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第58話 トリヴィアの酒場

 ネプト族のカエルの行商人ゲレッタと出会い、名刺を貰い挨拶をして別れた。

 その矢先に、騒ぎを聞き付けてやって来た衛兵によってゲレッタは捕縛された。

 こちらも巻き込まれ捕まりそうになったが、機転を効かせて何とか逃げ切った。


 やはりこの王国の衛兵の目は節穴だったか、衛兵の革兜を被っただけでそのまま見逃されて全然バレなかったし、減給に処すべきだな。

 そして悩める少女を怒らせつつも、なんとか冒険者ギルドに着くことが出来た。


「ハァ、やっとギルドに着いたな、何か色々あって疲れた」

「ですね、レティシア様にも見つからなくて良かったです」


 ワープポットで移動した後、背後の少女が何やら考え込んでしまい、その場から動けなかったので誤魔化す為に既に知ってはいたけど、アルマに先程の2人の事を聞いてみたところ、やはりあの女性は第三王女のレティシアで間違いない様だ。


 そして彼女はどうやらこの国の”衛生大臣”と言う役職に就いていて、その役目はこの国の環境と衛生の改善に勤める事で、お城の庭園などもレティシアが積極的に管理しているらしく、それ以外にも王国の美化を目指して、無駄な資源の削減や、ゴミを減らす為に市民に呼び掛けたりと、色々な政策を行なっているようだ。


 国の重鎮であるグラウスとマルクスの妹という事も加味され、更にはその美しい容姿も相まって人気もあり、まだ二十歳そこそこの年齢らしいのだが、大臣として選出されて多くの国民から支持されているようだ。


 しかしその正義感が次第にエスカレートしていき、今では護衛のカーラや衛兵を引き連れ自ら現地に出向いて悪人を捕まえたり、今回みたいに検問を敷き一般市民すらも巻き込んで、一斉検挙みたいな真似事も定期的に行なっているとの事だ。


 要は王国に害を為す”ゴミ”を排除して”美化”に努めてるって事か、恐ろしい。


 しかもアルマの話だと、最近は越権行為が過ぎると一部の貴族や住民からの反発もあるようで、あまり良い印象を持たれてないらしい。

 通り道を封鎖する強引な手段までとってたし、気持ちは分からなくもないが……


 あのマルクスの事だから、当初は王国のイメージアップとか、そう言う目論見もあったとは思うけど、それが裏目に出た感じか?


 昨日会った時は気遣いが出来る心優しいお姫様って感じだったけど、そんな話を聞くと何かだいぶ印象が変わってくるな。

 実際は思い込みが激しくて、あまり融通が効かない実直な性格なのかも。


 そりゃそんな正義感に溢れてる性格なら、俺に対しても敵視を向ける訳だな。

 勇者の称号を剥奪すると意気込んでいたけど、どうやら冗談ではなさそうだ。

 

 そしてそのレティシアが連れてた女騎士のカーラという名の女騎士は、若くしてレティシア専属の近衛隊長に抜擢された才女で”鋼鉄の戦乙女”とも呼ばれていて、その二つ名に恥じない実力を兼ねているらしい。

 それにカーラもレティシアと同じく真面目で正義感に溢れているらしく、お城の廊下ですれ違った時に敵意を向けられたのは、例の噂が原因で間違いなさそうだ。

 

 まあ自業自得ではあるけど、偽物が横行しているなら誤解も多少はある筈だし、犯人が捕まれば少しは評価も変わるのかもしれないけど……

 とは言えマルクスとは違って話が通じない可能性もありそうだし、あの2人には今後もなるべく関わらないようにして避けた方が良さそうだな。 


 それと余談だが、あの廊下ですれ違ったグラウスの背後に居た騎士達は、全員が分隊長らしく、定例会議を終えたタイミングで偶然鉢合わせたようだ。


 見た目はみんな若そうに見えたけど、王国騎士団をまとめる強者達って事か……団長のグラウスに倣って礼儀正しくお辞儀してくれたし、何かカッコ良かったな。


 それに比べると感情を隠さず敵意むき出しで睨んできたカーラの方は精神的には少し未熟にも感じるな、まあ逆の立場なら俺も怪訝な表情をしてたかもだけど。


 そんな会話をしつつ、フリーズしていた少女に強く念じて呼び掛けた感じだ。

 しかも思考スキルを解除し忘れて、少女に装備の着脱が俺の意思で可能な事までバレたから迂闊な行動だったな、今後は思考スキルの扱いには気を付けよう……


 そんなこんなでようやく冒険者ギルドに到着した。

 コソコソと隠れながらストーキングしてる卑劣な吟遊詩人に巻き込まれたから、正午はとっくに過ぎたけど、先に戦闘を仕掛けたのは俺からだから仕方ないか。


 マルクスから聞いた冒険者ギルドに委任されている、仲間の名簿の説明や、拠点関連の特務クエストの事とかも気にはなるけど、取り敢えずそれらは後回しにしてお腹も空いてるので先に食事をする事にした。


