに向かいますか? それと回復アイテムなら道具屋でも売ってますが、ポーション類を扱うお店なら職人区に私がよく利用してる馴染みの店もあるので、そこの場所も教えますね、知り合いの薬師が営んでいるところなので」
「ああ、場所とか俺はよく分からないから案内してくれるなら助かるよ」
「あ、それならこれをどうぞ、使ってください」
「む?」
そう言うとアルマは地図を取り出して詳しい場所を【マーキング】してくれた。
目的地をマップから選択して意識すると、目の前に何やら“矢印”のようなものが出現した。
それに従って歩くと、迷うことなくその場所まで辿り着けるらしい。
いや、なにこれ? どう言う原理だ?
理屈とかは分からないけど便利だな……そう思いながら一般居住区にある肉屋に向かう。不可思議な現象なのだがアルマも目の前の矢印を特に気にもせず平然としているのでこう言うものなのだと無理やり納得する事にした。
「そう言えばまだこの王国の地図すら持っていなかったな」
「ギルドと連携してるお店の場所も詳しく載ってるので持ってると便利ですね」
道具屋とかでも見掛けなかったけど何処かで売っていたのだろうか?
そんな事を考えてたらアルマからその地図を手渡された。聞いたらそのまま使っても良いと言ってくれたので、感謝しつつ有り難く使わせて貰う事にした。
この町の外や、魔王城の場所を示したこの大陸の地図とかもいつか何処かで手に入るのだろうか?
◆
そんなこんなで現在に至る。
「……あの少年は何処に行ったんだろう?」
「勇者様どうかしました?」
「あ、いや、何でもないよ」
思い出したかの様に背後に浮かぶ画面を確認したら、いつもの少年ではなくいつぞやの少女がそこに居た。疑問に思いつい口に出していたようでアルマに聞き返されたが他の人にはその画面は見えてないようなので、誤魔化しつつ肉屋に向かう。
この少女が誰であろうと今もまだ自分の意志と関係なく操られているのは間違いないので、不本意ではあるが仕方なく受け入れる事にした。
背後から追従してるだけなので普段は視界にも入らないしもうそこまで気にならない、と言えば嘘にはなるが、なるべく気にしない事にした。
そう言いつつもピヨヒコの【スルースキル】は既に意識しなければ背後の画面を認識しないレベルにまで上達していた。
アルマと話す時も視界に入っているのに脳が画像を認識しないようで、ここまで画面の中の人物が変わってる事にすら気が付かなかったのだ。
「ふーむ……」
改めてその少女を見てみると何処か楽しそうな緩い顔をしていて少し気が抜けるが、少年と比べても敵意みたいなものも感じないので、こちらもあまり不快な気分にならないから何となく楽だ。心が落ち着くって良いことだ。
あの少年の方は何やら苛ついてる事もあって、背後からギスギスした嫌な気分が伝わってきて精神的にも少しキツかったのだが……
そう言えば“背後”と言えばもう1つ気になる事もあるんだけど、こちらも悩みの種ではあるのだが、どうしたものか……直接聞いた方が良いのだろうか。
そんな事を考えてたら目的地に着いた。目の前の矢印は到着すると消えた。
釈然とはしないが取り敢えず店に入る事にした。
「はーい、いらっちゃいませ」
【骨肉屋サンパロス】この肉店はそんな店名らしい。店内に入りカウンターに向かうと、なにやら忙しそうに働いているおかっぱ頭の4歳くらいの女の子が対応してくれた。
つぶらな瞳でまだ幼女と言ってもいいような年齢だ。この店の血縁者とかだとは思うけど、こんなまだ小さな子どもが働いても問題ないのだろうか?
