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第58.5話 おまけ回 ギルド酒場での会話 前編

おまけ回なので、今回は殆ど会話のみでの展開になります。

 アリアンロットの面々とギルドで再開したので一緒に食事をする事にした。

 お腹も空いたので先ずはメニューと睨めっこしながら何を食べるか決めよう。


「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?」

「んーと、ネムはこれとこれ」


「ピリ辛の蒸し肉饅頭と、スパイシーポトフですね」

「え、ネムちゃん、その料理どっちもかなり辛いよ?」


「うん、辛いの好きだから平気だよ」

「そう言えばネムは辛いのが好きだったな、昨日もピリ辛のサラミを食べてたし」


「うん、あのソーセージ美味しかった」

「そうなの? それなら大丈夫かな、でも無理そうなら我慢しないで言ってね」


「ん、わかった」

「他の方はお決まりでしょうか?」


「うーん、俺は魚料理が良いんだけど、何かオススメはあります?」

「そうですね、この辺りで獲れた川魚だと野菜と茸を一緒に炒めたソテーが一般的ですけど、魚介類を色々と食べたいならシーフードドリアがオススメですね」


「ドリア?」

「えっと、魚介のエキスをたっぷり含んだホワイトソースを、チーズと一緒にお米の上に乗せて、オーブンでじっくり焼いたものですね、鮭とエビも入っていますし出来立てはチーズがとろけて熱々で美味しいですよ」


「なるほど、グラタンみたいな感じか、何か手間が掛かっているし美味そうだな、ならそれにしようかな」

「それと海鮮スープもオススメですね、こちらも具材たっぷりなので」


「ふむふむ、じゃあそれも頼もうかな、お腹も空いてるし」 

「かしこまりましたー」


「すみません、私にも海鮮スープを、あとこれとこれをお願いします」  

「揚げ魚の甘酢あんかけと林檎のパイですね、パイの方は1人で食べるのでしたらハーフサイズもありますけど、どうします?」


「あ、いえ、そのまま丸ごと1つでも大丈夫です、それと……」

「アルマは甘いの好きだし、やっぱりデザートは別腹だよな、どのくらいのサイズなのか分からないけど、アルマならフルサイズでも余裕だな」


「ふぇ、ち、違いますよ、ここの林檎のパイは美味しいので、勇者様とネムちゃんにも食べて欲しかっただけです」

「それでしたらお皿とフォークを三人分用意いたしますね」


「あ、はい、えっと、それなら三等分にして食後に、紅茶と一緒にお願いします」

「はい、かしこまりましたー」


「なるほど、セリフを遮っちゃったけど俺たちの分も含めてたのか、それに今から注文しとけば食後に直ぐ食べられるし気が利くな」


「い、いえ……」

「以上で宜しいでしょうか?」


「うーん、足りなければ後から追加で頼めるし、取り敢えずそれでお願いします」

「ご注文承りましたー、しばらくお待ちください」


「お待たせしましたー」

「え、速っ!? あ、と思ったらそっちのテーブルの料理か、て、あれ?」


「俺達のが先に到着してたからな、注文した後で勇者の兄さん達が来たんだよ」

「……なるほど、何かそっちの料理もどれも美味そうだな」


「ああ、俺達はハンバーガーやサンドイッチを注文したけど、種類も豊富だから各々の好みに合わせて具材を選んでいる感じだよ」

「む、それなぁに?」


「これはおつまみセットですね、サイズも選べるので仲間同士でシェアして食べるのに丁度いいんですよ、お酒の肴にもなりますし」

「おー、美味しそう」


「はい、ネムちゃん達にもナゲットと揚げポテトを少しお裾分けするね、揚げたてだから口の中を火傷しないように気を付けてね」

「食べてもいいの? わーい♪」


「何か悪いな、ありがとう」

「ありがとうございます」


「いや、気にしないでも大丈夫だよ」

「塩で軽く味付けはしてあるけど、ケチャップを付けて食べると美味しいよ」


「それじゃ遠慮なく、いただきます、ホフホフ」

「もぐもぐ、美味しいねー」


「そうだな、薬草の苦味も旨味で緩和されて口直しになった」

「薬草?」


「あ、いや……」

「ああ、そういえば戦闘の治療がまだと言ってたね、体力が半端に減っている時は俺達も薬草で代用する事はあるし分かるよ、確かに苦いけど」


「ですね、軽傷ならなるべく節約するに越した事はないですからね、苦いですが」

「ポーションも昔に比べたら安価にはなったけど、それでも消耗品だからそれなりに出費がかさむからなぁ、でも苦いのがなぁ」


「そうそう、それこそ支援術師がパーティーにいれば良いんだけどね、苦いし」

「アッシュ達と別れた後に何か辻ヒーラー? の人に魔法で回復して貰ったから、薬草は念の為って言うか、仕方なくって感じではあったんだけどな……」


「辻ヒーラー?」 

「あ、それで薬草を食べてたんですね、突然の奇行に少し驚きました」


「ゴホッ、えっと、何か猫耳付きのフードを被った、猫っぽい口調の……獣人?」

「それならコレットさんかな、確かにあの場に居たかも」


「コレット?」

「光属性の回復魔法だったならコレットさんだな、割と有名人だし」


「ヒールライトー、とか叫んで眩しかったから、光魔法だったのかも?」

「コレットさんは”ケット・シー”とも呼ばれる猫族の冒険者ですね、獣人で魔法職なのがそもそも珍しいのに、光属性の適正まであるのでかなり貴重な人材ですね」


「バド、その言い方は何か感じ悪いよ、コレットさんはとても優秀な支援術師で、すごく優しい人なんだから」

「あぁ、確かに、これは失礼しました」


「あれ、リディアは面識があるんだっけ?」

「私も前に回復魔法で助けて貰った事があって少し話した程度だけどね、コレットさんは神出鬼没の照れ屋さんだから、それに普段はダンジョンに潜ってるみたいで冒険者ギルドにもあまり顔を出さないからね」


「潜る?」

「お待たせしましたー」


「うわ、ビックリした、え、これ俺たちの頼んだ料理か?」

「そうですよー」


「む、おんなじ顔だ?」

「ああ、やっぱり、注文を聞いてた店員さんとその直ぐ後に料理を運んで来た人が同じ顔だったから不思議に思ったけど……と言うかもう出来たの、速くない!?」


「あはは、私たちは双子の姉妹なんですよ」

「え、勇者様、今まで気付いてなかったんですか?」


「あ、アルマは知ってたのか」

「ええ、私も個人的に何度かこのお店は利用してるので」


「姉のリカです、以後お見知りをー」

「妹のサキだよ、よろしくね勇者様」


「リカさんとサキさんはこの酒場の看板娘なんですよ」

「なるほど、料理に夢中でそこまで意識してなかったかも」


「ウチの料理がそれだけ美味しいって事ですねー」

「出来立ては熱いので、お気を付けてお食べくださいね」


「む、もう食べてもいい?」

「え? ああ、遠慮しないで自由に食べて良いよ」


「ん、わかった、いただきまーす♪」

「お水のお代わりが必要なら、このポットのをお使いくださいねー」


「ありがとう、それじゃ俺達も食べるとしようか」

「そうですね、お腹も空きましたし」


「いただきまーす」

「ごゆっくりどうぞー」


「パクッ、こ、これは……」

「もぐもぐ、む?」


「魚介の旨みたっぷりのホワイトソースがライスと混じり合い、そこに更に熱々のチーズが合わさる事で、三位一体の波状攻撃となり、口の中に広がるこの満足感、とても美味いぃ!!」

