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第57話 思考スキルとその考察

 憎きベオルフとの”共演”は思いのほか称賛されて、見事な成功を収めた。

 そしてその流れで観戦していた冒険者パーティーとも知り合えた。

 出会い頭の辻ヒールで体力も回復したので、今度こそ冒険者ギルドに向かおう。


 そう思っていた矢先に、ネプト族と思われるカエルの亜人に目を付けられた。

 面倒なので避けたいところなのだが、残念ながらその前に声を掛けられた。


「いやぁ、これはどうも勇者様、なかなかに良い公演でしたね、お陰様でワタシの方もその恩恵に預かり、少々稼がせて貰いましたわぁ」

「え、えっと……」


「ああ、これは失礼、自己紹介がまだでしたね、ワタシはこの町で商人をしているゲレッタいうもんです、どうぞ、宜しゅうお願いします」

「え、あの、よろしく?」


 背中には大きな荷物を背負っていて、がま口のショルダーバックを肩から掛けているので、確かに一見すると商人って雰囲気がある。

 まあ見た目はカエルなんだけど、身長はネムと同じくらいだな。


「それにアルマはんもお久しぶりですねぇ、また何か必要な際は……」

「いえ、今は特に用はありませんので、お引き取り下さい」


「あ、相変わらずキツイですな、まあ御入用の時はいつでもお申し付けください」

「ええ、それよりもこの場所で無断で商売するのは禁止されてますよね、ちゃんと許可は取ってあるのですか?」


「え、ケロケロ、そりゃ勿論……」

「取ってないんですね、あまり調子に乗っているとまた通報されますよ?」


「ご忠告ありがとう御座います、でもそないな事を言うたら先程のパフォーマンスも許可を取っていないのでは?」

「……っ、それは」


 ああ、そう言えばククリコと初対面の時に種族の話を聞いたけど、確かその時にアルマがフロッグマンの知り合いがこの国に1人居るとか言ってたっけ。

 でもいきなり牽制して言い争ってる感じだし、何か因縁でもある相手なのか?


「えっと、もしかしてアルマが前に言ってた知り合いのフロッグマン?」

「え? ええ、まあそうですね」


「そこはちゃんと肯定して下さいよ、ワタシ達お友達でしょ?」

「……ただの顔見知りですよ、勇者様」


「そ、そうか」


 うん、やっぱり何か因縁があるんだな、アルマからまた少し怒気を感じるし。

 でも何故か笑顔なんだよな、いつの間にそんな技術を身に付けたんだか……

 気持ちを偽っている感じがして、個人的にはあまり良い印象じゃないんだけど。


 アルマ自身この数日で、何か心境の変化でもあったのかもしれないが……

 それに俺のスルースキルみたいなものかもしれないし、スマイリースキルとでも名付けて、アルマが”スマイリー状態”の時はなるべく用心する事にしよう。


「またまた、お父上様には日頃からご贔屓にさせてもろてますし、アルマお嬢はんとも幼少の頃から……」

「ちょっ、その話は今は関係ないですから、余計な事を言わないで下さい!」


「ああ、これは失礼しました、失言でしたかね?」

「……っ」


 なるほど、因縁と言うよりは警戒していた感じか、何か口が軽そうだしアルマの機嫌も悪くなる訳だ。商人と言っていたから王国騎士団とも繋がりがあるんだな。


 それでこのカエルもアルマの素性を知っているのか……しかも今のアルマの態度で何か察した感じだし、でも俺とは多分、初対面だよな?

