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第58.5話 おまけ回 ギルド酒場での会話 後編

 楽しいお食事会を終えて、アリアンロットと別れの挨拶を済ませた。

 ギルド酒場に残った俺達は、余韻に浸り食後の紅茶を堪能していた。

 

「……何か大人の余裕を感じたな、それに比べてあの吟遊詩人ときたら」

「ですね、私も他の冒険者パーティーと食事をする機会なんてあまりなかったので少し緊張しましたけど、でも何か賑やかで楽しかったです」


「料理も美味しかったし、ネムも楽しかった♪」

「そうだな、それにクエストの予定とかもちゃんと計画を立ててる感じだったから聞いていて色々と参考にはなったかも、やっぱり休息も大事だよな」


「プハッ、何か愉快なパーティーだったな、話は聞いてたが面白かったゾ」

「あ、ブックル、ちゃんと動かないで静かにしてたね、偉い」


「フヘヘ、そうだろ、俺様はスゴいんだ!」

「確かに何か裏表を感じない明るいパーティーだったけど、こちらに配慮して身内話とかも話してたから少し戸惑ったけどな、俺の方は記憶喪失の件とかも含めて、隠し事をしてる感じだったから罪悪感と言うか、何か申し訳ない気分になったし」


「アア、確かに、俺様もそれは少し感じたカモ、本だから素性を明かせなくて何となく後ろめたい? 気分にナッタと言うか」

「……そ、そうですね」


「まあでも殆ど初対面なんだし、あまり無警戒に情報開示するのも本当は危険なんだけどな、ブックルに関しては正体がバレると不味い事態にもなりかねないし」

「オオ、そうだよナ」


「それにマルクスも、女性は少しくらい秘密があった方がミステリアスで魅力的に感じるとか言ってたし、誰にだって云いずらい事の1つや2つはあるからな」

「……っ!?」 


「む? アルマ、どうかした?」

「え、いえ、何でもありません……じぃー」


「コホン、まあ取り敢えずその話は置いといて、さっきも少し話したけど、今後の予定とかみんなで考えて、どうするか決めようか」

「! そ、そうですね、そうしましょう」


 アルマもその意見に賛成してくれたので、今後の方針を決める事にした。


 ブックルもテーブルの上に置かれ会話に参加してたのだが、双子の店員さん達が何か不思議そうにこちらを見ていたので、もしかしたら本当に盗み聞きのスキルを所有していて、食事に来た客の会話を聞き耳して情報収集してる感じなのかも。


 まあバレても風潮したりしないとは言っていたし信じるしかないか。

 何か不味い展開になるようなら、マルクスも何かしら対応するとは思うし。


 それと紅茶のお代わりとパーティーで摘める”クッキー缶”を追加で注文したら、二人とも喜んで食べていた。林檎のパイもペロリと平らげてたし、少食っぽく見えて、どちらも思ったよりもよく食べるんだよな。


 冒険者は身体が資本だから悪い事ではないけど、アルマの場合、食べた分はその豊満なおっぱいにも蓄えられるのだろうか……

 とか少し思ったが、セクハラになるので本人にそんな事は絶対に言えないが。


 話し合いの要点に関してはそれぞれの意見を出し合って、アルマがメモを取ってくれたけど、会話の内容は更に長くなりそうだったので割愛する事にした。

 昼食の会話も含めて情報量が多いので、背後の少女も何かゲンナリしてたしな。


 そう言えば途中から忘れていたけど、あの吟遊詩人の姿をあれっきり見掛けていないけど、どうやらバーカウンターの方にも戻ってはいないようだ。

 酔いどれドワーフ達に合わせて飲んでたみたいだから、付き合いきれなくなって例の固有スキルを使って逃げたのか?