「おー、なんか強そう?」


「ズズッ、それにこの海鮮スープ、こっちにも鮭が入っていて、更には大根や人参などの根菜も多く、しかも味噌ベースですりおろした生姜も入ってるから、身体が芯からあったまる、これさえ飲めば氷魔法で凍えた身体も、立ち所に回復するな」

「確かに、熱々で美味しいですよね、このスープ」


「お好みで七味や山椒を入れても良いし、どっちもスゴく旨いな」

「辛いやつ? ネムのにも少し入れてみよっと……バサッ」


「ネ、ネムちゃん、辛くないの?」

「もぐもぐ、うん、美味しいよ」


「ゴクリッ、何か勇者の兄さんの食レポを聞いてたら俺も食いたくなって来たな、店員さん、俺にも海鮮スープを1つくれ」

「氷結状態の抵抗になるんですかね? 興味深い、ボクにも1つ下さい」


「はーい、かしこまりましたー」

「それにしてもピヨヒコ君は、美味しそうに食べるねー」


「いや、だって本当に美味しいし、朝飯を食べ損ねたから余計に旨く感じるな」

「あ、そうなんだ、私達も荷馬車で移動してたから朝は簡単に済ませたんだよね」


「馬車?」

「お待たせしましたー」


「おう、ありがとう」

「え、もう出来たの!? 流石に早過ぎない?」


「スープ類は朝のうちに仕込んで、作り置きしてありますからね」

「なるほど、いや、でもこっちのドリアはチーズもちゃんと焦げるくらいに熱々でとろけてるし、それにオーブンでじっくり焼くとか言ってなかったっけ?」


「ふふふ、それは企業秘密です」

「あ、はい……」


「でもタイミングは良かったですけどね、今朝サンマリーナから届いたばかりの、新鮮な食材を使っていますから」

「サンマリーナ? えっと、確か漁業が盛んな都市だっけ?」


「ですね、専門の業者に頼んで仕入れているんですよ」

「あれ、でも距離にすると数日は掛かるんじゃないのか?」


「その辺はしっかりと管理しているので大丈夫ですよ、氷魔法の付与された専用の魔道具を使ったり、専門の魔術師に付き添って貰ったりと、鮮度を保ったまま運搬する方法は色々とありますから」

「なるほど魔法の力を活用してるのか、やっぱり便利だな……」


「でも業者さんの話によると最近、サンマリーナの近海に大型の魔物が出現したらしくて、向こうではちょっとした騒ぎになっているみたいなんですよね」

「え、そうなのか?」


「あ、俺達もその話なら少し聞いたな、なんでもクラーゲンが出たとか」

「クラーゲン?」


「巨大な海月(くらげ)の魔物ですよ、帆船すらもその無数の触手で絡め取って、海中に沈めるとも言われていて、しかも海域を縄張りとしてるので、何かしら対策を講じないと普通に戦うのすら困難ですね」

「ふむふむ、そんな厄介な魔物が居るのか」


「……ウガ!?」

「むー、ペラペラ……クラーゲン、これ?」


「そうです、確かにその魔物ですね、と言うかこの本って魔物図鑑ですか!?」

「え、なんでネムちゃんが持ってるの!? お城の図書室にある本物?」


「あ、いや……これは複写したレプリカだよ、ちょっとした伝手(つて)で借りたものだ」

「そうなのか? それでもスゴいな」


「……コホン、まあ立場的にも色々と優遇はされてるからな」

「へぇ、これがクラーゲンですか、こんな大きいのは初めて見ました」


「あ、ちょっとサキ、なにサボってるのよー」

「お客様とのコミュニケーションも仕事の内だよー」


「もー、注文が来たらちゃんと対応してよね」

「はいはい、了解ー」


「フムフム、写本だとしても凄く貴重な文献ですね、それに挿絵までありますから特徴とかもよく分かりますし、えっと、全長15メートル?」

「いや、化け物じゃねえか、そんなのが海から襲ってくるのか、やべぇな」


「そんな魔物が近場に居たんじゃ漁をするのも命懸けだな……」

「そうなんですよ、それで仕入れも滞っちゃって、困ってるんですよね」


「この図鑑の記述だと麻痺攻撃までしてくるみたいですし、状態異常の対抗手段がないと退治するのは難しそうですね」

「海に出現する魔物は総じて厄介だよな、ネプト族の領域って感じもするし、何か特殊なアイテムがあれば水中でも戦えるようになるとか噂で聞いた事はあるけど」


「まだ目撃情報だけで、帆船や乗組員に被害は出てないらしいですけど、それでも漁に出るのは危険だと判断されて、その影響で漁獲量も減っているようで、それに伴い王国に取引される出荷の量も減っている感じですね」

「そうなのか、それは大変だな」


「現地の冒険者さん達が対応して、現在は生息域など調査してるみたいですけど、以前にも似た事例はあったようで、この時期になると出現する魔物らしく放置してれば自然と居なくなる事もあるようなのですが、まあ暫くは様子見ですね」

「あ、そうなんだ」


「調査の結果によって現地のギルドではどうにもならない場合は、被害が拡大する前に、王国に協力を要請してこの冒険者ギルドにも遠征クエストとして、討伐依頼が貼られる場合もあるみたいです」

「なるほど、そう言えばクエスト掲示板にもそんな感じの調査依頼があったっけ、昨日もそんな話をした気がするけど……確かゴキブリンだったっけ?」


「!? ちょっとピヨヒコ君、食事中にそんな話題をするのはやめてよ、私、あの魔物は大っ嫌いなんだからさぁ!」

「あ、そうなのか、すまない」


「リディアはあの小鬼が本当に嫌いだよな」

「いや、あんな醜悪なの好きな人いないでしょ」


「まあ確かに、見た目はそこまで悪いわけではないんだが、あの小狡い習性と名前で何か無性に嫌悪感を感じるよなぁ」

「流石にあの魔物は食べる事も出来ないしな、昔は討伐証明で右耳を切り取っていたらしいけど、今は冒険者カードがあるからな」


「ゴブリンの耳は錬成の素材には使えるみたいですけどね」

「みみー?」


「ちょっと、3人とも話を広げないでよぉ!」

「おっと、すまん」


「わりぃ、確かに食事中にする話題じゃなかったな」

「ああ、これは失礼しました」


「俺の方も配慮せずに話を振ってしまった、ゴメン」

「まったく、もー」


「食事と言えば、クラーゲン種は食材としても貴重で、珍味らしいですよ」

「え、そうなのか?」

 

「そうですね、アルマさんが仰った通り、弾丸クラゲと呼ばれる小型の魔物はサンマリーナで食材クエストもありますし、美容にも良いので需要はありますね、このお店では扱っていないですけど、王国管理区にあるレストランとかでは高級食材として仕入れているはずですよ」

