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第56話 アリアンロット

 仲間の協力を得て、ついに憎きベオルフに攻撃を当てる事が出来た。

 それも鋼のショートソードで躊躇う事なく本気で斬り付けた。

 しまった、手加減するのを忘れてた。このままだと傷害罪で捕まってしまう!


 しかも勢い余って身体が真っ二つに裂けてしまった。ヤバい、死んだか!? 

 何てこった、このままだと殺人罪で捕まって投獄される!!

 しかし斬られたベオルフはそんなピヨヒコを嘲笑うようにその場から消失した。


 〜♪♫♩


「あれ!? 確かに斬ったはずなのに、べオルフの奴は何処に行った!?」

「……ここですよ、勇者様」


「な!?」


 ピヨヒコの直ぐ背後からベオルフは再びその姿を現した。

 そしてその姿を見ると、怪我などした様子もなくケロリとしている。


「いやぁ、まさかあの様な手段で私のカウンターを防ぐとは、お見事でした」

「なな、何でお前、え、無傷!?」


「おっと勇者様、観客も居ますので先に締めといきましょう」

「締め?」


 〜♪♫♩


 そう言うとベオルフは奏でていた演奏を最後まで弾き終える。そう言えばあまり意識してなかったけど、斬り伏せた時もそのまま曲が流れていたな。

 寧ろ曲が最高潮に盛り上がっていた気がする。いや、実際は死んでなかったなら俺としても朗報なんだけど、何か釈然としない。


 つまり吟遊詩人のベオルフは、何らかの方法で俺の攻撃を避けたって事か?

 あれ、それだとルール違反になるよね? いやでも確かに斬った感触はあった。


 姿が消えたって事は、俺が斬ったベオルフも実は演奏による幻だったとか?

 いや、それはないだろう、だって”あの時”も奴の姿を明確に捉えていたし。


 演奏が止むと、あの場で佇んでいたアステリオスも音符に戻り徐々に消失する。

 久し振りに喚び出され出番を貰えたからか、その表情は何処か満足げな様子だ。


 そして演奏を終えたベオルフは、観衆に向けて挨拶をした。


「お立ち会いの皆々様、これにて”戦闘パフォーマンス”を終了とさせて頂きます、私の演奏も最後までご拝聴いただき、誠にありがとうございました♬」


 それと同時に観客から拍手喝采が湧き起こった。


 「パチパチパチパチパチ!」「うぉー、凄かった」「演奏に聴き入っていた」

「ファーラビット達が可愛かった」「狼さんもカッコよかったね」「ねー」

 「ドミノタウロスなんて初めて見たぞ」「怖かった」「ああ、アレはヤバいな」

「勇者様たちも頑張ってたね」「戦闘もスゴい迫力だった」「楽しかったよー」

 「素敵な楽曲だった」「貴重な体験をさせて貰った、ありがとう!!」


 その勢いにピヨヒコは圧倒され呆気に取られるが、その歓声を聞いていると少し嬉しい気持ちになった。側にいたネム達も笑顔を向けられて嬉しそうだ。

 そしてノリで始まったこの戦闘も、今度こそ本当に終わったのだと安堵した。


 チャリンチャリン♩


 何か歓声に混じってお金の音がすると思ったら、吟遊詩人のベオルフはいつの間にか楽器のケースを開いて床に置き、観客達から”おひねり”を頂戴していた。


「いやーどうもどうも、ありがとう御座います、ありがとう御座います♪」


 何て図太い神経なんだこの男は。文句の一言も言ってやりたいが、言うだけ無駄だろうし疲れるので、ピヨヒコ達は只々呆れてその様子を眺めていた。

 と言うか疲労困憊なんだけど、受けたダメージも結局はそのままみたいだし。


 奴の演奏が終わったら受けた傷も治るんじゃなかったのか?

 それにあの魔牛のプレス攻撃で石床どころか地面まで派手に壊されてたし、誰が弁償するんだよ……って、あれ?


「え、何で、地面が元通りになってる!?」


 アステリオスが居た付近を見てみると、破砕された形跡は既に無くなっていた。

 これはどう言う事だ? やっぱり幻覚でも見ていた状態だったのだろうか?

 でもダメージは確かにあるんだけど、それに持っていた小盾も破壊されたし……


 ガバッ!