 存在感にも影響するからアッシュ達もそのまま忘れて気に留めてなかったみたいだし、あの戦闘で俺の最後の一撃を避けた方法も、またしても聞きそびれたな。


 まあいいけど、俺の予想だとおそらくは”分身を操る魔法”とかだとは思うけど。

 演奏スキルによる幻だとしたら、俺が実物がそこに居ると思い込んでたとしてもアルマの消音魔法の効果で、多少なり薄く見えるとか影響もあるとは思うし。


 もし魔法で分身を作ったなら使用するタイミングも確かにあったし、当たってた場合はMPも回復せずにずっと隠れて演奏してたって事にはなるけど。

 素手スキルの技量もだけど、そう考えるとやっぱり油断ならない相手だよな。


 認めたくはないけど演奏スキル無しにしても、今の俺よりレベルもステータスも上なのは間違いないし、忌々しいがいつか本当に倒せるように俺も精進しよう……


 取り敢えず4人で話し合って現状で出来そうな事をまとめたけど、予定した通りまずは仲間の名簿の説明を受ける事にした。


 そしてやたらと長く感じた昼食も済ませ、お会計をする事にしたのだが……


「あれ、何か高くないか? そんなに食べたっけ?」

「えっと、お連れ様からの伝言で、私の分は勇者様に付けておいて下さい、何てったってお互いに信頼し合っている仲間ですから、との事です」


「えっと、え、仲間? 誰の事?」

「え、違うんですか!? 中央の広場で仲良く公演したとか仰ってましたけど」


「仲良く? いや、まあこの際だから仲間なのは百歩譲って認めるとしても、このボトルキープ代とか書いてあるのは何?」

「はい、当店のシステムで購入したお酒をボトルで頼んで飲みきれなかった場合、次に来店した時まで保管しておくサービスですね」


「貴族様などが贈り物をする際にも保存の関係もありますから、当日までキープしたりもしてますね、厨房の地下にはワインセラーもあるので」

「……ふむふむ」


「それでお連れの吟遊詩人の方が、いやぁ、参りました、ドワーフさん達はスゴい飲みますね、でもこの高いお酒は美味しかったので残った分は私が後で戴きますからキープでお願いしますね〜、と言われたので、了承した感じです」

「ん、そうか、それと何かやたらと酒の注文票が多いけどこの量をあの吟遊詩人が全部飲んだのか? 流石に1人で昼間から飲む量じゃないとは思うんだが」


「あの吟遊詩人さん、一緒に飲んでいたドワーフさん達に何杯か奢ってましたね」

「!?」


「おお、勇者の旦那、何か奢って貰って悪いな、感謝するぞい」

「あの詩人の兄さん、いつの間にか居なくなったが、いやぁ、太っ腹だよな、あ、でも奢ってくれたのは勇者様の方なのか?」


「オレ達も悪いと感じて一度は断ったんだが、気にしなくて良いと勧められて断りづらくてな、そんで飲んでたら楽しくなって、ついつい飲みすぎてしまったぞい」

「ガハハ、そう言いつつもまだ自分で頼んで飲んでるじゃねえか」


「おお、そうだな、今日はめでたい日だからな、さあ、飲もう飲もう、グビッ」

「……」


「えっと、お支払いはどうします? あの吟遊詩人の方は以前にも当店を利用された事はありますので、もしお会計を別にするのでしたら取り敢えずコチラはツケにして後で本人から支払って貰いますけど」

「え、ツケとかそんな融通も効くのか?」


「ええ、まあご覧の通り、酒場なのでこの手のトラブルもよくありますから」

「酔って横暴な振る舞いをされる方には専門のギルド職員が優しく対応しますよ」


「そ、そうか、客商売だし色々と大変なんだな……」

「勿論代金はしっかり払って貰いますけどね、もし踏み倒した場合、ギルドからの心象が悪くなるのは当然ですが、レッテルの称号にも反映されますから」


「いや、まあ本人に支払いはさせるつもりだけど、何かちょっと怒りを通り越して呆れてるんだが、少し当てがあるからちょっと待ってくれるかな?」

「はい、構いませんけど、何かするですか?」


「えっと、この酒場は何か見たり聞いたりしても守秘義務とかは一応あるよね?」

「え、あ、はい、もちろん大丈夫ですよ、そこはギルド全体で厳守してますので、でも他のお客様や冒険者の方に関しては、完全な口止めは出来ないので、その辺はご了承下さい」