「ふむふむ、アルマは魔物の食材とかにも詳しいよな」


「これでも色々と勉強しましたからね、弾丸クラゲは別称で”キャノンボール”とも呼ばれていて、水中だと強い火力を備えているらしいので、注意が必要ですね」

「なるほど、努力の賜物か……俺も一応覚えておくとするよ」


「おーい、姉ちゃん、こっちに酒のお代わりを頼むぞい」

「それと追加でおつまみセットのMサイズもお願いします」


「あ、はーい、ただいまー、まあそう言う事なので、ごゆっくりお過ごし下さい」

「ああ、分かった、色々と教えてくれてありがとう」


「もういいならブックル、じゃなくて図鑑はしまうねー」

「そ、そうだな、大切な本だから、丁重に管理しよう」


「……キョロキョロ」


「ズズッ、それにしてもこの海鮮スープは確かに旨いな、普段はスープ単品で頼む事なんてないから今まで見逃してたなぁ」

「ですね、それに本当に身体があったまりますし、バフ効果があるのか試してみたいので、ランドルフも少し検証に付き合って貰っていいですかね?」


「おお、知りたがりの本領発揮だな、いいぜ!」

「え、え、なにかするの?」


「氷魔法の詠唱ですかね、でもこの詠唱、ところどころ端折ってますね」

「え、魔法!?」


「いきますよ、アイスシェード」

「おー、なんか綺麗」


 ビュオオッ……


「何か氷の細かい粒みたいのが、ランドルフを覆ってるな」

「生活魔法の一種ですね、氷晶で対象物を冷やしたり、日差しが強い時は日光や熱を遮るのにも使ったりするんですけど、魔力の操作が上手いですね」


「凍傷状態を軽く感じる程度に調整してみましたけど、どうですかね」

「おお、スープの効果で特になんともないな、全然平気だぜ!」


「なるほど、それじゃもう一度、今度は対象を自分に……」

「え、自分にも試すのか?」


「バドは実験大好きだから、気になった事は直ぐに試したがるんだよ」

「個体による差異なんかも気にするからね、ランドルフがよく検証に付き合ってるけど、2人は体格差もあるから比較するには丁度いいとかよく言ってるよね」


「……自身で体感するのが一番効果を把握できますからね、アイスシェード」

「その探究心のせいで、俺達も何度か被害を被ってるんだけどな……」


「あ、もしかしてさっき定員さんが言ってた運搬の際に使用する氷魔法もこれ?」

「いえ、アイスシェードはそこまで持続時間が長い魔法では無いので、鮮度を保つならもっと強力な氷結魔法を用いる事が多いですね」


「あ、そうなんだ」

「フム、やはりこの海鮮スープには耐寒効果のバフがあるようですね、どのくらい継続するのかは気になりますが、協力感謝です」


「おう、もう納得したのか? それじゃ飯の続きにしようぜ、ズズッー……」

「ええ、冷めないうちに食べましょうか、ハフハフ」


「むー、ネムもそのスープ飲んでみたい、ピヨピコ、一口ちょーだい」

「え、良いけど、それなら俺よりもアルマに……」


「ガーン、断られたぁ……」

「まあいいか、熱いから気を付けて食べるんだぞ」


「ん、ありがとー……ズズッ、ホフホフ」

「じとぉ……」


「おー、あったかくて美味しいね、はい、返すね」

「そうか、気に入ったなら良かったけどもう良いのか?」


「うん、満足したー」

「ネムの頼んだポトフも美味そうだよな、何か異様に赤いけど」


「む? 欲しいならお礼にネムのも少しあげるね、あーん」

「え、いいのか、それなら一口だけ……パクッ」


「なっ!」

「美味しい?」


「ああ、ゴロゴロしたお肉と野菜のエキスが溶け合って相乗効果を成しているな、何よりもこの赤い色合い、正体は分からないが具材に絡んで口の中に広がって……スゴく辛いぃぃ、でも美味しぃぃ!!」

「おー、美味しいなら良かった」


「ゴクゴクッ、ネムはすごいな」

「えへへー」


「ゆ、勇者様、私の料理もおいしいですよ、一口どうぞ」

「え、いいのか? いや、でもそれは流石に……」


「断られました、ショックです…………チラッ」

「ああ、もう分かった一口貰うよ、確かにその揚げ魚も美味しそうだし、パクッ」


「……どうですか?」

「もぐもぐ、揚げたてで衣はカリカリなのに、中身の白身魚は熱々のぷりぷりで、口の中でほぐれるし、甘酢あんの甘酸っぱいタレが絡んで味のハーモニーを奏でて舌を楽しませてくれる、食感も良いしこれもスゴく美味いな」