「? 何か久し振りな感じがするな」


 昨日も一昨日も利用してる筈なのに、何故か分からないが久し振りに訪れた気がしたので、ピヨヒコは改めて冒険者ギルドを眺めて観る事にした。



【1F】   クエスト掲示板┌────━┐

       ┌─━━━──┤ 休憩室 │ (3F・???)

   早耳瓦版┃ =====  ‖ (職員専用)│ (2F・講義室)

   募集スレ┃ =====  ├───ー─┤ (B1・訓練場)

 ┌──┬──┤ =====  │受付    │

 │ トイレ │      │ 受付│受付│ 階段

 ┴─ー┴ー─┘  ロビー   ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ └┘⇅└───

←ギルド宿屋                魔物解体屋→

 ──ー┬─┬┬ 酒場&食事処 ┐   ┌─ー────

 厨房 │ ││⚪︎  □ □ □ │ ⇧ │  応接室

    │ ││⚪︎   □ □ │   │(依頼・相談)

    └ー┴┘⚪︎  □ □ □ │   │

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄窓 ̄窓 ̄窓 ̄ └ ー ー ┘  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

                 入口


 一階の内部を簡単な見取り図にすると、大体こんな感じだな。

 早朝や夕刻に比べると人は少ない印象だけど、それでも活気がある。


「おお、ココが冒険者ギルドか、何か広いな、それに人も多いシ」

「夕刻を過ぎるとクエストを終えて冒険者が帰ってくるし、夕食や酒を求めて職人とかも集まるから人はもっと増えるけどな」


「そうですね、それに緊急クエストで招集されても大丈夫な様に、一階のロビーは広めに設計されてますし、今まで何度か改築もされているようです」

「ナルホド、考えられて作られてるんダナ」


「クエスト掲示板の前に待合用の椅子があるから、そのまま作戦会議とかも出来そうだし酒場のスペースもあるから、冒険者も100人位は余裕で入れそうだな」

「……おっと、正面に居る眼鏡の姉ちゃんがコッチを見てるな、喋ってるところを聞かれるとマズイから俺様は黙って大人しくしてるゾ」

 

「え、ああ分かった、何か悪いな」

「大丈夫だ、気にスルな」


 受付を見ると最初にギルドで登録した時にお世話になった受付嬢さんが居た。

 確か名前は、アンナさんだっけ……

 ブックルが言った通り、こちらに気が付いている様子だ。視線が合ったので取り敢えず会釈をしたら、丁寧に挨拶を返してくれた。


 それも優しい笑顔で、例の噂は周知してるだろうし、怪訝な顔でもされるのかと思ったけど、そんな事は全くなくギルド職員としても完璧な対応だ。

 こちらに気を遣ってくれてる可能性もあるけど、その心遣いに感謝しよう。


 と言うか俺の方は少しおっちょこちょいで、イケメンの色香に騙されやすい尻軽女とか思ってたから、失礼な設定を勝手に生やした事に対して罪悪感を感じる。


 ゴメンなさい、と心の中で強く念じて謝罪しておこう。むむむー……


《!?》


 アルマの話だと、ここの地下と二階にはそれぞれ講習を受ける為の専用の施設があるらしく、座学と実技を含めて戦闘の基礎知識など教えてくれるようだ。

 受付嬢のアンナさんにも薦められたけど、あの時は所持金も足りてなかったから断ったんだよな、まああの時は例の少年が俺の事を操っていたんだけど。


 今なら受講料も払えるし、時間に余裕が出来たら背後の少女に念じて進言してみるのもありかな、確かスキルも1つ教えてくれるようだし。


 それに外から観ると冒険者ギルドは三階建てみたいだから、もしかしたらギルドマスターの部屋とかがあるかもしれないな。初代ギルマスはマルクスらしいけど、今のギルマスはどんな人なんだろう?

 冒険者ギルドは魔王軍に対抗する為の要となる施設でもあるし、その代表ともなれば、きっと只者じゃないよな。元は凄腕の冒険者とかかも?