「あー、そっか、そっちの問題はあるか、あれ、でも奥のロビーを見ても全然人が居ないな? 時間帯的には空いてるとは言ってたけど」

「建国祭が近いのでその関係もあり、この時間帯は割と空いていますよ、でも何かいつも以上に人が居ない気もしますね、偶々だとは思いますが」


「ふーむ、なら構わないかな、それじゃネム、ちょっと協力してくれるか?」

「む? 探すの? 分かった、えっとねー」


「用件を伝える前に理解してる辺り本当にネムは賢いよな」

「えへへ、あ、そっちに気配を感じるよ、ビシッ!」


「と言う事は隠れてこの場には居るのか、何て図々しい野郎だ、許せねえ!」

「あ、でも何かキョロキョロ動いてる、今度はそっちに行ったよ、ビシッ!」


「この会話も聞いてるだろうし、捕まったら怒られると思って移動してるのか? ぐぬぬ、居ると分かっていても目を凝らしても見えないんだよな……」

「え、その方向に誰か居るんですか?」


「ああ、あの吟遊詩人が固有スキルで姿を消してるんだよ」

「……なるほど、そう言う事ですか、なんか唐突に姿が見えなくなったので不思議には思っていたのですが、存在感が薄まった感じもありましたから、他者の意識にまで影響してるんですね」


「取り敢えず私達は入り口に立って、塞いでおくね」

「確かに、逃げられると厄介そうだしそうしますね」


「助かる、それとアルマもちょっと協力してくれるか」

「あ、はい、何をすればいいでしょうか?」


「俺は触れないからブックルを取り出して、ネムが指差した方向に向けてくれ」

「? 分かりました」


「ムガッ? ナンダ、何かするのか?」

「ああ、今からベオルフの奴を捕まえる、少し目立つけど食事の最中にバドが魔法を使っても周囲から特に注目はされてなかったみたいだし、多分大丈夫だろ」


「え、魔法?」

「よし、ネムもう一度、位置を教えてくれ」


「ん、分かった、えーと、今はそっちから気配を感じるよ、ビシッ!」

「あとは俺も自分の手の甲の紋章を向けて、魔力を練って集中すると、むむむ!」


 ピッカァァ


「おー、眩しい」

「え、え? 勇者様、これは?」


「あれ、そう言えばアルマは初めて見るんだっけ、ブックルと魔力の波長を同調させると何故か光るんだよ、そしてこの光を当てると……あ、そこだな! ガシッ」

「あはは、見つかっちゃいましたか、中々やりますねぇ、ヒック」


「うわっ、酒臭っ、何だコイツ、酔い潰れてるのか!?」

「ドワーフさん達に合わせてかなり飲んでたようですから泥酔状態みたいですね」


「おー、スゴい、隠れてるベオルフを捕まえた」

「ナルホド、この光で照らすと隠れていても影が投影されるノカ」


「光属性とも少し違う性質ですね、不思議な暖かさを感じます」

「あれ、ヒールライトと似たようなものなのかと思ったけど違うのか? と言うかアルマやネム達にも認識されてるって事は掴んだ拍子に能力が解除されたのか?」


「ううーん、そんなに揺らさないで下さいよ、ウプッ」

「ちょっ、吐くなよ!?」


「あ、捕まえたみたいだよお姉ちゃん」

「本当に隠れてたの? 危険な能力ね」


「おいベオルフ、ふざけんな、自分で飲み食いした分は自分で払えよ!」

「ええ? なんれすかぁ?」


「ダメだなこりゃ、小賢しく動いてたから余計に酔いが回った感じか? とは言え流石に財布くらいは所持してるだろ、悪いがちょっと懐を漁るぞ、ゴソゴソ……」

「ベオルフはお酒に強くはないから、前にもこうなった事はあるよ」


「なんだ、そうなのか? こんなんに付き添ってネムも苦労したんだな」

「うん、でもいつも途中で隠れちゃうから、そのまま無視してるけど」


「え、まさか無銭飲食とかにあのスキルを悪用してるのか?」

「ううん、ネムの知る限りだとお金はちゃんと払ってたよ」


「そうか、それなら良いが、しかし見つからないな、でもさっきのパフォーマンスで稼いでたから多分こっちの方なら、ゴソゴソ……おっ、何かそれっぽい巾着袋があるな、これか? ズポッ」