「あ、美味しいなら良かった、です……っ」

「ありがとな、アルマ」


「む? アルマ、何か照れてる?」

「そ、そそ、そんな事ないですよ……」


「ピヨヒコ君、本当に美味しそうに食べるね、と言うか3人とも仲が良いね」

「そうだな、何というか熱々だな……ちょっと羨ましい」


「おやぁ、アッシュも可愛い女の子に食べさせて欲しいのかなぁ?」

「ゲホッ、なに言ってんだよ、リディア」


「3人? あれ、そう言えばあの吟遊詩人の兄さんは居ないのか?」

「ああ、奴なら今は……」


「こっちに居ますよ、どうも先程振りですね」

「あ、バーカウンターの方に座っていたのか」


「なっ、いつの間に……」

「いやぁ、ここの酒場の料理は本当に美味しいですよねぇ、お酒も美味ですし」


「あ、なに昼間から酒まで飲んでるんだよ」

「私は勇者様と違って二十歳は過ぎてるんですから問題ないでしょ」


「お待たせしましたー、おつまみセットのMサイズとお酒のお代わりです」

「いやぁ、中々話せる兄さんだよな、乾杯、乾杯!」


「おお、飲もう飲もう、このツマミも美味いぞい」

「ええ、そうしましょう、グビッ」


「おのれ、酔いどれドワーフ達を味方に付けて、飲酒を正当化したな」

「まあいいじゃないですか、それに勇者様も飲みたいなら頼めばいいのでは?」


「こちとらまだ未成年じゃい!」

「ああ、そうでしたね、それは残念です、ゴクゴク、ぷはぁ」


「ぐぬぬ……」

「あ、いいなぁ、私もお酒を頼もうかなー」


「いや、リディアはここで飲んだらダメだろ」

「えー、何でよケチー」


「だってお前、酔うとヤバいだろうが、この前だって……」

「ちょっと、その話を掘り返さないでよ、これでも反省してるんだから」


「え、何の話?」

「ああ、コイツはかなり酒癖が悪くてな、絡み上戸と言うか……キス魔と言うか」


「え、キス!?」

「ですね、それに歯止めが効かずにそのまま泥酔しちゃうと、ところ構わず装備を脱ごうとするし……しかもあんな公共の場で、あの時は大変でしたよ」


「ええ、露出癖があるの!?」

「あーもう、やめてよ、私のイメージが悪くなるでしょ!」


「大丈夫だよ、元からそんなに良いイメージなんてないから」

「なんだとー」


「まあまあ、今回はコレで我慢しときましょうよ、人目もあるんですから」

「……むぅ、わかった、そうする、すみませーん、ジンジャーエールのボトル瓶を追加でもう2本お願いしまーす」


「はーい、かしこまりましたー」

「ジンジャエール?」


「生姜の入った炭酸飲料だよ、シュワシュワってして、ちょっと辛い飲み物だね」

「おー、美味しそう」


「ノンアルコールだし、辛いのが好きならネムちゃんの口にも合うかも?」

「ちょっと飲んでみたいかも」


「そう言えばそっちは全員、何か水の代わりに飲んでたな、俺も飲んだ事ないからちょっと飲んでみたいかも」

「え、割と一般的な飲み物だけど、ピヨヒコ君も飲んだ事ないの?」


「あ、いや、それはその……」

「はーい、お待たせしました、追加のボトルでーす」


「あ、来たきた、飲んでみたいなら2人にも注ぐよ」

「くれるの? わーい」


「ありがとう、それじゃ俺も一杯だけ貰おうかな」

「おお、何か喉がシュワシュワする、ネムこれ好きかも」


「ごくごく、ふーむ、甘味もあるけど、少し辛みもあるな、それに喉越しがよくて何か癖になる味だな、普通に美味い」

「……ゴクリッ」


「気に入ったなら良かった、まだあるからアルマさんも飲みます?」

「え? あ、いえ、私は大丈夫です、お気遣いありがとうございます」


「そっか、まあコレなら飲みたい場合は自分達でも頼めるからね」

「リディア、こっちにも一本くれ」


「もう、直ぐ目の前にあるんだから、そのくらい自分で取ってよ、とりゃ!」

「オワッ、投げるな、酒癖が悪いのが露見したからって、そんなに怒るなよ」


「酒癖が悪い言うな!」

「普通の人は酔ったからって人前で突然、脱いだりはしないですよ」


「バドー、何度も私の醜態を口にするんじゃない、アンタだって弱いでしょ」

「ボクは自分の許容量はちゃんと把握してますから、泥酔なんてしないですよ」


「そんなこと言って、あの時はデロンデロンに酔って潰れてたじゃない!」

「あ、あれは自身のアルコール摂取の限界値を知る為の検証を兼ねてましたから、それにもう封印した記憶です、思い出させないで下さい!」


「ゴクゴク、まあ本物のエールの方が正直好みだが、コレはコレで美味いよな」

「ああ、つまみにも合うしな、それにまだ昼過ぎだからな」


「……何かベオルフが遠慮なく飲んでるから、ちょっと申し訳なく感じるな」

「あ、いや、問題ないから気にしないでくれ」


「そうか、しかし俺はまだ酒は飲んだ事ないけど、酔っ払うと人によっては大変な事になるんだな、何かバフの恩恵もそれだけ強いみたいだけど、じぃー……」

「ええ、そうですね……て、どこを見てるんです?」


「む? ピヨピコ、なんか顔が赤い?」

「え、そそ、そんな事はないぞ?」


「あれぇ、もしかしてさっきの会話を聞いて、私の裸を想像してエッチな妄想でもしちゃったのかな? 何かいやらしい視線を感じるぞぉ」

「ふぁ!?」


「お、その反応、もしかして図星かなぁ」

「ピヨピコはエッチな狼さんだからねー」


「ちょっとネムさん? 何を言ってるのかな!?」

「だってエマがお風呂でそういってたし」


「へぇ、ピヨヒコ君はエッチなんだー」

「リディア、その辺にしとけよ、変なちょっかい掛けるなよ」


「いや、そんな事は決して、はっ、この視線は!」

「……勇者様、そんなに慌ててどうしたんですか?」


「い、いや何でもないよ、それにエッチな妄想なんてしてないから、顔が赤いのはさっき食べた辛いポトフの余韻が残ってるからであって……てか何でアルマは俺にそんな笑顔を向けているのかな!?」

「……笑っているように見えます?」


「いや、寧ろ怒気を感じています、ごめんなさい」

「何で謝ってるんですか? 別に怒ってなんていないですよ」


「ヒィ!?」

「むぅ、アルマなんか怖い……」


「おいおい、リディアがあまり勇者の兄さんの事を揶揄(からか)うから、何か拗れた感じになっちまったじゃねぇか、どうするんだよ」

「あはは、どうしよ、アルマさんも何かごめんね、別に悪気は無かったんだけど、ちょっとした冗談のつもりで言ったんだけど、不快な気分にさせたかな」


「あ、いえ、大丈夫ですよ、こちらこそお騒がせしました」

「……何か本当にその優しそうな笑顔が少し怖いんだけど、怒ってるよね?」


「え、別に怒ってませんよ?」

「そ、そうなの?」


「そう言えば、拗れたと言えば、リディアと初めてあった時もかなり拗れたよな」

「拗れたって言うか、あれは状況的に無理やり拗れさせられたって感じでしょ?」


「ああ、懐かしいな、このパーティーを結成してからもう三年くらい経つのか」

「む? なんの話ー?」


「お、詳しく聞きたい、ネムちゃん?」

「うん、興味あるー」


「俺もちょっと興味はあるな」

「私も少し聞いてみたいです」


「よし、それじゃリーダーが代表して、アリアンロットを結成した経緯を」

「え、俺かよ、えっと、何処から話せば良いんだ? 俺は元々は傭兵として部隊に所属していたんだけど、ランドルフとはその頃に出会って……」


「アッシュも元々は貴族の家柄なんだよな」

「え、そうなのか?」


「この王国の御三家の1つ、リーンベルの系譜なんだっけ?」

「!」


「リーンベル?」

「ああ、この国には王家を支える貴族の中でも特に力を持つ三つの名家と呼ばれる御三家があるんだけど、リーンベル家はその内の一つだな」


「ふむふむ、貴族には家名とかもちゃんとあるんだな、何となく気品がある佇まいだとは感じてたけど納得した、あれ、でも何でそんな貴族の出身なのに傭兵稼業や冒険者をしてるんだ? 詳しい身分や境遇は分からないけど、普通はそのまま家を継いだり、支えたりするものなんじゃないのか?」

「いや、家督を継ぐのは大体は嫡男だから、生まれた順で格差とかもあるし、他はそんな良い待遇でもないぞ、まあコネや伝手で良いところに就ける事はあるけど」


「コホン、それに俺の家は御三家といってもリーンベルの分家だけどな」

「それでもアッシュの家は普通の貴族よりも顔が効でしょ、分家といっても子爵位だし、それに嫡男で生まれて跡取り候補だったって話でしょ」


「俺の家の内情はリディアも知ってるだろ」

「あ、そうでした、これは失礼しました」


「……?」

「コホン、貴族には国を支える為にそれぞれに役目とかも確かにあるけど、色々と事情もあってな、今は身分とは関係なく冒険者として生活してる感じだよ」


「……なるほど、何か複雑な事情がある感じか」

「そうみたいですね、ボクも詳しい経緯までは知らないですが」


「あれ、バドにもその話をした事なかったっけ?」

「ですね、なるべくプライベートな事は聞かないようにはしているので」


「確かに、あまりプライベートな事を詮索するものじゃないよな……」

「バドって知りたがりのくせに、そう言うのには割と無関心だよね」


「ボクの興味は主に魔術と、それに関連する魔法に関してですから」

「なら最初から話すか、みんな食事も大体済んだようだし、別に隠してる訳でもないからな……話に出たけど俺は貴族の家の跡取り息子として生まれたんだが、他にも姉が三人居て、ある出来事を切っ掛けに跡目争いが勃発し──……」


 あ、遠慮したのに結局は話すのか、まあいいけど、ちょっと無警戒なのでは?


 中略


「……なるほど、それでその三女が家督を継いで、家を追放されたアッシュの方は傭兵として生計を立てていたのか」


 詳細は割愛するけど、内容的には三姉妹による策謀と疑心暗鬼が溢れる、殺伐とした家督争いにアッシュも巻き込まれた感じだったけど、正直ドン引きした。


 やっぱり富と権力に縛られている貴族なんて碌なものじゃないと実感したけど、アッシュもそれで最終的には追放という形で相続を放棄して、家を出たらしい。


「ああ、戦場に身を置けば危険はあるけど安定して稼げて自身のレベルアップにも繋がるからな、それでも最初は訓練について行くだけで精一杯だったけどな」

「……訓練? そもそも傭兵ってのは冒険者とは違うのか?」


「ああ、傭兵も一応、冒険者の職種には属してるんだけど”傭兵組合”ってギルドとは別の組織があって、元々冒険者ギルドが設立する前から活動していて、今は主に国に雇われて魔王軍に占領されたエリアに赴いて抗争に参加したり、魔物の侵攻に対して防衛に勤めたりと、まあ立場的には王国騎士団の下請け部隊って感じかな」