「勇者様、無事で良かったです!」

「おわ、ああ、アルマも無事で良かった」


 そんな事を考えていたら突然アルマが俺に抱きついてきた。

 やけに積極的だと感じるが、その手は少し震えている。ベオルフに対して気丈に振る舞ってはいたけど、内心では俺の事をかなり心配していたのかもしれない。


 顔をよく見ると、その目には薄らと涙を溜めていた。


「もう大丈夫だよアルマ、心配かけてゴメンな」

「はわ、いえ、わわ、私の方こそ抱き付いてその、ゴメンなさい」


 大衆の前で抱きついた事に羞恥心を感じたのか、アルマは慌てて離れた。

 そしてその様子を見ていたネムとブックルも俺に声を掛けてくれた。


「ソレにしてもピヨヒコ、よくあの魔牛のプレス攻撃に耐えられタナ」

「ピヨピコ、牛さんに潰されて死んだかと思った」


「え、ああ、アレは……」

「おっと、それは私も少し気になってはいました、是非とも知りたいですねぇ」


 ブックル達にも心配されたが、憎きベオルフまでもそれに便乗して来た。

 コイツの前で種明かしをするのは少し憚れるのだが、ストーカー行為で粘着されている状況だし、ちょっと考えれば分かるだろうから別に構わないか……


 とは思いつつもピヨヒコは言葉を濁し、誤魔化して説明する事にした。


「えっと、2人とも一度は体験してるから知ってると思うけど、俺はアルマのある魔法を駆使してあの場を切り抜けたんだよ」

「ある魔法?」


「ああ、ヒントは風魔法、そして使ったタイミングは昨日の夕食の後、かな」

「……っ」


 そう言うとアルマは昨日の”失態”を思い出したのか、その場で俯いてしまった。

 その反応を見て、ネムとブックルもどうやら察したようだ。


「ナルホドな、あの魔法で魔牛の攻撃を遮ったのか」

「む? でもピヨピコ、牛さんをちゃんと見てたよね?」


「え、何です、なんの話をしてるので?」


 2人とも賢いな、俺がベオルフを軽蔑してるのを察して、ちゃんと考えて返答して来た。しかもネムはあの時の俺がどんな状態だったのかも理解しているようだ。


 そしてどうやらベオルフは夕食の間は本当に離脱していたようで、あの出来事は知らないようだ。それなら今後も使えそうだし、この男に教える必要は無いな。


「ああ、確かに魔法の効果はあったけど、何故かそのまま姿は見えていたんだよ、でも透けて見えてたから、効果があると信じて避けずにプレス攻撃をそのまま受けたんだけど、それでも恐怖で思わず直前に目を閉じて視覚も遮断されたから、多分それで魔牛の攻撃を受け流せたんだと思う」

「なら地割れによるスタンも、それで回避出来た感ジカ?」


「おそらくそうだろうな、目を閉じていた俺には振動も特には感じなかったし」

「ふむ、そう言う事でしたか……つまり勇者様はあの時、アルマさんの支援魔法で私の奏でる演奏の”音”を遮断していたのですね」


「くっ、誤魔化してたけど結局バレたか……」

「まあ流石に状況から判断すれば察しますよ、夕飯時に何があったのかまでは分かりませんが、風魔法というヒントもありましたし、それに自分の演奏スキルの弱点などは当然、把握してますからね」


 出来たら隠し通したかったけど、バレたなら仕方ないか。

 そう、つまり俺はあの時、アルマの機転で雷魔法の”サンダーエンチャント”ではなく、風魔法の”エアロクリーナー”……でもなく、お菓子の件でアルマが闇堕ちした際に使っていた”カームホール”により周囲の音を遮断していたのだ。


 その結果、目の前のドミノタウロスは輪郭が薄ら見える程度まで薄くなり、その奥に居た憎きベオルフをしっかりと視界に捉えていた。

 当然背後の少女の声など聴こえる筈もないのだが、俺の想定だと音を遮断すれば魔牛の姿も完全に見えなくなると思っていたので、そこは誤算だったけど……


 でもそのお陰で魔牛の行動も見えていたから、押し潰し攻撃も聴覚と視覚を遮断する事で受け流し、その後に付与された消音を解除して、勝利を確信してイキっていたベオルフと、それに反発するアルマの会話を聞きつつ、タイミングを合わせて飛び出したのだが、ブックルもその動作に上手く合わせて飛び付いたので、事前の作戦通り、奇襲が見事に成功した。まあ行動順に関しては偶然の産物なのだが。


 その事を伝えると、ベオルフは自身の演奏スキルについて補足した。


 ベオルフの演奏スキル”幻想曲”は楽譜の旋律を奏でる事で、その曲のイメージを具現化させて、幻獣を喚び出し使役して戦う事が出来るのだが、相手の視覚を惑わせて実際にその場に存在すると思い込ませる事で、現実にも影響を与えるらしい。


 要は演奏スキルによって相手に幻を見せているのだが、それをちゃんと頭で理解してないと、実際にダメージを受けるようだ。

 その為にファーラビット達が出現した際に、事前に俺達や周囲のギャラリーに、これは曲のイメージだと説明する事で、現実に与える被害を抑えていたとの事だ。

 

 その話が本当ならどれだけ高い技量でイメージを再現しているのか伺える。まあそう言う性能のスキルなんだろうけど、割と初見殺しではあるよな。

 演奏によるイメージだと俺は分かっていても、実際にダメージを受けたし。


 現実に影響する程の演奏スキルとかかなりの脅威だし、もし魔物に対しても有効なら幻獣を従者として戦わせて経験値を稼ぐ事も出来るのかも。

 ベオルフの現在のレベルとかは知らないけど、やっぱり侮れない男だな……


「つまり演奏が終わっても俺のダメージが残っているのは、音を完全に遮断してもあの魔牛が薄らと見えるくらい”本物”だと認識していたから、その影響力で戦闘が終わった後も受けたダメージがそのまま残っている感じか?」

「ええ、まあそうなりますかね、普通は音を遮断した地点で喚び出した魔獣を認識出来なくなるのですが、勇者様はそれだけ感受性が高いようです」


「あれ、それじゃもしかして、あのまま目を閉じずに魔牛の押し潰し攻撃を受けていたら結構ヤバかった?」

「曲のイメージによる幻だと理解していれば、受けたダメージも演奏が止まれば、無かった事にはなる筈ですが、勇者様の場合そのまま潰されていたら、思い込みで死んでいたかもしれないですねぇ」


「……っ」


 恐ろしい事実を平然と告げるなよ、実際に死んでいたらどうしてくれんだよ!