そう思いよく見てみたら、血の付いたエプロンを着けて右手に包丁を持っていたので少し警戒して身構えたが、用件を聞かれたので所持していた肉をカウンターに出現させて買い取りを頼む事にした。
何故か体積に比例した大きさではなく、魔物の種類によって決まった大きさの肉の塊なのだが、今まで倒した魔物の数だけあるので、そこそこの量と数だ。
「あい、換金でちね、ありがとです、査定するので暫くお待ちください」
そう言うとひょいと肉を持ち上げ種類で分けて重さを量ったりしてた。幼い女児が軽々とファングボアの大きな肉の塊を持ち上げて驚いた。
そのままトコトコとお店の奥の部屋に取り出した魔物の肉を持って歩いていく。
「いやスゴイ幼女だな、見た目と強さが比例するとは限らないけど侮れないな」
周囲を見渡すと肉以外にも野菜等の食材や料理器具とかの販売もしてるようだ。ショーウィンドには各種の肉を部位に分けて精肉加工して売っていた。
冒険者が狩った魔物の肉をここで精肉してから販売してるようだ。お城やギルドなど大口の取引相手や、レストランを経営する料理人に、この国に住む人達とかもきっとこの店を利用しているのだろう。
「この店で加工されたお肉はお城とかギルドの他にもこの居住区にあるレストランや市場とかにも卸されますね」
「なるほど、この王国の人口とか詳しくは分からないけど、毎日それだけ肉も必要だから大変そうだな、運搬や加工の手間も掛かるだろうし」
そんな事を考えていたら思考を読まれたかのようにアルマにも説明された。
「そうですね、魔物の種類によって相応に取引価格とかは変わって来ますが魔豚とか魔牛、魔兎などが一般的にはよく食べられてますね、それと近場の川辺から魔魚も獲れますし、遠方の港町から海の幸も輸入してますから、魚料理も一応はありますよ」
「ギルドの酒場でメニューを見た感じだと色々と美味そうな料理があるみたいだし食事も冒険の楽しみではあるよな」
「冒険者の中には食材クエスト専門の方も居ますね」
「美食家の冒険者か、強い魔物に立ち向かうならそれなりに実力も必要だよな」
そんな会話をしていたら、なにやら店の奥から、ズダーン、ズダーン、と何か物々しい音が聞こえるのだが、想像すると何か怖いので耳を塞ぎ、目を背ける。
少し待ってると幼女が帰ってきた。
そのエプロンの血飛沫が増えているようにも見えたが、きっと気のせいだろう。
と言うか戦闘中に魔物を斬っても血とかは出なかったと思うんだけど、めっちゃエプロン赤いな。
「あい、お待たせしまちた」
「あ、ああ、ありがとう」
換金が終わると所持してた肉は全部で800ゴルドになった。そこそこの稼ぎだ。その他の素材の代金と薬草採取の報酬を合わせるとそれなりに余裕が出来た。
「ありあしたー、またのお越しをー」
幼女に元気よく挨拶されたので何か気分もいい。そのまま店を出ようとしたら、背後の入り口からツナギを着た猫背の大男が、ヌー……と入ってきた。
突然現れた巨漢な男にピヨヒコは少し身構える。
「あ、とうちゃん」
「お、お客さんで?」
挨拶して少し話したらどうやら男はこの幼女の父親らしく名前は“サンパロス”と言うらしい。娘と同じくつぶらな瞳なのだが、かなりの巨漢で威圧感があり、もしホッケーマスクで顔を隠していたら、速攻で逃げたくなるくらいの迫力がある。
ちなみに娘の方は“ドーター”と言う名前だそうだ。
魔肉の卸業者をする両親を手伝っている内に仕事内容を全て覚えたとかで、レジ打ちから発注、仕入れや買取、解体までもせっせとこなすらしい。有能な才女だな。
父親はお得意先に注文された食材を卸しに行った帰りらしいのだが、何でも貴族に無茶な注文をされて悩んでいたようだ。
気になったのでそのまま少し話を聞いてみた。