 左右の通路を進むとギルド宿屋と、魔物の解体屋とも連結しているので、そこに勤める従業員や、利用する冒険者の往来も多いので賑わっている印象だ。

 冒険者を支援する為に他の施設とも連携しているみたいだし、何か町全体が協力して国を支えてるって感じがするな。


 でもそう言えば魔物の解体屋で素材の換金は何度かしたけど解体作業はまだ見た事ないな、と言うか、そもそも解体って必要なのか?

 だって魔物を倒すと素材や肉をドロップするけど、本体は消滅するよな?


 とは言え肉屋では魔物の肉を加工していたし、素材を有効活用するには解体する必要があるのかも。

 先日倒したハングリーグリズリーから毛皮はドロップしなかったけど、剥いだり鞣したりする工程はありそうだし、それにもしかしたら罠とかで魔物を生きたまま捕獲して、素材や肉を無駄にする事なく解体する事とかもあるのかも?


 剥ぎ取る際に消滅させない方法があるのかは分からないけど、そう考えると魔物だとしても少し気の毒には感じるな。

 まあ魔物も黙って討伐はされないだろうし、こっちも命懸けではあるけど。


 それに食べないと生きていけないからな、マルクスも言ってたけど所詮この世は弱肉強食だから覚悟を持って挑んで、素材や食材になる魔物には感謝しよう。


「さて、取り敢えず飯だ飯」

「ごっはん、ごっはん♪」


 少女にも事前に頼んでおいたので寄り道する事なく酒場に向かった。

 アルマに聞いたところ【トリヴィアの酒場】と言う名称らしい。何となく噂話や雑学など、些細な情報を色々と聞けそうな印象だ。


     ◇


 RPGで酒場と言えば有名なのがあるから、てっきりオマージュ的な名称なのかとも思ったけど違ったな。トリビアって確か雑学とかの知識って意味だっけ?

 時間帯によって出現するNPCも違うみたいだから、話し掛ければ色々と噂話とかも聞けそうだし、情報収集する場所って感じなのかな。


 まあ取り敢えずピヨヒコの訴えも煩いから、食事の管理はしっかりしておくか。

 ストレージなら保存も効くし、直ぐに食べれる串肉とかも後で補充しておこう。


 それと何か唐突にピヨヒコが、少しおっちょこちょいでイケメンの色香に騙されやすい尻軽女の悪女とか勝手に思い込んでいました、本当にごめんなさい!


 とか強く念じて伝えて来たんだけど、なにこれ? 私の事を言ってるの!?