 アルマもその話を聞いて、何かめっちゃ怪訝な表情でベオルフを睨んでるし。

 俺の背後に居たアルマからしたら、俺が魔牛の巨体に思いっきり潰される場面を目撃した感じになるんだから、そりゃ泣きたくなるくらい不安にもなるよな……


 とは言えアルマがここまで怒りの感情を隠さず、表立って見せるのは珍しい。

 取り敢えず安心させる為にも、俺がここで取り乱したりしないようにしよう。


 それにしても思い込みで本当にダメージを受けたり死んだりするのだろうか……


「そう考えると咄嗟に目を閉じて正解だったって事か、しかし”思い込む”だけで、そんな現象が起こるのか? スキルの効果だと言われればそれまでだけど」

「思い込みの力を侮ってはいけませんよ、それこそ人は誰しも思い込む事で何者にでもなれるのですから、それに信じて疑わない心は強さにも繋がりますからね」


「何者にでもなれる?」

「まあ小難しい話は良いではありませんか、取り敢えず怪我の治療をしては?」


「なんか話を誤魔化された感じもするけど、負傷の元凶でもあるお前に言われるとムカつくな、そもそもあんなヤバい魔物をこんな公共の場所で喚ぶなよ」

「演奏スキルで私の方もかなり消耗してるんですからお互い様ですよ、それに先に勝負を仕掛けて来たのはそちらでしょう?」


「……それを言われると返す言葉もないが、無視すればよかったと後悔してる」 


 それに何か前にも似たような事を誰かに言われた気がするんだけど。

 役割がどうたらこうたらとか……うーん?


「私もつい意地になってアステリオスを喚びましたが結構ギリギリでしたけどね、具体的にはもう3ターンくらい粘られたら魔力が尽きていたところです」


「……む、そうなのか?」

「私の演奏スキルは魔力を糧にして発動するので、見た目以上に疲れるんですよ」


「なるほど、まああんな巨大な魔獣をノーリスクで使役できる筈もないか……」

「いやぁ、でもそのお陰で観客も喜んでくれましたし、おひねりも大分貰えましたから助かりましたけどね、勇者様さえ宜しければ今後も定期的に共演しません?」


「絶対に嫌だよ、もう二度とゴメンだ!」

「そうですか、それは残念です、あ、どうもどうも、ありがとう御座います」


 チャリンチャリン♩


 まだ観客から投げ銭が飛んでいるな、それだけ盛況だったって事か。

 まあこの吟遊詩人の演奏スキルだけでも一聴の価値はあったからな。


 冒険者からしても幻獣なんて珍しいもの、そうそう見る機会はないだろうし。

 一般人なら尚のこと、童話とかでも有名な魔物なら余計に貴重な体験だよな。


 と言うか今の戦闘で金を稼いだなら、こっちにも分け前を少しは寄越せよ。

 とも思ったけど、支援金で懐は潤っているので、その要求をするのは止めた。

 それにこの男に図々しいとか少しでも思われるのは、何かスゴく癪に障る。


 見た目はイケメンなんだけど、この性格でかなり損をしてる感じだよな……

 初見の時は王子様みたいだと褒めていたアルマですら今は敵意を向けているし。

 俺が思考スキルで平静を保っていたので、アルマも大分落ち着いたようだけど。

 

「すまない、勇者様の一向だとお見受けする」

「! え、ああ、そうだけど……?」


「む?」

「オッ、誰だコイツら?」


 さっき投げ銭をしていた観客がこちらに話し掛けてきたので応じる事にした。

 基本的にこの国の住人は、俺の方から話し掛けないと無視されるので珍しい。


 それにどうやら先程まで観戦していた冒険者パーティーのようだ。

 魔牛との戦闘前にも観たけど、其々が強そうな装備を着こなしている。


 話し掛けて来た男がリーダーっぽいな。好青年って印象で少し気品を感じる。

 それにその隣には重装備のゴツい男が居る。大盾を持っているから盾士か?

 あとは奥に軽装備の女性が1人、背中には弓を背負ってるので狩人とかかも。

 それと手前にもう1人、こちらも軽装だけど、杖を持った小柄な男性が居る。


 種族は全員人族で、見たところ4人とも二十歳そこそこって印象だな。

 歴戦のベテラン冒険者ではなさそうだが、中堅の冒険者って感じがする。


「あ、すまん、初対面なのでちょっと警戒してた」

「……いえ、こちらこそ突然大人数で申し訳ない」 


 見定めするような視線を向けてしまったから、少し不信感を持たれたようだ。

 これも思考スキルの弊害とも言えるな、今後はなるべく気を付けるとしよう。


 牽制するつもりはないので、ピヨヒコは警戒心を解いて話を聞く事にした。


「いや、問題ないよ、えっと、それでどう言った用件だろうか?」

「先程の戦いを観戦していたんだが、見応えがあったからそのお礼と、いい機会なので噂の勇者様に挨拶をしたいと思ってね、少しお時間よろしいだろうか?」


「……それはどうも、少しなら構わないけど」

「まずは自己紹介するとしよう、俺の名はアッシュ、隣の男はランドルフ、手前の小柄なのはバド、そして奥にいるのが……」


「私はリディアだよ、ヨロシクね、勇者様」

「え、ああ、よろしく」


 奥に居た女性が前に出て自分から自己紹介してきた、何か活発な印象だ。

 他の二人も紹介の際にそれぞれ会釈をしてくれた。

 全体的に明るく和やかな雰囲気なのでパーティーの空気は悪くなさそうだ。


「勇者様のお名前は?」

「ああ、俺は……」


 いや、ちょっと待って、名前? 初対面の相手に自己紹介……?