「いや~、何かよ、ドラゴンのステーキが食べてみたいだとかこの国の貴族が所望しているらしくて知り合いの料理人にどうにか手に入らないかと泣きつかれたんだが、そんな貴重な肉なんて持ち合わせてないから断ったんだがよ」
「ドラゴン?」
ドラゴンと言えば翼の生えた巨大な竜の魔物で、ファンタジーだと定番モンスターだ。
この世界にも居るらしいのだが食材として出回る事はまずなく目撃情報も殆どないようなのだが、この生物もどうやら魔王が使役しているようだ。
「なぁに、いけすかねぇ貴族の戯れ言なんだが、もし興味があるならその知り合いが経営してるレストランの場所も教えるから出向いて詳しい話を聞いてみてくんなせぇ、もちろん何処かでドラゴンの肉が手に入った場合はウチでも高値で買い取りますんで」
「ドラゴンの肉か、手に入るかは分からないけど覚えておくよ」
そう言うとサンパロスは地図に場所をマーキングしてくれた。
どうやら北側の王国管理区に、そのレストランはあるようだ。
確かあの少年に操られていた時は、まだ立ち入れなかった区画だよな。
まあいつかそのレストランに行く事もあるとは思うし、覚えてはおこう。
「お客さん冒険者でしょ? そのレストランで外でも手軽に食べれるパン料理とかも販売してるから必要なら購入するといいぜ、それにもし自分で作るなら調理器具や食材は是非とも、ウチの店で揃えていってくだせいな」
そんな話をされてアルマにも聞いてみたら、冒険者が外の探索で夜営する場合は自分達で調理し飯を作って腹を満たすのが一般的だそうだ。
「ふーむ、料理ねぇ……」
魔物肉の換金も済んだのでついでに必要そうな品物を見定める事にした。
「この簡易調理セットは鍋も吊るせるようになっているし、肉を回しながら上手に焼いたりも出来てオススメだぜ、それにこのフライパンは職人区の鍛冶師が作った一品で軽いし焦げ付きも抑えるから冒険者に愛用されてるよ、あとそれから……」
「え、ああ、確かにそれも必要かも……」
「お料理するなら味を引き立てる調味料も各種あるでちよ、お腹一杯食べる為にもウチのお肉以外にお野菜も一緒に買うと料理の幅も広がるです、あとそれと……」
「え、ああ、確かに調理するなら美味しく作りたいよな……」
怒涛の勢いで肉屋の父娘にあれこれオススメされた。
簡易調理セットに薪、軽鉄製のフライパンや鍋、包丁としても使えるナイフに、まな板、加工された干し肉や野菜なども幾つか、それと塩など料理に使える調味料に油、瓶に入った飲み水まで売ってたので、これらも必要な数、アルマと相談しながら購入することにした。食器類はここでは売ってなかったので他で買う必要はあるようだ。
結局合計で1.000ゴルドくらい掛かったが、ギルド登録してたのとまとめて購入したお陰で少し割引してくれた。
今後も使うし必要経費だ。お金は掛かるけど冒険に必要な装備やアイテムを揃えてる時は少しワクワクする。
魔物を倒してドロップした素材と同じで、買ったアイテムに手をかざすとその場で消失して何処か亜空間に収納されるのだが、改めて見ても不思議な光景だ。
まあ操作してアイテムを管理しているのは背後の画面の少女なのだが……
宿屋のシステムも理解不能だったけど、これはこれで理解に苦しむ。大荷物でも持ち運びが楽だからスゴく便利ではあるけど。
何か盗みとかで悪用出来そうな気もするけど、そんな真似をしたら勇者としての威厳どころか人として最低なので止めよう。
と言うか既に泥棒行為を強要されたが、流石に店の商品まではあの少年も手出しはしなかったな。それでも不法侵入とか平然としたし酷かったけど、背後の少女はあの少年ほど非常識ではないと思いたいところだ。
そう言えばアルマは肩から掛けるタイプの鞄を持っているけど、冒険に必要な物とか入れるには少し小さめで容量が足りない気もするんだけど……
「ありあしたー、またのお越しをー♪」
「ありあしたー、またのお越しをー♪」