「お財布見つかった?」


 ジャラジャラ♩


「よしあった、と言うか戦闘パフォーマンスに協力したんだから出演料って事で、この際だから俺達の分も奢って貰うとしよう」

「え、大丈夫なんですか?」


「迷惑料も込みだから妥当だよ、おーい、ベオルフ聞こえたか? 信頼し合ってる仲間だし俺達の分も奢ってくれるよな?」

「うう〜ん? ええ、勿論、奢りですので気にせず飲んでください、ヒック」


「……完全に泥酔してるな、リディアもこんな感じになるのか? 酒は怖いな」

「ええ、そうですね、ダメな大人の見本みたいです」


「ベオルフがここまで酔い潰れてるのはネムも初めて見たかも」

「防音に次いで弱点が露見したな、それじゃこれで足りるかな、チャリン♩」


「はい、確かに戴きました、私達は代金を支払って貰えば何も問題ないですよ」

「後で仲間内で揉めても当店は無関係ですけどね、でもこの人が後で何か聞いてきた場合は、勇者様に奢ると仰っていたとは証言しますね」


「助かるよ、まあ巾着袋の残りはちゃんと戻しておくし、投げ銭のゴルドを完全に数えてたかも分からないから、少し減っててもそのまま気が付かないかもしれないけどな、あ、それとキープしていた酒はコイツの為に残しておくのも何か癪だからそこの酔いどれドワーフ達にやってくれるか?」

「はい、それは構いませんが、宜しいのですか?」


「お、何だ? 話は聞いてたが、オレ達が貰っても良いのか?」

「ああ、その代わり見聞きした事は他言無用で頼むよ、面倒ごとは御免だからな」


「なるほど、口止めに使うのですか、賢いですね」

「ふむ、そう言えば面白い話とかも色々してたな、まあ何杯か既に奢って貰ったしこれでも口は硬い方だから安心していいぜ」


「了解だ、酒を奢ってくれるなら、火の神ケトゥグアに誓ってもいいぞい」

「ケトゥグア?」


「十二依神の一角ですね、火と鍛治を司るとも言われてるので主にドワーフ族から慕われて、信仰の対象になってるんですよ」

「ふむふむ、種族によっても信仰対象に色々と違いがありそうだな」


「お持ちしました、では勇者様、これを」

「ありがとう、って、俺が手渡す感じなのか? まあ良いけど……」


「誰かに嗜好アイテムを渡す場合、プレゼントの扱いになりますから相手の好感度にも影響しますので、まあ場合によっては不快に思われる事もありますが」

「え、そう言うルールとかあるの? でもこの酒ならドワーフ達には普通に喜ばれそうだな、何か高級そうなラベルまで貼ってあるし、タプンッ」


「それはブランデーですね、主に白葡萄などの果実を原料にして蒸留してるので、甘みもあって飲みやすいのですが、アルコール濃度はかなり高いのでストレートで飲む場合は、ゆっくり時間を掛けて飲む事を推奨しています」

「芳醇な香りを温度の変化で楽しみ、貴族の間ではソーダで割ったものが流行ってたりもするのですが、調子に乗って飲むと酔いが回りやすいので危険ですね」


「ああ、それでベオルフも油断して泥酔状態になったのか、ドワーフは種族特性で酒に強いとは聞いたけど、まあ飲みかけで悪いが、程々にな、ほい」

「パシッ、おお、ありがとよ、勇者の旦那」


「俺が頼んだものではないけど、ベオルフも奢ると言ってたし問題ないだろ、それに何かめでたい日なんだろう?」

「ああ、オレ達は”花火職人”なんだが、来月の建国祭に納品する分の作成が昨日で終わってな、それで打ち上げも兼ねて飲んでたんだよ、まあ本番は当日だがな」


「ハナビ?」

「なるほど、それで昼間っから飲んでたのか」


「ガハハ、仮眠はしたが昨日の夜からだぞい」

「!?」


「他の職人達は早朝には帰ったがの、ドワーフは火の民だから火気厳禁の仕事場は中々ストレスも溜まってな、それだけ本番ではド派手に打ち上げるがの」

「何かしら口実にして毎日飲んではいるけどな、とは言え火薬にも拘るから良質な素材を求めて冒険者の真似事とかもしてるぞい」


「ふむふむ、素材採取とかも自分達でしてるのか、スゴいな」

「建国祭などの記念日には国が依頼して夜空に大輪の花火が上がるんですよ、私達も毎年楽しみにしてますけど、とても綺麗で印象的ですよ」


「中央の広場がメイン会場になるんですが、お城の敷地や城壁も使って後半3日間通して打ち上げるんですよ、建国祭の最終日の夜には、ナイアガラやスターマインも上がってすごい盛り上がりますね」