 俺はピヨヒコ、世界を救う勇者だ、ヨロシク! とか言わなきゃいけないの!?


 いや、別にこの名前が嫌いって訳じゃないんだけどさ、既に慣れた感じもあるし今は自分の名前だと認識してちゃんと実感しているし。

 でも向こうは何かアッシュとかランドルフとか、矢鱈と格好いい名前だからさ、ちょっと自分の名前を言うのは少し抵抗感があると言うか……


 うわぁあぁぁ、何かこの場で自分の名前をスゴく言いたくないぃぃ!!

 でも相手が丁寧に自己紹介した手前、こちらもちゃんと応えないとぉ!!


《ぷっ、……っ、ふふっ》


 そんなジレンマに陥っていると背後から笑いを堪えるような声が聞こえてきた。

 ピヨヒコは自分の名前を笑われた気がして、とても恥ずかしい気分になった。


 と言うか普通に俺の名前に対して、画面の少女が笑っている感じだよな!?

 おいコラ、なにを笑ってんだよ、背後を見なくても声が洩れて伝わってるぞ!


《いや、だって、こんなん笑うでしょ、良いじゃんピヨヒコ、自信を持ちなよ》


 ぐぬぬ、そっちは名前すら未だに名乗っていないくせに、人の名前を笑うなよ!


《!》


「む? どうしたのピヨピコ?」

「ピヨピコ?」


「勇者様?」

「あ、いや何でもない……」


 ちょっとネムさん? 何でこのタイミングでその名を呼ぶの?

 しかもそれ正式名称じゃないからね!?


「……何やら思い悩んでいる様子だけど、大丈夫かい?」

「ハァ、すまない少し取り乱した、大丈夫だ……えっと、俺の名前はピヨヒコだ、この国の王様から魔王討伐の任命を受けて、勇者としての使命を担っている」


「へぇ、ピヨヒコ君ね、なんか可愛い名前だね」

「……くっ」


 年上の女性に可愛い名前とか言われて、ピヨヒコは羞恥心を感じて赤面した。

 リディアは見た通りの明るい性格だし悪気や煽りの意味合いは一切無さそうだ。

 それに容姿も整っていてスタイルも良いし、頼れる年上のお姉さんって印象だ。


 顔も可愛い感じだし、結構好みのタイプかも……っ!?


 しかしそのやり取りを見ていたアルマの視線が何となく怖かったので、ピヨヒコは思考スキルを駆使して無理やり心を落ち着かせ、平常心を装った。

 てか別に下心とかは出してないから、名前を呼ばれて恥ずかしかっただけだし。


 だからそんなシルビアみたいに冷たい視線を向けるのは止めて欲しいんだけど。


 そんな事を思ったのだか、アルマを見てみるとその表情は普通に笑顔だった。

 あれ? でも確かにシルビアに似た空気感を感じたんだけど……

 と言うか何で俺にそんな笑顔を向けているのかな、何か逆に怖いんだけど。


 やっぱり何か怒ってるよね? 顔は笑っているのに俺に対して怒ってるよね?

 さっきまでベオルフを睨んでたけど、その時よりも怒気を感じるんだけど!?

 