用事が済んだので肉屋を後にする。食事の心配も解決したのでレストランの件は取り敢えず保留して、先に予定通り回復ポーションを購入する為にアルマの知り合いが経営してるというお店を目指す事にした。場所は職人区にあるらしい。
「うーん、この王国かなり広いから歩いて移動するのも大変だよな」
「そうですね、元々はここまで広くなかったんですが、魔王軍の侵攻で領地を奪われた人達や各所の名だたる冒険者も次第にこの王国に集まったので、何度か外壁を拡げて領地の広さも拡大しましたからね」
「ふむふむ、それなら広いのも仕方ないし頷けるけど、まあ地図も貰ったし頑張って移動するしかないか」
「えっと、それでしたら……」
昨日も情報収集で色々な場所を調べつつ聞き込みまはしたけど、その時も移動がかなりしんどかった。
それでも城を中心に5つの区域に区画分けされているから、用途に合わせた建物もある程度は密集してるのだが、そんな話をアルマにしたら助言してくれた。
「勇者様、この国のお城の近辺や各区画に設置してある同じような形の建造物は見たことあります? えっと、ギルド区ならさっきの噴水広場の近くに設置されてる何か目立つ感じのやつです」
「ああ、あの何か触ったら光るオブジェクトみたいなやつのこと?」
以前に情報収集した時に気になったので各所にあったのを調べたが、それがどうしたんだろうか、その事をアルマに伝えた。
「あ、もう登録されてるなら大丈夫ですね」
「登録?」
何が大丈夫なんだろう? 気になって聞いてみたら、何でもマップを開いてそのオブジェクトを選択しながら強く念じると、この王国内なら何処からでもファストトラベル出来るようだ……
いや、ファストトラベルって何?
疑問に感じたが、取り敢えず実践してみることにした。
「パーティー同士ならお互いに意識しながら選択すれば一緒に飛ぶ事も出来ますので勇者様、マップから職人区にあるそのオブジェクトを選択して、強く念じてみてください」
「ふむふむ……念じて、飛ぶ?」
その瞬間意識が飛ぶ。
パォーーン♪
と同時に効果音が鳴り響く。
「着きましたよ勇者様」
「へ?」
意識が戻り目の前を見ると、そこは以前に触った事がある職人区に設置してあるオブジェクトの目の前だった。
「……は?」
「知り合いのお店はもう少し先ですから少し歩きますけどね」
そのままピヨヒコはまるで既に理解してるかのように歩きだしアルマもその後に続きそのお店に向かう。いや、説明、何が起きたか説明してくれ!?
アルマの話だとこのオブジェクトは【ワープポット】と言うそうだ。
王国の中からなら登録してあるワープポットに地図から選択すれば歩かなくても瞬時に移動が可能なようでそれを【ファストトラベル】と言うらしい。但し建物の中からだと使えないようだ。
流石に王国の外からこの場所に飛んだりは出来ないようなのだが、なんでも町から町に飛ぶ方法もあるにはあるらしい。どんな仕組みなのか全然理解が出来ないがどうやらこれも魔法が関係してるようだ。
まあこれで移動が楽になるので時間短縮が出来る。便利なのでそういうものなのだと受け入れることにした。
「魔法ってスゴいんだな」
「そうですね、戦闘で使う以外にも生活の支えになったり、今のように移動とかにも使えますし、他にも用途によって様々ですが……個々の資質や適性にもよるので使える属性や性質は人によって違いますね」
「俺も適性を調べれば何か便利な魔法を使えるようになるかな、このワープポットみたいに遠くの町まで一瞬で飛んで移動出来るなら冒険もスゴい楽になりそうだけどなぁ」
「そういう魔法もあるにはありますね、残念ながら私は使えませんが」
「それにもし魔法で姿を消したり、遠視したり、時間を操る事とか出来たらスゴく便利そうだよな、色々と使えそうだし」
「……そうですね」
自分の欲望のままに使えそうな魔法を語ったらアルマの警戒心が跳ね上がった。そして何故か虫でも見るような冷たい目で見られた。