「ふむふむ」


「それに罪を犯してギルドカードを剥奪された者でも受け入れてくれるから、刑期を終えても犯罪履歴やカルマ値で働き口のない者の就職先にもなってるな、それで更生出来れば良いんだけど、秩序には割と厳しい環境だから嫌気がさして隊を抜けて傭兵崩れのならず者や野盗に身を堕とす者も中には居たりはするけど、その辺は本人次第だな、傭兵組合の方針は基本的に来る者は拒まず、去るものは追わずって感じだからな」

「なるほど、世の中善人ばかりじゃないし確かにそう言う更生施設も必要だよな、でも野盗に傭兵崩れのならず者か、何か窃盗団とかも居るんだっけ……物騒だな」


「傭兵組合をまとめるトップが凄い人でな、腕っぷしだけで成り上がった感じで、その強さとカリスマ性に憧れて、傭兵に志願する奴も居るくらいだよ」

「 そんな人物が居るのか、何か凄そうだな……」


「ギルドカードの代わりに”ドックタグ”ってアイテムで識別されるんだが、倒した魔物の数や、実績は冒険者カードと同じように自動更新されて、タグの色で明確にランク分けされるから、上位ランカーを目指して討伐数を競ったりと、仲間同士で切磋琢磨してたりもするな」

「そうそう、完全に実力主義な組織なんだけど、不思議と統率は取れてんだよな、弱い奴が小細工してもどうにもならないから陰険な行為とか特に起きないし、でもやっぱり体育会系な感じだから、インテリ系の奴には正直合わない組織だけどな」


「……そ、そうか」


(何か話を聞いた感じだと俺には傭兵は厳しそうだな、ついて行ける気がしない)


「コホン、それにこの国以外にも各地に部隊が分散されてて幅広く活動してるから魔王軍との攻防戦に於いては各エリアの戦況の把握も担っていて、部隊によっては防衛以上に情報収集がメインの活動になっていたりはするよ」

「あ、それ私も聞いたことある、確か”蛸足部隊”とか呼ばれてるんだっけ?」


「タコ〜?」

「脚が8本あってグニャグニャ〜って動く墨を吐く奴だね」


「む、エイリアン?」

「ええ、何それ、魔物?」


「傭兵組合の本部以外に各地に8つの支部があって、エリア間を行き来してるからオクトパスレッグとは呼ばれてるな、所属が違ったから俺もそこまで詳しくは知らないけど、少数精鋭で構成されていて戦闘や諜報に特化してるらしい」

「……そう言えば攻防戦では戦力が数値化されるとかは聞いたけど、ちゃんと現地での状況を調査してそれに基づいている感じなのか」


「ああ、それで何年か前に魔王軍に奪われた隣接のエリアの”奪還作戦”も決行されたんだが俺とランドルフもその攻防戦クエストに傭兵として参加して、4人1組にオペレーター込みの編成を組まされたんだけど、実戦に備えて魔物との戦闘も含めてそれなりに訓練はしたよ」

「……ああ、だから訓練が大変だったって言ってたのか、ちゃんとした組織で部隊に配属されるなら仲間と連携を取る為にも訓練は必要だよな」


「でもあの時の攻防戦は味方陣営のメンツが凄まじかったから、全体的に優勢ではあったよな、王国騎士団を中心に陣形を組んで、軍師様が個々の戦力をしっかりと把握してくれてたから、まだひよっこだった俺達は比較的 安全な配置だったし」

「ふむふむ、あの軍師様か……」


「奪われた近接するエリアを奪還する為に”双頭の獅子”とも謂われた二人の王子が直接指揮を取って、魔王軍に総力戦を仕掛けたからな」

「む? マルクスさまの事?」


「そうだけど、ネムちゃんも知ってるくらい有名なんだね」

「まあそりゃ何てったって、この国の第二王子様だからな」


「ああ、それにこの国の防衛大臣を務めていて、更には冒険者ギルドを立ち上げた初代ギルドマスターらしいからな」

「あ、勇者様、それは……」


「え、マルクス様って初代ギルドマスターなの!?」

「なに、そうなのか? そんな話は初めて聞いたぞ?」


「え、え?」


「初代ギルマスの逸話はいくつか聞いた事はあるけど俺も知らなかったな」

「ボクも噂程度でしか知らなかったので、その情報は初耳ですね」


「あれ、それってそんなに周知されてない話なのか?」

「だって初代ギルドマスターって”叡智のマルドゥーク”だよね?」


「マルドゥーク?」

「えっち?」


「初代ギルマスは二つ名でそう呼ばれていたらしいのですが、成る程、マルクス様が叡智のマルドゥークなら数々のエピソードも色々と納得が出来ますね」

「……っ」


「あ、もしかしてあまり広めると不味い感じなのか、えっと念の為にその話は内密で頼む、バレると後で本人から怒られそうだ」

「そっか、勇者の兄さんは立場的にはマルクス様とは知り合いなんだな」


「ああ、了解した、確かに俺達も知らなかった事だし”偽名”を使ってたなら意図的に情報を規制している可能性はありそうだな」

「俺の方も配慮が足りなかったけど、出来たら面倒ごとは避けたいから頼む」


「まあちょうど空いてる時間帯だし、他の客は酔っ払いのドワーフ達くらいだから多分大丈夫だろ、ここの店員さん達はそう言う”噂話”とかには耳聡いけど自発的に広めたりはしないだろうし、チラッ」

「!」


「……リカさんサキさんが仕事をする素振りをしつつこちらに耳を傾けているな、もしかして”盗み聞き”のスキル持ち?」

「あ、視線を向けたら自然な感じで厨房に引っ込んだね、まああの双子ちゃん達は信用出来るから大丈夫だよ、それにギルド職員なら周知してる事だとは思うし」


「そっか、それなら大丈夫かな……」

「初代ギルマスは、今のギルマスとパーティーを組んでいたとかの話は聞いた事はありますけど、立場的にも色々と事情がありそうですよね、多忙なお方ですし」


「コホン、取り敢えず話を戻すけど、その奪還作戦では2人の王子様も含めてこの国を代表するような強者達が集まった感じだよ、魔導修道院の精鋭”笛吹き部隊”も出撃要請に応じて、紅蓮の魔術師クレアまで参戦してたし」