「おー、何か凄そう」


「そうなのか、それは俺も観てみたいな、当日を楽しみにしてるよ」

「期待してくれて良いぞい、それと酒のお礼にコレをやるぞい、ほれ」


「パシッ、赤い石、これは魔石か?」

「ああ、火の魔石(小)だが、こいつは”紅蓮石”とも呼ばれていてな、ダンジョンで偶々、固有モンスターを倒してドロップした魔石だが、元々は通常種が落とす普通の火の魔石(小)を花火の素材として使う筈だったんだが、この紅蓮石は花火に使うにはちと威力が強すぎて持て余していたんだが、武具の素材とかにもなるから何かの役に立てるといいぞい」


「え、そんな貴重なものを貰っても良いのか? 花火の素材に使えなくても普通に売ればそれなりの儲けになるんだろ?」

「元々あの詩人の兄さんに酒の謝礼で渡そうと思っていたし全然構わんぞ、それに貴重と言っても今までも何度か副産物で手に入れた事はあるから気に入った相手に譲ったりもしてたしな、まあ要らんなら知り合いの鍛治職人に売ってもいいし別に無理強いはしないが」


「あ、いや、そういう事ならこちらも助かるし、有り難く使わせて貰うよ」

「おお、そうか、これでワシ等も遠慮なく奢って貰った酒を飲めるってもんだ」


「ドワーフ族は利益よりも義を重んじる事を良しとする性格の人が多いですね」

「ああ、確かに奢りだと何か気兼ねして、楽しく飲めないとかは感じそうだな」


「そういう事だ、それじゃ飲むとするぞい」

「おお、そうだな、飲もう飲もう、ガハハッ」


「思わぬ収穫だな、魔石の使い道は後で考えるとして、さて、後はこの吟遊詩人をどうするかだけど……」

「うう〜ん、もう飲めません、勘弁してください、すやすや」


「酔い潰れて寝ちゃったみたいですね、どうします勇者様?」

「寝言を垂れてはいるけど寝相はやたらと良いんだよな、でも流石にこのまま放置すると店の迷惑になるしどうするかな、個人的にはこのまま棄てて行きたいけど」


「そうですね、それにもうすぐ3時になるので、休憩時間におやつを求めて客入りも増えるとは思いますし、邪魔なので持っていっては欲しいですね」

「まあ酔って店で寝ちゃう人も時々居ますので、ギルド宿屋と連携して酒場専用の仮眠室がありますから、そちらに移動させますかね? サービスは適応されないので利用されるなら30ゴルド程いただきますけど」


「ならそうしてもらえるかな、そのくらいなら払うよ、チャリン♩」

「はい確かに、では専用のスタッフを呼びますので後はこちらで介抱しますね」


「あ、俺が担いでその部屋まで運ばなくてもいいのか」

「ええ、大丈夫ですよ、それにギルドの受付で仲間の名簿の説明を受けると言ってたみたいですし、まだ暫く居るなら説明の後にでも立ち寄って貰えば良いですし、その時にもしまだ寝ているようなら、そちらで何かしら対応して下さい」


「そっか、それじゃ取り敢えずそうしようかな、起きたら勝手に追って来るだろうから別にそのまま放置しても俺は全然構わないけど、まあ気が向いたら後で様子を見に行くとは思うよ」