「……どうかしましたか、勇者様?」

「え、いや、な、なんでもないよ」


 アルマの感情がイマイチ読めなくて、ピヨヒコは心の中で狼狽した。

 そして、その様子を見ていたランドルフとバドも会話に参加してきた。


「まあいいじゃねえか、名前なんて”勇者様”でも通じるんだからよ」

「えー、名前は重要ですよ、初見でも名前を覚えて呼び合えば、戦闘中の連携もし易いですし、それだけ打ち解けるのも早いですから」


「それにそっちの子も可愛いよね、ハーピアなんて初めて見たよ」

「むー、ネムは子どもじゃない、もう大人だ!」


「ネムちゃんか、ヨロシクね、はい、飴あげる」

「あ、甘いやつだ、くれるの? ありがとー♪」


「コホン、まあ先に自己紹介を続けるとするよ、そちらの仲間の方々もよろしく、俺達は【アリアンロット】の通り名でパーティーを組み、活動している冒険者だ」


「アリアンロット?」

「ああ、俺達のパーティーの名称だよ、覚えて貰えると嬉しい」


 どうやら冒険者のパーティーには其々に【通り名】があるようだ。

 名前が知れ渡っている熟練の冒険者には”二つ名”もあるようだし、パーティーの名称を決めて活躍すれば、その名も自然と他の冒険者にも知られ、広まる感じか。


 話を聞くとアリアンロットは、それなりに名が売れてる中堅の冒険者パーティーらしく、今は上位のクエストに挑む為に、一段上の装備を揃えている途中らしい。


 そして向こうの紹介も済んだので、こちらも仲間の紹介をする流れになった。

 アルマは少し緊張している様子だったけど、ネムの方は相変わらず、初対面でも打ち解けるのが早かった、紅一点のリディアとは既に意気投合している感じだな。


 それとついでにベオルフの奴が、勝手に仲間を騙って自己紹介していた。


 ブックルに関しては喋ってるところを見られるのはマズイと思ったのか、いつの間にかネムのバインダーに収まって沈黙していたので、紹介はしなかった。

 喋る魔道具とバレたらマズいので、本人も本なりにその辺は配慮してるようだ。


 賢くて察しの良いネムも、ブックルを見せびらかして紹介したりはしなかった。

 こう言う気配りが出来る辺り、ネムもブックルも何気に知恵が回るんだよな、対べオルフ戦の時の”切り札”になった目隠し攻撃も、ブックル自らの提案だったし。


「それにしてもスゴい戦闘だったよね、それに演奏も何か凄かったし」

「満足して貰えたなら良かったけど、演奏の称賛なら俺よりもそこに居る胡散臭い吟遊詩人の男にしてくれ」


「そっちの詩人の兄さんは何か信用ならねぇ感じだが、確かに凄みがあったな」

「ああ、俺もそれには同感だよ、全く信用が出来ないから困ってるんだ」


「おやおや、本人を前にしてそんな事を仰るのですか、(いささ)か心外ですねぇ」

「あ、すみません、本当に失礼ですよランドルフ」


「いや、だってこの詩人の兄さん、観戦してた俺らの事も煽ってただろ、あの魔牛を喚び出した時に観客に対して楽しんで”逝って”ください、とか言い放ってたし」

「あ、それは私も感じた、何か煽られた感じがしてめっちゃ不愉快だったよね」


「ふむふむ、それには俺は気が付かなかったけど、俺の事も同じように煽って来たからかなり不快な気分だったな」

「おお、そうだよなぁ、勇者の兄さんもそう思ってたなら良かったぜ、この詩人の兄さんと共謀して演技してる感じには見えなかったから、あの魔牛の突進でピンチになった時は、思わず助けに入ろうかと思ったくらいだ」


「いや、それは流石に不味いだろ、あくまでも”パフォーマンス”だったんだから」

「……まあ私としてはあなた達が参戦しても全く問題はなかったのですけどねぇ」


「えぇ、そうだったんですか?」

「ほらぁ、やっぱり、私もそう言ったじゃん、絶対にこれ観客を煽って参加を促してるって思ったもん、それに何か品定めするような嫌な感じで観客を見てたし」


「別にそんな品定めするつもりで目配せした訳ではなかったのですが、まあ参加を促す為に、視線をあなた方に向けたのは事実ですけどね」

「そうなのか、それなら俺達も遠慮しないで途中参加すれば良かったかな」


「え、え?」

「今の勇者様の実力だと、アステリオスを相手にするのは流石に無理だと判断していましたから、観客の中には戦えそうな冒険者も何人か居たので、それも踏まえて乱入して来るなら”レイドバトル”にも、対応する感じにはしてたんですよ」


「レイドバトル?」

《え、何それ、そんな要素まであるの?》


「ええ、要は幾つかのパーティーが混同して一緒に共闘する形式のバトルですね」

「ふーむ、そんなのもあるのか」


 あ、でもそう言えばマルクスがドラゴンに大人数で挑んだとか言ってたっけ。

 確かブレスの全体攻撃で悲惨な目にあったとか聞いたけど。

 あれも1つのパーティーじゃなくて、混合した感じの戦闘形式だったのかも。


「迷宮の番人ドミノタウロスと戦える機会なんて先ずないし、そんなら俺らも参加すれば良かったな、俺の大盾であの魔牛の攻撃を(しの)げるか試してみたかったし」

「迷宮の番人?」


「それに私の弓術なら後方から魔牛の顔を狙えたから、目を潰せたら視界を奪って勝てたかもだよね」

「ああ、それにバドの魔法もあるし、ランドルフが盾で攻撃を防いで、リディアの弓と俺の剣技で立ち回れば、どうにかなったかもだな」


 あれ、なんかテンション上がってるけど、その中に俺達は含まれてなくない?


「まあそれならそれで、アステリオスの全体スタンの餌食にしてましたけどね」

「!!」


 ベオルフは盛り上がった場の空気を一気に冷めさせる容赦ない一言を放った。

 勝てる算段をしてたメンバーもあのプレス攻撃を思い出したのか絶句している。


 実際あの全体スタンを喰らえば、このパーティーでも敗北する可能性は高いな。

 それに持っていた両手斧は今回の戦闘では使わなかったけど、あの巨体で豪快に振り回しながら迫って来たら範囲攻撃になりそうだし、あんなの一撃でも喰らったら致命傷になりかねない。まあ最初からベオルフを狙えば勝ち筋はあると思うが。