「ああ、それに孤高の老傭兵バルトに、食激のペコリータ部隊とかも居たよな」


「……何か聞いた事がある名前だな」

「二つ名持ちの有名人ばかりだね、確かに凄いメンツだわ」


「なにより”竜殺しの英雄”が居たのがデカかったけどな、攻勢の要にもなったし」

「!」


「確か奪われてた土地って元々は隣国があった場所だよな、もう何年も前に魔王軍の侵攻で滅びたって話だが……」

「あの占領されていたエリアを取り戻すのに躍起になっていたよな、詳しい事情は知らないけど、あの時のジークフルドさんは本当に”鬼神”のような強さだったよ」


「……そ、そうか」

「あの攻防戦クエストを切っ掛けに、英雄と呼ばれるようにもなったんだよね」


「ああ、それに二年前の魔王軍の大規模侵攻の時も、エリアを跨いで空からの奇襲だったにも関わらず、あの人のお陰で多くの冒険者と民の命が救われたからな」

「む、ピヨピコのお父さん?」


「そうそう、ピヨヒコ君は英雄ジークフルドの息子なんでしょ? 勇者に選ばれた詳しい経緯とかも少し興味あるかも、まあ天啓のお導きもあるんだろうけど」

「え、ああ……まあそうだな、天啓によって定められたから、なのかな……」


「……勇者様?」

「リディア、あまり詮索するのは無粋ですよ、それにジークフルドさんは既に、」


「そうだった、何かゴメンね」

「あ、いや、大丈夫だ、気にしないでくれ……」


「……」

「……」


「……え、何この沈黙!? いや、本当に平気だから気にしなくていいよ?」

「え、あ、うん、あはは、なんかピヨヒコ君が神妙な表情をしてたから、ちょっと釣られて黙っちゃった」


「えぇ、俺そんなに思い詰めた顔をしてたか?」

「うん、ちょっと悩んでいる風には見えたかな」


「ピヨピコはよく独りで黙って考え込んでるからねー」

「あちゃ、ネムにまでそう思われてたのか、色々と思考する事は多いけど別に思い詰めてはいないから大丈夫だよ、アルマもだけど心配かけてたならゴメンな」


「あ、いえ、もし悩み事があるなら私でよければ聞きますので」

「ネムとブックルも、いつでも相談には乗るからね?」


「……コクコク」

「ああ、どうにもならない時はちゃんと相談するし頼るとするよ、ありがとう」


「勇者様のパーティーもちゃんと信頼関係が結べてる感じだよね、仲も良いし」

「ああ、そうだな、それに頼れる仲間が居るってのは精神的にも心強いからな」


「ガッハッハ、姉ちゃん、酒のお代わりを頼むぞい」

「おう、詩人の兄さん、飲んでるか? もっと飲むぞい」


「ええ、飲んでますよ〜♪ グビグビ、ぷはぁ、ヒックッ」

「! あ、はーい、ただいまー」


「……頼れる仲間の吟遊詩人の兄さん、酔った時のリディアみたいになってるな」

「え、私あんなに酷くないでしょ!?」


「え、頼れる仲間? あ、すまない、何か話を区切ってしまったかも」

「コホン、いや大丈夫だよ、それでその攻防戦も終結してこの王国の周辺エリアの安全も確保はされたから、それを切っ掛けに俺とランドルフは傭兵稼業は辞めて、一緒に組んで冒険者になる事にしたんだよ」


「そうそう、それで最初は2人でクエストに挑んでたんだけど、俺が盾職ってのもあって敵が多いと手数が足りなくてキツイと感じてな……」

「ああ、だから後衛が出来る仲間を求めて、募集スレとかにも参加して何度か即席パーティーも試してみたんだが、イマイチしっくりこなくてな」


「……募集スレ?」

「えっと、勇者様、このギルドには【募集スレッド】って言うシステムがあって、駆け出しの冒険者や仲間との都合が合わない時とか、ソロで挑むのが厳しい場合は手軽にパーティーを組める専用の書き込み掲示板があるんですよ」


「え、見ず知らずの冒険者とパーティーを組むのか? それって危なくないか?」

「その辺もちゃんと配慮されていて、貼られるのは主に討伐クエストなんですけど冒険者のレベルに合わせて参加の制限はされますし、募集してるクエストもギルドを通して行われるので、場合によっては専門のギルド職員がパーティーに同行してくれるのでそこまで危険はない感じですね、私も後学の為に募集スレッドは何度か利用した事はありますよ」


「なるほど、と言う事はそのギルド職員は元は凄腕の冒険者とかなのか」

「採用の基準は役職にもよるのでギルド職員の経歴はそれぞれですが、同行してくれるのは実績のある冒険者が多いみたいです、それにギルドが判断して信用出来るベテラン冒険者をスカウトして雇っているとかの話も聞いた事はありますね」


「とは言え即席パーティーだから揉めたりする事はあるけどな、連携が取れなくてクエスト失敗なんて事になったらミスした相手を責めたり、能力不足だとギルドに不満を漏らしたりとかもあるみたいだし、まあその場合は連帯責任なんだけど」

「ギルドの方針で一応リーダーを決める事にはなっているんだけど、即席とは言えそれなりに責任がある立場だから、実力以上に資質や性格が問われるよな」


「でもあれって基本的には募集した人がリーダーになる決まりなんでしょ? 私も参加した事はあるけど、初見同士だと連携が上手くいかないってのは感じたかも、私の場合は後方からの弓での射撃だから、前衛がごちゃついてると狙い辛いし」

「ふむふむ、そう考えると知らない相手を信用して背中を預けるのも何か怖いな」


「おっと、それは私が誤射して味方を矢で撃ち抜くって言いたいのかなぁ?」

「え!? あ、いや、別にそういう意味ではないんだけど、知らない相手と組んで後方から攻撃を仕掛ける場合、慣れてないとお互いに行動の邪魔をしちゃうかもと思っただけで、だ、だからリディアの事を言った訳では……」


「あはは、冗談だよ、それに戦闘順があるからそうそう誤射なんてしないよー」

「言われてみれば、ターン制だと混戦での誤射もある程度は抑えられそうだな」


「……俺はリディアに背中から思いっきり射抜かれた事があるけどな」

「!?」


「あれー、そうだっけ?」

「俺もあるな、まあ流石に最近はないけど、最初の頃は何度か誤射されたな」


「ま、まああの頃は私もまだ弓使いの熟練度も低かったからね、てへっ」

「ふむ、そう考えるとやっぱり初見同士だと連携するのは難しそうだな、間違えて誤射なんてしたら、わざとじゃないにしても揉め事になりそうだし」


「その辺も考慮してアルマさんが言ったように慣れない内はギルドの職員が指導を兼ねて引率してくれるんだけどな、俺達の時も初回は同行してくれたし」

「ああ、それに今は冒険者カードでカルマ値とかも事前に調べられるし、もし何か不測の事態が起きてもギルドの方で対応はしてくれる感じだよ」


「……なるほど、それなら安全ではあるのかな、納得した」

「でも実際、募集スレッドのシステムが実装された当時は、相手の装備を無理やり強奪したり、それこそプレイヤーキラーみたいな犯罪行為をする輩も居たようだけどな、まあギルドカードとアイテムボックスが導入されて根付いてからはそう言う犯罪行為は抑制されて激減したらしいけど」


「ですね、カードに記載されるレッテルの称号にも影響しますし、今そんな真似したらこの国じゃ冒険者を続けられないですし、犯罪者として捕まりますからね」

「ふむふむ、そう考えるとギルドカードや魔法の鞄って重要なアイテムなんだな、でもアイテムボックスってかなり高価な物なんだよな? 詳しい価格はよく分からないけど駆け出しの冒険者が簡単に用意出来るものなのか?」


「えっと、募集スレの場合、共有で使える”魔法の収納袋”を貸してくれるので討伐した魔物の素材は一応、そのアイテムボックスに入れる決まりにはなってますね」

「なるほど、それなら素材の運搬も容易だし即席パーティーでも誰か1人が素材をちょろまかしたりするのを防止する事も出来そうだな」


「それにギルドの受付で申し込めば必要に応じてレンタルもしてくれますし、まあ多少の代金は掛かりますけど」

「ふむふむ、レンタルなんてのもあるんだな」


「アイテムボックスはそれだけ便利だからね、私も専用のは持ってるけど消耗品の矢や回復ポーション、飲み水や食材が嵩張らなくなっただけでもかなり楽だし」

「駆け出し冒険者のパーティーは最初は共用でもいいから、まずアイテムボックスを手に入れるのを目標とする場合が多いよな、俺達は家柄とかもあってパーティーを組んだ時には既に個々で持ってはいたけど」