 取り敢えずここは俺も聞き返したりはしないで、そのまま黙認しておくか。


 もしアルマの弱みを握ったつもりで、強請(ゆす)ったりするつもりなら、その時はそれ相応の対応をしよう。

 まあグラウスを敵に回すような真似はゲレッタも流石にしないとは思うけど。


 本当はアルマがさっさと実は”グラウスの娘で俺と従姉弟(いとこ)同士の関係”なんだと、打ち明ければ良いんだけどな、別にそこまで隠しておく秘密でもないとは思うし。

 まあお菓子の時みたいに、言い出すタイミングを逃しているのかもしれないが。


 てか今回のように第三者から伝わる可能性も高いし、絶対にいつかバレるだろ。

 それに既に知っている俺からしたら、正直かなり扱いに困る案件だし。

 下手な発言をすると聞き耳した事がバレて、アルマからの信用を失いかねない。


 いや、アルマにも三階で情報収集した事はバレてるんだし、俺から打ち明けてもいいんだけど、誤魔化しちゃったから、俺の方も云い出すタイミングを逃したな。


 そんな事を思考しながらアルマを見てみると、普通に聞き逃してたけどゲレッタとそのまま何か話していたようだ。

 うーん、やっぱり考えすぎるのも良くないな。ただの世間話なら問題ないけど、重要な会話とか聞き逃すと大変だから、なるべく気を付けないと。


 しかし馴れ馴れしい性格だな、種族特性の訛りなのか、何か変な喋り方だし。

 それに今の話だとアルマよりも歳上みたいだけど、見た目がそのままカエルだから性別すらよく分からないな……なんとなく中性的な雰囲気もあるんだけど。


「じぃー……」

「いやぁ、そんなに見つめられると少し照れますねぇ」


「あ、すまない、ネプト族なんて初めて見たから、物珍しくて注目してしまった」


 探るような視線を向けていたので、ゲレッタに少し警戒されたかもしれない。

 それに今の言い方だと気を悪くさせたかも……マズったな。

 しかしゲレッタは特に表情も変えずに、気にせずに話を続けた。


「いやいや、大丈夫ですよ、この見た目ですから好奇な視線には慣れてますし」

「そ、そうか……でも気分を害したなら申し訳ない」


「ケロケロ、本当に気にせんで良いですよ、それにお互い様ですから」

「……俺も勇者って立場的には、周囲から注目されてるって事か?」


 例の噂もあるから、まあ実際はそれだけじゃないだろうけど。


「ですねぇ、それに何やら悪い噂も聞きましたから少し用心してたんですが、でも接した感じだとそないに悪人にも見えませんですし、ワタシの方も1人のお客様として今後も接しますので、どうぞ宜しゅうお願いします」

「ああ、わかった、そう言って貰えるならこちらとしても助かる」


 何か思ったよりも思慮深くて、利口なカエルだな。


「それにあの吟遊詩人の兄はんも最近よくお見かけするようにはなりましたけど、何か可愛らしいハーピアのお子様を連れていたので、少し気になっていましたが、勇者様のお連れの方だったんですね」

「む? ネムの事?」


「ええ、それにとても賢そうなお顔ですし、まああの吟遊詩人の兄はんは、何やら信用ならない感じがしましたけど、さっきの演奏には流石に驚きましたわ」

「賢い? えへへー♪」


「あの吟遊詩人は確かに全く信用してないけど、俺からしたらゲレッタの事もまだよく知らないから、どっちもどっちな印象だけどな」

「ゲロ、これは手厳しい、これでも信用第一で商売してるんですけどね、お客様に信頼して貰わないと、こっちも商売上がったりですし」


「ゲレッタさんは口が達者な、お調子者の商人なんですよ」

「アルマはんまでそんな、せめて商売上手と言ってくださいよ」


 何かこの二人も仲が良いのか悪いのかよく分からないな……


 そしてどうやらアルマの話だと、このゲレッタは神出鬼没な商人らしく、探索エリアやダンジョンなどで唐突に現れては、冒険者を相手に状況に合わせて必要だと思われるアイテムを選別して高値で売りつけて来るらしい。


 そしてなにやら本人曰く、大陸各所に自らの足で訪れ、珍しいアイテムや貴重な素材などを仕入れてそれを必要とする相手と取引して、困っている者を見つけたら適正価格でアイテムを譲り、慈善活動に勤めているらしい。


 うーん、内容は似てるのに言い方一つで印象が大分違うな。要は何処かで会った時には役に立つアイテムを売ってくれる、便利な商人って感じか?