 いや、おそらく会話の流れ的にはあの受付の女性キャラの事だとは思うけど。

 この主人公は本当に普段からどれだけ思考してるんだよ。


 思考アイコンが表示されてない時は何を考えているのか読めないから、どうしてこんな自己嫌悪に陥っているのかが全く理解が出来ないんだけど……


 勝手に思い込んで勝手にそれを反省して、何か面倒くさい性格をしてるなぁ。


     ◇


 内装は広くテーブル席も多くて、バーカウンターも設けられているので昼間っから酒を呑み交わしている呑兵衛のドワーフも何人かいるな。

 そしていつもの角の席には、いつもの盗賊のお姉さんが……あれ、居ない。


《え? あれ、何で?》


 何か背後から少女の戸惑う声が聞こえたが、まあ常に居るって訳でもないか……

 あ、でも見知った顔が何人か居るな。


「あれ、ピヨヒコ君だ、偶然だね」

「えっと、リディアさん、どうも先程振りです」


「あ、飴のお姉さんだ」

「ネムちゃんもさっき振りだね、座って座って♪」


 そう、その顔見知りとは、またいつかの日か会う事もあるかも、とか考えながら別れたアリアンロットの面々だ。

 同じ冒険者ギルドに所属しているのだからこんな事もあるとは思うけど、まさかこんなに直ぐに再会するとは思わなかったな……正直少し気まずい。


「はは、まあ同じ冒険者ギルドを利用してるんだし、こう言う事もあるか」

「勇者の兄さん達も昼飯まだだったんだな、俺達も丁度これからなんだよ」

「どうも、折角だからご一緒にどうです、隣のテーブルも空いていますし」


「ああ、そうだな、それじゃそうするか」

「わーい、ご飯だー♪」

「分かりました、何か賑やかで良いですね」 


 隣の窓際のテーブル席がまだ空いていたので、一緒に食事をする事にした。


 そして約1時間後、食事を済ませてアリアンロットの面々と別れ、俺達は今後の方針を決めている最中だ。料理も美味しかったし、とても楽しい食事会だった。


 会話も弾んだけど長くなったので、省略しつつ起きた事を整理する事にしよう。

 先ずはメニューから各々が食べたい料理を注文した。


 俺は店員さんにオススメされたので、シーフードドリアと海鮮スープ。

 アルマも魚料理にしたようで、海鮮スープと揚げ魚の甘酢あんかけ。

 ネムはピリ辛の蒸し肉饅頭と、スパイシーポトフとか言うのを頼んでいた。


 アルマが甘いのが好きなのは知っていたが、ネムは辛いのが好きなようだ。

 そう言えば昨日の夕食でもピリ辛のサラミとか好んで食べてたっけ……

 お子様だと侮っていたのか、リディアさんもネムの注文に少し驚いていた。


 先に到着していたアリアンロットは既に注文してたのだが、パーティーで食べられるおつまみセットのLサイズと、各自が好きなバーガーやクラブサンドイッチを頼んでいて何となくジャンクフードって印象だったけど、どれも美味そうだった。


 おつまみセットのナゲットと揚げポテトをお裾分けされたので、少し食べてみたけど付け合わせのケチャップとの相性も良く、普通に美味しかった。

 ずっと口の中に残っていた薬草の苦味も旨味で緩和されたので良かった。


 その後、直ぐに俺たちが頼んだ料理も運ばれてきた。


 いや、いくらなんでも早すぎないか、まだ3分位しか経ってないんだけど?

 そうも思ったけど、以前にも鍛冶屋で同じ様な事があったので、そう言うものだと無理やり納得する事にした。それに早く食べられるなら何も文句はない。


 ここのシェフはきっと卓越した腕前のプロの料理人なのだろう。アルマとネムも頼んだ料理が美味しかったのか、とても幸せそうな顔だ。

 俺も料理を食べたが、魚介の旨みが口いっぱいに広がりとても美味しかった。


 それに店員さんの話によると、最近は取引先のサンマリーナの近海に大型の魔物が出現するらしく、その影響で漁獲量が減り、仕入れも滞っているらしい。

 被害が拡大する恐れもあるので、状況によってはギルドを通して、この王国にも協力依頼や討伐要請が来る可能性もあるかもとの事だ。


 少し興味はあるけど、現状だとそこまで遠出するのは準備不足で無理そうだな、遠出するにも、先ずはこのグランバニラ王国の周辺で出来そうな事からだろうし。


 取り敢えず噂話として、頭の片隅にでも覚えておく事にした。


 その後は会話を挟みつつも其々が食事を楽しんだ。ブックルは会話には参加しないで黙ってはいたが、本の表紙の目をキョロキョロと動かしていたので、皆んなの話を聞きながら、それなりに楽しんではいる様子だった。


 それとベオルフの奴もいつの間にか姿を現して、カウンター席で食事していた。

 忘れた頃を見計らって現れるから、コイツ実は寂しがりやなんじゃないのか?


 でも仲間じゃないので料金は当然 別払いだけど、ドワーフに混じって昼間から酒まで頼んでいたので、先程の興行で稼いだゴルドだと思うと何かムカついた。


 リディアさんがその様子を見て自分も酒が飲みたいと駄々を捏ねていたが、他の仲間が制して止めていた。どうやら酒癖が悪いらしく酔うとかなりヤバいらしい。

 何か卑猥なワードが聞こえてきたので、どんな風にヤバいのか気になったけど、アルマがスマイリースキルの兆候を見せたので、詳しく聞くのは遠慮した。


 そしてその会話の流れでアリアンロットが結成された経緯も知ることが出来た。


 どうやらリーダーのアッシュは元々はこの国の名家の出身で貴族の跡取りだったらしいのだが、とある事情で家を出て、今は冒険者として活動しているようだ。

 何となく気品がある佇まいだとは感じてたけど、貴族だと聞いて何か納得した。


 あまり詳しく聞くのも失礼なので黙って聞き手に回ったけど、最初は傭兵として魔王軍との攻防戦にも参加していたらしく、ランドルフとはその頃に出会い、そこでの攻防戦も無事に勝利して終結したようで、その後は意気投合したランドルフと共に傭兵稼業は引退して冒険者になったとの事だ。


 話の流れでリディアがこちらの内情も聞いてきたので少し焦ったが、英雄ジークフルドの息子だと言う事は周知されてるようで、俺の知らない父親のエピソードとかも少しだが知る事が出来た。

 とは言えジークフルドが元々は隣国の王だった事はそこまで知れ渡ってはいないようで、竜殺しの二つ名を持つ冒険者としての名の方が広く知られているようだ。


 なので記憶喪失の件は勿論だけど、俺が隣国の王子だった事や、この国の王様の孫とかの話は云わずに誤魔化した。リディアも特に詮索はしてこなかった。

 陽気な振る舞いだけど何気に空気を読めて、気配りが出来る大人のお姉さんだ。


 そしてアッシュとランドルフはは冒険者になってから程なくしてリディアとバドと出会い、一緒にクエストに挑む事になったようで、その過程で窮地に陥るのだが4人で協力してクエストを無事クリアしたらしい、それを切っ掛けに2人を仲間に加え、パーティーを組み、アリアンロットを結成したらしい。