「なるほど、こっちも国の支援でネムの魔法のポーチは貰ったけど、投擲武器とかも収納できるから持ち運ぶのは便利だよな」

「む? 今までは羽根に仕込んでたけど、こっちの方が使い易いかも」


「え、そうだったのか?」

「うん、腕が軽くなったから前よりも飛びやすいよ」


「ネムちゃんの投擲の技量もスゴかったね、軽業師のスキルもだけど飛びながらでも器用にポーチから投げナイフを取り出してあの酔っ払いをちゃんと狙ってたし」

「えへへー♪」


「……軽業師?」

「でも詩人の兄さんの技量もかなり凄かったけどな、あれ着てたマントで隠してたけど実際はその場で回転しながら裏拳で飛んでくるナイフを弾き返してたよな」


「え、そうなのか!?」

「素手のスキル”カウンターパリィ”だよな、しかも演奏しながら併用してたし」


「格闘の技能は本来はかなり鍛錬しないと身に付かないのものなんですが、努力の賜物なんですかね?」

「いや、俺もあの吟遊詩人の事はそこまで詳しくは知らないんだが、って、あれ、いつの間にかベオルフの姿が見えないな、何処に行った!?」


「相席のドワーフ達に合わせてかなり飲んでたみたいだから、席を外してトイレにでも行ったんじゃないか?」

「……そうなのかも? いや、でも、もしかして消えた?」


「そう言えばあの詩人の兄さんも魔法の鞄は所持してたよな、演奏の合間に装備を切り替えてたけど、鞄から楽器のケースが唐突に出来たから少し驚いたな」

「え、ああ、確かに、ネムと一緒に旅をしてたみたいだから、楽器以外にも生活に必要なアイテムとかも入れてる感じなのかも」


「む? ベオルフの鞄は前に中身を漁ろうとしたら何かバチッ、て弾かれたよ」

「所持品を保護する為にプロテクトの魔法が施されてるんだろうな、俺達も防犯用に一応、プロテクトの登録はしてあるし」


「ふむふむ、確か個々の魔力を鍵にしてロックするんだっけ?」

「そうですね、魔力の質は指紋と同じでその人によって千差万別ですから」


「まあ冒険者に限らず個人でアイテムボックスを持ってる事は多いけどな、それに募集スレも中級以上のクエストだと集まるのは殆ど顔馴染みだから、収納袋の有無を問わず人数が揃ったら勝手に行ってこいって感じにはなるし」

「そっか、利用してる冒険者が多いなら知ってるメンツが揃う事も当然あるのか」


「でもその募集クエストを切っ掛けに冒険者同士が知り合って意気投合して、正式にパーティーを組む事もあるけどな、俺達もそれで仲間になってくれそうな人材を探していた感じだし」

「とは言え募集スレに慣れ過ぎるとちゃんとしたパーティーを組まずにソロ専門になる冒険者とかも結構居たりはするんだけどな、そっちの方が気楽だから気持ちは分かるけど、同じパーティーだと気心は知れるけど些細な事でも口論になったり、意見が合わずに揉めたりとかも、それなりにあるっちゃあるからなぁ」


「男女のパーティーだと色恋とかに発展したりもするからね、仲間内でギクシャクしちゃうと空気も悪くなるし、戦闘での連携にも関わってくるから厄介だよね」

「……昨日もそんな話は聞いたけど、パーティを纏めるリーダーは大変そうだな」


「女性メンバーを巡ってパーティーが三角関係になって男性メンバーの2人が決闘したなんて話もありましたよね、だいぶ昔の話みたいですけど」

「割と有名な逸話だよな、しかもその女性も含めて全員が二つ名持ちだったようで結果的に負けた方は潔く身を引いて、パーティーから脱退したらしいけど」


「ふむふむ、恋愛が絡むと凄腕の冒険者でもそんな事になるんだな」

「……っ」


 何かアルマが複雑な表情をしてるんだけど、もしかして俺と同じでループする前の記憶をうっすらと覚えてたりもするのか? もしそうなら少し気まずいな……


「それにトラブルを避ける為に同性のみでパーティーで組むとかも聞くけど、女性だけで編成されたパーティーだとそれはそれで悪目立ちするから面倒ごとの原因になったりもあるようだけどな」

「確かに女性だけだと冒険するにしても危険は多そうだな、被害に合わないように矢面に立たせたくないとか、そんな話は昨日も聞いだけど大変そうだな」


「まあウチは男世帯だから大丈夫だな、寧ろ矢で狙われるのは俺達の方だし」

「あはは、私が男勝りだとでも言いたいのかな、ランドルフ? 誤射がお望みならいっぱい射してあげるよ? どこが良い、お尻? それとも膝?」


「冗談だ冗談、悪かった、だから弓を身構えてコッチに向けるんじゃない!」

「……何かアリアンロットはみんな仲が良いよな」


「まあこれでもお互いそれなりに絆を深めているからな」

「絆?」


「元は名家の跡取りが追放されて今は冒険者のリーダーとしてパーティーを立派に纏めてるんだから人生どう転ぶか分からないよね」

「いや、リディアだって良家の出身なんだろ? 元々どこかの御令嬢って話だし」


「む、それを言ったらランドルフだって由緒ある騎士の家系なんでしょ、私はもう過去の自分とは決別したんだから、あまり詮索するのはルール違反だよ」

「俺には剣術の才能がなかったからな、それに由緒あるって言っても所詮は辺境の貧乏貴族の四男坊だし、家を追い出される前に自分から出たんだよ」


「……何か他のメンバーもそれぞれに事情があるんだな」

「うん、アリアンロットは結成した時に色々とルールを設けてそれを破らない様にはしてるんだよ、趣味とか含めてお互いあまり干渉されたくない事もあるからね」


「ふむふむ、確かにルールを決めておけば揉め事を避ける事は出来そうだな」

「まあその辺はパーティーにもよるけどね、規則で束縛すると逆に窮屈に感じる事もあるし、私達の場合もお互いに許容が出来る範囲での割と緩めのルールだし」


「でもクエストの報酬とかで揉めない様にする為にも最低限のルールは決めといた方が良いけどな、人間関係もだけど金銭が絡むと碌な事にならないし」

「ダンジョンの宝箱とかでも誰が装備するかで拗れる事はありますよね、ボク達の場合は職種も違うし戦闘の役割が明確に分かれているので、ドロップアイテムとかで揉める事はあまりないですが」


「なるほど、仲間に迎える以上はその辺の事もちゃんと考えないといけないのか」

《いや、嘘でしょ? そこまで細かい設定とか、流石に勘弁して欲しいんだけど》


「む、設定?」

「だいぶ話が脱線したけど、そんな折にリディアとバドには出会った感じだな」


「そうそう、募集スレとは関係ないんだけど、ある依頼クエストを受けたんだけど実はその依頼主が裏で暗躍して、雇った冒険者を巻き込んで”デスゲーム”みたいな事を企てたんだよ、しかも……」

「え、なにその急展開、デスゲーム!?」


「あ、その話もしちゃうんですか?」

「いや、だってパーティー結成の切っ掛けって言えばあのクエストだし」


「……まあ確かにそうですけど」

「と言うかリディア、いきなりネタバレするなよ」


「おっと、これは失礼しました、テヘッ」

「ネタバレ? 何かオチがある話なのか?」


「元々は調査クエストって名目で、いくつか条件付きでクエスト掲示板に貼られてたんだけど、詳細は依頼主が説明するって事で何か胡散臭かったけど報酬がかなり良かったのと過去にも似た依頼があって、安全は保証されてると担当のギルド職員にも勧められたからそのクエストを受ける事にして指定された日時にその依頼主が所有してた屋敷に2人で向かったんだけど、そこにリディアとバドも居たんだよ」

「……ふむふむ」


「それで話を聞いてみたら、どうやら俺達の他にも何人か同じクエストを受注していたらしくて、まあ食材クエストとかだと複数人の冒険者を同時に募集して、役割分担して食材を確保するなんて事もあるからそれは別にいいんだけど、元々は調査クエストって話だったから何か疑わしくてな」