 まあ客の足元を見るなら値段にもよるけど、状況によっては助かりそうだな。


「それじゃ挨拶も済んだのでワタシは商売に戻るとしますが、何処かでまた会った時には勇者様も【移動店舗ケロッグワークス】をどうぞご利用ください」

「……ああ分かった、商品にもよるけど、その時は値段交渉させて貰うとするよ」


「ケロケロケロ、面白い人ですねぇ、了解ですわ」


 こうして挨拶を済ませて商人のゲレッタはそのまま立ち去って……は居ないな。

 まだこの場にいる観客を相手に商売を続けている。

 さっきはドリンクを売っていたみたいだし、かなり手広く商売してる感じだな。


 それと挨拶の時に”名刺”を渡されたんだけど、これ貰ってもいいのか?

 確かマルクスの話だと名刺交換システムとやらで仲間が増えるんじゃないのか?


 あ、でもこれ店舗名も書いてあるし、”ネームドカード”ではないみたいだ。

 商業ギルドに所属してるなら取引相手や、同業者との繋がりも多そうだし、それ専用の普通の名刺っぽいな。大きさもアルマから貰ったのよりも小さいし。


 まあそこまで深く関わる事はなさそうだし、俺も客として適度に相手をしよう。

 ……と言うか”ケロッグ”って何だ? ゲレッタワークスって店名じゃないのか?


 何となく気になったのでアルマに聞いてみたら、どうやら夫婦で商売をしているようで、ケロッグはゲレッタの旦那の名前らしい。


「ふーむ、中性的な感じはしてたけど女性だったのか、気が付かなかった」

「種族も違うので初見だと分かりづらいかもですね、それに私も本人から聞いただけなので旦那さんのケロッグさんとは実際に会った事ないですから、見た目の違いとかはよく分からないです」


「ああ、そう言えば知り合いは1人って言ってたもんな」

「何でも今は海を越えて他の諸国に遠征してるようで、ここ1年くらいは会ってないらしいですよ、まあゲレッタさんの話だと仲は良いみたいですけど」


「そうなのか? 商人だと仕入れ先とかも色々とあるだろうけど、大変だな」

「でも定期的に連絡は取り合っているようで、旦那さんが仕入れた珍しい商品などを専用の運び屋を経由して受け渡しして、この国でも販売してるようです」


「……えっと、それってもしかして」

「ちょっとなんですのこの騒ぎは! 許可のない商いは此処では禁止ですよ!」


「!!」


 昨日のある出来事を思い出して、アルマに質問しようとしたらそれを阻まれた。

 そして声がした方向を観てみると、そこには……


 今まさに思い出していた人物、この国の第三王女、レティシアが居た。


 ざわざわ……


 賑わっていた周囲の人々も何やらざわついている。どうやら騒ぎを聞き付けて、お姫様が自ら出向いて来たようだ。

 しかもその背後には護衛と思われる女騎士と、お城の衛兵を何人か連れている。


「レティシア様だ」「衛生大臣様か」「相変わらず綺麗なお方だ」「美しい……」

「近衛騎士のカーラさんも居るぞ」「鋼鉄の戦乙女?」「おお、何と可憐な」


 なんか気になるワードも少し聞こえたけど、まだ俺には気が付いてないようだ。

 昨晩の庭園での件もあるし敵視されてるので、出来たら顔を合わせたくないな。


「また貴女ですか、本当に懲りないですね」

「こ、これはこれはレティシア様、ご機嫌麗しゅう……」


「言い訳なら後で聞きます、確保!」

「はっ!!」


「ゲコぉ!!」


 嗚呼(ああ)、ゲレッタが問答無用で衛兵に拘束されて、お城に連行された。

 それに販売していた商品とかも証拠として一緒に押収されたな。

 違反行為なら自業自得ではあるけど、有無も言わさぬ手際の良さだ。


 買い物をしていた客も、巻き込まれたくないのか蜘蛛の子を散らしているな。

 しかも即座に逃げるような怪しい素振りをした者はそのまま捕まってるし。

 何だこの状況、騒ぎがあったから一斉捜査して片っ端から取り締まる感じか?