 詮索するのも野暮なので、敢えて相槌する程度で聞いていたのに、何かめっちゃ内情を話してくれた。まるでクエストを丸々1つ堪能したような濃い内容だった。


 打ち解けたと言えば聞こえは良いのだが、さっき知り合ったばかりで殆ど初対面の相手なんだし、ちょっと警戒心が足りてないのでは?

 そんな事も少し感じたので、最後にその質問をしてみたのだが、納得は出来た。


 一緒に食事をして交流した感じだと、アリアンロットは4人とも気さくな性格で仲も良く、裏表もそんなになさそうだし人柄の良い善人なのが伝わった。


 きっとカルマ値もみんなプラスなんだろうなぁ、とか思いつつも自分のカルマ値からは目を背けて、お互いの今後の事なども少しだけ話したが、アリアンロットはどうやら遠征クエストの帰りだったようで、今日はもう休みにするらしい。


 だとしたらこの食事はクエスト達成の打ち上げも兼ねていたのかもしれない。

 それなら遠慮せずに酒を頼んでもこちらは別に問題なかったんだけど、未成年の俺達が居る手前、酒を飲むのは遠慮して気を遣っていたのかもしれない。


 まあリディアの酒癖が悪いのは事実みたいなので、それで飲まなかったのもあるようだけど、こっちはベオルフの奴が遠慮なく自分だけドワーフ達と酒を飲んでたから何か申し訳ない気分になり、あの吟遊詩人に対して余計に腹が立った。


 そして睨み付けようと視線を向けたのだが、その姿は既に無かった。

 消えたり現れたり本当に何なんだよあの男は、めっちゃムカつくんだけど!!


 存在感も消せると言ってたけど、姿を消した吟遊詩人に対してアリアンロットの面々は特に気にも留めず、それどころか最後は気付いてすらいない様子だった。


 俺でも油断すると存在を忘れるくらいだし、やはり奴の”隠れる”の固有スキルはとんでもないチート性能だな、恐ろしい……

 そのままずっと解除しないで誰からも認識されずに消えてしまえば良いのに。


 躊躇なくそんな悪態を心の中で呟いた。暴言なのだが本心なので撤回はしない。

 あの吟遊詩人はコソコソ隠れてストーカー行為をしている憎むべき敵なのだ。


 もう不用意に戦闘を仕掛けたりはしないが、いつか懲らしめてやりたいな。


 そして食事も終わり、挨拶を済ませて解散となり4人はギルド宿屋に向かった。

 思った以上に会話も弾み仲良くなれた気がする、楽しい昼食の時間を過ごせた。


「……何か大人の余裕を感じたな、それに比べてあの吟遊詩人ときたら」

「ですね、私も他の冒険者パーティーと食事をする機会なんてあまりなかったので少し緊張しましたけど、でも何か賑やかで楽しかったです」


「料理も美味しかったし、ネムも楽しかった♪」

「そうだな、それにクエストの予定とかもちゃんと計画を立ててる感じだったから聞いていて色々と参考にはなったかも、やっぱり休息も大事だよな」


「プハッ、何か愉快なパーティーだったな、話は聞いてたが面白かったゾ」

「あ、ブックル、ちゃんと動かないで静かにしてたね、偉い」


「フヘヘ、そうだろ、俺様はスゴいんだ!」

「確かに何か裏表を感じない明るいパーティーだったけど、こちらに配慮して身内話とかも話してたから少し戸惑ったけどな、俺の方は記憶喪失の件とかも含めて、隠し事をしてる感じだったから罪悪感と言うか、何か申し訳ない気分になったし」