「で、でもさっきの戦闘は最後はピヨヒコ君が見事に勝利してたからね」

「えぇ、あのプレス攻撃をどうやって回避したのか傍目から観戦した感じだとよく分からなかったですが、決め台詞も含めて何かカッコよかったですね」


「俺も観ていて驚いたぜ、その前の突進攻撃も咄嗟に小盾で防いでたし、本来ならあの一撃で気絶してもおかしくないのに、それにも耐えてたよな」

「ああ、すまない、そう言えばまだ治療もしてない感じだったのかな?」


「え、ああ、そう言えばそうだった、忘れてたな」

「そうか、それなら俺達もこの辺で話を区切るとしようか、もしまた何処かで会う機会があればその時はよろしく頼むよ」


「ああ、わかった」

「……それとすまない、本当は巷で流れている”噂”の真相を確かめたくて接触したのもあったんだが、やはり実際に話してみると人となりは見えて来るものだね」


「あ、やっぱりそんな意図もあったのか、何となくは感じてたけど」

「ふーん、ピヨヒコ君も気付いてはいたんだ、流石だね」


 だって”噂”の勇者様とか、敢えて付けてた感じだったし……

 これまでの情報でどんな噂なのかは俺も重々理解はしてるからな。


「事の真相は分かり兼ねるけど、個人的には君は”悪人”には見えなかったし、あの戦闘を見た感じだと、仲間に敵視を向けない様に立ち回っていて良心を感じたよ、まあ最初のうちは中々戦闘を始めなかったから、小狡い感じもしたけどね」

「……っ」


「でも実際に会って、少しだが話せて良かったよ」

「そうか、まあ悪評に関しては俺からは何とも言い難いところもあるけど、こちらも他の冒険者と話す機会なんてそうないから、いい経験にはなったよ」


「それなら良かったが、時間を取らせてすまなかった、それじゃあ失礼するよ」

「ああ、また何処かで」


「黙って見定めるとか言ってたのに結局は話すんだな、しかし本当に見事なバトルだったぜ、ありがとな」

「ですねー、演奏も色々な曲調で聴いてて楽しかったですよ、それにアルマさんの魔法とその判断力にも感銘を受けて、とても参考になりました」


「ネムちゃんも凄かったよ、また会おうね」

「うん、飴も甘くて美味しかった、またねー」


「まだ沢山あるから、気に入ったならもう少しあげるね」

「いいの? わーい♪」


 こうしてアリアンロットのメンバーは、別れの挨拶を済ませて去っていった。


 何か仲が良さそうなパーティーだったけど、他の冒険者と接する機会なんてお城で目覚めてから一度も無かったから少し新鮮な気分だ。

 いつの日かまた会う機会もあるかもしれないので、名前は覚えておこう。


「ハァ、でも何か疲れたぁぁ……」

「大丈夫ですか、勇者様?」


「ああ、突然話し掛けられて少し気疲れしたけど、大丈夫だよ」

「何かちゃんとした感じのパーティーでしたね」


「そうだな、戦闘での攻守のバランスも良さそうな印象だったし」

「盾士が1人居るだけでも前衛の安定感がだいぶ増しますからね」


「プハッ、突然ゾロゾロ来たから少し焦ったゼ」

「あ、ブックル、飴舐める?」


「イヤ、俺様は本だから、アメは苦手なんだ」

「む、そっかー」


「溶けるとベタついてページに張り付きそうだしな、それにしてもバレないように直ぐにバインダーに収まって沈黙していたし、思ったよりも警戒心が強いんだな」

「アア、まあ用心に越した事はないカラな、俺様は優秀なんだ」


「でもブックル、それだとずっと出てこれないね」

「ガーン!?」


「ああ、確かに、冒険者ギルドは人が大勢いるから目立つとやばいかも……」

「ウーン、でも様子を眺めてるだけでも楽しいから基本的にはジッとしてるカナ、それにこのバインダーは何か守られてる感じがして落ち着くしな」


「そっか、まあ会話くらいなら問題ないと思うから状況をみて喋ればいいけどな、それに町の外とかならバインダーから出ても大丈夫だろうし」

「アア、わかったそうする、それにしても変な男が現れたと思ったら、突然バトルが始まったから驚いたが、アイツもネムの仲間だったんダナ」


「ううん違うよ、ただの知り合い」

「ナンダ、そうなのか?」


 確か昨日のベオルフの話だと、2年以上も一緒に大陸各地を旅をして廻ったとか聞いたけど、ネムからは知り合い程度の扱いなのかあの男は……何か哀れだな。


 あ、そう言えばその哀れな吟遊詩人に、まだ聞きたい事があったんだ。

 どうやって俺の最後の攻撃を無傷でやり過ごしたのかを問い詰めないと。


 しかし見てみるとベオルフは、他の観客となにやら話をしているようだ。

 演奏を賞賛する声も多かったし、普段からこの場所で弾き語りとかしてるなら、何気に町の人達からの人気があるのかもしれない。


 チャリン♩


 しかもまだ投げ銭を貰っているし、今回だけでどれくらい稼いだんだろう……

 うーん、ここで割り込んで邪魔する訳にもいかないし取り敢えず後でもいいか。


 それにしても思考スキルを戦闘中に併用すると、思った以上に疲れるな。

 ダメージによる痛みもあるけど、精神的な疲労感もかなりある気がする。


 それならさっさと解除すれば良かったんだけど、今回は実験も兼ねてどのくらい持続するのか試してたんだよな。

 少女との連携も含めて、実際の戦闘でも使えるか試すには良い機会だったし。


 それに思った通り”スルースキル”と合わせる事で長時間の持続も可能みたいだ。

 要はスキルを使っていると認識しなければ、疲労感も抑えられる感じだな。


 これもベオルフが言っていた”思い込み”による、作用なのかもしれないけど。


 まあ結果的には、今回のように考えながら勝ち筋を探して戦うには有効だけど、場合によるってところだな。

 ファーラビットとかの弱い敵との戦闘なら別に使う必要は無さそうだし。


 取り敢えず戦闘も無事に終わった事だし、背後の少女に念じてヒールポーションでも使って貰うとしよう。体力的には既に瀕死に近い状態だから流石に今回はあの少女も素直に聞き入れてはくれるだろ、届けこの願い、むむむー……