 考えてみたらこの場所は、お城の二階にある展望ラウンジや、それこそ図書室からも一望出来るし、あれだけ派手に戦っていれば、流石に気付かれるか。

 ベオルフの演奏が聞こえない距離ならあの魔牛とかは見えてないとは思うけど、誰かが通報した可能性もあるな……それにしてもまさかレティシアが来るとは。


 衛生大臣とか聞こえたけど、どんな立場なんだあの姫様!?

 それに昨日とはだいぶ印象が違うな、白銀の軽鎧を着ていて、凛々しい立ち振る舞いで堂々としている。それと側に居る女騎士も見覚えがあるな。


 確か昨日、図書室に向かう前に騎士団を引き連れたグラウスとすれ違ったけど、その時に最後尾を歩いていた若い女騎士だな。何か怪訝な表情で敵視を向けられたから印象に残ってたけど、レティシアの近衛騎士だったのか。


「勇者様、あの人達は危険です、早く冒険者ギルドに向かいましょう!」

「え、そうなのか? てか逃げてもいいの?」


 アルマも何やら慌てている様子だ。そりゃ関係性で言えばレティシアもアルマの素性は知っているだろうし、ここで顔合わせするのは色々と不味いとは思うけど。

 でも確かに、このままだとあの吟遊詩人のせいで俺達まで拘束されかねないな。


「む? ピヨピコどうするの、逃げる?」

「そうだな、捕まったら面倒そうだし、ベオルフの奴は見捨てて逃げよう!」


「お、ナンダ、逃げるのか?」

「ん、わかったー」

「ええ、そうしましょう」


 ピヨヒコは自分から戦闘を仕掛けた事実を捻じ曲げた。そもそも報酬も貰ってないので、責任は全てあの吟遊詩人に押し付けよう。

 上手くいけば衛兵がベオルフを逮捕して、ストーカー被害からも解放される。


 〜♫♪♩ 〜♬♪


 お、足が勝手に動いた、てか何か示し合わせたかのように曲まで流れて来たし。

 吟遊詩人がさっきまで居た方向を見てみると、その姿は既に無かった。

 おのれ、危険を察知していち早く固有スキルを使って隠れたな、なんて奴だ!


 しかも何だよこのコミカルな曲調、こっちを煽ってるのか!!


     ◇


 何か突然ミニゲームみたいなのが始まったんだけど、なにこの展開?

 迫って来る衛兵に捕まらないようにこの場から逃げ切ればクリアみたいだけど。

 しかも何か制限時間まであるんだけど、これ時間切れになったらどうなるの?


 さっきの戦闘も含めて考察要素とかもあるけど、今は考えてる暇はないな。

 そこまで難しくはなさそうだし、取り敢えずさっさと逃げるとしよう。


 どうやら先日と同じで、衛兵の視界にさえ入らなければ見つからないようだ。

 それとランダムで動いている一般のモブが視界の壁になるみたいだし。

 あ、でもぶつかると弾かれて少しだけ足留めされるみたいだ、何気に面倒かも。


 とは言え普段から遊んでるFPSとかに比べたら、なんて事はないね。

 桜子は迫り来る衛兵の動きをよく見て、大衆を避けつつ上手く立ち回った。


「こんなの楽勝 楽勝、って、ええ、何で、封鎖されてる!?」


 しかし冒険者ギルドに向かう通りの道は、既に衛兵が塞いでいた。

 制限時間もあるので焦っていた桜子は、迫り来る衛兵に徐々に追い込まれる。


 ちょっと待って、これどうすれば良いの? 引き返してお城の方に向かうとか?