「あ、私も思い出してきた、あのクエストって確かに条件付きだったね、何か若い二十歳前後の冒険者を募集、みたいな感じだったから、かなり怪しかったけど報酬に釣られて私も受注したんだった、あの頃は所持金もあまりなかったし」


「そう言えばその条件に秘密厳守もありましたよね、依頼主に不利益が生じないようにする取り決めですけど、確かに今考えると怪しさ満点でしたね」

「ふむふむ、そんな条件付きのクエストなんてのもあるんだな」


「ああ、それで俺達も含めて6人程集められたんだけど、依頼主は何処ぞの貴族で俺も名前くらいは知っている相手だったんだけど、依頼内容を詳しく説明するとか言われてその屋敷に招かれて、紅茶とお茶菓子をご馳走されたんだが……」

「何とその紅茶に”眠り薬”が混入されてたんだよ!」


「え、眠り薬!? 何だそれ、一服盛られたって事か?」

「……リディア、割り込むならお前が代表して話せよ」


「えー、面倒いから詳細はリーダーに任せる、そして美味しいところは掻っ攫う」

「リディアってそう言うところがあるよな、戦闘でもトドメの一撃をよく狙うし」


「なによ、何か文句あるの?」

「いや、俺達は慣れてるから別にいいんだけどさ」


「コホン、まあそれで目が覚めたら見知らぬ場所でさ、実はその屋敷の地下の隠し部屋だったんだけど見事に騙されてな、知っている貴族だったから油断してたってのもあるけど、それで俺たちは全員その屋敷の地下室に閉じ込められた訳だ」

「なんか凄い展開になったな、要は監禁だろ? それって普通に犯罪なのでは?」


「む、カンキンってなぁに?」

「えっと、相手を無理やり何処かに閉じ込めて、自由を奪うって意味だよ」


「おー、なるほど、おっかないね」

「そうだな、それと気になったんだけど、怪しいと言ってたのに何で不用心に出された茶菓子を疑わずに飲んだんだ? 俺なら警戒して様子見するとは思うんだが」


 あれ、なんかアルマに少し呆れた顔で見られてる気がする……?


「ああ、それは思ったよりもその依頼人の貴族が物腰の良い感じで対応してきて、話してみたらそこまで悪人には見えなかったから、警戒心を少し解いてたってのもあるけど、誘導されて釣られた感じかな」

「釣られた?」


「俺達の他にも2人ほど冒険者が居たんだけど、その内の1人は全く警戒しないでその出された菓子を食って美味い美味いと言ってさ、それにバドも気にせず紅茶を飲んでたし、何か有名な店の高級な紅茶とそれに合う甘い菓子だったみたいで俺とランドルフもそれに釣られて飲んだんだよ、まあ要は気を抜いて油断していたんだけどな……」

「なるほど、相手が思ったよりも上手だった感じか、それなら騙されるかも」


「実際かなり美味しかったよね、あの紅茶とお菓子」

「ええ、それに飲んで直ぐに効果があらわれる訳ではなく、時間差で眠くなるポーションが混入されていたので、異変に気が付いた時にはもう手遅れでしたね」


「ふむふむ、そんなヤバそうな効果のポーションもあるのか」

「……それでみんな見知らぬ部屋で目を覚ましてかなり戸惑ってたんだけど、暫くしてその貴族が魔道具を介して姿を見せずに指示を出して来たんだよ、内容的には『君達には今からいくつか魔術の実験に付き合ってもらう、それに見事クリアする事が出来たらこの部屋から解放してあげよう、もちろん報酬は支払うよ』みたいな感じで、特殊なクエストが発生したんだ」


「え、なにそれ、と言うかそれもクエスト扱いなの!?」

「内容的には特殊な魔道具の性能をテストする為の”調査”として、ギルドには話を通してあったらしいけど、守秘義務があるから詳細は掲示板に載せなかったとかは事前に聞かされてたんだけど、結局その悪事も一緒にバレて騒ぎになったな」


「……悪事?」

「ああ、実はそのクエストを担当していたギルド職員が裏で貴族と繋がっていて、賄賂を貰って融通を利かせ、依頼主が望む人材を集めていたんだよ」


「え、そんな事があるのか?」

「俺達にそのクエストを薦めて来たのもそのギルド職員だったからな、しかもそれ以外にも色々と余罪が発覚して、最終的には懲戒免職になって投獄されたらしい」


「……なるほど、賄賂を断りずらい立場だったとしても自業自得なのか、えっと、つまり選考の基準は分からないけど、以前にも何度か似た実験が行われていて今回はアッシュ達が選ばれてその貴族の悪趣味な道楽に付き合わされた感じなのか? でも実験が済んだら解放して報酬を支払うと言ってるなら、別に一服なんて盛らずに最初からそう説明すれば良かったのでは?」

「本当そうだよね、私もその説明を聞いた時はそう思ったし」


「何でも追い詰められた状況で被験者がどんな行動をするか観察も兼ねていたとか後で聞かされたけどな、それで指示された通りいくつかの実験に付き合わされたんだけど、騙し討ちみたいな感じで知らないもの同士が集まった訳だから、リディアもその状況に困惑、と言うか憤慨してたから宥めるのが大変だったよ、疑心暗鬼になって俺達の事までその貴族のスパイなんじゃないかと疑ってたし」

「ああ、それで状況的に無理やり拗れさせられたって、言い方をしてたのか」


「いや、だって普通は怒るでしょ、いきなり眠らされて監禁なんてされたら」

「普通は怯えたりするものだと思うが、巻き込まれた他の冒険者の1人も最初こそ困惑して憤っていけど、途中から恐慌状態に陥って怯えていたし」


「でもバドは落ち着いてたよね、寧ろ興味津々に実験に付き合ってたし」

「ええ、まあそうですね、ボクにとっても貴重な体験ではありましたから」


「? もしかしてその他の冒険者の2人、もしくはバドも含めた3人はアッシュ達みたいに元から組んでいた感じなのか?」

「お、ピヨヒコ君、なかなか勘が鋭いねー」


「何となく対比して扱ってる感じだったからそう思ったんだけど、当たってた?」

「いや、ボクは別枠でそのクエストに参加してたので、2人とは関係ないですよ」


「あ、そうなのか」

「でも残った2人が組んでたのは正解だよ」


「あ、そっちは当たってたか、わーい」

「うーん、まあコンビってよりも、1人はお目付け役って感じだったんだけどな」


「お目付け役?」

「ああ、実はもう1人の冒険者も割と有名な貴族の息子でさ、しかも知ってる人は知ってるみたいな、本人はそこまで名が知られてない感じの人物でな、それで護衛役でもう1人が付き添っていた感じだよ、寧ろその護衛の方が有名なんだけどな」


「ふむふむ? 確かに有名な貴族だとしても嫡男ならまだしも、次男とか三男ならそこまで名前が知られてないとかはありそうだけど、と言うかアッシュ達も元々は貴族って話だしそのクエストはそう言う身分の人物がわざわざ集められた感じなのか?」

「ああ、それは……裏工作で、例のギルド職員に偽の情報を流して、条件に貴族と関わりがある人物ってのを付け足してたんだよ、もちろん俺達にも内緒でな」


「え? ギルド職員に偽の情報を流す必要なんてあったのか?」

「ああ、でもその辺はネタバレを含むから、まだ伏せておくよ」


「……わかった、何となくは察したけど、続けてくれ」


想定よりも長くなったので分割。

おまけ回なので1話に纏めようと思ったけど繋げて

みたら長過ぎて読み辛かったので、分割にしました。

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