 しかし暫く待っても反応は無かった。背後の画面を確認して少女と目が合うと、またしても顔を逸らされた。

 何故か話し掛けてくるようにはなったけど、露骨に視線を合わせようとしない。


 あれ、もしかして回復ポーションをケチってる? この後ギルドで食事をすれば体力も少しは回復するだろうから、ここで使うのは勿体無いとか考えてたりする?


《ギクッ》


 あ、図星を突かれて焦った反応をしたな。そう言えば思考スキルを発動している状態だから念じなくても思考を読まれてるのか。

 あ、しまった、背後の少女には黙っているつもりだったのに今考えてしまった。


 おのれ、こうなったらストレージから自分で取り出して飲んでやる!

 回復アイテムを自力で使えるのか一度試してみたかったし、一本だけ残っていたハイポーションを飲んでやるからな! ズポッ、ゴソゴソ……どれだ、どれだぁ?


《ちょ、ちょっと何を勝手な事をしようとしてるのよ、止めなさいよ!》


 うっさい、俺は疲れてるんだよ、それに朝メシ抜きで腹も減ってるし昨日飲んだハイポーションは普通に美味かったからまた飲んでみたいんだ。

 ついでにあの変なエルフのお姉さんから貰ったカロリーバーも食ってやる!


 それに昨日は頼みもしないのにハイポーションを使ってたじゃないか、何でここで普通のポーションをケチってるんだよ、全く意味がわからん。こっちはしたくもない戦闘を立て続けに強要されて心身共に重傷なんだよ!


 と言うか人の心の中まで勝手に覗くなよ、もう思考スキルも解除するぞ!

 

《ああもう分かったわよ、普通のポーションなら使ってあげるから止めなさいよ、それに私だって好き好んでアンタの思考なんて読みたくないし、いつまで発動してんのよ! そもそもアンタが勝手に仕掛けた戦闘だったでしょうが、私だって別に望んでいた訳じゃないわよ!!》


「なっ!」

「ちょっと失礼しますにゃ、ヒールライトー!」


 画面の少女とそんな小競り合いをしていると、突然目の前が眩い光に包まれた。


 ピッカァァ……


「うお、眩しっ、な、何だ!?」

「むむ、もう一度、ヒールライトー!」


 ピッカァァ……


「ああぁ、目が、目があぁ!」

「もういっちょオマケに、ヒールライトー!」


 ピッカァァ……


 うう、なんなんださっきから、誰だ一体?

 でもこの光を浴びていると、温かくて心地よくて身体の芯がポカポカする。

 さっきの戦闘で受けた蓄積ダメージが癒されて、回復していくのが分かる。


「ああ^〜、癒される〜」

「あ、もう治りましたかね、良かったぁ」


「生き返るわ^〜……って、本当に誰!?」

「すみません突然、お邪魔しました、ペコペコッ」


 そこにはフード付きの白いローブを着た若い女性が居た。

 しかも猫耳のフードで、何か如何にも”白魔道士”って感じがする。


 見た目の印象だとアルマと同じくらいの年齢にも見える。

 普通に可愛らしい容姿なんだけど、でも多分人族じゃないな……


 それによく見ると見覚えがある。さっきの戦闘を観ていた観客の1人だ。

 冒険者みたいな雰囲気があるので、回復術士とかなのかも?


「えっと、もしかして魔法で回復してくれたのか?」

「はい、ですです、あ、ゴメンにゃさい、そうです」


「あ、いや助かったよ、ありがとう……?」

「! いえ、こちらこそ勝手な真似をしてすみませんでした、それでは、タタッ」


 俺が回復したのを確認すると、その女性は挨拶をして、そそくさと立ち去った。

 戦闘で受けたダメージは今の光魔法? の効果で完全に回復したようだ。

 

「いや、有難いけど、なんだったんだ今の?」 

「おそらく、辻ヒーラーの方ですかね」


「辻ヒーラー?」

「えっとですね……」


 アルマの話だと”辻ヒーラー”とは通りすがりで傷ついた冒険者など見つけたら、勝手に回復してくる迷惑? な支援術士の事を指す言葉のようだ。


「……それって回復される側からしたら有難い存在なんじゃないのか?」

「えっと、それがそうとも言えないんですよね……」


 アルマの説明だと支援術士はパーティーの回復を主に担うポジションなのだが、状態異常も含めて、回復ポーションや治療ハーブなど有用なアイテムもあるので、職業としては最初のうちは割と不遇な扱いらしい。