 いやでも正面にはレティシアが居るし、普通に見つかりそうなんだけど。

 それに残り時間も少ないし、最後にセーブしたのはベオルフ戦の前なんだけど。


 ここで捕まったらストーリーの展開が変わる感じ? それとも強制ループ?

 と言うか毎回 毎回、初見殺しみたいな仕様にするのは止めて欲しいんだけど!


 うわ、しかも何か足の速いヤバそうな女騎士まで後方から迫って来てるし。


「……ああ、普通の衛兵にも追い詰められた、このままじゃ見つかる!」

『おい落ち着け、まだ切り抜ける方法はある、取り敢えずアレを使え!!』


「なっ!? あ、そうか忘れてた、これなら確かにバレないかも?」


 ピヨヒコがメッセージで助言して来たので、桜子は素直にその指示に従った。

 自分じゃ咄嗟には思い付かなかったので、ちょっと屈辱的な気分だ。

 でもちゃんと効果はあるようで、衛兵の視界に入ってもそのままスルーされた。


 アルマ達も連れてるけど、ピヨヒコが見つからなければ大丈夫なようだ。

 とは言えどのみち道は封鎖されているので、このままだと時間切れになる。

 

 もしかしたら時間経過でレティシアが引き返す可能性もあるけど、でも今までの流れからすると、何かしら攻略法もあるとは思うんだけど……うーん?

 そのまま少し悩んでいたら、またしてもピヨヒコが念じて解決法を伝えて来た。


「くっ、またしても見落としていた、なんか敗北感があるんだけどぉ……」


 桜子は少し複雑な気分になったが、その方法に納得はしたので従う事にした。

 そしてマップを開いて、カーソルを南区のポイントに合わせて実行した。


 プォーーン!!


 そう、その方法とは何てことはない、”ワープポット”を活用するだけだ。

 でもこんなのイベントの、しかもミニゲームの最中に使えるとか思わないし。

 それもゲームのキャラからそのヒント、どころか正解を教えられるなんて……


 なんか悔しいぃ……!!


 何気にプレイヤーの”先入観”を逆手に取ったような仕様が多い気がするな。

 とは言え私の方が先に自分で思い付いていたら、問題なく解決してた事だけど。


 魔王城ではストレージを駆使して、設置されていた宝箱を手に入れるとか、柔軟な発想をしていたし、もしかしてこの主人公って……私よりも賢かったりする?


 で、でもアルマの風魔法で演奏の音を遮断したのは私の案だし、あのお陰で勝てたようなものだから今回は引き分けだよね、だ、だから別に負けた訳じゃないし!


 桜子は自尊心が少し傷付いたが、持ち前のポジティブ思考で持ち直した。

 そして流れていたBGMも通常に戻ったので、どうやら危機は脱したようだ。


 それに移動したと同時に、珍しく第三者視点のイベント演出が起きたな。

 何か変なシルエットの人物がワープポットで移動したピヨヒコ達を、忌々しげに見届けてその場から立ち去ったけど、王国に紛れている魔王軍側のスパイとかか?


 誰かは分からないけど敵だと仮定して、さっきの戦闘を通報した奴だとしたら、メインシナリオでもある、例の偽物の勇者騒動とかにも関わってる感じかも?


 うーん、さっきの場所に戻るとどうなるのか少し気になるけど、ピヨヒコがまた『あの場所に戻るのは危険だ』とか繰り返し念じて来そうだし、下手したら捕まる可能性もあるから今回は止めとくか。リセット戦法も制限された感じになったし。


 取り敢えず一旦セーブして、このまま冒険者ギルドに向かうとしよう。


 ……それにしてもピヨヒコの奴、いつになったら”思考スキル”を解除するの?