いやなにその表情、怖いんだけど? 何か侮蔑の視線にすら感じたのでピヨヒコは詳しく伝える事にした。
「えっと、相手の認識を阻害して魔物から姿を隠せれば、逃亡や不意討ちにも使えるとは思ったんだけど、ピンチに陥った状況でも使えそうだし」
「え? そ、そうですね、確かにそれは便利そうですね」
「それと千里眼みたいな魔法があれば、遠くからでも安全に魔物を発見したり索敵や探索にも便利そうだし、勝てそうにない魔物を見付けた場合は戦闘を避けたりも出来ると思ったんだけど……」
「え? 透視じゃなくて遠視!?」
「透視? そんな事も出来たりするの!?」
「あ、いえ、えっと、無理です」
「あ、そうなんだ……」
どうやら遠視と透視を聞き間違えたようだな。服とか透けさせて裸を覗き見とか確かに出来るなら使ってみたい魔法ではあるけど、そんなの堂々と女性のアルマに言える訳がない。成る程、それで誤解されて軽蔑された感じか……
「でも使役魔法を活用して遠くを視たり出来るとか聞いた事はありますね、かなり特殊な魔法のようですが」
「あ、そっちはあるんだ、それと魔法で時間を操り自分や仲間の素早さを上げたり逆に敵を遅くしたり、更には時間の感覚を引き延ばして、まるで止まってるような世界で集中しながら敵の攻撃をギリギリで避けたり出来れば強敵との戦闘でも有利になりそうだな、と思ったんたけど」
「あ、そういう用途で……」
「え?」
「いえ、なんでもないです、そ、そうですね、太古に失われた魔法で時間を操る術も確かにあったようですが、危険が伴うので時間を扱う魔法は禁忌とされて、今は研究とかはされてないようです、素早さを底上げする魔法や相手の行動を阻害する魔法なら他であるにはありますけど」
もしかしてアルマは俺が時間を止めて女性に如何わしい行為でもする目的だとでも思ったのだろうか……流石にそんな非常識な魔法があるとは思ってないが、てか最初のはあれか、姿を消して“透明人間”にでもなって俺が覗きとかエッチな行為をするとか思われたって事か?
別にそんな発想は無かったんだけど、確かに誤解されるような言い方をしたかもしれない。言葉って難しいな。
そんな事の為に世界の時間を止めるような強大な魔法を使えるとは思わないけどアルマにはその発想があったのか。
ギルド宿屋でも“変な行為”と言ったら何か慌ててたけど以外と性的な事にも興味がある感じなのかもしれない。
でも追及するのは何か可哀想だし止めとこう。
「やっぱり危険な魔法もあるよな、便利だとしても扱いきれないと身を滅ぼしそうだし、色々教えてくれてありがとうアルマ、……何か顔が赤くない?」
「ふぇ!? そ、そそそんな事はないですよ」
「そうか、それなら良いけどツラい時は無理しないで教えてくれよ」
「は、はい……」
ちょっと意地悪な返答をしたら勘違いしたアルマがかなり恥ずかしそうにしていたが、誤解が解けて冷たい視線も感じなくなったので満足した。
アルマがどんな勘違いをしてたのか分かったけど、確かに魔法があればそう言う如何わしい事に使えるのもありそうだな。エロい目的で魔法の研究とかしてる奴も居そうだけど、モチベーションの維持には繋がりそうかも……
そんな会話をしつつ矢印に従いアルマが教えてくれたお店に向かった。
その途中でカンカン、と喧しい音が聞こえて来たので確認してみると、そこには鍛冶屋があった。
面白そうなので興味本意で少し寄り道してみることになった。
投稿頻度は桜子の時間の都合とモチベーション次第です。
投稿してもそのまま流れて誰の目にも止まらないまま数多のなろう作品に
埋もれる恐怖を味わいつつ今度も楽しみながら書いていけたらと思います。
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