「……分かりました、仮眠室はギルド宿屋の受付に尋ねれば分かりますので判断はそちらにお任せしますが、本当に仲間とは認めていない感じなんですね」


「だって固有スキルでコソコソ隠れながらこちらの行動を覗き見して、しかもそれを曲にして日銭を稼いでるし、そんな奴は信頼も出来ないし仲間じゃないよ」

「勇者様の事を謳った演奏は私も聴いた事はありましたがそんな関係なんですか、それは酷いですね」


「そうだよ、コイツは俺の事を付け回してるストーカー野郎なんだよ」

「なるほど、勇者様のこの方に対する塩対応にも納得しました」


「まあ、そんな感じなんだけど、あのスキルに関してはバレると俺まで巻き添えでマルクスに咎められる可能性があるから念の為に他言無用で頼むよ、奴が何か問題を起こしたら、俺が責任を持って簀巻きにして衛兵に突き出すからさ」

「分かりました、ギルドとしては被害がない以上は咎める事も出来ませんので」


「マルクス様の事だから分かっていて泳がせている可能性もありますけどね、何か問題が起きるようなら事前に対応されるとは思いますし」

「うーん、やっぱり分かってて泳がされてるのかな、個人的には王族の誰かがこの吟遊詩人を差し向けて動向を探ってるとか、そんな感じかなとは考えてたけど」


「まあ真意のほどは分かりませんが、勇者様の動向に関しては暗部の方が動いてるとは噂で聞きましたけどね、あ、これは内緒でお願いしますね」

「……それを俺に言ったら意味ないんじゃないか? まあ俺の行動は筒抜けだったから間者とか居るとは思ってたけど、それがベオルフって訳ではないのか」


「私達はそこまで聞かされていないので分かりませんが、暗部を動かせるのは王族クラスの重鎮なので、期待の勇者様を心配した故の指示だとは思いますけどね」

「ふーむ、まあマルクスの指示なら実害はないだろうし取り敢えずは様子見かな、あまり神経を尖らせるのも疲れそうだし、アルマ達がその暗部とやらの尾行に気が付いて、警戒したり不快に思うようなら何かしら対応するとは思うけど」


「何か勇者様は色々と諦めてると言うか、達観してる感じですよね、普通はもっと戸惑ったり憤ったりすると思うのですが」

「いや、普通に憤ってはいるけど、だって自分の行動すら……パクパク」


「……どうかしましたか?」

「コホン、いや、何でもない」


 やはり背後の画面に関連する事は云えないようだ、強制力で言葉が詰まった。


 と言うかこの双子の店員さん達も何気に油断ならないな、雰囲気に飲まれてつい色々と内情を明かしてしまったし、迂闊な言動だったな。

 有益な情報を提供された事で、こちらも何か教えないとって気分になったけど、何か不自然なくらい口が軽くなっていた気がするし、もしかして話術のスキルとかで情報を引き出すように誘導されていた可能性もあるのか?


「そ、それじゃ混み合う前に俺達も行くかな、悪いがベオルフの事は頼んだよ」

「はい、かしこまりました」


「えっと、料理も美味しかったし色々と情報も聞けて助かったよ、ありがとう」

「いえいえ、こちらこそ、またのご来店をお待ちしていますねー」


 うーん、考えすぎか? 固有スキルの脅威に関してはベオルフで理解しているし無いとは言い切れないけど、悪意とかは感じないから友好的に捉えるとするか……


 取り敢えずアルマ達を連れてギルドの受付に向かうとしよう。


 お、足も勝手に動き出したな、何となくだけど会話中とか発生してる間は背後の少女も何かしらの制約で俺の事を自由に操作したりは出来ないようには感じるな。


 長い会話とか面倒そうな表情で観ている事も結構あるから、嫌なら拒絶するなり俺に指示すれば良いのに、それをしないって事はこの少女にも出来る事と出来ない事があるんだとは思うし……あ、とか考えていたら、この感覚、いつものやつだ。


 ……ブツン。


 突発的にいつものブラックアウトが起きたのだが、復帰して背後の画面を観ても今回は特に少女の様子も変わってなかったので、やっぱりよく分からない現象だ。


 取り敢えず少女からの指示も特になく食事も会話も楽しめたし、アリアンロットと親睦も深まったから良かった。

 気になる発言や情報もいくつかあったけど、今後の冒険に活かすとしよう。


 そして受付のアンナさんに仲間の名簿の説明を求めたら、応接室に招かれた。


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