 何か言い争った時に、もう解除するとか言ってたけど、あの変な猫みたいな口調のキャラが割り込んで唐突に回復して来たから、そのまま有耶無耶(うやむや)になったけど。


 もしかして、その時に解除したと思い込んでたりする?

 そのままずっと思考が垂れ流し状態なんだけど、まだ解除されてないからね?


 それに”スマイリースキル”って何だよ、勝手に存在しないスキルを命名すんな。


 と言う事はあれか? もしかしてその前の”スルースキル”とか、それ以前にこの思考スキルとか言うのも、本当はデータ的には存在しないのに、ピヨヒコが勝手に命名して、さも自分が覚えたスキルのように”認識”してたりする?


 いや、でもそんなスキル、実際には”覚えてない”よね?

 だってステータス画面にも冒険者カードにも、そんなスキル何処にも明記されてないし、プレイヤーが任意で使用する事も出来ないんだけど。


 強く念じると主人公の思考が流れてくるのは、システム的にもゲームの仕様だとは思うけど、思考スキルの方はピヨヒコの”思い込み”による妄想なんじゃない?


 何か高速思考が可能になるとか言っていたから、ピヨヒコが高性能な人工AIを搭載していると仮定して、その補助的な機能でもあるのかと思ってたけど、本当に効果があるの? あ、でもスキルを活用して心を落ち着かせてたりはしてたっけ。


 でもそれって、自己暗示によるプラシーボ効果とかの可能性もあるんじゃない?

 それにスルースキルってのも、名前からして実在するのか怪しいところだし。


 おそらく背後の画面に関しては、主人公にも最初から見えていたとは思うけど、記憶を失って、更にプレイヤーに操られている状況に対して”現実逃避”する為に、ピヨヒコが勝手に命名して、思い込みで”創り出した”スキルって感じがする。


 魔女の森のクエストの時は、私の事もそこまで意識してない感じだったし。

 たまに思い出したかのように、背後を振り向いてはいたけど。

 と言うか今でもちょくちょく私の存在を忘れている時があるんだけど……


 つまりスルースキルの効果を信じて、画面を認識しない素振りをしてたの? 

 いや、実際に画面を認識しないくらい無視出来るなら本当に効果があるのかも。


 何かピヨヒコの心の闇に少し触れた気分なんだけど……


 まあ気にしても仕方ないけど、私がそこまで言及する事でもないし。ピヨヒコがスキルとして認識して、何かしら効果を発揮してるなら、それで特に問題ないし。


 スキルだと信じてるなら、私がそれを否定して疑念を持たせる必要もないか。

 とは言え今も発動してる思考スキルに関しては、さっさと解除して欲しいけど。


 でも私からピヨヒコに話し掛けて、とっとと解除しろとは何か云いずらいな……

 何か精神的な疲労もあるとか呟いてはいたし、放っておけば自分で気付くかな?


 うーん、ちょっと煩わしいけど、取り敢えず様子見するか。


 でも人工AIが、思い込みや”誤認”するってのも何か不思議な話だけどね。

 ピヨヒコって名前に対して、恥ずかしさを感じてるのも変って言えば変だけど。


 実はこの主人公は、人格をプログラムの中に閉じこめられた実在する人間とか?


 だとしたらゲームの世界に精神を閉じ込められて、私がそれを遊んでいる感じ?

 もしそうなら魔王を倒して無事にクリアしたら現実世界に戻れるとか?