「アア、確かに、俺様もそれは少し感じたカモ、本だから素性を明かせなくて何となく後ろめたい? 気分にナッタと言うか」

「……そ、そうですね」


 そんな感想を述べたらブックルもそれに同調して、アルマは少し動揺した。

 どうやら自身の素性を俺達に隠している事を、後ろめたく感じている様子だ。

 別にアルマの事を言った訳ではなかったんだけど、一応フォローはしておこう。


「まあでも殆ど初対面なんだし、あまり無警戒に情報開示するのも危険だけどな、ブックルに関しては正体がバレると不味い事態にもなりかねないし」

「オオ、そうだよナ」


「それにマルクスも、女性は少しくらい秘密があった方がミステリアスで魅力的に感じるとか言ってたし、誰にだって云いずらい事の1つや2つはあるからな」

「……っ!?」


 あ、しまった、今の言い方だとまるで俺がアルマが何か隠し事をしてると知っていてそれを庇った感じに思われたかも。いや、実際そうなんだけど。

 アルマを見てみると、先程よりも冷静な表情で何やら考えている様子だ。


「む? アルマ、どうかした?」

「え、いえ、何でもありません……じぃー」


 何気に勘が鋭いから俺がグラウスの部屋に聞き耳した可能性を疑ってるのかも。俺も追求はされたくないしお互い穏便に済ませる為にも、話を誤魔化しておこう。

 てかめっちゃ観られてるし、アルマって感情を隠すのが何気に下手だよな……


「コホン、まあ取り敢えずその話は置いといて、さっきも少し話したけど、今後の予定とかみんなで考えて、どうするか決めようか」

「! そ、そうですね、そうしましょう」


 アルマもその意見に賛成してくれたので、今後の方針を決める事にした。


 とまあ、かなり内容を端折ったけど、ここまでの経緯は大体こんな感じだ。

 それで食後の紅茶をお菓子を楽しみながら色々と話し合った。

 他のパーティーと会食するのも楽しいけど、やっぱり仲間内だと落ち着くな。


 そしてその結果、優先順位を決めて現状で出来そうな事をまとめてみた。

 その内容は以下の通り、上の方が優先度が高い感じだな。


     〆


 冒険者ギルドで引き続き、仲間の名簿の説明を受ける。

 状況次第ではそのまま名刺交換して新たな仲間を迎える。

 ネムの防具と、ピヨヒコの壊れた小盾と頭防具の補充。

 偽物の勇者の情報集め、可能なら追跡と犯人の確保。

 特務クエストを受注して拠点の下見、可能ならそのまま宿泊。

 魔導修道院を訪れて魔法の基礎知識を学ぶ。


 クエスト掲示板から、手頃なクエストの受注。  

 武器防具屋などで新しい武具を調達。

 道具屋などで今後の遠征や探索に必要な道具の入手。

 雑貨屋などで今後の生活に必要な消耗品などの入手。 

 予備の服なども欲しいのでハーフビットの装飾店に行く。

 鍛冶屋に行き魔王城で手に入れた宝箱について調べる。

 食後の腹ごなしで城下町を散歩する。地図を覚える。


 町の外に出て適当に魔物と戦闘して経験値を得る。

 冒険者ギルドで戦闘の基礎講習をいくつか選んで受ける。

 この近辺の探索エリアの情報収集。可能なら実際に探索する。

 肉屋で聞いたレストランに立ち寄りドラゴンの情報を聞く。

 疲れたので本日は休息を取る。夜まで自由行動も可とする。


 特務クエストを受注してダンジョンの試練に挑む。

 ミスリル鉱石を求めてベリル鉱山に行く。

 サンマリーナを訪れて近海の魔物を討伐、海の幸を堪能する。


     〆

  

 取り敢えず候補を上げてはみたけど、やっぱり選択肢がかなり多いな。

 下の3つは今の現状だと直ぐに挑むのは流石に厳しいとは思うけど。

 アルマが手帳にメモを取って渡してくれたので、忘れた時は読み返そう。


 冒険者カードの状態異常”ミゼーアの呪い”に関しては、アルマ達にもまだ伝えていないので、解除方法の模索や試行は、取り敢えず候補からは外しておいた。


 記憶喪失の件に関しても、記憶の雫が原因なのかも現在調査中になった為に結果

を聞くまでは取り敢えず保留にした。

 王族が絡んでいるなら、現状であまり首を突っ込むのは得策ではないからな。


 ここ半年の間は何か失踪してたとの事だけど、それまで過ごしていたと思われる教会を訪れれば、俺の過去を知っている人物に会える可能性はあるけど、そこまで焦って調べる必要もないので、敢えて候補には上げなかった。