 とは言えダンジョンの中層や下層、それこそ魔王軍との防衛戦線だと、敵もそれだけ手強く、戦闘の回数も増えるので、全体回復の魔法が必須になってくる場面もあるのだが、その魔法を覚えるまでが大変なようで下位の回復魔法しか使えない者はダンジョンのセーフハウスや採掘鉱山の入り口などで、冒険者や労働者を相手に回復術を施して、その技能を磨いたりもするらしい。


 そしてその際には予めギルドの依頼として取り決められた賃金が支払われる為、野良の辻ヒーラーをよく思わない人達もそれなりに居るようだ。


「なるほど、なんか複雑なんだな、まあ他の支援術士にも生活があるし、ルールがあるならそれに従わない行為だとしたら揉め事にもなりそうだけど」

「私のような魔術士なら敵と戦って攻撃魔法を行使すれば、それだけ経験に繋がるのですが、支援術士の場合は回復魔法のスキルツリーを研鑽するにも、人によっては戦闘も含めてその機会がそもそも少なかったりしますからね」


「その辺は俺の盗賊の職業もそんな感じなのかもな、盗みや漁り行為とか、訓練になるとしても他人からしたら疎まれる以前に、犯罪行為でしかないからな」

「え、えっと、そうですね……」


 しまった、まるで他人事のように返答したけど、俺が言える立場じゃなかった。

 アルマも何かぎこちない反応になってしまった……


 それに”スキルツリー”か、おそらくスキルを覚える為の過程を示す言葉かな。


 上位のスキルを覚える為に、段階が必要なのは俺も感覚的に理解は出来るし。

 全体回復を覚える為にも、まず基礎の回復魔法を覚えなきゃダメなんだろうな。


 そう言えばアルマもマルクスから上位の魔導書を三冊ほど貰ったけど、現状だと使いこなせないみたいな事を言われていた気がするし。

 でも個人的には支援術士が何でそこまで軽視されるのか、よく分からないけど。


 マジックポーションは必要だけど、回復アイテムの節約にもなるし、戦闘で怪我してもそのターンの内に回復してくれるなら安全だし、寧ろ必須じゃないか?

 それこそ戦闘にどんどん参加させて育てた方が良いような気もするんだけど。


 ……でも支援特化だと、その術士の攻撃性能は期待できない感じになるのかも。

 パーティー全体の火力が下がると、それだけ戦闘も長引くし良し悪しだな。


 それに敵から攻撃を受けないと活躍の場がないなら、不遇な立場にもなるのか。

 そう考えるとアイテムで間に合うなら、そこまで必須ではないのかもしれない。


 とは言えボス戦とかだと全体攻撃を受ける機会も多そうだし、やっぱり1人でも居ればそれだけでかなりの安心感はあるよな。

 詠唱のデメリットで敢えてそのターンの最後に全体回復とかすれば、長期戦にも対応できそうだし、もし敵の攻撃がそこまで激しくなければ、行動ターンは無駄になりそうだけど、詠唱を破棄してMPを温存とかも出来そうだし。


 あ、でも魔法の詠唱を開始した地点でMPを消費するのかも? 魔法職じゃないからその辺の仕組みとかまだよく分かってないな。


 うーん、それに回復魔法の技量を磨くなら、魔物を攻撃してその傷付いた魔物を回復したりを繰り返したりとかも出来そうな気がするんだけど。

 まあ倫理的にはかなりグレーな感じだけど、多分それでも修練にはなるよな?


 それとも魔物には回復魔法がそもそも効かなかったりするのだろうか?

 それに人によっては”冷酷非道”とか思われそうだし、アルマには黙っておくか。

 まあどんな職種でも技量を磨くには、色々と大変な苦労もありそうだよな。


「……勇者様?」

「あ、ごめん、少し考え事をしてた」


 やっぱり思考スキルを使うとその反動があるな、ついつい考え込んでしまった。

 しかも解除した後は何か考えがごちゃついて纏まらなくなるし……


 取り敢えず回復も済んだ事だし、そろそろ冒険者ギルドに向かいたいところだ。


 周囲を見てみると、まだ先程の戦闘と演奏の余韻に浸っている者もチラホラ居るのだが、既に終了はしたので人数はだいぶ疎にはなってきている。


 あ、でも途中から観客を相手に商売していた、カエルの風貌の奴はまだ居るな。

 確かネプト族から派生した種族で、フロッグマンとか呼ばれてるんだっけ……

 少し興味はあるけど絡まれるとまた長くなりそうだし、さっさと退散するか。


 じぃぃ……


 うわ、目が合った、めっちゃ見られてるし。あれ、しかも何かこっちに近付いて来てない? もしかしてまた向こうから話し掛けられる流れ!?

 と言うか顔がまんまカエルだから感情が読めなくてちょっと怖いんだけど。


《うへぇ、新キャラが一気に増え過ぎなんだけど、まだ会話イベントが続くの?》


 背後の画面からは何やら面倒そうな声が聞こえてきたけど、俺も同じ気分だ。

 本来なら既に昼食を食べ終わって、まったりと過ごした後に仲間の名簿の説明をギルド職員に聞いて、もしかしたら新しい仲間を迎えていた頃合いだったのに。


 先日に引き続き、予定通りに進行しない状況に、ピヨヒコも桜子も辟易した。


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