 いや、流石にそれは突飛な考えだけど、でもブックルみたいに人格を本に宿すとかの設定も出て来たし、ファンタジー小説とかならありそうだよね。

 まあそんな事が現実に起こり得るなら、それこそフィクションの世界だけど。


 あ、そう言えばそんな噂も一時期あったっけ、このゲームとは関係ないけど。


 あと気になったのは、ピヨヒコのスキルにも関わっていそうだけど、ベオルフも何か意味深な発言をしていたな。確か思い込む事で人は何者にでもなれるだとか、信じて疑わない心は強さにも繋がるとか。

 しかもその内容に対して、ピヨヒコも役割がどうとか、変な事を考えていたし。


 でもそんな説明なかったと思うから、もしかして記憶を失う前の話なのかな?

 何か過去にも何かしら接点とかありそうな感じだし。

 それにあの吟遊詩人は、ピヨヒコの記憶喪失の件にも関わってはいそうだよね。


 だって記憶の雫の説明をしてた時に、あの場に居た関係者は6人とかマルクスが言ってたけど、実際にはベオルフも固有スキルを使って覗き見してたなら、勇者の任命の儀の際には、既に隠れてストーカーしていた可能性はあるし。

 まあ冒頭の方は弟が遊んでたから、どんな感じだったかまでは分からないけど。


 でも私の予想だと、あの吟遊詩人はストーリーの本筋とはあまり関係してない、イレギュラー的な”異物”って感じもするけど……

 あの覗き魔の王様の部屋を聞き耳した情報だと、シナリオを管理する”神様的”な存在が居るみたいだから、ベオルフも多分その関係者だよね?


 信仰とかの要素も出て来たから、ゲームの設定としては、えっと確か十二依神?

 とか言う神が実在していて、勇者と魔王の戦いにその依神とやらが介入している感じなのかも、それならシナリオ崩壊とかのセリフも納得は出来るし。


 しかも名称的にもクトゥルフ神話がモチーフっぽいから、ベオルフの正体は実はその依神の一体で、ニャルラトポテフ的な存在なのかも? それに専用の固定装備も”ロキの竪琴”とか言う、如何にもそれっぽい名称だったし。


 そう考えると、何かスゴくしっくりと来るポジションではあるけどね……

 自らが仲間の1人として加入して、シナリオに関わってたとしても、あの邪神がモチーフなら、そこまで不自然な行動にも感じないし。


 そうだとしたらベオルフの連れのネムにも、何か意外な裏設定とかあるのかも?

 “ハーピー”が種族のモチーフなら実は魔族側? とか少し疑ってはいたけど。

 それにミゼーアとか言う女神も呪いを与えて来たから、それも関係してる感じ?


 もしかしてベオルフ自身が、実はそのミゼーア本人とかの可能性もある?

 ロキとかニャルラトって確か性別とかも超越する存在って感じだったと思うし。

 まあTRPG動画で見知った程度の知識だから、そこまで詳しくはないけど。


 それに全て私の憶測でしかないから、実際どうなのかは分からないし。


 でも全く無関係な単なる仲間キャラの1人って事は流石にないでしょ。 

 ピヨヒコもあの吟遊詩人の事を何かやたらと憎んでる感じだし。

 隠れてストーキングされてるんだから、嫌って当然と言えば当然だけど。


 でも現状だとどうにもならなそうだし、取り敢えずベオルフに関しては、今まで通り無視して適当に扱えばいいか、本人も演奏担当とか言ってたし。

 それともうひとつ、気になってはいたんだけど、これもしかしてアルマも……


『おーい、いつまで立ち止まってるんだよ、動いてくれ、このままだとアルマ達に不信に思われる……それに何か考え込んでいた様子だったけど、もしかして悩み事でもあるのか? 俺でよければ相談に乗るぞ?』

「!!」


 思考が交錯して疑心暗鬼に陥っていたら、ピヨヒコにメッセージで催促された。

 そう言えばセーブしてメニュー画面から戻して、そのまま考え込んでたわ。何かその前からピヨヒコの思考メッセージが流れていたみたいだけど見逃してたな……


 それにアルマと何やら話していたみたいだけど、こっちはボイス付きだったので内容は何となく聞き取れたけど、どうやらレティシアの話をしていた様だ。


「……てか悩み事なら確かにあるけど、アンタに心配されたくないわよ!」

『あ、元気そうだな、なら良かった、取り敢えずお腹も空いたから冒険者ギルドに立ち寄って、お昼ご飯を食べたいから予定してた通りでヨロシク!』


 何かこの主人公、だんだんプレイヤーの私に対して遠慮がなくなってない?