 個人的な事なのでアルマ達を連れ回してまで優先するのも何か申し訳ないしな。


 その事は俺からの要望として、背後の少女にも一応、念じて伝えておいた。

 他にも何か候補があった気もするが、思い出せないならきっと些細な事だろう。


 それでアルマが優先したいのは、今後に備えて必要な装備や消耗品の調達。

 ネムは風魔法を覚えたいらしく、魔導修道院に行きたいとの事だ。

 因みに俺は、今日はもう疲れたので休みにして、夜までは自由行動を推した。


 散歩でもしながらマップを片手に城下町をのんびりと過ごしたい、そんな提案をしたのだが、女子3人に口を揃えて反対されて却下された。

 背後の少女はともかく、アルマとネムも思ったよりアクティブな思考なようだ。


 ブックルは散歩には賛同してくれたけど、基本的にはこちらの判断に任せるとは言ってくれた。まあネムの装備扱いだし、本の見た目だから自由行動は厳しいか。


 その辺の判断も含めて、結局どうするかは背後の少女の気分次第なんだけど。


 取り敢えずギルドに寄った事だし、仲間の名簿の説明は聞くとは思うけど、拠点もまだないから、仲間を受け入れる体制があまり出来てないんだよな。


 でもこの少女の事だから、おそらく名刺交換システムを実際に試してみるよな。


 俺も少し興味あるけど、パーティーの推奨人数は確か5人までとか聞いたから、あの吟遊詩人が含まれてるのかは分からないが、もう1人は戦闘に参加出来るし。

 出来たら前衛でタンク役が出来る盾職の冒険者が理想的だけど、回復魔法の重要性も理解したから支援術士も捨て難いな、早めに育てれば活躍してくれそうだし。


 それにマルクスから貰ったネームレスカードは1枚だけの筈なのに、ストレージを調べたら他に3枚程あったんだよな、まあ1枚はネームドカードにするのに使用したけど、いつの間に手に入れたんだろう……

 もしかして通行証と同じで貰ったのに忘れて、実は最初から持っていたとか?


 それに確かマルクスの話だと店で売ってたりしないけど、冒険を続けていれば、自然と手に入る機会はあるとか言ってたっけ、確かに実際に手には入ったけど。


 と言うか相手の都合とかもあると思うんだけど、そんな直ぐに合流とか出来るものなのか? しかも仲間になるって事はそのままずっと連れ添うって事だよな?

 いくら本人が支援を申し出て名刺をギルドに預けたと言っても、その冒険者にもそれまでの生活とか、成すべき目的とかもあると思うんだけど、問題ないのか?


 天啓とか言うのがあるのは確かみたいだし、その楔に縛られてる感じなのかな。

 昨日の会話の感じだと、条件次第ではマルクスすらも仲間になってくれるみたいだけど、という事は他にも今まで知り合った人物が仲間になったりもするのか?


 何かエマさんやシルビアまでそれっぽい発言はしてた気がするけど……


 とは言えククリコは自分の店を経営してるし、メアリーだってマルクスの護衛の仕事があるんだから、もし名刺を預けていたとしてもそっちを優先すべきだよな?


 まさかアリアンロットのメンバーも仲間の候補にいるとか、流石に無いよな?

 仲の良いパーティーを天啓の強制力で無理やり引き抜いたりしたくないんだが。


 うーん、まあ考えても仕方ないし、取り敢えず背後の少女に指示を仰ぐかな。

 こちらの提案した優先順位とかはさっきの話し合いで伝わってはいるだろうし。


     ◇


 ピヨヒコ達が今後の方針を話し合っていたけど、まとめてみるとやっぱり出来る事が多いな、それに城下町だけでも、まだ訪れてない場所とかも色々とあるから、そこでも新たなイベントが発生する可能性も普通にあるし。


 それにメニュー画面から進行中のイベントとかは確認は出来るんだけど、私が弟から引き継いだ時からある『盗賊たちの狂騒劇』とか言うサブイベントが、何故か消失してるんだけど、しかもそのフラグになってると思われる女盗賊っぽいキャラも居なくなってたし……受注可能な時間帯や、タイミングがあったりするのかな?


 それとも話し掛けないでずっと放置していたからクエスト自体が消えたとか?

 いや、でもリアル時間ならまだしも、ゲームの時間的にはお城の訪問くらいしかストーリーは進めてないんだけど。

 昨日の地点でも朝に会話イベントが発生したけど、その時はまだ居たはずだし。


 うーん、と言うかもしかして、そもそもの前提が違うとか?


 弟は盗賊関連の”ジョブクエスト”とか言ってたけど、ジョブクエストなんて表記は実際はどこにもなかったんだよね。

 “メインクエスト”に関しては、クエスト進行画面の”一番上”にあったから、私もそう決め付けてはいたけど、それすら実はプレイヤーの思い込みなのかも……


 何となく私も盗賊関連のクエストだとは思い込んでたけど、発生したタイミング的には弟が遊んでるのを私も背後から観てたけど、確か盗賊に転職した後に、変な奴に声を掛けられて、盗みの仕事を手伝わないかとか言う流れだったっけ?


 それに対してピヨヒコがハッキリと断ってたけど、あれって弟が選択して断った感じなのかな? 何かたまに主人公が勝手な行動をするから何とも言えないな。

 それで、確か何人か冒険者みたいのがあの席に居て、その中心に居るリーダーと思われる女盗賊に、いつでも話し掛けてとか言われて引き下がったんだっけ。


 いや、私もよくそんなの覚えてたな。確かそのまま弟が完全にスルーしてギルドから出たから背後から観ていてちょっと面白くて印象に残ってはいたんだよね。


 それで仲間のアルマに会ったんだっけ、と言う事はもしかしたら、無視しないでそのままあの女盗賊と話していたらシナリオが分岐していた可能性もあるのかも?


 それに、狂騒劇って事は”お芝居”って意味だよね?


 まあ私の予想だけど、あの地点で既に悪い噂が広まっていたなら、あの女盗賊の正体って、実はギルドマスターなんじゃない?

 そう考えると何となく関係性も色々と繋がってきそうだけど、もしそうなら意外な展開だけど、マルクスは初代ギルマスだし今のギルドとも繋がりはあるよね?


 それに通信手段に関しても何度か仄めかしてはいたけど、その辺も明らかになりそうだし、これで私の予想が的中していたら、ちょっと嬉しいな。


 取り敢えずギルドの受付で仲間の名簿の説明を聞くとしよう、あ、でもそろそろお昼だから一旦セーブして私もちょっと休憩するかな。

 会話を聞いてたらお腹も空いてきたし、続きはお昼ご飯を食べてからにしよ。


 昨日に引き続き遊んでたけど、今日は夕方頃までゲーム機を独占できるし、夜になったら弟が違ゲームを遊んで、そのまま次の日の夕方までって取り決めで夏休みの間は本体の貸し借りをする事にしたけど、まあ他にする事もあるから毎日は遊ばないけどね、続きは気になるけど会話イベントは聞き流してても時間が掛かるし。


 何か思った以上に長ったらしい会話イベントで新しい情報とかも色々出たから、また伏線とかにもなってそうだけど、覚えていられるかは微妙なところだしな……


 取り敢えず後の方針は話の展開次第だけど、その時のノリで決めるとするかな。

 会話イベントばかりだから、たまにはガッツリ戦闘もしてみたいし。


 と言うか会計の際に何か揉めてたんだけど、しかもピヨヒコが勝手に変な行動をしてまた茶番みたいな展開になってたし。

 いや、気持ちは分かるけどさ、あの吟遊詩人は本当に碌でもないキャラだな。


     ◇


「それでは勇者様、仲間の名簿と名刺交換システムについて、ギルマスから詳しい説明がありますので、この応接室で暫くお待ちください」

「は、はい」


 予定した通り、背後の少女の判断で仲間の名簿の説明を受ける事になった。

 そして受付のアンナさんにその旨を伝えて話を通してもらい、その説明を受ける為に一階にある応接室に通された。

 普段は依頼や相談で使っている場所みたいだけど、何か少し緊張する。


 しかも今の感じだとギルドマスターが直々に説明してくれるみたいだし。

 まあ勇者として優遇はされてるので、それなりに守秘義務とかもあるだろうからギルドの酒場や、受付でそのまま説明されるとは思わなかったけど。


 アルマとネムも一緒に応接室の壁際のソファーに腰掛けているのだが、俺と同じく少し緊張している様子だ。

 しかもこの部屋は何故か窓がなくて逃げ場がない。おそらく情報漏洩に配慮してるんだと思うけど、何処か重々しい空気が漂っている気がする。


 そして暫く待った後に、ギィー……と音を立ててドアが開いた。


「お待たせしました、勇者様」

「あ、どうも」


 やって来たのはいつもの眼鏡のギルド職員、アンナさんだった。

 ギルマスを呼びに行ったけど、そのまま一緒にいる感じなのか?

 もしそうなら顔見知りが居るってだけで、安心感はあるけど。


 そしてその奥からもう一人、入って来てこちらに話しかけてきた。


「やぁ、勇者様、初めまして、ではないが取り敢えず挨拶をするとしようか、私の名前はメリッサ、この冒険者ギルドの”ギルドマスター”をしている者だ!」

「え!?」


 そこに現れたのは、ピヨヒコが予想もしていなかった意外な人物だった。

 そう、ギルド酒場で何度か見掛けた、蛇のような雰囲気の盗賊のお姉さんだ。


《よっしゃ、当たった♪》

「ビクッ!?」


 それと同時に何故か背後の画面から、喜ぶ少女の声が聞こえてきたので驚いた。


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