 このままだと調子に乗って、図々しい要求とかもして来そうなんだけど……


 まあ選択の決定権はプレイヤーの私にあるから、ムカついたら拒否するけど。

 それに私も今のところこのゲームを楽しめているけどね、遊んでいて面白いし。


『ああ、それともう大丈夫そうだから、頭装備を解除してくれないか? このままだと視界が狭くて息苦しいし、マスクが邪魔して飯が食えないんだよ、頼む!』

「……イラッ」


 うん、このゲームの欠点を挙げるなら設定がいちいち細か過ぎる事だわ。

 なんだよ息苦しくて飯が食えないって、いや、言ってる事は分かるけどさ!


 桜子はゲンナリしつつも”衛兵の革兜”を外して、ゲームの続きを遊ぶ事にした。


     ◇


 何かフリーズしたように考え込んでいたけど、強く念じたら反応してくれたな。

 それに頼んだら素直に頭装備も外してくれたし、良かった 良かった。


 本当は装備の着脱くらいなら自分でも出来たんだけど、でも昨日も考えたけど、この少女にバレると面倒な事になりそうだから、このまま黙っていよう……


《!?》


 それにしてもさっきは珍しく慌てふためいていたな、もう少しで衛兵に見つかりそうだったから少し焦ったけど。

 とは言え俺の見事な機転のお陰でバレずに逃げ切る事が出来たけどな。 


 捕まったゲレッタは少し心配ではあるけど、常習犯みたいだし罰金でも支払えばそのまま釈放される感じかな、まあ俺が気にしてもどうにもならないけど。


 でも衛兵の革兜で変装したり、ワープポットを使う事くらい、この少女でも思いついても良さそうなんだけど、慌てていたから気が付かなかったのか?

 それに何か悔しそうな顔をしてたから、観ていてちょっと優越感を感じたな。


《!!》


 あ、それによく考えたら割と普段から慌てふためいているか。何気に表情が面に出るから感情が読みやすいし、隠し事とか下手なタイプだよな。


 しかも移動した後は何か暫く俯いて悩んでいた感じだったし、不甲斐ない自身に対して、落ち込んで反省でもしていたのか?

 もしそうなら良い心掛けだけど、そのまま放置するのは勘弁して欲しいものだ。


 この調子で今後もこちらの意見を尊重して、素直に聞き入れて指示に従ってくれれば俺としては助かるんだけどな……

 と言うかもし可能なら選択の決定権もこっちに譲渡して欲しいくらいだし。


 いや、譲渡と言うよりは返還か。

 一体いつになったら、この操られている状況から解放されるのだろうか……


《はぁ!?》


 え、なにその驚いたような困惑した表情は? それになんか怒ってない?

 なんで? だって思考スキルは既に……あれ、そう言えば解除したっけ?


 もしかしてそのまま発動してた? て事は今考えていた事とかも聞かれた!?


 あ、ちょっと、何でストレージから薬草を取り出したのかな?

 もう体力は全快なんだけど、まさか使うつもりか!?

 それそのままだと凄く苦いからね、ねえ、ちょっと待って、一旦落ち着こう?


 てか何か笑ってない? 顔は笑顔なのに内面から怒気が溢れてるよ?

 ま、まさかこの少女もスマイリースキルの使い手……パクッ


「うげー……」


 口の中に広がる苦味を噛みしめながら、ピヨヒコは冒険者ギルドに向かった。

 そして今後は調子に乗って思考スキルを乱用するのは控えようと心に誓った。


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